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第3話『秋を駆ける星』 Side美晴

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 あたしが天文部に入部した当初。気になって菜摘ちゃんに尋ねた事があった。

「あ、あの……ど、どうして新星を探そうと思ったんですか?」

 素朴な疑問だった。

 当然だろう。いきなり巻き込まれて理由もわからずに協力だなんて。あたしはそれほど善人ではないのだから。

 訊くのは当然の権利だと思う。
 それを菜摘ちゃんも察してくれたのか、

「そうだね。美晴ちゃんには言っておこうかな」

 あまり人には言いたくないのだけれど、と苦笑しながらも、菜摘ちゃんは話してくれた。

 それはとても簡潔な内容だった。

 ――新星を見つけることで、みんなに評価してもらいたい。

 ただ、それだけ。
 夢にしてはあまりに大雑把で、だけどあたしの心には深く響いた。

 平凡な自分。
 何をやっても、普通。
 だから大きなことを成し遂げて、それをひっくり返したい。

 実にわかりやすかった。

「それがちょうど中学生の頃だったかな」
「けっこう前からなんですね」
「うん、まあね」

 言って、菜摘ちゃんは笑っていた。
 でもそれは、どこか寂しい笑顔にも見えた。

 そんなにも昔から抱いていた、新星という夢。
 だったら、どうして今なのだろう。

 それだけ思っていたのならいつでも良かったはずだ。
 それこそ、転校してくる前でも。

 菜摘ちゃんは天文に関してまったく知識がない。
 それのほうがある意味では不自然だ。

 何か理由があるのだろうか、と考えるが、あたしの足りない人生経験ではとても想像し切れなかった。

 新星を見つけるだなんてただでさえ大変なことだ。

 そのことを菜摘ちゅんから聞かされた後、図書室やインターネットで簡単に調べてみた。けれどやはり、早々簡単なものではないと素人のあたしにだってわかる。

 何度も星空の写真を撮って、他の日と見比べて、新しい光が無いかを観察する。星の配置を熟知して、毎夜見上げるそこに違和感のある光点を見つけなければならないのだ。それには多くの知識がいる。

 けれどやっと見つけたほとんどは、気流の乱れや画像の粗によるものが多いのだという。それに他の人がもう見つけている可能性だってある。世界中の天文台から多くの専門家が毎夜、空を眺めているのだから。

 だからただの素人で、到底時間が限られているあたしたちにとって、それは不可能と言えるほどにひどく難しいものだった。

 そんな中で智幸さんという存在は大きかった。

「一箇所だけに絞ろう。天体の観測位置を決めて、そこだけを観察し続ける。そうすれば膨大な知識とまでは必要ない。そこだけの星の配置を覚えて、部活動が無い日も欠かさずそこだけは確認しておく。たまに肉眼でわかる新星もあるって聞くくらいだからね。この方法なら確立は極端に減ってしまうけど可能性ははるかに高いはずだ」

 専門家と言うほどではなきが、その道に通ずる人からのアドバイス。

 もし素人が新星を見つけても、大きな天文台の学者が先に発見していることも多いらしい。けどそれでもいい。それでもいいから、一つでも何かを見つけよう。

 彼のおかげで、やっと夢の達成に現実味を持たせられるようになった。素人だけの少ない知識よりも、たった一人詳しい人が手伝ってくれるだけでぐっと可能性を上げられる。

 そういう意味では、夢に向かって動き出すにも、今が一番良い機会だったのかもしれない。

 やっと訪れた好機。

 菜摘ちゃんはどう思っているのだろう。
 夢。そして、やがて訪れるその先を――。

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