上 下
3 / 49
○1章 同時多発的一方通行の片思い

 -3 『責任者でてこい』

しおりを挟む

 叫び声は甲高い女の子のものだった。

 さっきもネズミが襲い掛かってきたくらいだ。他にも攻撃的なモンスターがいて、誰かが襲われていてもおかしくはない。

「お前の連れか?」
「何のことよ。それより命を――」
「あー、もういい!」

 目の前の少女は無視し、俺は声の聞こえた方へと急いで向かった。

 細い洞窟が長々と続いていたが、道はほとんど一本道になっていて迷うことはなかった。どうやらここは山の登山道らしい。薄暗い空洞ばかりかと思っていたが、少し走ると尖った岩肌を露出させた広場にたどり着いた。

 青い空が目に入り、明るさの違いに目が眩む。

 植物のあまりない岩山。
 巨大な生き物が口を開けたような形状の、断崖のへりとなったその広場で、身を屈めて座り込む女の子の姿を見つけた。

 大きな荷物を背負った小柄な少女だ。おそらくまだ十代前半だろうか。

 栗色で、セミロングのツーサイドアップな髪。リボンの付いたひらりとした短いスカートは、こんな無骨な山中にはひどく不似合いなほど可愛らしい。

 しかしもっと不似合いに見えるのは、彼女が背負っているものだ。荷物の詰め込まれた大きなバックパックと背中の間に、彼女の背丈ほどありそうな巨大な長剣が挟まれていた。

 あの子の武器なのか、と思ったが、当の彼女はと言うと、十匹前後のモンスターネズミに囲まれて泣き顔を浮かべている様子だった。

 とても戦えそうな様子ではない。

 これはもしや、窮地に立たされたヒロインの元へ駆けつけて救い出す、というよくあるパターンなのでは。

 ――なるほど。俺の最強能力はこの子を助けるためにあるんだな。

 そしてあわよくば彼女の深く感謝され、命の恩人と讃えられ、働かずとも飯が出てくるヒモ生活に移れるというところまで妄想した。

「よし、これだ」

 俺は颯爽と、その少女とモンスターとの間に立ち塞がった。さながらヒーローアニメのような状況に気分を高揚させながら、勝手に気前良く頬がにやける。

 庇うように手を広げた俺に、モンスターネズミの棍棒が襲い掛かってきた。

 だがそんな攻撃、防御力999の前には痛くも痒くもない。

 俺の頭上にダメージ表記の数字が浮かぶ。

  『ダメージ1』

 ほらな、カスダメージだ。

 続いて頭上に緑の体力ゲージが現れる。それが思ったより大きく減り、

  『残りHP9』

「………………ええっ?!」

 一割削られてるじゃねえか!
 というか、なんで俺のHPは10しかないんだよ!

 他のステータスはみんな999とかなのに。

 それに防御力だってカンストしてるんだ。
 アナライズで見ても攻撃力がたった3しかないネズミの攻撃くらい無傷で防げてもおかしくはないだろ。

 殴ってきたのとは別のネズミモンスターが、今度は石ころを投げてくる。それは緩やかな曲線を描き、俺の膝にこつんとあたる。

  『ダメージ1――残りHP8』

 ――やっぱりめっちゃ食らってるじゃねえか!

「うぎゃああああ」

 まったく痛みなんてないのに、もうHPが二割も削られたことに幻覚のような痛みを感じ、膝を抱えて転げまわった。

 どうなってるんだこの世界。
 カンストの能力を得られて俺は最強なんじゃなかったのかよ。

 アナライズを使って、意識してなかったネズミたちのHPの数値を見てみる。

 みんな、10。
 後ろで蹲っている少女の数値も、10。

 つまりなんだ。
 この世界は体力上限がみんな10で、どんな攻撃でも最低保証で1ダメージはいる世界、ということか。

「意味ねえじゃん俺の50000ダメージ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

処理中です...