家出令嬢の温泉旅館繁盛記! ~婚約破棄のために、素人令嬢は寂れた旅館を復興させます!~

矢立まほろ

文字の大きさ
上 下
26 / 53

 -11『期待以上の成功』

しおりを挟む
 こうして旅館は商工会と業務提携を結ぶこととなり、商工会に属している各店舗との割引などのサービスが始まることとなった。

 その詳しい内容についてはジュノスにも相談に乗ってもらい、私の素人の知識以上の補佐をしてもらった。おかげでそれなりに、私達と他店からしても相互の利益関係を結べたと思う。

 なによりジュノスの発言権は代表を降りた今でもかなり強いらしく、彼の後ろ盾を得られた私達は、破竹の勢いでその知名度を町中に轟かせていったのだった。

 私の予想以上の成果だ。

「ほっほっほっ。子らの成長を眺めるのは楽しいもんじゃ」

 まるで竜馬を見ていた時の親のような優しい笑顔でそう言って付き添ってくれるジュノスは、私にとっても本当の祖父のような親しさを感じさせた。

 それから商工会などにも頻繁に顔を出して町内の会議などに加わらなければならなくなり、旅館の若旦那であるロロが忙しく出ずっぱりになってしまっているが、これも嬉しい悲鳴だろう。

 彼の持ち前の人当たりの良さもあって、今ではすっかり輪にとけ込んでいるようだ。以前は荒くれ者達の立ち寄る印象の悪い旅館も、身近な仲間として好意的に接してくれる人も増えた。

 更には嬉しいことが立て続けで、私達が前に助けた行商人達からこの旅館のことを聞いたというお客様が来訪するようになり、以前より確実に客足が増えていた。

 彼らに恩を売っておけば何かしら返ってくるだろうと思っていたが、広告塔として十分すぎる働きをしてくれているようだ。

 その身を挺してまで助けに来てくれた。そして急な宿泊にも関わらず快く受け入れ、美味しい料理や酒を振る舞ってくれた。そう良く評判を広げていってくれているらしい。

 ことさら温泉に関しては大絶賛で、行商人の中にも「また迂回してでも立ち寄りたくなったよ」と喜んでくれる人がいるほどだった。

「私達はいつでもお客様のお越しをお待ちしております」

 すっかり言い慣れたそんな常套句と共に頭を下げる私の姿も、すっかり旅館の従業員として板に付いてきた感じがする。

「シェリーのおかげだよ。本当に」
「どうしたのよ、ロロ」

 ほどほどのお客様が来るようになって忙しくなったある日の仕事終わりに、事務所にいた私にロロが言う。

「なんだかこの前までの寂しさが嘘みたいだ。忙しいけど、すごく充実してる感じがする」
「この旅館にはもともとそれだけの素質があったってことよ。私はそこにちょっと口を出しただけにすぎないわ」

 実際、何十年も前の女将さんの時はもっと賑わっていたのだ。時代が変わって環境も変わったが、けれども一度は栄えるほどには魅力があるのだ。それに、廃れたものが一周してまた流行を取り戻すことだってある。

「でもまだ駄目。このくらいじゃ、そこらの小さな宿場町の宿とそんなに変わらないもの」

 お父様に認めてもらうには、きっと、もっと繁盛させなければならない。それこそ旅館の部屋が毎日埋まり、人でごった返すほどでなければ。領主故にこれまで多くの店を視察に回ってきたお父様の眼鏡に適うにはあとどれほどだろう。

 考えても果てが見えない。

「でも、やり方次第でこの旅館はきっともっとやれるわ。ちゃんとうまくやってみせるから、私に任せなさい」
「……うん」

 なにやら歯切れが悪そうにロロが顔を伏せる。

「どうしたの?」と尋ねる。するとロロは私の顔を除きこむように上目遣いに見て、

「シェリー、大丈夫?」
「なにが?」
「いや、その。僕にも何か手伝えることがあったら言ってね」
「ありがと。でも今のところ大丈夫よ」
「……そっか」

 私の返しにロロはふっと小さく微笑むと、何もなかったように首を振り、明るい笑顔を作った。

「シェリーがいてくれて本当に良かったよ」
「さっきそれ言ったじゃない」
「あ、うん。そうだね、あはは……」

 なんだか調子が崩れるロロの様子が気にかかりながらも、私は名前でいっぱいになった宿泊者名簿を見てにんまりとしていたのだった。
しおりを挟む
感想お待ちしています!お気軽にどうぞ!
感想 0

あなたにおすすめの小説

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...