21 / 53
-6 『眼』
しおりを挟む
昼下がりの厩舎に響いた声に、私達は何事かと動揺した。
厩舎の入り口の方から若い男性が駆け寄ってくる。おそらくここの飼育員だろう。
彼は鬼気迫った表情でやって来ると、乱れた息を整える間もなくジュノスへ言った。
「この町に向かっていた行商人の一行が、近くの森で野獣の襲撃にあって動けなくなっているとのことです」
「なんじゃと? 町の警備兵どもはどうした。向かっておるんじゃろうな?」
「それが……実はその直前に別の場所で野獣の出没が報告されまして、そっちの調査に向かっているようで。戻ってくるまでどれほど時間がかかるか」
「なんじゃと……」
蚊帳の外になって話を聞いているだけの私達にも、彼らが相当に焦っているのがよくわかった。
この町の周囲には生い茂った深い森がある。人の手が入っていないそこには、人の背丈を超える熊や狼などが住処として蔓延っている。
しかし彼らは普段、人間とは距離を置いているのだが、時として餌を探しにきた狼などが、人気のある森沿いの街道などに迷い込んでくることがある。
野生の獣は凶暴だ。
人間が対面して敵うはずがない相手である。
「それってまずいんじゃないの」
私が言うと、事態の把握に追いついていなかったロロやフェスまでも、事態の深刻さを把握したように強ばった表情を浮かべた。
「どうにかできないかな」
「し、心配ですぅ」
とても気にかけているが、私達にはどうしようもないかもしれない。
「僕達にも何かできればいいんだけど」
「いいや、難しいじゃろう。キミのような若者が一人駆けつけたところで、森の狼どもをどうにもできん。せめて獣人の手でも借りられれば良いんじゃが……。どこかに人ではないのか」
顔をしかめて苦悩するジュノスに、若い男性もお手上げだとばかりに首を振る。
「今の時間はみんな出払っています。呼び戻す時間があるかどうか……」
一刻も早くの救助が必要だ。
でなければ行商人達が野獣の餌になってしまう。それは町としてもデメリットが大きいだろう。
「ジョシュアが言っていた行商人……きっと彼らのことだわ」
商工会の代表が重要視している取引を不意にしかねない。最悪なのが、この一件によってフィルドの町が危険に思われ、避けられてしまうという風評被害が生じかねないことだ。
だからこそ、なんとしてでも助かってほしい。けれど行ける人がいないというのなら――。
と、ふとフェスとの目があった。
彼女は私のことをじっと見ていた。
「シェリーさん。お困りですか」
「え、そうね」
急にどうしたんだろう。
わからないけれど、今はそれどころではない。
「僕達だけでも行けないかな」
「なんじゃと?」
突然言い出したロロにジュノスが驚きの顔を浮かべたが、しかしロロへと向き直るとすぐに表情を改めさせた。そのロロはというと、黒い竜馬を撫でながらまっすぐな死線をその竜馬へと注いでいる。
やや遅れて私も察した。
僕『達』というのは、私やフェスではなく、その竜馬を含んでいるのだろう。
「なるほどのう。確かに、竜馬の脚ならば彼らの所へすぐさま駆けつけることができるじゃろう。じゃが、果たしてわしが許可を出すじゃろうか。竜馬達はわしが何年も手塩にかけて育ててきた大事な子じゃ。それを、野獣が暴れているという危険な森に行かすじゃろうか、なあ」
「そ、それは……」
ジュノスの言い分もよくわかる。
竜馬という珍しい動物をこれまで大事に育ててきたのだろう。だからこそ慎重にはなる。
その希少さからしても、私達には知り得ない彼の努力がそこにはあるのだと、ロロもわかっているのだろう。だからこそ、緊急事態だから、と安易に説き伏せるのははばかられているようだった。
言葉を失って顔を伏せてしまったロロを、ジュノスは目許を細めてじっと眺めていた。
その視線はロロを責めるというよりも、なんだか見守っているような、そんな奇妙なものだった。けれどその違和感を覚えているのは私だけらしい。
「もし竜馬になにかあれば大変なことじゃ。私の十年、二十年という努力が水泡に帰す可能性もある。その場合の責任を、キミはとれるのかの?」
無理だ。
そんなもの、弱小旅館の若旦那に背負えるはずがない。
わかりきった答えを促しているみたいだった。
――この状況でいったい何を考えているの、この人は。答えなんてわかりきってるじゃない。
純粋な疑問が私に浮かんだ。
もう時間もないという焦燥に駆られる中、くだらない問答をしている場合ではない。それなのに何をやっているのか。
今にも何か動き出したいと逸る私の気持ちと、しかしそれとは正反対なほど冷静な声で、ロロが言った。
「とります。お金だって払います。僕の旅館はまったく儲かっていないから、払い終わるまですごく時間がかかるかもだけど。でも、払います」
「ち、ちょっと、ロロ?!」
――いきなり何を言い出すのよ!
ただでさえ極小旅館なのに借金までしてしまったら大問題だ。火の車どころじゃない。
けれどそんな私の気持ちを知ってか知らずか、ロロは落ち着き払ったように言う。
「困ってる人は助けたい。この子ならきっと助けられます。この子もそう言ってる気がする。走りたいって。もし僕達が行って行商人の人達が助かるのなら、どんなことがあっても行きたいです」
語調は穏やかなのに、譲らない固さを孕んだ力強い声だった。
まさかロロがそんな意地を張るだなんて。しかも自分ではなく、全く知りもしない他人を助けるために、リスクまで背負おうとしているのだ。
馬鹿げている。
その甘さは商売人としては致命的な欠点だ。
だが引く気もないのだろう。
――なるほどね。
女将さんがいなくなってからロロが若旦那として旅館を続けてきたけれど全然栄えていなかった理由が、ほんの少し垣間見えた気がした。
そんな綺麗事捨ててしまえ、と思うけれど、これもきっとあの旅館には必要なもの。
だったら私は……。
「悪い話でもないと思うわよ」
「……ほう?」
横槍を入れるように私も口を挟む。
「ジュノスさんは竜馬の有用性を商工会に見せつけるために商工会へ出向いていたんでしょう? 今回の襲撃にあった行商人は、商工会の代表であるジョシュアが迎えようとしていたみたいよ。彼にとって商売のための大切な客なんだとか」
どれだけ事実かはわからないが、憶測でもなんでもいい。とにかく言葉を並べていく。
「そんな彼の重客を助けるために竜馬を使えば、商工会からの印象はどれだけよくなるでしょうね。すぐに向かえば足の速さだってアピールできる。助けたことによる恩も売れて一石二鳥どころじゃないと思うのだけど」
限りなく事実を述べる。
これにおけるジュノスの利点も明確に言ったつもりだ。
これでも果たして傾いてくれるか。
息をのんでジュノスの反応を待った。
やがて返ってきたのは、
「うむ……五十点じゃな」
「え?」
それは拍子抜けするほど軽い声だった。
顎をさすり、ジュノスは得意げに笑顔を浮かべて私達を見やる。
「商談事はもうちっと端的に言った方が良いもんじゃ。相手がみんな、お前さんみたいに頭の回るものじゃあない。相手に自分の利益をさっと伝えるために、言葉はもっと短く、わかりやすくするべきじゃな」
「え……」
「そこの坊やも五十点といったところか。純粋な優しさと思い遣りは褒められたものじゃ。しかし無用なリスクを買う人間になど商売は向かん。情では金は得られん。自分の判断が、従業員が明日路頭に迷うかもしれんという可能性を自覚せねばならんの。それが経営者というものじゃ」
「は、はい……」
いきなりそんなことを言われ、ロロも困惑した風にただ頷いている。
そんな動揺する私達を余所に、ジュノスは飄々と首を掻き、いたずらに笑って見せた。
「商売は強情と温情じゃ」
「え?」
「商売相手を言い負かすように、多少無茶をしてでも自分を貫き通す剛胆さや気概は必要じゃ。厚き情も、度が過ぎれば信頼を得られるかもしれん。よって、五十と五十、二人を足してやっと百点といったところか」
私とロロを交互に見やったジュノスの口許がにっと持ち上がる。
「よいじゃろう。竜馬を出そう」
厩舎の入り口の方から若い男性が駆け寄ってくる。おそらくここの飼育員だろう。
彼は鬼気迫った表情でやって来ると、乱れた息を整える間もなくジュノスへ言った。
「この町に向かっていた行商人の一行が、近くの森で野獣の襲撃にあって動けなくなっているとのことです」
「なんじゃと? 町の警備兵どもはどうした。向かっておるんじゃろうな?」
「それが……実はその直前に別の場所で野獣の出没が報告されまして、そっちの調査に向かっているようで。戻ってくるまでどれほど時間がかかるか」
「なんじゃと……」
蚊帳の外になって話を聞いているだけの私達にも、彼らが相当に焦っているのがよくわかった。
この町の周囲には生い茂った深い森がある。人の手が入っていないそこには、人の背丈を超える熊や狼などが住処として蔓延っている。
しかし彼らは普段、人間とは距離を置いているのだが、時として餌を探しにきた狼などが、人気のある森沿いの街道などに迷い込んでくることがある。
野生の獣は凶暴だ。
人間が対面して敵うはずがない相手である。
「それってまずいんじゃないの」
私が言うと、事態の把握に追いついていなかったロロやフェスまでも、事態の深刻さを把握したように強ばった表情を浮かべた。
「どうにかできないかな」
「し、心配ですぅ」
とても気にかけているが、私達にはどうしようもないかもしれない。
「僕達にも何かできればいいんだけど」
「いいや、難しいじゃろう。キミのような若者が一人駆けつけたところで、森の狼どもをどうにもできん。せめて獣人の手でも借りられれば良いんじゃが……。どこかに人ではないのか」
顔をしかめて苦悩するジュノスに、若い男性もお手上げだとばかりに首を振る。
「今の時間はみんな出払っています。呼び戻す時間があるかどうか……」
一刻も早くの救助が必要だ。
でなければ行商人達が野獣の餌になってしまう。それは町としてもデメリットが大きいだろう。
「ジョシュアが言っていた行商人……きっと彼らのことだわ」
商工会の代表が重要視している取引を不意にしかねない。最悪なのが、この一件によってフィルドの町が危険に思われ、避けられてしまうという風評被害が生じかねないことだ。
だからこそ、なんとしてでも助かってほしい。けれど行ける人がいないというのなら――。
と、ふとフェスとの目があった。
彼女は私のことをじっと見ていた。
「シェリーさん。お困りですか」
「え、そうね」
急にどうしたんだろう。
わからないけれど、今はそれどころではない。
「僕達だけでも行けないかな」
「なんじゃと?」
突然言い出したロロにジュノスが驚きの顔を浮かべたが、しかしロロへと向き直るとすぐに表情を改めさせた。そのロロはというと、黒い竜馬を撫でながらまっすぐな死線をその竜馬へと注いでいる。
やや遅れて私も察した。
僕『達』というのは、私やフェスではなく、その竜馬を含んでいるのだろう。
「なるほどのう。確かに、竜馬の脚ならば彼らの所へすぐさま駆けつけることができるじゃろう。じゃが、果たしてわしが許可を出すじゃろうか。竜馬達はわしが何年も手塩にかけて育ててきた大事な子じゃ。それを、野獣が暴れているという危険な森に行かすじゃろうか、なあ」
「そ、それは……」
ジュノスの言い分もよくわかる。
竜馬という珍しい動物をこれまで大事に育ててきたのだろう。だからこそ慎重にはなる。
その希少さからしても、私達には知り得ない彼の努力がそこにはあるのだと、ロロもわかっているのだろう。だからこそ、緊急事態だから、と安易に説き伏せるのははばかられているようだった。
言葉を失って顔を伏せてしまったロロを、ジュノスは目許を細めてじっと眺めていた。
その視線はロロを責めるというよりも、なんだか見守っているような、そんな奇妙なものだった。けれどその違和感を覚えているのは私だけらしい。
「もし竜馬になにかあれば大変なことじゃ。私の十年、二十年という努力が水泡に帰す可能性もある。その場合の責任を、キミはとれるのかの?」
無理だ。
そんなもの、弱小旅館の若旦那に背負えるはずがない。
わかりきった答えを促しているみたいだった。
――この状況でいったい何を考えているの、この人は。答えなんてわかりきってるじゃない。
純粋な疑問が私に浮かんだ。
もう時間もないという焦燥に駆られる中、くだらない問答をしている場合ではない。それなのに何をやっているのか。
今にも何か動き出したいと逸る私の気持ちと、しかしそれとは正反対なほど冷静な声で、ロロが言った。
「とります。お金だって払います。僕の旅館はまったく儲かっていないから、払い終わるまですごく時間がかかるかもだけど。でも、払います」
「ち、ちょっと、ロロ?!」
――いきなり何を言い出すのよ!
ただでさえ極小旅館なのに借金までしてしまったら大問題だ。火の車どころじゃない。
けれどそんな私の気持ちを知ってか知らずか、ロロは落ち着き払ったように言う。
「困ってる人は助けたい。この子ならきっと助けられます。この子もそう言ってる気がする。走りたいって。もし僕達が行って行商人の人達が助かるのなら、どんなことがあっても行きたいです」
語調は穏やかなのに、譲らない固さを孕んだ力強い声だった。
まさかロロがそんな意地を張るだなんて。しかも自分ではなく、全く知りもしない他人を助けるために、リスクまで背負おうとしているのだ。
馬鹿げている。
その甘さは商売人としては致命的な欠点だ。
だが引く気もないのだろう。
――なるほどね。
女将さんがいなくなってからロロが若旦那として旅館を続けてきたけれど全然栄えていなかった理由が、ほんの少し垣間見えた気がした。
そんな綺麗事捨ててしまえ、と思うけれど、これもきっとあの旅館には必要なもの。
だったら私は……。
「悪い話でもないと思うわよ」
「……ほう?」
横槍を入れるように私も口を挟む。
「ジュノスさんは竜馬の有用性を商工会に見せつけるために商工会へ出向いていたんでしょう? 今回の襲撃にあった行商人は、商工会の代表であるジョシュアが迎えようとしていたみたいよ。彼にとって商売のための大切な客なんだとか」
どれだけ事実かはわからないが、憶測でもなんでもいい。とにかく言葉を並べていく。
「そんな彼の重客を助けるために竜馬を使えば、商工会からの印象はどれだけよくなるでしょうね。すぐに向かえば足の速さだってアピールできる。助けたことによる恩も売れて一石二鳥どころじゃないと思うのだけど」
限りなく事実を述べる。
これにおけるジュノスの利点も明確に言ったつもりだ。
これでも果たして傾いてくれるか。
息をのんでジュノスの反応を待った。
やがて返ってきたのは、
「うむ……五十点じゃな」
「え?」
それは拍子抜けするほど軽い声だった。
顎をさすり、ジュノスは得意げに笑顔を浮かべて私達を見やる。
「商談事はもうちっと端的に言った方が良いもんじゃ。相手がみんな、お前さんみたいに頭の回るものじゃあない。相手に自分の利益をさっと伝えるために、言葉はもっと短く、わかりやすくするべきじゃな」
「え……」
「そこの坊やも五十点といったところか。純粋な優しさと思い遣りは褒められたものじゃ。しかし無用なリスクを買う人間になど商売は向かん。情では金は得られん。自分の判断が、従業員が明日路頭に迷うかもしれんという可能性を自覚せねばならんの。それが経営者というものじゃ」
「は、はい……」
いきなりそんなことを言われ、ロロも困惑した風にただ頷いている。
そんな動揺する私達を余所に、ジュノスは飄々と首を掻き、いたずらに笑って見せた。
「商売は強情と温情じゃ」
「え?」
「商売相手を言い負かすように、多少無茶をしてでも自分を貫き通す剛胆さや気概は必要じゃ。厚き情も、度が過ぎれば信頼を得られるかもしれん。よって、五十と五十、二人を足してやっと百点といったところか」
私とロロを交互に見やったジュノスの口許がにっと持ち上がる。
「よいじゃろう。竜馬を出そう」
0
感想お待ちしています!お気軽にどうぞ!
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。


目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる