36 / 44
○4章 守りたい場所
-14『恐怖』
しおりを挟む
ドッペルゲンガーが現れた。
そんな常軌を逸した光景を前に、大広間のサークル員たちのほとんどが深いショックと恐怖に陥っていた。
中には泣き出している女性や、腰を抜かして倒れこんでいる男性もいた。
一同に怖がっている中、しかし会長だけは仁王立ちのようにぴんと背筋を張って立っている。
「ああ、なんだいこれは。素晴らしい体験だ。心霊現象? 怪奇現象? 何かの超能力か、はたまた宇宙人の仕業か。素晴らしい、素晴らしい。あははははっ」
美人だとは思えないほどに、鼻息を荒くしてしわ深い笑顔を浮かべている。
この状況下で平静でいられるのはさすがといったところか。
腰砕けた会員たちを余所に、嬉々とした表情でもう一人の自分とにらめっこを続けていた。
その動じない胆力には恐れ入る。
怖がらせる作戦はひとまずは上々のようだ。
だが、サークル員たちを驚かせるのがメインではない。
大広間の混乱に感化され、本来のターゲット――強面たちは更に表情を不安がらせていた。
また灯りが落ちる。
今度は何が起こるのか。
そんな不安漂う空気感に場がざわめき、強面たちもそれぞれに頼りない声を漏らし始めていた。
「くそ、なんて旅館だ。怨霊でも居着いてやがるのか」
「そんなオカルト話があるわけないやろ。ホラー映画やあるまいし」
マッスルの言葉をヒョロが力強く否定する。
だが今度は一向に電気が回復せず、彼らは壁に寄り添って及び腰になっていた。
「おい。女将んとこ行くで。何が起こっとるのか説明してもらおうやないか」
「女将のとこって、どこにいるんだよ」
「どうせフロントとか事務所やろ。さっきも内線繋いだ時はおったんやし」
ヒョロが廊下を引き返し始める。
マッスルとサンシタが続いたのを薄闇の中に確認して、俺もこっそりと後をつけるように行動を始めた。
ここからが本領発揮だ。
ちょうど月すら雲に隠れて真っ暗の廊下は、重く冷たい空気と床板の軋む音が不気味さを演出し、今すぐにでもどこかから何かが出てきそうな雰囲気を醸し出している。
強面たちがそんな怖がりの廊下を進んでいると、
「うわああああ」とサンシタが大袈裟に思えるような大声を上げた。
「なんや、このアホ。急に声を出すな」
「い、いや。だって、あれ」
サンシタが前方を指差す。
その先には、闇夜に真ん丸く浮かんだ一つの目玉があった。
それがやがて強面たちへと近づき始める。
一つ目小僧だ。
丸い一つだけの目を暗闇に光らせ、あははは、と笑いながら強面たちの脇を走り抜けた。
「な、なんやこいつ!」
うろたえるヒョロ。
ふと窓の外に見やり、今度は飛び出しそうなほどに目を開かせる。
「ひ、人魂やー!」と叫んだ視線の先には、明かり一つないはずの建物の傍にほんのりと光る緑色の提灯があった。
外灯として駐車場などにならんでいる提灯お化けだ。
続いて壁にくっついて紛れていた塗り壁が強面たちへと倒れこむ。
かろうじて三人はよけるが、廊下にだらしなく倒れこんでしまった。足は今にも折れそうなほどに震えている。
「ななな、なんやねん。どうなってんねや」
「わ、わからん」
フロントへと向けていた強面たちの足が滞る。
「ひええええええ」と、一番後ろを歩いているサンシタは頭を抱えて顔を伏せているばかりだ。
「ぼ、僕、もう無理ですよおおおお」と仕舞いには一番の大声を上げ、二人を残して一目散に廊下を駆けて行ってしまった。
「おいコラ。どこいくねん」
「ちくしょう。行っちまいやがったぞ」
「なんなんや。ほんま何がおこってるんや」
「俺が知るか」
ヒョロとマッスルが互いに言葉を言い合う。
だがそれは、気を取り持つためにとりあえず何かを喋っておこうという気休めのようなものだ。
サンシタの後を追おうと歩みを進めるが、真っ暗で進む方向すら探り探りなせいか、伸ばした指先すら震えている。
いい調子だ。
ここぞとばかりに俺たちは強面たちを襲い続けた。
そんな常軌を逸した光景を前に、大広間のサークル員たちのほとんどが深いショックと恐怖に陥っていた。
中には泣き出している女性や、腰を抜かして倒れこんでいる男性もいた。
一同に怖がっている中、しかし会長だけは仁王立ちのようにぴんと背筋を張って立っている。
「ああ、なんだいこれは。素晴らしい体験だ。心霊現象? 怪奇現象? 何かの超能力か、はたまた宇宙人の仕業か。素晴らしい、素晴らしい。あははははっ」
美人だとは思えないほどに、鼻息を荒くしてしわ深い笑顔を浮かべている。
この状況下で平静でいられるのはさすがといったところか。
腰砕けた会員たちを余所に、嬉々とした表情でもう一人の自分とにらめっこを続けていた。
その動じない胆力には恐れ入る。
怖がらせる作戦はひとまずは上々のようだ。
だが、サークル員たちを驚かせるのがメインではない。
大広間の混乱に感化され、本来のターゲット――強面たちは更に表情を不安がらせていた。
また灯りが落ちる。
今度は何が起こるのか。
そんな不安漂う空気感に場がざわめき、強面たちもそれぞれに頼りない声を漏らし始めていた。
「くそ、なんて旅館だ。怨霊でも居着いてやがるのか」
「そんなオカルト話があるわけないやろ。ホラー映画やあるまいし」
マッスルの言葉をヒョロが力強く否定する。
だが今度は一向に電気が回復せず、彼らは壁に寄り添って及び腰になっていた。
「おい。女将んとこ行くで。何が起こっとるのか説明してもらおうやないか」
「女将のとこって、どこにいるんだよ」
「どうせフロントとか事務所やろ。さっきも内線繋いだ時はおったんやし」
ヒョロが廊下を引き返し始める。
マッスルとサンシタが続いたのを薄闇の中に確認して、俺もこっそりと後をつけるように行動を始めた。
ここからが本領発揮だ。
ちょうど月すら雲に隠れて真っ暗の廊下は、重く冷たい空気と床板の軋む音が不気味さを演出し、今すぐにでもどこかから何かが出てきそうな雰囲気を醸し出している。
強面たちがそんな怖がりの廊下を進んでいると、
「うわああああ」とサンシタが大袈裟に思えるような大声を上げた。
「なんや、このアホ。急に声を出すな」
「い、いや。だって、あれ」
サンシタが前方を指差す。
その先には、闇夜に真ん丸く浮かんだ一つの目玉があった。
それがやがて強面たちへと近づき始める。
一つ目小僧だ。
丸い一つだけの目を暗闇に光らせ、あははは、と笑いながら強面たちの脇を走り抜けた。
「な、なんやこいつ!」
うろたえるヒョロ。
ふと窓の外に見やり、今度は飛び出しそうなほどに目を開かせる。
「ひ、人魂やー!」と叫んだ視線の先には、明かり一つないはずの建物の傍にほんのりと光る緑色の提灯があった。
外灯として駐車場などにならんでいる提灯お化けだ。
続いて壁にくっついて紛れていた塗り壁が強面たちへと倒れこむ。
かろうじて三人はよけるが、廊下にだらしなく倒れこんでしまった。足は今にも折れそうなほどに震えている。
「ななな、なんやねん。どうなってんねや」
「わ、わからん」
フロントへと向けていた強面たちの足が滞る。
「ひええええええ」と、一番後ろを歩いているサンシタは頭を抱えて顔を伏せているばかりだ。
「ぼ、僕、もう無理ですよおおおお」と仕舞いには一番の大声を上げ、二人を残して一目散に廊下を駆けて行ってしまった。
「おいコラ。どこいくねん」
「ちくしょう。行っちまいやがったぞ」
「なんなんや。ほんま何がおこってるんや」
「俺が知るか」
ヒョロとマッスルが互いに言葉を言い合う。
だがそれは、気を取り持つためにとりあえず何かを喋っておこうという気休めのようなものだ。
サンシタの後を追おうと歩みを進めるが、真っ暗で進む方向すら探り探りなせいか、伸ばした指先すら震えている。
いい調子だ。
ここぞとばかりに俺たちは強面たちを襲い続けた。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
こちら異世界交流温泉旅館 ~日本のお宿で異種族なんでもおもてなし!~
矢立まほろ
ファンタジー
※6月8日に最終話掲載予定です!
よろしければ、今後の参考に一言でも感想をいただければ嬉しいです。
次回作も同日に連載開始いたします!
高校生の俺――高野春聡(こうのはるさと)は、バイトで両親がやってる旅館の手伝いをしている。温泉もあって美味い料理もあって、夢のような職場……かと思いきや、そこは異世界人ばかりがやって来る宿だった!
どうやら数年前。裏山に異世界との扉が開いてしまって、それ以降、政府が管理する異世界交流旅館となっているらしい。
やって来るのはゴーレムやリザードマン。
更には羽の生えた天族や耳長のエルフまで?!
果たして彼らに俺たちの世界の常識が通じるのか?
日本の温泉旅館のもてなしを気に入ってくれるもらえるのか?
奇妙な異文化交流に巻き込まれて汗水流して働く中、生意気な幼女にまで絡まれて、俺のバイト生活はどんどん大変なことに……。
異世界人おもてなし繁盛記、ここに始まる――。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ディミオルゴ=プリェダーニエ
《シンボル》
ファンタジー
良くも悪くもない平凡な高校生のトシジは自分の日々の生活を持て余していた。そんなトシジが非現実的で奇妙な運命に巻き込まれることとなる。
ーこれは平凡な高校生が後に伝説的な人物になるまでの物語であるー
何話か主人公が違う部分があります。
ジャンルを変更する事がありますが、この世界は異世界と現実世界がごっちゃになっていますのでご了承ください。
《二重投稿》
・カクヨム
・小説家になろう
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる