こちら異世界交流温泉旅館 ~日本のお宿で異種族なんでもおもてなし!~

矢立まほろ

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○2章 あやめ荘の愛おしき日常

 -12『提案』

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「汗をかいたので、みなさんでお風呂に入りましょう」とシエラが言い出した。

 恒例のようになっていた卓球を、俺やアーシェ、エルナトの四人でやっていた時、遊んですっかり汗にまみれている俺たちを見て彼女が提案したのだ。

「風呂?」

 俺が尋ねると、シエラは普段大人しい彼女とは正反対に鼻息荒く意気込んだ様子で頷いた。

「私、ずっとお友達と一緒にお風呂に入ってみたかったんです」

 なるほど。
 過保護な環境にいる彼女らしい素朴な望みだ。

 だが、しかし待って欲しい。
 女の子であるアーシェは風呂がイヤだと言っていた。

 エルナトは外見は女だが自称男だ。
 もちろん俺は男なので一緒には入れない。この前の混浴のようなものも少し期待したが無理だろう。

「いけません、シエラ様」

 どこからともなく姿を現せた侍女のマリーディアが頭を垂れながら進言した。お前はどこの忍者だ、と突っ込むのは野暮だろうか。

「先日も申し上げましたとおり、公衆浴場など何が起こるかわからない危険な場所です。どこの馬の骨が、入浴中の無防備なシエラ様を襲いに来るかわかったものではありません」

 マリーディアは何故か俺を見てくる。

「大丈夫ですよ。心配しすぎです」
「いいえ、心配させていただきます。それが私の務めですので。どうかご理解を」
「でも……」

 シエラの瞳に若干の涙が浮かぶ。
 仕舞いには消え入るような泣き声になっていた。それでもやはり彼女は諦め切れないのか、俺の方へと視線を送って助けを求めてきた。

 とても困る。
 そこまで寂しそうな顔をされると無性に庇護欲を掻き立てられてしまう。

「そうだな。他の誰かが入ってるのが心配なら、誰も居ない時なら大丈夫ってこと?」

 俺が尋ねると、マリーディアは少し渋りながらもその通りだと頷いた。

「他の客がいなければいいんだろ。なら誰も居ない時間に入ればいい。そうだな、家族風呂はもうこの時間からはやってないけど。例えば深夜の清掃時間なら誰も居ないんじゃないか」

 無茶な提案だとはわかっていたが、不可能ではないとは思った。

「可能なのですか、ハルさん」
「今日は俺が掃除担当だし、掃除の時間が少しくらい遅くなっても問題ないからな。まあ、あくまで頼んだらいけるかも、って程度だけど」
「ぜひお願いします! これなら親しい方しかいません。大丈夫ですよね、マリーディア」
「ですが」

 できるかもしれないとわかり、やりたくなったら意地でもやろうとするのがシエラだ。以前の風呂しかり、アーシェとの卓球しかり。

 こうなったらてこでも動かないとマリーディアもわかっているのだろう。

 半ば自棄になったように眉間をしかめて溜め息を吐くと、
「わかりました」と渋々首を縦に振っていた。
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