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翌日 -5
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「悠介はさ、プロ二部、行く?」
「だから練習参加してから……。フィットしそうなら、そういう話になるんだろ。」
「ふーん。……ぶっちゃけ、かるーく聞かれてんだよね。悠介がプロチーム行っても、移籍してもスタジアム行くのかって。」
「は?」
「俺は体の良い客寄せパンダだってよ。悠介は飼い主みたいなもんか。まあ、ついでにその時はチームスポンサーがCM打診するかもとか言われたけど。」
「なんだお前。俺の行く先々でスポンサーつけんのかよ。」
「来る仕事は極力受ける主義なんだよ。」
ピロートークにしては、冷めた話だ。
俊介が兄の試合を観に行くことを積極的に話すことはないが、聞かれたら隠すことなく答える。人気俳優ゆえ、ゲストを掘り下げるような番組への出演は少なくはなく、その際は高確率で悠介の話題が登場する。話はもちろん、ただの一般人でなく顔も出せるのでテレビは時間を割く。その際に出る写真は試合後の汗だくでユニフォームを着た悠介と、観戦に来た俊介のツーショットだ。多方面への忖度が含まれた写真では、試合で結果を出し上機嫌な悠介の肩を俊介が組み、歯を見せてピースしている。母親はこの写真をスマートフォンの待ち受け画面に設定している。
「あ、移籍したら写真も撮り直さないと。」
「ええ……。もう俺出しても話すことねえだろ。」
「あ、そういう番組見てくれてんだ?」
「見せられるんだよ。」
「ふーん。同じ話だけど、何回でも要求されんだからしょうがないじゃん。プロ行ったら悠介のレプリカ買お。」
「……それくらいやるよ。」
「じゃあそれはもらって、アウェイユニも買うわ。」
「……物好きめ。」
北山兄弟は仲が良い。それは多少北山俊介が好きな者なら当たり前に知っている。
「なんでお兄さんの試合を観に行くんですか?」と、最初に聞いたのは若いモデル出身の番組MCだったか。『なんで』。『なぜ兄弟だとしてもアマチュアサッカーを、少なくはない頻度で忙しい合間を縫ってまでわざわざ見に行くのか』。若い女性タレントは何も考えずに台本通りに聞いたのかも知れないが、視聴者は単純な言葉通りの意味には捉えなかった。もちろん俊介本人もそれを感じ取り足元を見る。
「なんで悠介の試合に行くのか……。」この頃の俊介は特に時間がなく、打ち合わせはアンケートを記入しながら進め、事前の台本読みもバラエティ番組は流し見で終わっていた。悠介との写真は提出したとマネージャーから聞いていたが、こんなに掘り下げられるとは思わず呟いて考える。
「なんで悠介の試合を観に行くのか。……たぶん、サッカーしてる悠介見るの、好きなんですよね。昔から。」
そう応えた瞬間を切り抜いた画像や動画は未だインターネット上に出回っている。へらりと目を細めて話す表情は、より兄弟仲の良さを表していた。「あ、あと、身内がいるチームとか無条件で応援しちゃうじゃないですか。贔屓チームを応援しながらのサッカー観戦ってめちゃくちゃ楽しいし興奮するんで。ストレス発散もありますね。」と付け加える顔は普段通りだったが。
「今度奥さんとウチ来てよ。物置に溜まってるから。」
「ああ……、あいつ喜ぶだろうけど、都合つかないのお前だろ。」
「えー……、また連絡するよ。」
俳優という仕事柄、多方面からの貰い物が多い。使う物は使うが、使わない物はクローゼットの肥やしになっている。それを兄夫婦がたまに譲ってもらう、という交流は年に数回交わされていた。
「最終節終わってからが良いな……。」
「めっちゃ眠そうじゃん。」
「俺は寝不足なんだよ……」
「まだ22時前だよ。ゆっくり寝れんじゃん。」
今朝は結局子供を送り帰宅後二時間弱寝て、ランニングに出た。昨夜は三時間程度しか寝られていない。
食後の運動を終え、室内も淡いライトしか点いていない。被った布団の中も温かくなってきた。身体中にきつ過ぎない締め付けを感じながら、悠介は目を閉じた。
「だから練習参加してから……。フィットしそうなら、そういう話になるんだろ。」
「ふーん。……ぶっちゃけ、かるーく聞かれてんだよね。悠介がプロチーム行っても、移籍してもスタジアム行くのかって。」
「は?」
「俺は体の良い客寄せパンダだってよ。悠介は飼い主みたいなもんか。まあ、ついでにその時はチームスポンサーがCM打診するかもとか言われたけど。」
「なんだお前。俺の行く先々でスポンサーつけんのかよ。」
「来る仕事は極力受ける主義なんだよ。」
ピロートークにしては、冷めた話だ。
俊介が兄の試合を観に行くことを積極的に話すことはないが、聞かれたら隠すことなく答える。人気俳優ゆえ、ゲストを掘り下げるような番組への出演は少なくはなく、その際は高確率で悠介の話題が登場する。話はもちろん、ただの一般人でなく顔も出せるのでテレビは時間を割く。その際に出る写真は試合後の汗だくでユニフォームを着た悠介と、観戦に来た俊介のツーショットだ。多方面への忖度が含まれた写真では、試合で結果を出し上機嫌な悠介の肩を俊介が組み、歯を見せてピースしている。母親はこの写真をスマートフォンの待ち受け画面に設定している。
「あ、移籍したら写真も撮り直さないと。」
「ええ……。もう俺出しても話すことねえだろ。」
「あ、そういう番組見てくれてんだ?」
「見せられるんだよ。」
「ふーん。同じ話だけど、何回でも要求されんだからしょうがないじゃん。プロ行ったら悠介のレプリカ買お。」
「……それくらいやるよ。」
「じゃあそれはもらって、アウェイユニも買うわ。」
「……物好きめ。」
北山兄弟は仲が良い。それは多少北山俊介が好きな者なら当たり前に知っている。
「なんでお兄さんの試合を観に行くんですか?」と、最初に聞いたのは若いモデル出身の番組MCだったか。『なんで』。『なぜ兄弟だとしてもアマチュアサッカーを、少なくはない頻度で忙しい合間を縫ってまでわざわざ見に行くのか』。若い女性タレントは何も考えずに台本通りに聞いたのかも知れないが、視聴者は単純な言葉通りの意味には捉えなかった。もちろん俊介本人もそれを感じ取り足元を見る。
「なんで悠介の試合に行くのか……。」この頃の俊介は特に時間がなく、打ち合わせはアンケートを記入しながら進め、事前の台本読みもバラエティ番組は流し見で終わっていた。悠介との写真は提出したとマネージャーから聞いていたが、こんなに掘り下げられるとは思わず呟いて考える。
「なんで悠介の試合を観に行くのか。……たぶん、サッカーしてる悠介見るの、好きなんですよね。昔から。」
そう応えた瞬間を切り抜いた画像や動画は未だインターネット上に出回っている。へらりと目を細めて話す表情は、より兄弟仲の良さを表していた。「あ、あと、身内がいるチームとか無条件で応援しちゃうじゃないですか。贔屓チームを応援しながらのサッカー観戦ってめちゃくちゃ楽しいし興奮するんで。ストレス発散もありますね。」と付け加える顔は普段通りだったが。
「今度奥さんとウチ来てよ。物置に溜まってるから。」
「ああ……、あいつ喜ぶだろうけど、都合つかないのお前だろ。」
「えー……、また連絡するよ。」
俳優という仕事柄、多方面からの貰い物が多い。使う物は使うが、使わない物はクローゼットの肥やしになっている。それを兄夫婦がたまに譲ってもらう、という交流は年に数回交わされていた。
「最終節終わってからが良いな……。」
「めっちゃ眠そうじゃん。」
「俺は寝不足なんだよ……」
「まだ22時前だよ。ゆっくり寝れんじゃん。」
今朝は結局子供を送り帰宅後二時間弱寝て、ランニングに出た。昨夜は三時間程度しか寝られていない。
食後の運動を終え、室内も淡いライトしか点いていない。被った布団の中も温かくなってきた。身体中にきつ過ぎない締め付けを感じながら、悠介は目を閉じた。
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