かわらないもの

弟さんさい兄ごさい。 -3

　北山俊介は今や誰もが知る若手俳優だ。
　高校生でオーディション番組をキッカケに大手芸能事務所に所属し、俳優デビュー。特に下積みを経験することもなくイカれた役からお堅い役まで、高校生から二十台後半まで様々な役柄を演じ分ける。在学中から今まで仕事が途切れる所か益々露出は増えている。

　常に何かしらの映画やドラマが公開されているが、私生活も休みなく世間の話題に挙げられる。
　高校を卒業してしばらくしてから、週刊誌の常連になった。もっぱら色恋沙汰で、相手は女優、モデル、タレント、知名度があるインフルエンサーetc…。いづれも一夜、又は撮影が終わるまでの付き合いで、世間には一定数嫌悪感を示す者はいる。しかしそれでも仕事が切れることはない。中には「役作りの為に色んな人間と付き合っている」のだと勝手に好意的な解釈を放つファンも現れている。
　この状況に所属事務所は不倫や薬物、犯罪にさえ手を染めなければ良いと、私生活については匙を投げた。本人は今更自分のことが載っている週刊誌を把握もしていない。

　北山俊介の女関係は荒れに荒れているが、一方で兄弟仲が良いことも有名だった。兄の存在が知られたのは高校生の頃、本人がテレビのインタビューでポロっと零したのが最初だ。その後悠介が大学を卒業して今所属しているチームの親会社に就職し、出場した社会人リーグの試合でサポーターがたまたま来場していた俊介を発見した。
　プロではない。しかも地域密着も程々、プロ参入を目指しているわけでもないチームはシーズンを通して観客動員数が少ない。
　そんな中、メインスタンドでポツンと座っている男。眼鏡を掛けキャップを目深に被り、脚を組み、時折着信を受け電話をする。当初は他チームのスカウトマンか、所属する元トップリーグ所属の選手誰かしらの知り合いの有名人かと言われていた。雰囲気が明らかに周囲と違っており、一人で座っている観客は他にもいるのに妙に注目を集めていた。
　しかしそれは望遠レンズで試合を撮っていたファンがその男を撮り、あっけなく正体が判明した。その日の内にSNSで北山俊介がアマチュアリーグを観に来ていたことは瞬く間に拡散され、名前や雰囲気が似ていると芋づる式に悠介の存在が明るみに出た。便乗するように二人の高校時代の同級生が兄弟であることを証言し、最初の拡散から数時間後には二人の血縁関係が証明された。
　その後も度々俊介は悠介が出場する試合に足を運んだ。一度や二度ではない。頻繁ではないが、数ヶ月に一度の頻度で来場する。閑古鳥が鳴きかけていた会場は北山俊介を一目見たいファンが来場し始め、混乱を避ける為俊介の定位置は関係者席になった。その後悠介が働く大企業がＣＭに俊介を起用した話は蛇足か。
　週刊誌の記者は、スキャンダルを隠し通す素振りも見せない俊介を常にマークしている。しかし悠介の家に行く、又は悠介が俊介のマンションへ入って行った時点でその日は引き揚げるようになった。