諦めた人生だった

ゆゆゆ

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ある男子生徒の独白 -4

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 三年に上がり、休み時間の度にフィーノは机に突っ伏して寝るようになった。

「あいつ、連日パーティーやら夜会やら出てるんだってさ。」

 以前フィーノを襲った者たちがその姿を指して話している。
 昼食は相変わらず大盛りを食べているようだ。あれだけ食べていて少しも太らない。スタイルは良いのだろうが、付近から見ると細すぎて心配になる。

「……ここ良い?」
「ああ……。」

 頻繁ではないが、何度か接する内に少しは話すようになった。食堂の壁際の机で一つ席を空けて座る。

「なんでそんなに食べてるのに、そんなに細いんだろう……。」
「…………。ここでしか、まともに栄養補給ができないから。」
「え?」

 それ以上フィーノは何も言わなかった。朝食や夕食はまともに食べられないということなのか。それほど貧乏なのか……。……食事を制限されているのか……?

「それより、午後の授業の分を教えてほしい。」
「えっ!?」
「あまり理解できなかったから……。奨学生だから、成績良いんだろう。」

 このクラスにいるのだからフィーノも成績は良いだろうと思ったが、そんな言葉は出なかった。頼られたのが妙に嬉しかったからだ。

「い、良いよ。授業の前……、食べたら教えようか?」
「頼む。」
「あ、でも無理しないで、……あまり寝れてないよね、最近。」
「ん……。忙しくて予習復習はできてないな。学期途中でクラス降格とかあるかな。」
「よほど悪かったら……、僕みたいな奨学生は退学になるって聞いてるけど」
「そうか。」

 教師など大人や上級貴族相手と話す時と口調は全く違う。相手が庶民だからかも知れないが、だからと言って舐められているという印象でもなくそれが嬉しいと思っている。
 この頃にはフィーノが好きでこんな格好をしているわけではないのだろうと察しがついていた。

「うわ男女じゃん」
「あいつこの前のパーティーで中年の貴族に媚売ってたって。」
「え~気持ちわる」

 フィーノと歩いていると色々な陰口が飛んでくる。それを気にしてフィーノは連れ立っていると分からない程度に離れて歩く。

「危ない」

 もう少しで教室に着く、というところで後ろから声が聞こえた。振り向くと、ロイ様がフィーノを支えていた。

「……申し訳ありません。少しフラついただけなので」
「何もなければふらつかないだろう。医務室へ」
「大丈夫です。お手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした。」

 フィーノは丁寧にお辞儀をしてこちらに歩いてきた。

「大丈夫?」
「ああ。……でも、ちょっと寝てこようかな……。」
「やっぱり寝不足……。」
「今日も夜通し出なきゃいけないみたいでさ。ごめん、今度改めて教えてほしい。」
「うん……、今日のノートも取っておくよ。」
「本当に? 助かる。」

 その時初めてフィーノの笑みを見た。ただのお節介だったのに。

「でも、どうせならロイ様の申し出受けといたら良かったのに。」
「冗談。これ以上矢が増えたら死んでしまうよ。」
「矢……、確かに。でもあんな断り方で大丈夫かな。」
「ロイ様なら大丈夫しゃないか……、周りに人もいなかったし。」

 昼休みは大体みなギリギリまで食堂で談笑している。ロイ様はなぜこんな所に一人でいたのだろうか。
 そんなことを考えながら、フィーノの鞄を持ち医務室まで同行した。
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