諦めた人生だった

ゆゆゆ

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 ロイの誕生日翌日。
 誕生日の昨日、ロイは王都に呼び出されて登城しており、今日。夕方前に帰ってきた後、いつもより豪華な食事をいつもと違い使用人たちと共に摂り、食後二人でロイの部屋に戻ってきた。
 少ししてやってきたメイドが持ってきたワゴンには、前月フィーノが買ってきたワインがワインクーラーで氷により冷やされて運ばれてきた。それに加えてバラエティ豊かなつまみ、お茶のセットや水など、しばらく引き籠もれそうな飲食物が載っている。
 二人が座るソファ前のローテーブルには、水滴を拭き取り栓をあけたワインの瓶とグラス、チェイサーとワインに合いそうなつまみのみが置かれた。ワゴンは少し離れた位置に移動して、メイドはにこやかに一礼をして退室していった。

「いれますね。」

 フィーノが瓶を持ち、二人分のグラスへ注ぐ。シュワシュワと細かい気泡が薄い色の液体の中を浮上していく。

「スパークリングワイン……」
「ああ。炭酸入りのワインが街でも売られるようになって、人気が出たらしい。先月も人気だったようだが、今では街でも中々手に入らないらしいな。王都でも下ろせないかと商人から相談を受けたよ。」

 本来ならば貴族御用達のワインだ。フィーノ自身はパーティーなどで振る舞われた際にしか飲んだことはない。

「乾杯。」
「ロイ様、お誕生おめでとうございます。」
「ありがとう。」

 グラスを合わせて一口飲む。飲みやすい、甘めの味だ。

「甘いな。」
「すごく飲みやすいです。」
「普通はもう少し辛いからな。次は俺が注ぐよ。」

 酒が入ったからか、仕事を終えた夜だからか。ロイの一人称が『俺』になっている。
 食後こうして晩酌をする為か今日は早めに入浴するよう伝えられて、着替えればすぐに寝ることができる。ロイも帰ってきて身を清めたのだろう。いつもセットされている髪が下りている。

「あの、今朝王都を発ったと聞きましたが」
「ああ。早く帰ってきたかったんだ。」
「じゃあ私は飲んだらすぐ――」
「先月いったこと覚えているか?」

 結婚後、共にここへ来た時は丸一日かかった。ゆっくり負担をかけない行程だったとしても、それを半日で帰ってきたとはどれほど強行軍だったのか。気遣ったつもりだったが、それは途中で遮られてしまった。

「……え、――はい。」
「フィーノへお願いがある。それを今夜きいてほしい。」
「はい…………、あの、それはどういう」

 持っていたグラスを取られ、机に置かれる。グラスと共に掴まれた右手はそのままだ。

「今夜、一緒に寝てほしい。」

 右手を両手で掴まれて、至近距離で目を合わせてゆっくりはっきりと言われる。
 ここへ来て以来、夜はそれぞれの居室で寝ている。昼間に執務室へ赴くことは多いが、ロイの寝室に入ったのは今を含めても未だ数えるほどだ。
 覚悟はしていた、昔から。いつか自分はどこかの貴族の元へ出されて、どこかの男と繋がらなければいけないのだろうと。それは常々考えていたが、ここへきて平穏な毎日を過ごす内にそんな思いは薄れてしまっていた。

「……ね…………、あ、……はい。そんな、お願いまでされなくても、それがおれ、…………私の、務めですし……」
「本当か?」

 動揺する内心をなんとか抑えてゆっくりと声を紡ぎ出す。痛いほどに向けられる視線を無意識に避けた。ロイの襟首辺りを見るフィーノを、ロイが引き寄せた。

「本当か? かわいそうなくらい力が入っている。――緊張している。」
「それは、……経験がないので、粗相をしたら……――申し訳なく……」
「経験がないか。」

 遣り方は聞かされている。親から同性同士のセックスの方法を、準備の仕方を教わるなど異常なことだろう。その異常がまかり通っていた。

「いえ、あの、やり方は……、準備をしてきますので」
「必要ない。」

 一度体を離して立ち上がり浴室へ行こうと手に力を込めたが、逆にソファに倒される。

「悪い、でも、止めてはやれない。」

 ロイが眉間に皺を寄せている表情など見たことがない。学校でも、この屋敷に来ても。そのロイが苦しそうな顔でフィーノを組み敷いた。
 何かあるのだろう。
 逆に遅いくらいだ。結婚してからもう四ヶ月も経つ。待たせたのだろうか。男同士での行為などやりたくないことをさせているのかも知れない。一瞬で色々と考えたが、フィーノは身体の力を抜いた。

「慣れてませんが、できる限り善処します。」
「…………。ありがとう。」

 ロイは何か言い掛けたが、口を噤んだ。礼を言ってフィーノを起こし、ベッドへ移動する。間接的なもの以外の照明を落として、再びフィーノを倒した。
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