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王都から領地までは車でゆっくり進み、丸一日の行程だった。
途中一泊する街に入ってからロイから容姿について細かく聞かれた。最初は遠慮したが何度も確認をされて、最後には折れてしまい理想――というよりも今と真逆の姿を伝えた。そしてその結果をまとめて同行していた侍女に伝えられ、通された部屋で身なりを整えられた。
爪の装飾は全て剥がされて短く切り揃えられ、表面を磨かれた。長い髪は短く切られ、軽くセットされた。化粧は全て落とされてしっかりと保湿され、眉毛だけいつもより少し太く書き足された。コルセットは取られてワイシャツにスラックスといったシンプルな服装に着替えさせられた。
それを領の屋敷付きだというメイドたちによりあっという間に仕上げられ、彼女らと入れ違いにロイが室内に入ってきて笑った。
「見違えたね。」
腕を引かれて全身を鏡で見た。誰だこれはと思うと同時に不思議な安堵感を感じた。失くしていて諦めたパズルのピースが嵌ったような、妙な安堵感が湧き上がってくる。
「あ、……、わた、おれは……、男なんだ……。」
メイクを取ってしまえばそこらにいるただの男だ。その男になりたかった。そんな願望は忘れていた。
「知ってるよ。これからは常に日傘を差さなくても、好きに運動しても良いんだよ。」
「……髪、もう少し切って良いかな……。」
「呼んでくるよ。」
「あ、いや、後で大丈夫だから、」
勝手に涙が滲んで指で拭うも追い付かない。
「ありがとう。」
もしかしたら自分のこんな姿を見ることは一生なかったかも知れないと思うと何故か涙が溢れてきた。ロイからハンカチを渡され、必死に拭いながら礼を言った。
記憶にある限りでは初めてズボンを履いた。少し窮屈だが、重いドレスを引き摺るより余程マシだ。
「ああ。……落ち着いたら夕食を食べに行こうか。」
「あ、もう大丈夫……。」
「座って。水を持ってくるから。」
その夜、大きな一つのベッドで二人で寝た。結婚初夜だったが、そんな話題は二人共出さなかった。
フィーノに至っては美容や体型維持のことなど一切考えずに勧められるまま腹一杯夕飯を食べて、上等な寝間着に包まれ宿の最上級の部屋のベッドに寝る。終始恐縮し通しだったが、満たされた気分でもあった。
途中一泊する街に入ってからロイから容姿について細かく聞かれた。最初は遠慮したが何度も確認をされて、最後には折れてしまい理想――というよりも今と真逆の姿を伝えた。そしてその結果をまとめて同行していた侍女に伝えられ、通された部屋で身なりを整えられた。
爪の装飾は全て剥がされて短く切り揃えられ、表面を磨かれた。長い髪は短く切られ、軽くセットされた。化粧は全て落とされてしっかりと保湿され、眉毛だけいつもより少し太く書き足された。コルセットは取られてワイシャツにスラックスといったシンプルな服装に着替えさせられた。
それを領の屋敷付きだというメイドたちによりあっという間に仕上げられ、彼女らと入れ違いにロイが室内に入ってきて笑った。
「見違えたね。」
腕を引かれて全身を鏡で見た。誰だこれはと思うと同時に不思議な安堵感を感じた。失くしていて諦めたパズルのピースが嵌ったような、妙な安堵感が湧き上がってくる。
「あ、……、わた、おれは……、男なんだ……。」
メイクを取ってしまえばそこらにいるただの男だ。その男になりたかった。そんな願望は忘れていた。
「知ってるよ。これからは常に日傘を差さなくても、好きに運動しても良いんだよ。」
「……髪、もう少し切って良いかな……。」
「呼んでくるよ。」
「あ、いや、後で大丈夫だから、」
勝手に涙が滲んで指で拭うも追い付かない。
「ありがとう。」
もしかしたら自分のこんな姿を見ることは一生なかったかも知れないと思うと何故か涙が溢れてきた。ロイからハンカチを渡され、必死に拭いながら礼を言った。
記憶にある限りでは初めてズボンを履いた。少し窮屈だが、重いドレスを引き摺るより余程マシだ。
「ああ。……落ち着いたら夕食を食べに行こうか。」
「あ、もう大丈夫……。」
「座って。水を持ってくるから。」
その夜、大きな一つのベッドで二人で寝た。結婚初夜だったが、そんな話題は二人共出さなかった。
フィーノに至っては美容や体型維持のことなど一切考えずに勧められるまま腹一杯夕飯を食べて、上等な寝間着に包まれ宿の最上級の部屋のベッドに寝る。終始恐縮し通しだったが、満たされた気分でもあった。
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