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 行った先は可愛らしい喫茶店だった。私の家から近い所を選んでくれてすぐ帰れるようにしてくれていた。ここお気に入りなんですよー。と、彼女嬉しそうだった。(松崎さんはいつも楽しそうだけど)松崎さんは、店員に二名です。と言って、ここに座りましょう。と彼女は言った。
 「実田さんお好きなものオーダーしてください。何でも良いですよ」
「あ、有り難うございます」
 いいのかな。でも、あんまり高くなさそうなものにしよう。ナポリタンとか。
 「じゃあ、ナポリタンで」
「はーい。じゃあ、私はケーキにします」
  もう夜なのに甘いものにする松崎さん。彼女のスタイルじゃ、食べても肥らなさそうで良いなあ。
「いいんですか」
「いいんですよ。実はこれ私のお金じゃなくて、一応社長からの命令なんですよ。忘年会でのお詫びもあります。後、正社員の話もありますけど」
「いや、あの時は私が悪かったのもあるんですが...」
「貰えるものは貰っときましょう。デザートとかも頼んじゃいましょ」
 松崎さん...やっぱ凄い懐持っている人だな。
 私はそうしてオーダー品が来るまで彼女としゃべった。会社の事とか、正社員の事とか、勉強の事とか色々お話した。そして、オーダー品が来て、私達はそれを食べる。
おいしい。と松崎さんは言った。
「でも、本当に何もなかったんですか?」
 すると、食べながら彼女は言ってきた。
「な、何がですか?」
「咬射副社長と」
「な、ないです」
「そうですか。えーつまらない!」
「つまらない...?」
 本当に彼女は残念そうだった。私は彼女の質問に冷や汗を掻く。咬射副社長に変な誤解与えないようにしなきゃ...。私は心配で堪らなかった。
 しかし、松崎さんってこんな人だったのか...。見た目ショートロングで中身お淑やかそうで、ザ、大和撫子って感じなのに、ブラックなゴシップ大好きだなんて。
 ...いや、実は彼女が咬射副社長が好きでそれで私から情報貰おうとしているのかもしれない。
「私結構、入社された時から咬射副社長と実田さん良い感じだな。って思ってたんですよ。お二人結構頻繁に喋ってらっしゃいましたし」
「はあ...」
 結構怒られてばっかりだったら、特に、そんな甘い雰囲気なんてなかったような気がするけど。
 「じゃあ、というより、咬射副社長が気に掛けていただけかもしれないですね。可哀想に」
「いや、...良くわからないのに確定するのは咬射副社長に良くないですよ...。そういう松崎さんはどうなんですか?私の事ばかり聞きますけど」
「まあ、二人で呑みに言った事ありますけど、別にこれと言った事はなかったですよ。普通にさよなら」
「そうなんですか...」
「うーん、でもやっぱなんかあるような気がするんですけどね。だって忘年会で実田さんが倒れた後、パートの方が送るって言ったのに、自分から率先して送るっていってらっしゃいましたもん。めんどくさがってやらなさそうなのに。しかも実田さん断っていたのに」
 「あれ?あ、そうか。松崎さんは、忘年会で見てたんですね」
「覚えてらっしゃらないんですか?」
 「そうです...良く覚えてないです」
 でも、私その時、自分で帰ろうとしてたんだ。
「...それをみよがしに自分の家へ」
「いやいや!本当に咬射副社長がそんな事するわけないので!!でも、何故そんな男女の仲に何かあったと定義したがるんですか...」
「下心がない男性なんていないでしょ」
「そうですかね...」
 松崎さんははっきり言った。しかし、こうも異性を言うなんて、やっぱりモテるんだろうな。とは思った。私は悲しいことにモテた事がないからわからないや。
「じゃあ、やっぱあるんですか?」
「いや、本当にないです。本当です」
「そうですか」
 そう言っているといつの間にかケーキが半分までいっていた。私はまだちょっとしか食べてなかったので慌てて食べた。
「...松崎さんはモテそうですもんね。可愛らしいし、美人ですし」
「そうでもないですよ」
「...彼氏はいらっしゃるんですか」
「彼氏っていうか、好きな人はいますけど」
「...もしかして、咬射副社長?」
「いいえ、別の人ですよ。咬射副社長は仲は良いですけど特段タイプじゃないですね。私と合わないと思います。妥協しらずでお互い譲れない所とかありますし」
「そうなんですか...はっ!ジツハシャチョー?」
「いや、私は年配好きじゃないんですよ。どちらかというと歳が近い方が良いです」
「そうですか。私は最初は社長を推してました」
「え、実田さん社長がタイプなんですか?」
「優しいから。飴くれますし」
「...!?待って、面白いから辞めてもらえますか!でもそれ社長の事、お爺ちゃんかなんかで見てるでしょ事絶対!」
「ほんわりしてて和みますよね」
「まあ、良い人だと思いますよ。でも駄目ですよ!社長は奥さんとラブラブですからね!」
「当たり前じゃないですか。わ、私だって普通に歳近い方が好きですよ」
 「それは良かった」
 松崎さんは、すると、思い出して爆笑してた。
「ごめんなさい、実田さん。まさかそんな答えが返ってくるとは思わなくて。でも、そうですよね。実田さんも可愛らしい女性ですもん」
「有り難うございます。松崎さんはもっと美人ですが」
「いやいや」
 すると、好きの違いがすれ違い始めましたね。と言った。すると、彼女は急に悲しい表情を繰り出す。
「...でも本当に好きな人程振り向いてくれないですよね」
 すると、松崎さんは悲しそうな顔をした。
「バランスが取れないですよね。近づきすぎたら逃げられてしまうの怖くて、中々アピール出来ないですし、だからって話さなかったら、他の人にとられてしまう。でも、迷惑かけたくないし、それで揺らいじゃいますよね」
「...分かるような」
「勘違いするのも嫌ですしね。特に傷つくのは問題ないのですけど。でも、もしわかっているのなら、私のこと少しでも気になってくれているなら、向こうから来て欲しい...とか。まあそういう間に失恋してしまうんですけど」
 ...なんか悲しい。と彼女は呟いた。松崎さんはモテそうなのにそういう所があるのか。恋愛って難しいよね。
「まあ、女としては待ってたいですよね」
「ね...。わかりますよ。実田さんの気持ち。今そんな状況なんでしょう?」
「.....」
 誰に対してかは言わなかったけど、でもそんな所は誰だってあるな。とは私は思った。
「...駆け引きとかわからないですよ」
「ねー」
 そこから私達は色々話していた。でも、松崎さんは本当にはっきりしているから喋っていて楽しい。すると、急に、
「...居なくならないでください、実田さん。20代の女性社員あんまり居ないから、私寂しいです」
 と彼女は手を顔に覆い、声を震えさせ泣き始めた。
「ま。松崎さん!?」
 すると、周りがなんだ?という感じで見てくるので私は慌てる。
「ちょ、松崎さんどうしたんですか。周りの人見られてますよ。泣かないでください」
「だって、本当にそうでしたし、私パートでも歳近い実田さんが入ってきてくれて嬉しかったんですよ...」
「松崎さん...」
「来たとしても辞める人多かったですから。実田さんだけなんです。だから、居なくならないでください...」
「は、はい。わかりました。今回の話も真剣に考えますから」
「有り難うございます。言質取りましたからね」
 すると、ニッコリ笑う彼女。え?嘘泣き?本当に泣いているかと思った。
「...嘘泣き?」
「はて、なんのことやら。では、宜しくお願いしますね」
「...まあ、はい。正社員の話は嬉しいお話なので、宜しくお願いします」
「頑張ってください。わからなかったら聞いてください」
 そうして、私達は二人さよならをした。
でも松崎さんの好きな人誰だろうと私はそんな思いでいた。

✕✕✕

 そういえば終わったら携帯から連絡して欲しいって咬射副社長が言ってた。
 私は松崎さんと別れてから自分の家についた後、風呂に入って髪を乾かしている最中にそれを思い出した。なので携帯を開き私は彼にメッセージを送る事にした。
......でも、妙に緊張する。プライベートでの連絡って事になるから。
 何て送れば良いんだろう。でも、もう夜だし。
『夜分失礼します。咬射副社長、只今戻りました』
 ピロンと私からのメッセージ音の携帯の音が鳴る。そして、暫く時間がたつと再び音が鳴った。
『連絡有り難う。松崎に何か言われなかったか』
 すると、咬射副社長から返事が来た。
『大丈夫です。松崎さんと、楽しくお話しました』
『そうか。楽しかったなら良かった』
 咬射副社長、メールの返事が早い。...私の事、気に掛けてくれているのかな。
 私は咬射副社長に対しそんな思いでいた。そうだったらもっとプライベートでも、お話してみたいな。とか。そんな感じの欲が出てくる。それで、何言ってるんだろうと私は思った。単に変な事故があったせいでこうなっているのはわかっているから、彼を気になったとしても一線は引かなきゃだめだ。というか、副社長だし。たかが派遣の私と彼じゃ釣り合わないよ。
 ー...でも本当に好きな人程振り向いてくれないですよね。ー
 すると、松崎さんが先程言った事が頭に浮かぶ。
ーバランスが取れないですよね。近づきすぎたら逃げられてしまうの怖くて、中々アピール出来ないですし、だからって話さなかったら、他の人にとられてしまう。
 でも、迷惑かけたくないし、それで揺らいじゃいますよね。勘違いするのも嫌ですしね。特に傷つくのは問題ないのですけど。でも、もしわかっているのなら、私のこと少しでも気になってくれているなら、向こうから来て欲しい...とか。まあそういう間に失恋してしまうんですけどー
 ...本当に松崎さんの言う通りだと思った。というよりも今までの私の恋愛もそんな感じだった。
 すると、又携帯の音がなった。
 『心配していた。実田さん困っていたらどうしようって。後仕事じゃないから、そんな堅苦しい感じじゃなくてもいい』
『わかりました』
『一体何話したんだ。松崎と』
『正社員の勉強のお話とかです』
『へえ』
 ...へえ。咬射副社長ってぶっきらぼうな所があるな。
『松崎の事だから絶対俺と実田さんとの関係追求してきただろうとは思ったけど何て答えたんだ?』
『何もないです。ってお伝えしました』
『そうなのか』
 ...そうなのか?言葉のニュアンスが妙に引っ掛かかった。
『実は咬射副社長とは、想像を超える関係なんですって言ったら良かったじゃないか』
 この文見て思わず吹き出した。咬射副社長からこんな、発言でるとは思わなかった...。
『いや、だって言ったら咬射副社長にご迷惑掛けるでしょう?』
『特にないよ』
 え、?ちょ、??いきなり突発的な事を言われて頭が混乱する。
『...心配して連絡くださってるのか、それともからかってらっしゃるのか、どちらなんですか?』
 はっきり私は言ってみた。すると、
『実田さんが思う通りに受け取ってくれ』
 と返ってきた。私が思う通りに受けとるって。
『咬射副社長は、虐めて喜ぶ方なんですか?』
『全然、そんな事ない。...冗談だ。まあ別に言いたいなら言ってもいいよ。』
『言わないです。絶対誰にも言いません。だから咬射副社長も内緒にしといてくださいね』
『勿論だよ。ごめんな。怖がらせたな』
 そこで一旦区切った。すると、
 『今週の日曜の買い物、お昼の12時くらいはどうだ?車で家まで迎えに行く。昼奢るよ』
『わかりました。有り難うございます。待ってます。』
 私はそう返事をした。
 楽しみだな。あ、待って服!服どんなの来てくれば良いの!?慌ててクローゼットを開けて確認する。
 可愛らしい服がない...私のセンスのなさ...。...咬射副社長が買ってきてくれた服が一番可愛いんだけど...。こういう系統の格好が好きなのかな。これ着ていってもいいけれど、ちょっと拘って、可愛い服着ていって可愛いって言われたかった。...あり得ないだろうけど。
 とりあえず私はメイクの練習をすることにした。
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