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桜の花弁、酒に酔う

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志哉「っ!?いないって…」
神奈「彼女の承諾を得て、私が殺しました」
自分で、自分を殺したというのか!?
(ありえない。そんなこと…)
神奈「確かに、貴方達の世界では不可思議でしょうが、私は巫女です。自分に取り付いた、邪念を取り払うのも仕事のうちです」
志哉「…」
俺があんなことしなければ、神奈は可愛い娘として幸せに暮らせた。
呪子なんて言わなければ、悪魔などと戦い、命を無駄にする必要なんてなかった。
(全て俺のせいだ、俺のせいで…)
神奈「私は、この職について後悔はしていません。この世界と共に消えるのは、嫌ですけど…」
志哉「俺に何か出来ることがあったら言ってくれ。せめてもの償いだ」
神奈「よろしいのですか?」
神奈は、瞳をも動かさず言う。
神奈「では…」
神奈がこちらを向き、眼帯を外す。
その目は、生まれつきの赤と青の異色のままだった。
神奈「二度と、連ちゃんの様な悲しい子供を殺さないでください」
志哉「…分かった。殺さない…」
その隠されていた青い瞳に吸い込まれそうなほど、美しかった。
神奈が、眼帯を付けたと同時に、後から、強い衝撃がかかる。
神奈「痛いよ…」
神奈がため息をつく。
振り返ると、酔った幸村殿がいた。
幸村「神奈、また一人飲みか?」
神奈「何度も言ってるだろ、大人数とわいわいすんのは苦手だって」
幸村「それでも領主か?」
神奈「悪かったな、こんなのが領主で」
幸村「何怒ってんだよ~」
神奈「もう知らない」
幸村「神奈ぁ~…」
神奈「そういや、渚菜さん知らないか?」
幸村「ん、そういや見てねえな」
志哉「渚菜、さん…?」
神奈と幸村殿が戯れている時は、信幸殿のおっしゃる通り、微笑ましい雰囲気であった。
幸村殿がこちらを向く。
幸村「ん、殿も一緒でしたか」
志哉「あ、はい」
幸村「渚菜はなぁ、神奈ととても似ていて、ある事情があってここの忍をしてるんだ」
幸村殿が自慢げに話す。
神奈「お前はいいから、飲んでろ」
そう言い、神奈は自分のお猪口を幸村殿に渡し、お酒を注ぐ。
幸村「お、悪いな」
神奈「いい、後で半殺しにするから」
幸村「怖いな~神奈ぁ~…」
神奈「怖くて結構」
幸村「冷たい~」
神奈「いつもどうりだ」
幸村「む~…」
神奈「関係をわきまえろ」
(成程、これは頷ける)
幸村殿が、神奈に行き過ぎた好意を押し付けているのは、本当のようだ。
幸村「そう言えば、影崎殿は既に、結婚してましたよね?」
志哉「はい、一応」
幸村「子供は、いるんですか?」
志哉「はい、3人」
神奈「っ!!」
確かに、3人いる。
幸村「名前を伺ってもよろしいですか?」
志哉「上の子から、『連(レン)』・『白(ハク)』・『紫娜(シナ)』です。全員女子ですがね」
神奈「幸村、連ちゃんと、白ちゃんは病気で亡くなったんだ。深入りするな」
幸村「そ、そうだったのですか。失礼しました」
志哉「いえ、子供が亡くなったのは何十年も前なので、心の入れ替えをしなければいけない時期です」
幸村「影崎殿は、お強いですね」
志哉「それ程でもありません。妖怪に殺されかける程度ですから。神奈様、本当にありがとうございました」
神奈はこちらを一瞬見て、庭に目線をずらした。
神奈「いい。いつもの事だ」
その顔は、少し赤かった。
幸村「照れてるのか?」
神奈「…礼を言われるのに、慣れてないだけだ」
幸村「そういうところ、神奈は可愛いな」
神奈はため息をつき、立ち上がった。
幸村「どこにいくんだ?」
神奈「自室。少し酔った」
幸村「神奈が酔うなんて珍しいな」
神奈は幸村殿の言葉を無視して、立ち去った。
幸村「…」
志哉「…」
何故だろう。
神奈との会話より、空気が重い気がする。
幸村殿が、神奈の夫だからだろうか。
あるいは…。
幸村「影崎殿」
志哉「はい。何でしょう」
幸村殿は、少し間を置いて、口を開いた。
幸村「何故神奈を殺したのですか?」
志哉「っ!?」
驚いた。
何故幸村殿が知っているのか。
幸村「…神奈は、そんなに生きてはいけない人間だったのでしょうか」
志哉「それは…」
返す言葉が見つからない。
幸村「神奈がたとえ、呪子でも、鬼子でも、結局は1人の人間です。神でも、巫女でも、最終的には1人のか弱い少女です」
志哉「…」
幸村「そんな子供を殺す必要はあったのですか?意味はあったのですか?」
志哉「…幸村殿の仰る通りです。殺す必要なんて無いし、意味も御座いません。ただの自分の自己満足で、神奈…いや、連を殺しました」
嘘なんかじゃない。
全てが真実。
幸村「俺が神奈に告白した時、俺はこう言われました」

回想_。
幸村「桜来良、俺と、…恋仲に、なってくれ!!」
俺は恥じらいながらも、桜来良に想いを伝えた。
桜来良は顔色一つ変えず、光が宿らない瞳で俺をみる。
神奈「なってもいいが、条件がある」
幸村「条件…?」
神奈「私の全てを知り、それを受け入れる覚悟を決めろ」
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