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3話 メレンゲ
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久々の人里。
しかもなかなか発展しているようだ。
ユウが『電子マネー』決済で色々買ってくれた。
「ごめんね。
こんなにお金使わせて大丈夫?」
と聞いたら、
「大丈夫」
とニコッとした。
「たぶん神さまに請求が行きます」
ちょっと何言ってるかよくわからないな。
たぶん比喩だと思うけど(頭がおかしいんじゃないよね?)。
こいつ、わざと思わせぶりなこと言うんだ……。
そんなところも……可愛い。
我ながら『何で可愛いの?』と思うけど。
子どもっぽくて可愛いのかなあ?
二人で歩いていると、ケーキ屋さんの前を通りかかった。
最近甘い物食べてないな……とチラリと見ていると。
ユウはそんな私に気付いたようだ。
「何かケーキ買って帰ろうか?」
とニコッとした。
こいつ、基本紳士なんだよ……。
淡々とした紳士。
見返りを求めなさ過ぎて逆にうさんくさい紳士。
「いいよ。
お金……使い過ぎだし」
と言うと、ユウはニコリと、
「大丈夫。
むしろ電子マネー使えるときにいっぱい使ってしまおう!」
とこぶしを握る。
ウザイしぐさ。可愛い。
「でも請求行く『かみさま』が困るんじゃ……?」
と聞くと、
「神さまは神さまだからきっと大丈夫」
と笑顔で言った。
ほんとこいつ意味わからない。
「この村に経済特需をもたらす勢いで買い物しましょ!」
こいつならできそう。怖い。
私たちは店に入った。
「すみません~。
今、ケーキないんですよ~」
とケーキ屋さんが申し訳なさそうに言う。
「バターが手に入らなくてね」
「バター不足なんですか?」
「この先のバター製造工場への道がふさがってしまってね。
一週間前の大雨で」
と言うとケーキ屋さんはやれやれと肩をすくめた。
「バターがないとケーキが作れない。
商売あがったりだよ……」
「そうですか……」
と私が気の毒に思っていると、隣の男がアゴに手を置いている。
あからさまな『考えるポーズ』、可愛い。
ユウはしばらく思わせぶりに沈黙した後、私たちに顔を向けて、
「シフォンケーキは?」
と言った。
しふぉんケーキ?
またこいつ知らない単語をしゃべりやがる。好きな展開。
「しふぉんケーキ?」
とケーキ屋さんも言った。
ケーキ屋さんも知らないケーキのようだ。
「バターを使わないケーキです」
とユウは淡々と言う。
「そ、そんなケーキがあるのか!?」
とケーキ屋さんは食いつく。
「ええ」
と言うとユウは腕まくりをした。
「台所、貸して貰ってもいいですか?」
おまえ、ちょっと強引すぎるだろ。
「あ、ああ……!」
とケーキ屋さん。
良いのかよ。
ユウってそう言うところがある。
強引なことするのに、周りは受け入れちゃうみたいな。
ユウは台所に入ると、ドアを閉めた。
「しばらく一人にして下さい。
この部屋の中を決して見ないで下さい」
何だコイツ。
鶴の恩返しか(ユウがリリに寝る前に話してあげたユウの国の物語を私も聞いてた)。
私はトイレを借りるフリをして、外へ行き窓からこっそり台所を見た。
ユウは『スマホ』を見ながら、紙に何事か書いていた。
何してんだこいつ、怖い。
あの『スマホ』と言う物も光っていて怖い。
『スマホ』のような危険物っぽい物を扱うなんて。
ユウってやっぱりスゴいんだな、と思いつつ私は覗くのをやめた。
私がトイレから戻りしばらく経つと、ユウが台所から出てきて先ほど書いていた紙を私たちに見せた。
「これがシフォンケーキのレシピです」
腕まくりをして台所に入ったくせに、ケーキを作っていたわけではなく、レシピを書いていた、と。
「おお?」
とケーキ屋さんがレシピを見て目を見開く。
「卵を白身と黄身に分けて泡立てる!?」
「はい」
とユウは言った。
「白身だけで泡立てると、白いフワフワの物ができます」
「フワフワ!」
「メレンゲです」
「「めれんげ!」」
と私とケーキ屋さんは声をそろえた。
ユウと冒険してから、人と声がそろうことが多い気がする。
ケーキ屋さんと私たちは一緒に『メレンゲ』を作った。
ほんとにフワフワなものができた。
何コレ可愛い。
「たまごかけご飯も、ご飯に先に卵の白身だけ入れて混ぜるとフワフワになる」
とユウが言った。
たまごかけご飯!? って何? と聞くと、
「ライスに生卵をかけて混ぜたものです」
と淡々とユウは言う。
「生卵をライスにかけるの!?」
と私が気持ち悪がると、ユウはポリポリ頭をかいた。
「僕の国では食べるんだよ」
ユウの国ってほんと変。
こんな変な奴を生み出しただけある。
……ありがとう。
シフォンケーキはおいしかった。
こいつは滅多に失敗しないから、食べる前から味の保証はできていたと言っても良い。
「ありがとう」
とお礼を言いまくるケーキ屋さん。
「これでバターがなくてもケーキが作れるよ!」
「いえいえ」
とユウは笑顔で手を横に振った。
やはりこいつは淡々としている。
私たちは笑顔で見送るケーキ屋さんにときどき手を振りながら、帰路についた。
チラリと横目でユウを見ると。
彼はお土産にもらった箱――『シフォンケーキ』が入っている――をためつすがめつ見ながら歩いている。
『こんなお土産もらうつもりでレシピ教えたわけじゃないのになあ。
悪いなあ』
じゃないわよ!
ああ、可愛い……。
こいつほんとに何でもできる。
私よりずっとすごいのに。
何故『可愛い』なんて思うんだろう?
『僕、何故か皆が知らないことも知ってるんですよね、ごめんなさい』
そんな態度の彼に私は恋をしている……
しかもなかなか発展しているようだ。
ユウが『電子マネー』決済で色々買ってくれた。
「ごめんね。
こんなにお金使わせて大丈夫?」
と聞いたら、
「大丈夫」
とニコッとした。
「たぶん神さまに請求が行きます」
ちょっと何言ってるかよくわからないな。
たぶん比喩だと思うけど(頭がおかしいんじゃないよね?)。
こいつ、わざと思わせぶりなこと言うんだ……。
そんなところも……可愛い。
我ながら『何で可愛いの?』と思うけど。
子どもっぽくて可愛いのかなあ?
二人で歩いていると、ケーキ屋さんの前を通りかかった。
最近甘い物食べてないな……とチラリと見ていると。
ユウはそんな私に気付いたようだ。
「何かケーキ買って帰ろうか?」
とニコッとした。
こいつ、基本紳士なんだよ……。
淡々とした紳士。
見返りを求めなさ過ぎて逆にうさんくさい紳士。
「いいよ。
お金……使い過ぎだし」
と言うと、ユウはニコリと、
「大丈夫。
むしろ電子マネー使えるときにいっぱい使ってしまおう!」
とこぶしを握る。
ウザイしぐさ。可愛い。
「でも請求行く『かみさま』が困るんじゃ……?」
と聞くと、
「神さまは神さまだからきっと大丈夫」
と笑顔で言った。
ほんとこいつ意味わからない。
「この村に経済特需をもたらす勢いで買い物しましょ!」
こいつならできそう。怖い。
私たちは店に入った。
「すみません~。
今、ケーキないんですよ~」
とケーキ屋さんが申し訳なさそうに言う。
「バターが手に入らなくてね」
「バター不足なんですか?」
「この先のバター製造工場への道がふさがってしまってね。
一週間前の大雨で」
と言うとケーキ屋さんはやれやれと肩をすくめた。
「バターがないとケーキが作れない。
商売あがったりだよ……」
「そうですか……」
と私が気の毒に思っていると、隣の男がアゴに手を置いている。
あからさまな『考えるポーズ』、可愛い。
ユウはしばらく思わせぶりに沈黙した後、私たちに顔を向けて、
「シフォンケーキは?」
と言った。
しふぉんケーキ?
またこいつ知らない単語をしゃべりやがる。好きな展開。
「しふぉんケーキ?」
とケーキ屋さんも言った。
ケーキ屋さんも知らないケーキのようだ。
「バターを使わないケーキです」
とユウは淡々と言う。
「そ、そんなケーキがあるのか!?」
とケーキ屋さんは食いつく。
「ええ」
と言うとユウは腕まくりをした。
「台所、貸して貰ってもいいですか?」
おまえ、ちょっと強引すぎるだろ。
「あ、ああ……!」
とケーキ屋さん。
良いのかよ。
ユウってそう言うところがある。
強引なことするのに、周りは受け入れちゃうみたいな。
ユウは台所に入ると、ドアを閉めた。
「しばらく一人にして下さい。
この部屋の中を決して見ないで下さい」
何だコイツ。
鶴の恩返しか(ユウがリリに寝る前に話してあげたユウの国の物語を私も聞いてた)。
私はトイレを借りるフリをして、外へ行き窓からこっそり台所を見た。
ユウは『スマホ』を見ながら、紙に何事か書いていた。
何してんだこいつ、怖い。
あの『スマホ』と言う物も光っていて怖い。
『スマホ』のような危険物っぽい物を扱うなんて。
ユウってやっぱりスゴいんだな、と思いつつ私は覗くのをやめた。
私がトイレから戻りしばらく経つと、ユウが台所から出てきて先ほど書いていた紙を私たちに見せた。
「これがシフォンケーキのレシピです」
腕まくりをして台所に入ったくせに、ケーキを作っていたわけではなく、レシピを書いていた、と。
「おお?」
とケーキ屋さんがレシピを見て目を見開く。
「卵を白身と黄身に分けて泡立てる!?」
「はい」
とユウは言った。
「白身だけで泡立てると、白いフワフワの物ができます」
「フワフワ!」
「メレンゲです」
「「めれんげ!」」
と私とケーキ屋さんは声をそろえた。
ユウと冒険してから、人と声がそろうことが多い気がする。
ケーキ屋さんと私たちは一緒に『メレンゲ』を作った。
ほんとにフワフワなものができた。
何コレ可愛い。
「たまごかけご飯も、ご飯に先に卵の白身だけ入れて混ぜるとフワフワになる」
とユウが言った。
たまごかけご飯!? って何? と聞くと、
「ライスに生卵をかけて混ぜたものです」
と淡々とユウは言う。
「生卵をライスにかけるの!?」
と私が気持ち悪がると、ユウはポリポリ頭をかいた。
「僕の国では食べるんだよ」
ユウの国ってほんと変。
こんな変な奴を生み出しただけある。
……ありがとう。
シフォンケーキはおいしかった。
こいつは滅多に失敗しないから、食べる前から味の保証はできていたと言っても良い。
「ありがとう」
とお礼を言いまくるケーキ屋さん。
「これでバターがなくてもケーキが作れるよ!」
「いえいえ」
とユウは笑顔で手を横に振った。
やはりこいつは淡々としている。
私たちは笑顔で見送るケーキ屋さんにときどき手を振りながら、帰路についた。
チラリと横目でユウを見ると。
彼はお土産にもらった箱――『シフォンケーキ』が入っている――をためつすがめつ見ながら歩いている。
『こんなお土産もらうつもりでレシピ教えたわけじゃないのになあ。
悪いなあ』
じゃないわよ!
ああ、可愛い……。
こいつほんとに何でもできる。
私よりずっとすごいのに。
何故『可愛い』なんて思うんだろう?
『僕、何故か皆が知らないことも知ってるんですよね、ごめんなさい』
そんな態度の彼に私は恋をしている……
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