あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第三部

73話 駅までの道

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 しばらく話をした後、タケルは自転車に乗り去って行った。
 りんと2人きりになる。
 
 私はドキドキしながらりんを見上げた。

 りんは私をちらりと見ると目を逸らし、さっさと駅の方へ歩き始める。

 タケルと一緒のときは笑顔も見せてくれたけど。
 まだ怒っている。
 いや、それは当たり前だ!
 一生許されなくても文句が言えないことをしたのだから。

 私がりんの背中をぼんやり見ながら立ち尽くしていると、少し先まで歩いたりんは振り返った。
 私を見て言う。

「駅まで送ってくれるんじゃ……ないの?」

 ぶっきらぼうな調子だったが、りんの気持ちは伝わってきた。
 まだ怒っている。
 けど、怒っているばかりじゃないと私に示そうとしてくれている。

 私はりんの隣まで走って行くと、彼の腕に反射的に手を伸ばそうとして引っ込めた。

 あぶないあぶない。
 もう少しで腕を組むところだった。
 どうしてこんなときにそんなことをしそうになる!?
 習慣って怖い。
 いや習慣になるほどまだ腕を組んでないはずだけど……。

 と思いつつ、りんに気付かれていないか、こっそり伺うと。
 りんはジト目で私を見下ろしていた。

 これは!
 腕を組もうとしていたことに気付かれている!
 男子ってものすごくカンが良いんだった……。

『コイツ反省していないな』
 と思われたかな……。

 と顔を俯けていると、私の目線の先に……

 りんの指の長い綺麗な手が現れた。

 見上げると、視線を逸らしながら、りんが私に手を差し出している。

 な、何コレ!?

 可愛い!!

 そんな場合じゃないのに、ポーッとしながら、しかし私はしっかりりんの手を握った。

 これで合っているよね、手を繫いで良いよ、って意味だよね……と思いつつも不安になったが。
 りんが手を握り返してきてくれたので安心した。

 私たちは手を繋ぎながら無言で駅まで歩いた。

 何だか不思議な気持ちがする。
『男同士』のときは『手を繫ぐ』方が『腕を組む』よりもハードルが高かったのだ。
 しかし今は――女男だとお互い認識した今は――『手を繫ぐ』方が『腕を組む』より何だかハードルが低い気がする。

 でも何だか前より、通じ合っているような……気がする。
 『男同士』と言う意識が消えたからかもしれない。
 いや、私は当然ながら以前から『私たちは女と男』とちゃんとわかっていたのだが。
 それでもやっぱり『りんには「男」だと思われている』と言う認識は、私たちを少し『男同士』にしていたのだ。我ながら、ちょっと意味がわからないことを言っているが。

 だから、今、私たちは初めて、女と男として触れ合っている。
 と思うと、嬉しくもあったが……

「りん。ごめんね」

 と私は無言のりんに改めて言った。
 りんはしばらく何も答えなかったが、

「いいよ」

 と言ってくれた。
 その後、

「でも正直。
少し複雑な気持ち」

「え……」

「あおいが『男友達』じゃなかったこと」

「うん……」

 と私は頷いた。
 りんは淡々とした調子で続ける。

「あおいのこと『心は女の子だ』と思っていたけど。
でもいざ本当に『女の子』だとわかると。
少し寂しいと思った」

「うん……」

 胸が痛んだけど、当然だと思った。
 男子とは『男友達』が好きなのだ。
 『恋人』とは別の存在として。
 だからりんは私が『男友達』じゃなかったことが寂しい。
 『友達』を失ったと思っているのだ――『親友』を。

「でも。
きっと、『だから』なんだろうな。
そもそも」

 と言うりんの言葉に私は顔を上げた。

「え……」

「あおいのことが好きになった時点で。
『実は女』込みで好きになった。のかもしれない。かな?
無意識的におれはあおいが女だと言うことに気付いていた……と言うか」

 そこでりんは『実は女』を明かして初めて私に――私だけに――笑顔を向けてくれた。

「なんて。
自分の無意識を過信し過ぎかな?」

「えへ……」

 と私はヘンな照れ隠しの笑い方をした。
 その後思ったことをそのまま言った。
 言ってしまった。

「過信でもなんでも。
りんのその気持ちが……私、とっても嬉しいよ」

 りんはにこっとすると、手をぎゅっとしてくれた。
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