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第三部
69話 女の子が好き
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帰り道。
私は隣を歩くりんをチラリと見た。
今日一日りんは何だか……普通だ。
いや、いつも普通だ――今朝は『もしかして頭の中お花畑?』と思ったりもしたが、りんはやはりいつもと変わらず冷静だ。
冷静で、思慮深い。かっこいい。
しかし今、隣にいる彼は、冷静と言うよりどこか『冷たい』感じもする。
何だかそんな気がする。
『冷たい』と言うか、不機嫌。
今朝のサキとのことかな、と思う。
私とサキはりん目線から見たら、当然『女男』なのだ。
女男が友達同士とは言え腕を組み合っていたら、オカシイ。
私はほとんど何も話さないりんを見上げ、決心してその腕を取り、自分の腕と絡めた。
りんは驚いた顔で私を見下ろし、2人の目が合った。
「えっと……」
と私は口ごもる。
サキとの『練習』を言うべきか迷ったが、結局言うことにした。
「朝、階段で……実はサキとコレの練習していたんだ」
「これ?」
と聞き返すりんに、
「りんともっと密着して腕を組む練習」
と言ってりんを見上げると、彼は目を丸くしてから微笑んだ。
「そう……」
と言ってから再び真顔になり、
「でも変だよな?」
「えっ……」
「キョウと練習するなら、まだわかる。
でもあおい、田中さんと腕を組んでいただろ?」
……。
さすが、りん。
思慮深い(いや普通の考えか?)。
その通りだ!
女男で腕を組む練習って変だよ!
(いや、女女でも変だと思うのだが……)
しかし。
私は嘘を吐いていない。
事実だ――本当に『練習』だった。
でも何て説明すれば良いかわからない。
困って口を閉ざしていると、りんは言った。
「あおいって……」
そこで口ごもるりんに
「ん?」
と相槌を打つと、りんは私に少し寂しげな笑顔を向ける。
「あおいは女の子を好きになったことないの?」
「ない」
と私は即答した。
即答してから『しまった』と思った。
私は『男子』だった! せめて少し『間』みたいなものがあった方が良かったのかもしれない。
私が少し焦りながらりんを見ると、りんは目を丸くしてからニヤリとした。
ちょっと嬉しそうに見えたので、私も嬉しくなった。失言じゃなかったこと抜きで。
「そっか……」
とつぶやくりんに、彼の機嫌が直ったように見えたこともあり、私も少し聞きにくいことを聞いてみることにした。
サキやキョウに『りんはゲイじゃない』と聞いてはいるものの、ちょっと信じきれていないから。
だってりんがゲイじゃないなら、何故男と思われる私と付き合ってくれるんだろう?
サキやキョウは『りんは自分はゲイなのかどうか悩んでいた。いつも女子が好きだったのに、男子のあおいを好きになったことを不思議がっていた。だからりんはゲイじゃない』みたいなことを言っていたけど。
それを疑うわけじゃないけど『それじゃあ何故男子と思われる私と付き合ってくれるんだろう』とは、やっぱり思ってしまうのだ。
「りん」
と私はドキドキしながら聞いた。
「りんは、女の子を好きになったこと……ないの?」
いや、言った後、変な質問をした……と今更思った。
りんが女子のことも好きなのは確かだと思うし、だからそもそもきっとりんは男子も好きでも『ゲイ』ではない。『バイ』だ!
おかしなことを言ってしまった。――『女の子を好きになったこと』あるに決まってるのに。今までそんな話を聞いたこともあるのに。何を今更、なことを。
自分の言ったことに何か言い訳できないか――言い換えることができないか――と焦っていると
「おれは……」
と言うりんの声に私は顔を上げて、りんを見た。
「おれは、女の子しか好きになったことない」
と言うと、りんはふっと微笑んだ。
「だから……あおいと、ある意味同じだな」
「えっ……」
「あおいは男子しか好きになったことがなくて。
おれは女子しか好きになったことがない。
同じ」
と言うりんの優しい眼差しを、私は見つめることしかできなかった。
愛情を感じつつも、混乱しながら。
『女子しか好きになったことがない』
どう言う意味だろう?
私はりんに男子だと思われているはずなのに……。
もしかして私が女子とバレている可能性があるのだろうか?
「りん……」
「でも」
とりんは私を横目で見た。
「あおいが女子を好きじゃなくても。
女子はあおいを好きになる可能性あるんだから。
もうちょっと、何て言うか。
距離感が必要なんじゃないかな……」
私が不思議そうな顔をしたからかもしれない。
りんは「田中さんのこと」と補足した。
その後、口をとがらせて
「まあ。
ただの嫉妬なのかもしれないけど……」
「えへ……」
と照れつつ、私はりんの腕をぎゅっとした。
先程はりんに『私が女子とバレている可能性があるのか?』と一瞬思ったが。
『女子と距離感を取るべき』と言う言葉で、そうじゃないようだとわかった。
そして思う。
やはり、早々に言わなければならない。
私が『実は女』であることを。
こんな良い子をいつまでもだましていてはいけない(今更だけど)。
「りん……」
「ん?」
「今度の週末、2人で遊びに行こうよ」
と私が言うと、りんは一瞬目を丸くした後、可笑しそうに目を細めて「うん」と頷いた。
そして
「初デートだな」
と笑った。
私は隣を歩くりんをチラリと見た。
今日一日りんは何だか……普通だ。
いや、いつも普通だ――今朝は『もしかして頭の中お花畑?』と思ったりもしたが、りんはやはりいつもと変わらず冷静だ。
冷静で、思慮深い。かっこいい。
しかし今、隣にいる彼は、冷静と言うよりどこか『冷たい』感じもする。
何だかそんな気がする。
『冷たい』と言うか、不機嫌。
今朝のサキとのことかな、と思う。
私とサキはりん目線から見たら、当然『女男』なのだ。
女男が友達同士とは言え腕を組み合っていたら、オカシイ。
私はほとんど何も話さないりんを見上げ、決心してその腕を取り、自分の腕と絡めた。
りんは驚いた顔で私を見下ろし、2人の目が合った。
「えっと……」
と私は口ごもる。
サキとの『練習』を言うべきか迷ったが、結局言うことにした。
「朝、階段で……実はサキとコレの練習していたんだ」
「これ?」
と聞き返すりんに、
「りんともっと密着して腕を組む練習」
と言ってりんを見上げると、彼は目を丸くしてから微笑んだ。
「そう……」
と言ってから再び真顔になり、
「でも変だよな?」
「えっ……」
「キョウと練習するなら、まだわかる。
でもあおい、田中さんと腕を組んでいただろ?」
……。
さすが、りん。
思慮深い(いや普通の考えか?)。
その通りだ!
女男で腕を組む練習って変だよ!
(いや、女女でも変だと思うのだが……)
しかし。
私は嘘を吐いていない。
事実だ――本当に『練習』だった。
でも何て説明すれば良いかわからない。
困って口を閉ざしていると、りんは言った。
「あおいって……」
そこで口ごもるりんに
「ん?」
と相槌を打つと、りんは私に少し寂しげな笑顔を向ける。
「あおいは女の子を好きになったことないの?」
「ない」
と私は即答した。
即答してから『しまった』と思った。
私は『男子』だった! せめて少し『間』みたいなものがあった方が良かったのかもしれない。
私が少し焦りながらりんを見ると、りんは目を丸くしてからニヤリとした。
ちょっと嬉しそうに見えたので、私も嬉しくなった。失言じゃなかったこと抜きで。
「そっか……」
とつぶやくりんに、彼の機嫌が直ったように見えたこともあり、私も少し聞きにくいことを聞いてみることにした。
サキやキョウに『りんはゲイじゃない』と聞いてはいるものの、ちょっと信じきれていないから。
だってりんがゲイじゃないなら、何故男と思われる私と付き合ってくれるんだろう?
サキやキョウは『りんは自分はゲイなのかどうか悩んでいた。いつも女子が好きだったのに、男子のあおいを好きになったことを不思議がっていた。だからりんはゲイじゃない』みたいなことを言っていたけど。
それを疑うわけじゃないけど『それじゃあ何故男子と思われる私と付き合ってくれるんだろう』とは、やっぱり思ってしまうのだ。
「りん」
と私はドキドキしながら聞いた。
「りんは、女の子を好きになったこと……ないの?」
いや、言った後、変な質問をした……と今更思った。
りんが女子のことも好きなのは確かだと思うし、だからそもそもきっとりんは男子も好きでも『ゲイ』ではない。『バイ』だ!
おかしなことを言ってしまった。――『女の子を好きになったこと』あるに決まってるのに。今までそんな話を聞いたこともあるのに。何を今更、なことを。
自分の言ったことに何か言い訳できないか――言い換えることができないか――と焦っていると
「おれは……」
と言うりんの声に私は顔を上げて、りんを見た。
「おれは、女の子しか好きになったことない」
と言うと、りんはふっと微笑んだ。
「だから……あおいと、ある意味同じだな」
「えっ……」
「あおいは男子しか好きになったことがなくて。
おれは女子しか好きになったことがない。
同じ」
と言うりんの優しい眼差しを、私は見つめることしかできなかった。
愛情を感じつつも、混乱しながら。
『女子しか好きになったことがない』
どう言う意味だろう?
私はりんに男子だと思われているはずなのに……。
もしかして私が女子とバレている可能性があるのだろうか?
「りん……」
「でも」
とりんは私を横目で見た。
「あおいが女子を好きじゃなくても。
女子はあおいを好きになる可能性あるんだから。
もうちょっと、何て言うか。
距離感が必要なんじゃないかな……」
私が不思議そうな顔をしたからかもしれない。
りんは「田中さんのこと」と補足した。
その後、口をとがらせて
「まあ。
ただの嫉妬なのかもしれないけど……」
「えへ……」
と照れつつ、私はりんの腕をぎゅっとした。
先程はりんに『私が女子とバレている可能性があるのか?』と一瞬思ったが。
『女子と距離感を取るべき』と言う言葉で、そうじゃないようだとわかった。
そして思う。
やはり、早々に言わなければならない。
私が『実は女』であることを。
こんな良い子をいつまでもだましていてはいけない(今更だけど)。
「りん……」
「ん?」
「今度の週末、2人で遊びに行こうよ」
と私が言うと、りんは一瞬目を丸くした後、可笑しそうに目を細めて「うん」と頷いた。
そして
「初デートだな」
と笑った。
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