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第二部
58話〈サキ視点〉サキとキョウの打ち合わせ
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無料通話アプリの着信音が聞こえて、スマホを手に取る。
「鈴木か……」
もしかして『みどり』ちゃんの写真を手に入れたから送ってくれるのかな、と少し期待してしまったが。
文面に目を走らせると、
『今日、りん、ハヤト、ケイと温泉へ行ったんだけど』
とある。
知るか。
そんな情報いらない。
と思ったものの、彼との付き合いは短いが、今まではそんなに『どうでも良い情報』を送ってくるタイプではなかったので。
続きを見ると、
『りんがさ、
「あおいは女の子なんじゃないか」って言ってきて。
焦った』
……。
!?
それは焦ったとか言っている場合じゃないだろ!
今も焦るべきだ!
過去形ではなく現在進行形だろ! と私は焦り出す。
……続きがまだある。
『それでビビリながら、りんの話をよく聞いたら。
りん、
「おれの脳は『あおい=女』と認識しているんじゃないか? 勘違いしているんじゃないか?」
とか悩んでいた』
どうやら『あおい=女』とバレたわけではないようでホッとする。
コイツ誤解を招く構成で話すなよ。
そうか……。
さすがのカンの鋭い加藤くんにも本当に『あおい=女』とまでは、わからないか。
かわいそうに。
『はあ……緊張感と罪悪感で、温泉行ったのに疲れた』
『何で加藤くんと温泉行ってるの?』
と私は文章を送った。
鈴木くんは普段あおいくん達とは別のグループにいるみたいなのに。
何、あおいくん抜きであおいくんの友達と遊びに行っているんだ。
『りんがさ。
あおいちゃんの裸を見たかったみたい』
いや『そもそも何故温泉へ行ったか』と言う質問じゃなかったのだが。
『何故そのメンバーで行ったのか』と言う質問だったが。
しかし。
加藤くん……。
あおいくんの裸を見たいって……。
わかるよ、あおいくんは良い身体してる……。
思い出してしまう……あのときのことを。
!?
いや、加藤くんはあおいくんが女子だと知らないじゃないか。
何で男友達の裸なんか見たかったんだアイツ。
『何で加藤くんあおいくんの裸なんか……』
『「あおい=男」と言う視覚情報を脳に送りたかったんだって』
……などと言う意味不明な供述を……。
いや、何となく言っている意味、わかるけどね。文脈から。
しかし、こじらせているなあ……。かわいそうに。
その後、文章を書くのが面倒くさくなったのか鈴木くんは電話してきた。
何が起きたか文章よりわかりやすく説明してくれたので、大体のことはわかった。
「鈴木くん、何で加藤くんたちと温泉なんか行っているの?
しかもあおいくん抜きで。
特に仲良くないでしょ?
いや、男子の内部事情とか知らないけど、お弁当とか一緒に食べてないじゃない」
と先ほど聞きたかったことを改めて聞く。
「いや。りんと僕の席前後でしょ?
それで3人の話が聞こえてきちゃって。
『あおいは嫌いだから行かないんだと』
とか言っているから、何の話かなあ、と思って質問したら。
温泉行く話って返ってきて。誘ってくれたから」
それで行くか普通。
普段から仲良い3人の中に、入っていくか? 休日に。
私の不審を感じ取ったのか、
「りんがあおいちゃんは温泉へ行かない、と聞いてあんまりガッカリしているから。
何かあるかな、って思ったんだよ」
と鈴木くんは言い訳した。
なるほど。
皆、探偵になってきた。
「ねえ、りん。
そのうち突き止めると思う?
あおいちゃんが女ってこと」
私はしばらく考えた後、
「多分、大丈夫だと思う。
普通、女子が男子として生活しているとは思わないから。
裸とか決定的証拠を見ない限り、大丈夫だよ、バレない」
「そうだよね!」
と鈴木くんは安心した声を出したが。
「まあ。
裸とか決定的証拠を見られる以外に。
ヒトの口からバレる可能性もあるよね……」
と私は言い、彼を安心させたままには置かなかった。
「えっ」
「鈴木くん、今日加藤くんが『あおいは女なんじゃないか』と言ってきたから『焦った』って言ったじゃないの?
鈴木くんが加藤くんの思わせぶりな態度にテンパって、
『あおいちゃんはりんの言うとおり、女の子だよ』
とか白状しちゃって、バレる可能性もあるんじゃない?」
鈴木くんは自己弁護した。
「いや今日のは。焦るの当然だろ?
いきなり『あおいは女の子なんじゃないか』って言ってきたんだよ?
しかも、エスパーりんに言われたんだから!
ああ、バレた、ってパニクるのは仕方ないでしょ。
田中さんだって同じ状況になったら絶対パニクっていたよ!」
「私はそうならない」
と私は自信満々で言った。
「何故なら、私は加藤くんと仲良くないから!
ほとんど話さないから!
だからそんな状況にそもそもならない!」
「そ、そんなの……ずるいよ……」
「だから」
と私は言った。
「鈴木くんも、加藤くんと距離を置けば良いじゃない」
「えっ……」
鈴木くんはしばらく黙った後、
「でも、教室の席、前後なんだよ?」
「休み時間は勉強したり寝たり友達の席へ行ったりすればいいじゃない」
「りんの悩みを聞いてあげないと……」
そう言えば加藤くんは『自分はゲイなのではないか』とすごく悩んでいたと鈴木くんに聞いたが……。
「でも。
今日の話を聞くと。
もう加藤くん『ゲイだ』と悩むのはやめたんじゃない?
『あおいが女っぽいからおれはあおいが好き』みたいに考え始めたんでしょ?」
加藤くん神経質そうで、意外と切り替え早いな。
いや、悩み過ぎた結果、パンク(?)してそうなったのかもしれない。
「そうだけど……。
でも、りんの悩みを聞いてあげられるのは僕だけなんだよ……」
こいつも意外と優しいんだな。
「う~ん」
と私は悩んだ。
確かに加藤くんには悩みを発散してもらいたい。
私だって彼のことは気の毒に思っているのだ。
「じゃあさ。
適度に! 適度に距離を取ろう。
例えば帰りだけ一緒に帰るのをやめるとか……」
鈴木くんは、ちょっと考えた後、頷いた。
「そうだね……。
僕も、確かにちょっと……。
自分のことアブナイな、と思えてきた……」
と自信なげに言う。
「大丈夫だと思っていたけど。
あおいちゃんのこと、ちょっと口を滑らす可能性ある、と思えてきた……。
何か『北風と太陽』って感じ?
『あおいの秘密を突き止めてやる~!』
みたいな嫌な奴ならバラさない自信あるけど。
りんみたいな、悪意の全くなさそうな子に詰め寄られたらポロッと言っちゃう可能性あるなあ……」
エスパーりんの一番怖いところは、良い子なところなのだ……。
良い子がナチュラルに、ゲスパーなんだ。
(※ゲスパー……ゲスなエスパー)
結局、
『あおい=女』の秘密を厳守する!
と言う誓いを交わして私たちは電話を切った。
何でこんな余計な心配しなくちゃならないのか。
早く平和になると良いな、と思った。
加藤くんには悪いが、その切り替えの早さでさっさとあおいくんを諦めてくれたら。
一番私たちは楽なのだが……。
そんな風に考えるなんて、あおいくんにも悪いか、と私は『罪悪感』を感じた。
その後、何故他人の恋路のことで罪悪感を感じなければならないんだ、とゲンナリ思う。
面倒くさいことになった。
関わらなければ良かった、と思ってしまう。
好きになってしまったのはしょうがないから、『あおいくんは女』と知った時点で距離を置けば良かったのだ……。
でも鈴木くんと明日も『みどり』ちゃんの話をしよう。
送ってくれた写真、可愛かったから……。
〈サキ視点、終〉
「鈴木か……」
もしかして『みどり』ちゃんの写真を手に入れたから送ってくれるのかな、と少し期待してしまったが。
文面に目を走らせると、
『今日、りん、ハヤト、ケイと温泉へ行ったんだけど』
とある。
知るか。
そんな情報いらない。
と思ったものの、彼との付き合いは短いが、今まではそんなに『どうでも良い情報』を送ってくるタイプではなかったので。
続きを見ると、
『りんがさ、
「あおいは女の子なんじゃないか」って言ってきて。
焦った』
……。
!?
それは焦ったとか言っている場合じゃないだろ!
今も焦るべきだ!
過去形ではなく現在進行形だろ! と私は焦り出す。
……続きがまだある。
『それでビビリながら、りんの話をよく聞いたら。
りん、
「おれの脳は『あおい=女』と認識しているんじゃないか? 勘違いしているんじゃないか?」
とか悩んでいた』
どうやら『あおい=女』とバレたわけではないようでホッとする。
コイツ誤解を招く構成で話すなよ。
そうか……。
さすがのカンの鋭い加藤くんにも本当に『あおい=女』とまでは、わからないか。
かわいそうに。
『はあ……緊張感と罪悪感で、温泉行ったのに疲れた』
『何で加藤くんと温泉行ってるの?』
と私は文章を送った。
鈴木くんは普段あおいくん達とは別のグループにいるみたいなのに。
何、あおいくん抜きであおいくんの友達と遊びに行っているんだ。
『りんがさ。
あおいちゃんの裸を見たかったみたい』
いや『そもそも何故温泉へ行ったか』と言う質問じゃなかったのだが。
『何故そのメンバーで行ったのか』と言う質問だったが。
しかし。
加藤くん……。
あおいくんの裸を見たいって……。
わかるよ、あおいくんは良い身体してる……。
思い出してしまう……あのときのことを。
!?
いや、加藤くんはあおいくんが女子だと知らないじゃないか。
何で男友達の裸なんか見たかったんだアイツ。
『何で加藤くんあおいくんの裸なんか……』
『「あおい=男」と言う視覚情報を脳に送りたかったんだって』
……などと言う意味不明な供述を……。
いや、何となく言っている意味、わかるけどね。文脈から。
しかし、こじらせているなあ……。かわいそうに。
その後、文章を書くのが面倒くさくなったのか鈴木くんは電話してきた。
何が起きたか文章よりわかりやすく説明してくれたので、大体のことはわかった。
「鈴木くん、何で加藤くんたちと温泉なんか行っているの?
しかもあおいくん抜きで。
特に仲良くないでしょ?
いや、男子の内部事情とか知らないけど、お弁当とか一緒に食べてないじゃない」
と先ほど聞きたかったことを改めて聞く。
「いや。りんと僕の席前後でしょ?
それで3人の話が聞こえてきちゃって。
『あおいは嫌いだから行かないんだと』
とか言っているから、何の話かなあ、と思って質問したら。
温泉行く話って返ってきて。誘ってくれたから」
それで行くか普通。
普段から仲良い3人の中に、入っていくか? 休日に。
私の不審を感じ取ったのか、
「りんがあおいちゃんは温泉へ行かない、と聞いてあんまりガッカリしているから。
何かあるかな、って思ったんだよ」
と鈴木くんは言い訳した。
なるほど。
皆、探偵になってきた。
「ねえ、りん。
そのうち突き止めると思う?
あおいちゃんが女ってこと」
私はしばらく考えた後、
「多分、大丈夫だと思う。
普通、女子が男子として生活しているとは思わないから。
裸とか決定的証拠を見ない限り、大丈夫だよ、バレない」
「そうだよね!」
と鈴木くんは安心した声を出したが。
「まあ。
裸とか決定的証拠を見られる以外に。
ヒトの口からバレる可能性もあるよね……」
と私は言い、彼を安心させたままには置かなかった。
「えっ」
「鈴木くん、今日加藤くんが『あおいは女なんじゃないか』と言ってきたから『焦った』って言ったじゃないの?
鈴木くんが加藤くんの思わせぶりな態度にテンパって、
『あおいちゃんはりんの言うとおり、女の子だよ』
とか白状しちゃって、バレる可能性もあるんじゃない?」
鈴木くんは自己弁護した。
「いや今日のは。焦るの当然だろ?
いきなり『あおいは女の子なんじゃないか』って言ってきたんだよ?
しかも、エスパーりんに言われたんだから!
ああ、バレた、ってパニクるのは仕方ないでしょ。
田中さんだって同じ状況になったら絶対パニクっていたよ!」
「私はそうならない」
と私は自信満々で言った。
「何故なら、私は加藤くんと仲良くないから!
ほとんど話さないから!
だからそんな状況にそもそもならない!」
「そ、そんなの……ずるいよ……」
「だから」
と私は言った。
「鈴木くんも、加藤くんと距離を置けば良いじゃない」
「えっ……」
鈴木くんはしばらく黙った後、
「でも、教室の席、前後なんだよ?」
「休み時間は勉強したり寝たり友達の席へ行ったりすればいいじゃない」
「りんの悩みを聞いてあげないと……」
そう言えば加藤くんは『自分はゲイなのではないか』とすごく悩んでいたと鈴木くんに聞いたが……。
「でも。
今日の話を聞くと。
もう加藤くん『ゲイだ』と悩むのはやめたんじゃない?
『あおいが女っぽいからおれはあおいが好き』みたいに考え始めたんでしょ?」
加藤くん神経質そうで、意外と切り替え早いな。
いや、悩み過ぎた結果、パンク(?)してそうなったのかもしれない。
「そうだけど……。
でも、りんの悩みを聞いてあげられるのは僕だけなんだよ……」
こいつも意外と優しいんだな。
「う~ん」
と私は悩んだ。
確かに加藤くんには悩みを発散してもらいたい。
私だって彼のことは気の毒に思っているのだ。
「じゃあさ。
適度に! 適度に距離を取ろう。
例えば帰りだけ一緒に帰るのをやめるとか……」
鈴木くんは、ちょっと考えた後、頷いた。
「そうだね……。
僕も、確かにちょっと……。
自分のことアブナイな、と思えてきた……」
と自信なげに言う。
「大丈夫だと思っていたけど。
あおいちゃんのこと、ちょっと口を滑らす可能性ある、と思えてきた……。
何か『北風と太陽』って感じ?
『あおいの秘密を突き止めてやる~!』
みたいな嫌な奴ならバラさない自信あるけど。
りんみたいな、悪意の全くなさそうな子に詰め寄られたらポロッと言っちゃう可能性あるなあ……」
エスパーりんの一番怖いところは、良い子なところなのだ……。
良い子がナチュラルに、ゲスパーなんだ。
(※ゲスパー……ゲスなエスパー)
結局、
『あおい=女』の秘密を厳守する!
と言う誓いを交わして私たちは電話を切った。
何でこんな余計な心配しなくちゃならないのか。
早く平和になると良いな、と思った。
加藤くんには悪いが、その切り替えの早さでさっさとあおいくんを諦めてくれたら。
一番私たちは楽なのだが……。
そんな風に考えるなんて、あおいくんにも悪いか、と私は『罪悪感』を感じた。
その後、何故他人の恋路のことで罪悪感を感じなければならないんだ、とゲンナリ思う。
面倒くさいことになった。
関わらなければ良かった、と思ってしまう。
好きになってしまったのはしょうがないから、『あおいくんは女』と知った時点で距離を置けば良かったのだ……。
でも鈴木くんと明日も『みどり』ちゃんの話をしよう。
送ってくれた写真、可愛かったから……。
〈サキ視点、終〉
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