あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第二部

54話 告白から3日目

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 あおいに告白されて、3日目。

 ハヤトと一緒に歩いていたら

「りん、あおいと喧嘩した?」

 と聞かれた。

 内心ドキドキしながらも、いつも通りの調子になるよう気を付けて「いや」と否定してから、

「何でそう思うの?」

 と聞くと、二人があまりベタベタしなくなったからだと言われた。

「あおいに怒られたんだ」

 と『喧嘩じゃない』ことを強調したくて言い訳を言うと、ハヤトはビックリ顔で、

「えっ。
何怒られたの?」

「あんまりおれに触るな、って怒られた」

「そんなのいつも言われていることだろ?
何を今更」

「いつもより真剣に、言われたんだ」

 ハヤトは目を丸くし、「へえ~」と言う。

「真剣に、ねぇ……」

 その後、何だか納得したような顔で、

「確かに。
あおいって自分からは人に触って来ないよな」

「うん……」

 と頷きつつ。
 あおいに手を繫がれたことを思い出して胸が痛んだ。
 もしかして、あおいにとってすごい勇気が必要な行為だったのかもしれない。
 それを、おれは軽い――甘えた――気持ちで、振り払ってしまった。

「ふーん。
あおい、普段あんまり怒らないのに。
いや。怒ってるけど、真剣には怒らないのに。
マジで怒るくらい、嫌なんだ~。
触られるの」

 とハヤトは呑気に言った。
 実際は怒られたわけではないので、あおいにちょっと申し訳ない。
 説明が楽だから『怒られた』と言ってしまった。
 
 おれが曖昧に相槌を打つと、

「じゃ。
おれもイヤがられているのかなあ。
あおいのこと結構触っているし。
りんほどじゃないけど」

「うん……」

 そうなんだよな。
 結構ハヤトも、ケイも、あおいに触っている。
 もう触れないおれとしては、実はモヤモヤしている。

「でもさ。なんか。
あおいってクセになるんだよなあ?」

 とハヤトは相変わらず呑気な調子で言ってきた。

「えっ!?」

 と少し驚きながら見ると、ハヤトはやはりあっけらかんとした調子で、

「ほら。
あおいって小さくて。細くて。やわらかいだろ~?
女の子ってこんな感じなのかなあって思っちゃって。
つい触りたくなる。定期的に」

「……」

 あれ?

「女の子を抱き締めるって、こんな感じなのかなあ、とか思いながら。
あおいをぎゅっとしたりして」

「……」

「そうすると真っ赤になって腕の中でもがくけどさ。
そう言うのも女子っぽいよな~。
カワイイ」

「……」

 こいつ……(ハヤト)

 おれと同じじゃないか!?

 ……と思った。

 あおいを女子扱いしていたのは、おれだけだと思っていた。

 あおいを女子の代用品みたいにして悪かった。
 おれはヒドイ奴だ、って落ち込んでいた。

 でも、おれと同じ気持ちをあっさり言うハヤトを見て。
 おれだけじゃなかったんだ、と少しホッとした。
 そんなに罪悪感を持たなくてもいいのかな、と少し気が軽くなった。

「おれも。
あおいは女子みたいで。
女子の代用品みたいにして。
それがあおい、嫌だったのかなあって」

 と打ち明けると、ハヤトは、

「いや。だって。
実際あおい、女みたいだし。
仕方ないよなあ……」

 と困った顔をした。

「でもさ。
『女の子みたいだな~』と最初は思うけど。
そのうち胸が硬いのに気付くんだよなあ。
で、『ああ~。胸が……』って思うんだよ。
胸のところで、現実に引き戻される……」

「ハハ……」

 とおれは仕方なく乾いた笑いを返すが。

 その後ハヤトが、

「みどりちゃんだったらなあ、って」

 と言い出し、目を丸くしてしまう。

「えっ?」

「いや。
おれの腕の中にいるのが、あおいじゃなくてみどりちゃんだったら。
やわらかい胸があるのに……」

 ハヤトはそこでおれの反応――ビックリ顔――に心配になったからか、口をつぐみ、

「いや。
もちろん冗談だけどね。
ただ一瞬、想像しちゃっただけ、と言うか……」

 と申し訳なさそうに言い訳した。
 おれは別に気を悪くしたわけじゃないから、「いや。わかるよ」と慌てて言った。

 ただ、おれは『あおい=みどり』を知っているから、ギクリとしてしまったのだ。


※※※

 一人で考えることのできる時間になると、やはりまたあおいのことを考え始めてしまう。
 ハヤトとした会話を思い出し、『みどり』を思い出してしまう。

 『みどり』の胸の谷間の写真を思い出す。
 あれは合成だ。
 あおいにはあんな胸は当然ないから。
 
 しかし。テレビ映像のあおい。
 あれは本物のあおいで、胸にふくらみがあった。
 つまり『みどり』は胸に詰め物を入れている。

 女装はまだ、わかる、気がしないでもない。
 でも、大きな胸の詰め物を入れる心理、それはちょっとわからない、と思ってしまう。
 胸の小さな女性もいるし、大きな詰め物を入れる必要性を感じない。
 逆にあおいの身体にはアンバランスで不自然に見えるくらいだ。
 自然な女装、に見せたいなら、胸の詰め物がない方が良いのではないか。

 大きな胸にあおいは『女性らしさ』を感じるのだろうか?
 あおいは『女性らしさ』に憧れを感じていて。
 だからあんな胸を……?

 男の娘『みどり』。

 男の娘にも色々いると思う。
 
 ただ興味本位で女装してみた、好きな対象は女性の人。
 ただ興味本位で女装してみた、好きな対象は男性の人。

 女装はただの趣味で、好きな対象は女性の人。
 女装はただの趣味で、好きな対象は男性の人。

 女性になりたい願望があって女装していて、好きな対象は女性の人。
 女性になりたい願望があって女装していて、好きな対象は男性の人。

 ……などなど。

 あおいはどの『男の娘』なんだろう?
 おれが好きと言うことは、好きになる対象は男(たぶん)。

 ただ興味本位で女装してみた、好きな対象は男性の人。
 女装はただの趣味で、好きな対象は男性の人。 
 女性になりたい願望があって女装していて、好きな対象は男性の人。

 あおいはどうなんだろう?

 いや。
 そんなこと考えて、どうなる?
 と軽く首を横に振る。

 考えても答えは出ない。わからない。

 それに。
 あおいが打ち明けてこない限り、知る必要のないことだ。
 あおいが打ち明けてこないなら、『知って欲しくないこと』なのだから。

 無理に聞き出そうなんて2度としちゃいけない。

 それより今考えるべきことは、やはり自分の気持ちでは? と思う。
 でも。
 自分の気持ちも、考えてみてもよくわからなかった。
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