あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第二部

51話 応援はできない

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 放課後。

「りん、一緒に帰ろー」

 とキョウが今日も言ってきてドキリとする。

 今日こそ、
『僕とあおいちゃんを2人きりにして』
 と言う意味なのではないか?

『僕、あおいちゃんと付き合えたらいいな、と思っているよ』
 と言うキョウの言葉を聞いたばかりだし。

 どうしよう。
 昨日よりは一緒に帰らなくてもあおいに
『りん、おれと一緒に帰りたくないんだ……』
 と誤解されないだろうけど。

 でも……。
 やっぱり。

 悩んでいる間に、キョウはあおいを誘いに行っていた。
 あおいはキョウに何か話し、それからおれを見て目が合うと、手で『ごめん』の合図をした。

 キョウがおれのところに戻ってくる。

「あおいちゃん、ちょっと先生のところへ行く用があるんだって。
先帰ってても良いよ、と言っていたけど」

 とキョウはあおいの伝言を伝えてくれた。

「僕は待つけど。
りんは?」

 きっと、ここは、
『あ。おれは先に帰るよ』
 と引き下がるべきところなんじゃないか。
 あおいとキョウを2人きりにしてあげるんだ。
 あおいはキョウとの方が幸せになれる、と思っているんじゃないのか?

 でも。

 モヤモヤする。
 わだかまりがある。
 
 キョウとあおいが一緒に帰っているところを想像して。
 何故か手を繫いで一緒に帰っているところを想像して――まだそんな関係ではないだろうに――。

 あおいがもしもキョウと手を繫いだときに、おれがあおいと手を繫いだときに感じたような『明るい気持ち』――幸せな気持ち――を感じたら?
 そしてあおいが、おれを好きだと思ったことがそもそも一時の気の迷いで、キョウの方がもっと好きだと思うようになったら?

 あおいがおれを好きな気持ちより。
 キョウを好きな気持ちの方が大きくなったら?

 どうしよう?

 わからない……。

 それで、いいんじゃ。ないのか?

『あおいはおれよりキョウとの方が幸せになれる』んじゃないのか?

 おれはキョウがあおいを待つために自分の席に座るのを見届けてから、キョウの前の自分の席に同じく座った。

「おれも、待ってる……」

「待っている間、予習でもするかぁ」

 とキョウが呑気な声で言った。


※※※

 あおいが教室に戻ってくるのを待っている間、勉強するポーズを取りながら教室の様子をうかがっていた。

 もしあおいが戻ってくる前に、教室に誰もいなくなって。
 キョウと2人きりになれたら。
 あおいとの仲が深まるように

『僕のこと応援してくれる?』

 と言ったキョウに、改めてその答えを言おうと思った。

『応援はできない』
 と断ろうと思った。

 その後は何て続ける?
 どんな理由を言うつもりだ?

『おれもあおいが好きだから』

 いや。
 まだ自分の気持ちが自分でもハッキリとわからないのに。

 でも。
 似たようなことを言うつもりだった。
『おれもあおいのことが気になっているから』
 みたいなこと。

 ぶっつけ本番、にしようと思った。
 その方が、本当の気持ちを――誠実な気持ちを――言える気がした。
 キョウもおれの唐突な質問に――答えにくい質問に――真剣に、正直に答えてくれたから。
 おれも真剣に、そのときのそのまま正直な気持ちを言葉にし伝えようと思った。

 皆、早く帰ってくれないかな……。


※※※

 思いが通じたのか。
 思っていた以上に皆早く教室から去って行き、教室に残るのはキョウとおれだけになった。
 
 え?
 逆に早すぎない?
 と思ってしまう。
 心の準備がまだ……とひるんでしまう。

 でもあおいが帰ってくる前にけりを付けないと。
 決心して後ろの席を振り返ると、キョウはコツコツとノートに向かっていた。

「あのさ。キョウ」

「ん?」

 とキョウは顔を上げずに、

なぁに?」

「今日さ……」

「うん」

「おれに先に帰って欲しかった?」

 何だ話す構成ヘタクソか。
 
 しかたない。
 おれはそう言う奴だよ。

「ん~?」

 とキョウは顔を上げると、首をかしげておれを見る。

「一緒に帰ろう、って誘ったの僕じゃない」

「えーと」

 とおれは無邪気な様子のキョウに罪悪感を感じつつ、

「ほら。
昨日『あおいと2人きりになる機会を作る、と言う感じの応援をして欲しい』とか。
キョウ、言っていただろ?」

「ああ。確かに言ったけど……」

 とキョウはきょとんと言った後、ニヤリとし、

「あ、今日の帰り道がそうだと思った?
僕とあおいちゃんを2人きりにしてあげないといけないところだと?
で。もしかしてずっと悶々としていた?」

「えっと……」

「りんって。考え過ぎ」

 とキョウはパッと明るい笑顔を見せた。
 おれは少しホッとしながら――言いやすい雰囲気になったから――再び話の口火を切る。

「あのさ、キョウ」

「ん?」

「おれ、キョウとあおいのこと。
応援はできない」
 
 話が飛躍したからか、キョウは目を丸くしておれを見た。
 そしてふっと微笑むと、

「そっか。
応援できない。わかった。
でも、何で?」

「えっと」

 おれもあおいのことが気になっているから。
 恋愛感情かどうかはわからないけど。
 あおいとキョウがもし付き合ったら、嫉妬するから。
 応援しておいて――協力しておいて――キョウとあおいがいざ付き合ったときにモヤモヤとした醜い嫉妬心とか黒い感情を感じるのを避けたいから、応援できない。

「おれも、あおいのことが……」

「うん」

 とキョウが励ますように、相槌を打ってくれた。

「……気になっているから」

 言えた!

 言えただけ偉い、と自分を褒めた……。
 おれは自分へのハードルが低いのかもしれない……。

 キョウを見ると、眉を八の字にしていた。
 これは、困った顔をしている……。

「そっか」

 とキョウはつぶやいた。
 その後、顔を窓の方へ向け、外の景色を見ながら、

「りんは……すごいよ」

 ……

 えっ!?

「何で!?」

 とビックリして聞くと。
 キョウは困ったような笑顔を向け、

「何か。
うーん。
りんはあおいちゃんのこと、本当に好きなんだなあと思う……。
僕よりも」

 !?

 それは、こっちのセリフなのだが……。

「『あおいちゃんのことが気になっている』。
だから、りん。
『男を好きになったことに悩んだことあるか』とか。
『男と付き合えるか』とか。
僕に質問していたんだね……」

 とキョウはどこか沈んだ笑顔で言うと、

「……ごめんね」

 と小さな声で謝った。
 何故謝るんだろう?
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