67 / 74
第三部
67話 お花畑?
しおりを挟む
昨日は
『言えない』
『絶対に言えない』
『言える気がしない』
などと思ったが。
今、新しい朝を迎えて、
『今日こそ言うぞ!』
と私は決意を新たにした。
『今日こそりんに、私は「実は女」だと言うぞ!』
傷は浅いウチに言わねば。
自分のことではなく、りんのことを第一に考えるんだ。
と言う決意を胸に私は学校への道を歩き出した。
電車でりんと合流後、りんに座席を譲る。
一緒に通い始めてから初めてりんは譲られてくれた。
私の座っていた席に座り
「座席あったかい」
と笑うりんに――語尾にハートマークが付いているのを感じる――、
「てへ」
と私は照れ返した――当然語尾ハートマーク――。
なんだこいつら(バカップルだよ!)。
その後しばらくして、りんは舟をこぎ始める。
寝た!
可愛い。
あんまり寝るイメージなかったけど……やっぱり寝るんだ、とほのぼのする。
もしかすると寝不足なのかもしれない。りんは真面目だから夜遅くまで勉強をしているのかもしれない。
でも。
この距離で――近くで――りんを見ることができるのも今日が最後かもしれない。
と思うと胸が痛んだ。
※※※
終点に着き乗客が電車を降りていく中、りんはまだ寝ていた。
肩をつかみ揺り起こす。
「りん」
りんは目を覚まして寝ぼけた表情でニコッと私を見ると、手を差し出してきた。
……。
!?
何これ。と一瞬思ったが。
ああ、手を引っ張って座席から立たせてくれってことね! と了解し、私はりんの手を掴み、引いた。
手を引いたけど、当然私の力をほとんど借りることなく――私の力ではりんを立たせることはできない――、りんはほぼ自分一人の力で座席から立ち上がる。
そして、手を離さないまま、歩き始めた。
あれ……?
「りん」
「ん?」
「手を繫いだままなのは……人目もあるかなぁ。
と思うんだけど……」
と言うと、りんは
「大丈夫」
と笑った。
「男同士が手を繫いでいても、誰も気にしないよ」
いや、語尾にハートマークを付けられて言われても困るのには変わりない。
それに、男同士でも手を繫ぐのはあんまりないんじゃなかったの? 腕を組むのはあるのかもしれないけど……。
私はドキドキした。
手を繫ぐのはとても嬉しい。
嬉しいけど……。
りん、もしかして今、頭の中お花畑なんじゃないか?
と思った。
舞い上がっていて正常な判断ができていないのでは?
いや。わかる。
私も『ボーイズラブ?』とさえ気付かなければ、今も絶賛お花畑中だったもん。
だからわかるんだけど……。
「ハヤトやケイがおれたちが手を繫いでいるのを見ても、疑わないかな?」
と聞いてみたら、りんは
「大丈夫!」
と自信満々と言う調子で言った。
「高校になってからはあんまりしなくなったけど。
中学のときは普通に友達と手を繫いで歩いていたよ」
そうなんだ……。
じゃあ大丈夫、なのかな……。
いや、でも実際私たちは中学生ではなく『高校生』なのだから、大丈夫じゃないのか?
など色々考えたが、振り払うこともできなかった。
やっぱり嬉しいから。
私って『男の尻に敷かれるタイプ』。
ほんとそう。と改めて自覚した。
※※※
手を繫ぎつつ学校への道を歩きながら考える。
サキもキョウも『りんは手が早そう』と言っていたが。
これは本当にそうかもしれない。
付き合って3日目で手を繫ぐ。早いよね? と思う。
お花畑中とは言え……。
どうしよう。
このままじゃ、もし『実は女』と私が言えなくてもそのうち関係が進展することで女だとバレるかもしれない。
それは最悪のパターンなのではないか……。
りんにきっと心の傷を残してしまう!
つまり、早急に絶対に『実は女』と言わなければならないのだ!
それにしても、りんって、こんなに積極的なんだっけ。と不思議になる。
どちらかと言うと、大人しい子だと思っていたのに。
それに、手を繫ぐのも普通女の方から手を繫ぎに行くものじゃないのかな?
りんみたいな男らしい子が自分から手を繋ぎに来るなんて……。
!?
まさか、りん……。
私は自分の閃いた考えに戦慄する。
りんは『女役』になろうとしているのでは!?
だから、女らしく積極的に関係を深めようとしているのでは……。
ど、どうしよう、もしそうだったら……と私は焦る。
だって、私……
ないもの……(何が?)。
※※※
学校に着き教室へ入りそれぞれの席へ別れるとすぐポンと肩を叩かれた。
振り返るとサキがいて。
親指で教室の扉の方へ指を振ってくる。
教室から出ろ、と言うことだ。
呼び出しも慣れたものだな。
結局またいつもの階段まで来ると、キョウもいた。
ほんと何なのだろうこの二人は、と思った。
仲良いの……?
3人きりになるとサキは早速、
「どうだった?」
と聞いてくる。
キョウも
「言えた?」
と聞いてくる。
『実は女』とりんに言えたか、聞いているのだ。
多分『女と言ったとしたなら情報共有して置いて、りんとの態度を変える必要がある』から、朝呼び出しをしてまで聞こうとするのだろう。
「言えなかった」
と私は正直に答えた。
「そう……」
と二人は訳知り顔で頷きつつ、
「しかたない」
「しかたない」
慰めてくれる。優しい。
「どうしよう……」
と私は、自分で答えがもう出ている――『言うしかない』と答えが出ている――のに聞いてみた。
「ま。いいんじゃないの……。
別に言わなくても」
とサキは言った。
「だって言って万が一加藤くんが怒りまくったら。
あおいくん学校に居られなくなるかもしれないんだから。
言わないのも仕方ないよ」
「僕もそう思う」
とキョウも言う。
「仕方ないよ」
「でも、それならね。
そもそも付き合っちゃダメだよね」
と私はまともなことを言った。
私は元々まともなんだよ!
「う~ん。
まあ。そうだよね……」
とサキは言った。
「確かに……ね」
とキョウも言った。
私はまともな考えを持つ人間だ。
だから全て自業自得とわかっている。
でも、本当のこととは言え同意されると落ち込む。
「りん、ほんとにすごく積極的なんだよね……」
と私は肩を落とした。
「りんって、多分『女役』志望なんだよ……」
とつぶやくと、サキとキョウはきょとんとした顔で私を見てくる。
「『女役』志望って何?」
とサキは言った。
サキはBLに興味なさそうだから知らないんだと思い、説明した。
「ほら。
男同士でカップルになると。
どうしても一方が『女役』で一方が『男役』になるでしょ? 多分(フィクションのBLではそうなんだよ)。
それで、りんは『女役』の方がきっとしたいんだよ。
何て言うか、攻め役、の方……?
だから色々積極的なんだと思う。
りんは今から『女役』を買って出ているんだよ……」
何言ってんだ私。と我ながら思った後。
サキを見ると、まだ『?』と言う顔をしている。
キョウに視線を移しても『?』と言う顔をしている。
「加藤くんはどう見ても、男らしいでしょ?」
とサキは不審げな表情を浮かべつつ聞いた。
「どうして加藤くんが『女役』になりたいと思うのか、よくわからない。
どう見てもあおいくんが女役、と言うか実際女でしょ?」
「でもりんは私のこと男だと思っているでしょ?」
と私は自分を指差した。
「そしてりんは私に男役を望んでいる、んだと思うの」
二人はしばらく後『ああ~』と言う顔をした。
「そうか。
あおいくんは加藤くんがボーイズラブだと思っているから……」
とサキが納得顔で言う。
「あおいちゃん。
りんが『女役』になりたがっていると悩む必要はないよ」
とキョウは言った。
「りんはボーイズラブではないからさ」
「どうしてわかるの?」
と私は驚いてキョウを見た。
「どうして、って……」
とキョウは言うと、サキの方へ視線を移した。
サキは首をかしげて、
「ええと……。
ほら、悩んでいたの知っていたからだよね」
とサキはキョウを指差した。
「そう」
とキョウは頷く。
「りん、あおいちゃんのこと好きな自分は『ゲイなんじゃないか』って悩んでいたからさ……」
「えっ。
そうなの?」
と私は驚いて聞いた。
その後キョウから、りんが『あおいのこと最近気になっているんだけど、おれゲイなのかなあ』と同じくあおいのことが好きと思われるキョウに相談していた、などと聞いた。
そんなことがあったのか……。と思った。
その頃の私はそんなことも知らず、失恋のショックを受け、りんとの関係に気まずさを感じながらも普通に生きていただけだったのだ。
この話でりんがボーイズラブではない? と思った。
少なくとも女も好き、と。
だから、女の私としては喜ぶ所なのかもしれないけど、ますます落ち込んだ。
ますますりんに酷いことしているじゃないか、と思った。
※※※
「そうだ!」
とサキが言った。
「押してダメなら、引いてみろ!
逆転の発想よ!」
「えっ」
と聞き返すと、サキは目を輝かせて言った。
「加藤くんはゲイじゃないんだから。
女の身体であおいくんのことを夢中にさせてしまえば……」
と言ってからハッとすると、サキは手の平を私に向けた。
「ごめん。忘れて」
「今、ものすごく墓穴発言したよね?」
とキョウがサキをジト目で見た。
サキが手で顔を覆う――「失言した」
「えっ。何?
ちょっとわからなかった……」
と言うと
「「わからなくていいよ」」
と二人はニコニコした。
私は不満げに二人をにらんだ後、サキの先程の言葉を振り返ってみた。
『逆転の発想』
『加藤くんはゲイじゃないんだから、女の身体であおいくんのことを夢中に……』
意味わかった!
わかったけど……
「ははは……」
と私は苦笑いした。
「無理だよ、サキ。
女じゃあるまいし、りんは身体で夢中になんかならないよ」
「そんなことないよ!」
とサキは力強く言った。
「あおいくんには、立派なものがあるじゃない!」
立派なもの……。
「胸よ!」
「胸……」
と私はつぶやいた。
「胸を加藤くんに押し付けるのよ!
当ててんのよ戦法よ!」
何言ってんだコイツ。
「さりげなく胸を加藤くんに当てて。
『えっ何コレ、胸……?』
『あおい女だったのか……』
『おれのこと騙していたんだ、ひどい……』
『でも、おっぱい』
『おっぱい気持ちいいから許した』
と思わせるのよ!」
コイツりんを侮辱しているんじゃないか。
「りんはそんな子じゃない……」
と言うとサキは首を横に振った。
「あおいくんはわかっていない。
私はお兄ちゃんがいるからわかるけど、男ってね……」
と言うとサキは口をつぐんで、肩をすくめた。
途中でやめるな!
「だから田中さん、さっきから墓穴掘っているよね……」
とキョウがポツリと言うのをサキは無視して、
「予行練習してみる……?」
と自分の腕を私に差し出してきた。
「予行練習に。
私と腕を組んで、さりげなく胸を当ててみる……?
腕とか、背中に……?」
「目先の快楽のために、自ら暗黒面へと堕ちる……」
とキョウがつぶやき、サキは「うるさい」と言った。
『言えない』
『絶対に言えない』
『言える気がしない』
などと思ったが。
今、新しい朝を迎えて、
『今日こそ言うぞ!』
と私は決意を新たにした。
『今日こそりんに、私は「実は女」だと言うぞ!』
傷は浅いウチに言わねば。
自分のことではなく、りんのことを第一に考えるんだ。
と言う決意を胸に私は学校への道を歩き出した。
電車でりんと合流後、りんに座席を譲る。
一緒に通い始めてから初めてりんは譲られてくれた。
私の座っていた席に座り
「座席あったかい」
と笑うりんに――語尾にハートマークが付いているのを感じる――、
「てへ」
と私は照れ返した――当然語尾ハートマーク――。
なんだこいつら(バカップルだよ!)。
その後しばらくして、りんは舟をこぎ始める。
寝た!
可愛い。
あんまり寝るイメージなかったけど……やっぱり寝るんだ、とほのぼのする。
もしかすると寝不足なのかもしれない。りんは真面目だから夜遅くまで勉強をしているのかもしれない。
でも。
この距離で――近くで――りんを見ることができるのも今日が最後かもしれない。
と思うと胸が痛んだ。
※※※
終点に着き乗客が電車を降りていく中、りんはまだ寝ていた。
肩をつかみ揺り起こす。
「りん」
りんは目を覚まして寝ぼけた表情でニコッと私を見ると、手を差し出してきた。
……。
!?
何これ。と一瞬思ったが。
ああ、手を引っ張って座席から立たせてくれってことね! と了解し、私はりんの手を掴み、引いた。
手を引いたけど、当然私の力をほとんど借りることなく――私の力ではりんを立たせることはできない――、りんはほぼ自分一人の力で座席から立ち上がる。
そして、手を離さないまま、歩き始めた。
あれ……?
「りん」
「ん?」
「手を繫いだままなのは……人目もあるかなぁ。
と思うんだけど……」
と言うと、りんは
「大丈夫」
と笑った。
「男同士が手を繫いでいても、誰も気にしないよ」
いや、語尾にハートマークを付けられて言われても困るのには変わりない。
それに、男同士でも手を繫ぐのはあんまりないんじゃなかったの? 腕を組むのはあるのかもしれないけど……。
私はドキドキした。
手を繫ぐのはとても嬉しい。
嬉しいけど……。
りん、もしかして今、頭の中お花畑なんじゃないか?
と思った。
舞い上がっていて正常な判断ができていないのでは?
いや。わかる。
私も『ボーイズラブ?』とさえ気付かなければ、今も絶賛お花畑中だったもん。
だからわかるんだけど……。
「ハヤトやケイがおれたちが手を繫いでいるのを見ても、疑わないかな?」
と聞いてみたら、りんは
「大丈夫!」
と自信満々と言う調子で言った。
「高校になってからはあんまりしなくなったけど。
中学のときは普通に友達と手を繫いで歩いていたよ」
そうなんだ……。
じゃあ大丈夫、なのかな……。
いや、でも実際私たちは中学生ではなく『高校生』なのだから、大丈夫じゃないのか?
など色々考えたが、振り払うこともできなかった。
やっぱり嬉しいから。
私って『男の尻に敷かれるタイプ』。
ほんとそう。と改めて自覚した。
※※※
手を繫ぎつつ学校への道を歩きながら考える。
サキもキョウも『りんは手が早そう』と言っていたが。
これは本当にそうかもしれない。
付き合って3日目で手を繫ぐ。早いよね? と思う。
お花畑中とは言え……。
どうしよう。
このままじゃ、もし『実は女』と私が言えなくてもそのうち関係が進展することで女だとバレるかもしれない。
それは最悪のパターンなのではないか……。
りんにきっと心の傷を残してしまう!
つまり、早急に絶対に『実は女』と言わなければならないのだ!
それにしても、りんって、こんなに積極的なんだっけ。と不思議になる。
どちらかと言うと、大人しい子だと思っていたのに。
それに、手を繫ぐのも普通女の方から手を繫ぎに行くものじゃないのかな?
りんみたいな男らしい子が自分から手を繋ぎに来るなんて……。
!?
まさか、りん……。
私は自分の閃いた考えに戦慄する。
りんは『女役』になろうとしているのでは!?
だから、女らしく積極的に関係を深めようとしているのでは……。
ど、どうしよう、もしそうだったら……と私は焦る。
だって、私……
ないもの……(何が?)。
※※※
学校に着き教室へ入りそれぞれの席へ別れるとすぐポンと肩を叩かれた。
振り返るとサキがいて。
親指で教室の扉の方へ指を振ってくる。
教室から出ろ、と言うことだ。
呼び出しも慣れたものだな。
結局またいつもの階段まで来ると、キョウもいた。
ほんと何なのだろうこの二人は、と思った。
仲良いの……?
3人きりになるとサキは早速、
「どうだった?」
と聞いてくる。
キョウも
「言えた?」
と聞いてくる。
『実は女』とりんに言えたか、聞いているのだ。
多分『女と言ったとしたなら情報共有して置いて、りんとの態度を変える必要がある』から、朝呼び出しをしてまで聞こうとするのだろう。
「言えなかった」
と私は正直に答えた。
「そう……」
と二人は訳知り顔で頷きつつ、
「しかたない」
「しかたない」
慰めてくれる。優しい。
「どうしよう……」
と私は、自分で答えがもう出ている――『言うしかない』と答えが出ている――のに聞いてみた。
「ま。いいんじゃないの……。
別に言わなくても」
とサキは言った。
「だって言って万が一加藤くんが怒りまくったら。
あおいくん学校に居られなくなるかもしれないんだから。
言わないのも仕方ないよ」
「僕もそう思う」
とキョウも言う。
「仕方ないよ」
「でも、それならね。
そもそも付き合っちゃダメだよね」
と私はまともなことを言った。
私は元々まともなんだよ!
「う~ん。
まあ。そうだよね……」
とサキは言った。
「確かに……ね」
とキョウも言った。
私はまともな考えを持つ人間だ。
だから全て自業自得とわかっている。
でも、本当のこととは言え同意されると落ち込む。
「りん、ほんとにすごく積極的なんだよね……」
と私は肩を落とした。
「りんって、多分『女役』志望なんだよ……」
とつぶやくと、サキとキョウはきょとんとした顔で私を見てくる。
「『女役』志望って何?」
とサキは言った。
サキはBLに興味なさそうだから知らないんだと思い、説明した。
「ほら。
男同士でカップルになると。
どうしても一方が『女役』で一方が『男役』になるでしょ? 多分(フィクションのBLではそうなんだよ)。
それで、りんは『女役』の方がきっとしたいんだよ。
何て言うか、攻め役、の方……?
だから色々積極的なんだと思う。
りんは今から『女役』を買って出ているんだよ……」
何言ってんだ私。と我ながら思った後。
サキを見ると、まだ『?』と言う顔をしている。
キョウに視線を移しても『?』と言う顔をしている。
「加藤くんはどう見ても、男らしいでしょ?」
とサキは不審げな表情を浮かべつつ聞いた。
「どうして加藤くんが『女役』になりたいと思うのか、よくわからない。
どう見てもあおいくんが女役、と言うか実際女でしょ?」
「でもりんは私のこと男だと思っているでしょ?」
と私は自分を指差した。
「そしてりんは私に男役を望んでいる、んだと思うの」
二人はしばらく後『ああ~』と言う顔をした。
「そうか。
あおいくんは加藤くんがボーイズラブだと思っているから……」
とサキが納得顔で言う。
「あおいちゃん。
りんが『女役』になりたがっていると悩む必要はないよ」
とキョウは言った。
「りんはボーイズラブではないからさ」
「どうしてわかるの?」
と私は驚いてキョウを見た。
「どうして、って……」
とキョウは言うと、サキの方へ視線を移した。
サキは首をかしげて、
「ええと……。
ほら、悩んでいたの知っていたからだよね」
とサキはキョウを指差した。
「そう」
とキョウは頷く。
「りん、あおいちゃんのこと好きな自分は『ゲイなんじゃないか』って悩んでいたからさ……」
「えっ。
そうなの?」
と私は驚いて聞いた。
その後キョウから、りんが『あおいのこと最近気になっているんだけど、おれゲイなのかなあ』と同じくあおいのことが好きと思われるキョウに相談していた、などと聞いた。
そんなことがあったのか……。と思った。
その頃の私はそんなことも知らず、失恋のショックを受け、りんとの関係に気まずさを感じながらも普通に生きていただけだったのだ。
この話でりんがボーイズラブではない? と思った。
少なくとも女も好き、と。
だから、女の私としては喜ぶ所なのかもしれないけど、ますます落ち込んだ。
ますますりんに酷いことしているじゃないか、と思った。
※※※
「そうだ!」
とサキが言った。
「押してダメなら、引いてみろ!
逆転の発想よ!」
「えっ」
と聞き返すと、サキは目を輝かせて言った。
「加藤くんはゲイじゃないんだから。
女の身体であおいくんのことを夢中にさせてしまえば……」
と言ってからハッとすると、サキは手の平を私に向けた。
「ごめん。忘れて」
「今、ものすごく墓穴発言したよね?」
とキョウがサキをジト目で見た。
サキが手で顔を覆う――「失言した」
「えっ。何?
ちょっとわからなかった……」
と言うと
「「わからなくていいよ」」
と二人はニコニコした。
私は不満げに二人をにらんだ後、サキの先程の言葉を振り返ってみた。
『逆転の発想』
『加藤くんはゲイじゃないんだから、女の身体であおいくんのことを夢中に……』
意味わかった!
わかったけど……
「ははは……」
と私は苦笑いした。
「無理だよ、サキ。
女じゃあるまいし、りんは身体で夢中になんかならないよ」
「そんなことないよ!」
とサキは力強く言った。
「あおいくんには、立派なものがあるじゃない!」
立派なもの……。
「胸よ!」
「胸……」
と私はつぶやいた。
「胸を加藤くんに押し付けるのよ!
当ててんのよ戦法よ!」
何言ってんだコイツ。
「さりげなく胸を加藤くんに当てて。
『えっ何コレ、胸……?』
『あおい女だったのか……』
『おれのこと騙していたんだ、ひどい……』
『でも、おっぱい』
『おっぱい気持ちいいから許した』
と思わせるのよ!」
コイツりんを侮辱しているんじゃないか。
「りんはそんな子じゃない……」
と言うとサキは首を横に振った。
「あおいくんはわかっていない。
私はお兄ちゃんがいるからわかるけど、男ってね……」
と言うとサキは口をつぐんで、肩をすくめた。
途中でやめるな!
「だから田中さん、さっきから墓穴掘っているよね……」
とキョウがポツリと言うのをサキは無視して、
「予行練習してみる……?」
と自分の腕を私に差し出してきた。
「予行練習に。
私と腕を組んで、さりげなく胸を当ててみる……?
腕とか、背中に……?」
「目先の快楽のために、自ら暗黒面へと堕ちる……」
とキョウがつぶやき、サキは「うるさい」と言った。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。

男女比1対99の世界で引き篭もります!
夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公!
前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!!
偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたので、欲望に身を任せてみることにした
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。彼女を女として見た時、俺は欲望を抑えることなんかできなかった。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる