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第二部
59話 キョウとサキの内緒話
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温泉へ行った日曜日から10日ほど経った、学校からの帰り道。
おれはあおいと二人で駅までの道を歩いている。
最近はキョウとは一緒に帰ったり、帰らなかったりマチマチだ。
一回こちらから誘ってみたこともあったが、断られた。
「田中さんと約束がある」と言われて。
キョウとサキ、どう言う関係なんだろう?
あおいが共通点なのはわかるけど、あおい抜きで結構一緒にいる。
キョウを誘って断られて以来、こちらから誘うのはやめておくことにした。
もしかすると一時期連続で一緒に帰ろうと誘ってくれたのはキョウがおれたちに気を使ってくれたのではないか? と思ったのだ。
あおいとおれのケンカを知っていたし、二人ではしばらく気まずいだろうと思って気を使って一緒に帰ろうとしてくれた。
しかし、おれたちも十分仲直りしたようだ、とキョウは判断して、今はもう一緒に帰るのをやめたのかもしれない。
と言うことで、もともと行動に規則性がないキョウのことは放っておくことにした。
一緒に帰ろうと言ってきたら帰るし、何も言われなかったらあおいと二人で帰る。
あおいとの微妙な関係も元に戻りつつある。
そのことにホッとしていたり、ちょっと焦っていたり、色んな気持ちがしている。
あおいはどんどんおれのことを『好き』じゃなくなっているのではないか?
と勝手なことを考えてしまう。
でも、おれ自身の気持ちもまだ確信できず、何も行動できなかった。
あおいをコッソリ観察することしかできない。
観察の結果、
『おれの脳はやはりあおいのことが女の子に見えているに違いない』
とやっぱり思う。
ちょっと頭がおかしいけど、そう思うのだ。
あおいはいちいち『可愛い』。
『女の子に見えている』と思い始めたら、本当に女の子にしか見えない気がしてきた。
と言うか、あおい、本当は女の子なんじゃないか?
本当に男なのか?
……いや、わかっている。あおいは男だとちゃんとわかっている。そこまで狂っていない……つもり。
※※※
あおいと二人、話しながら帰っている最中。
ふと、おれはカバンの中に手を入れた。
「あっ……」
と思わず声を漏らす。
あおいが不思議そうに見てくる。
「どうかした?」
「スマホ。
学校に忘れた、みたい」
すると、あおいがニコッとして、
「じゃあ。取りに行く?」
と言って学校の方を向いたので、おれは慌てて言った。
「あおいはいいよ。
おれ一人で取りに行くから」
「でも。
別に一緒に行ってもイイけど」
とあおいは言ってくれたが。
「先帰ってて」
と言うと、おれは早足で学校へ向かった。
※※※
スマホ、落としたんじゃないよな?
学校の机の中に忘れただけだよな?
『薔薇もの』を見ている形跡とか、もし誰かに見られたらどうしよう?
ロックかかるから大丈夫だと思うけど……。
と心配しつつ教室へ向かう。
授業が終わってもう一時間ほど経っていた。
あおいとおれが教室を出たときに既にほとんどの人が帰っていたが。
もう誰も残っていないかな?
と思いつつ扉の前まで行くと。
少し開いた隙間から、男女の声が聞こえてきた。
「はあ……いい……」
「これはどう……」
なんて声で。
!?
何か気まずい会話!? と思った。
誰だろう?
カップルだったらどうしよう! と耳を澄ませる。
イチャついていたら教室へ入れないぞ!
しばらく耳を澄ませて聞いてみると……
『男女』の声の正体がわかった。
キョウとサキの声だ!
あの二人ならまさか『恋人同士』ではないだろう……と思ったものの。
キョウが何故かサキとよく一緒にいることを思い出す。
まさか……キョウ、あおいのことが好きと言いつつサキと……?
サキもあおいのことが好きそうなのにキョウと……?
もしかしてあおいが好きな者同士、共感し合っている内にいつの間にか……?
あり得る!
と思って、会話に耳を澄ませた。
別に何てこと無い会話なら、教室に入れば良いと思ったのだ。
もしラブラブ会話だったら……ちょっとどこかで時間を潰して、時間を置いてまた来ようと思った……。
しかし。
聞こえてきたのは思わぬ会話だった。
「これはどう……?」
「はあ……スゴイ……」
「ね?」
「イイ……」
「田中さんこれも好きでしょ?」
「うん、好き……」
「ほら、こことか……」
「あ、大きくしないで!」
「じゃあ、やめる?」
「……して」
「ほら、ズームすると……」
「……」
「「……ふぅ……」」
「……でも。ほんと、鈴木くん……やらしいんだから。
ズームして見ているんでしょ、いつも」
「いや、でも。
田中さんもそうでしょ?」
「……。
でも。
本当、可愛いよね」
「うん。
可愛い。『みどり』ちゃん……」
『みどり』
と言うワードを聞いて。思考が止まって。
しかし身体だけ動いて。
おれは、ガラリと扉を開けた。
向かいあってイスに座っているキョウとサキがビックリ顔でこちらを見て来る。
どうやら二人は教室の窓際のキョウの席に集まって話をしていたようだ。
キョウは自分の席に、サキはおれの席に座っている。
キョウは机の中央辺りに、スマホを持った手を置いていた。
会話の内容からも推測できるように2人はスマホを見ていたのだ。
おれはビックリ眼でおれを見続ける二人に、
「あ。
スマホ。
机の中に忘れて……」
と慌てて言って、二人に――自分の席へ――近付いた。
サキが立ち上がる。
「ごめん。
ココ、加藤くんの席だよね」
「いや。いいんだけど……」
と言ってから自分の席へ行き、机の中にちゃんとあったスマホを取ると。
後ろの席のキョウと、キョウの近くに立っているサキを振り返り、
「さっき。
二人が話しているの、少し聞こえちゃったんだけど。
『みどり』ちゃんって……言ってた?」
と、内心の動揺を隠しつつ聞いた。
「あはは……」
とサキが愛想笑いした。
おれにスルーして欲しくて、そんな『ごまかし笑い』をしたことはわかったけど、おれは続けて聞いた。
「みどりちゃんって…あおいのこと、だよね?」
「うん……まあ」
とサキは苦笑いを返してくる。
サキはこの会話を望んでいないと、先ほどからわかっているのだが、やはりおれは続けた。
「みどりちゃん、可愛い。って聞こえてきたけど……」
「うん……」
2人は明らかに困っている。
2人とも、困った顔に口元だけ笑顔を仕方なく浮かべている。
いつもの自分なら空気を読んで引き下がるのに。
できない。
あおいのことだから?
何も聞かずにはいられないと思った。
わからないままだと、ずっとモヤモヤして引きずるだろうとわかっているから。
おれは空気を読まずに、突っ込んで聞いた。
キョウの方を見て、
「スマホ見ながら、話していたよな?
もしかしてキョウ、また『みどり』姿のあおいとデートして。
そのときの写真を田中さんに見せてた……とか?」
一応、軽い調子になるよう気を付けて聞いたつもりだが。
おれのあおいへの気持ちを知るキョウには、軽くない質問だとわかっただろう。
「いや。
そんなんじゃないよ。
僕、あおいちゃんとデートなんかしたことないよ。
前のだってデートじゃなかったし」
とキョウは困った顔で、しかし答えてくれた。
答えてくれたのに、
「じゃあ2人で何見て話して……」
おれはさらに続けてしまう。
ホント嫌な奴だ。
でも、2人が話していたことを知りたい、と思ってしまう。
おれが知らなくて、2人が知っている『あおい=みどり』の話があると思うと。
聞かずにはいられなかった。
おれはあおいと二人で駅までの道を歩いている。
最近はキョウとは一緒に帰ったり、帰らなかったりマチマチだ。
一回こちらから誘ってみたこともあったが、断られた。
「田中さんと約束がある」と言われて。
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あおいが共通点なのはわかるけど、あおい抜きで結構一緒にいる。
キョウを誘って断られて以来、こちらから誘うのはやめておくことにした。
もしかすると一時期連続で一緒に帰ろうと誘ってくれたのはキョウがおれたちに気を使ってくれたのではないか? と思ったのだ。
あおいとおれのケンカを知っていたし、二人ではしばらく気まずいだろうと思って気を使って一緒に帰ろうとしてくれた。
しかし、おれたちも十分仲直りしたようだ、とキョウは判断して、今はもう一緒に帰るのをやめたのかもしれない。
と言うことで、もともと行動に規則性がないキョウのことは放っておくことにした。
一緒に帰ろうと言ってきたら帰るし、何も言われなかったらあおいと二人で帰る。
あおいとの微妙な関係も元に戻りつつある。
そのことにホッとしていたり、ちょっと焦っていたり、色んな気持ちがしている。
あおいはどんどんおれのことを『好き』じゃなくなっているのではないか?
と勝手なことを考えてしまう。
でも、おれ自身の気持ちもまだ確信できず、何も行動できなかった。
あおいをコッソリ観察することしかできない。
観察の結果、
『おれの脳はやはりあおいのことが女の子に見えているに違いない』
とやっぱり思う。
ちょっと頭がおかしいけど、そう思うのだ。
あおいはいちいち『可愛い』。
『女の子に見えている』と思い始めたら、本当に女の子にしか見えない気がしてきた。
と言うか、あおい、本当は女の子なんじゃないか?
本当に男なのか?
……いや、わかっている。あおいは男だとちゃんとわかっている。そこまで狂っていない……つもり。
※※※
あおいと二人、話しながら帰っている最中。
ふと、おれはカバンの中に手を入れた。
「あっ……」
と思わず声を漏らす。
あおいが不思議そうに見てくる。
「どうかした?」
「スマホ。
学校に忘れた、みたい」
すると、あおいがニコッとして、
「じゃあ。取りに行く?」
と言って学校の方を向いたので、おれは慌てて言った。
「あおいはいいよ。
おれ一人で取りに行くから」
「でも。
別に一緒に行ってもイイけど」
とあおいは言ってくれたが。
「先帰ってて」
と言うと、おれは早足で学校へ向かった。
※※※
スマホ、落としたんじゃないよな?
学校の机の中に忘れただけだよな?
『薔薇もの』を見ている形跡とか、もし誰かに見られたらどうしよう?
ロックかかるから大丈夫だと思うけど……。
と心配しつつ教室へ向かう。
授業が終わってもう一時間ほど経っていた。
あおいとおれが教室を出たときに既にほとんどの人が帰っていたが。
もう誰も残っていないかな?
と思いつつ扉の前まで行くと。
少し開いた隙間から、男女の声が聞こえてきた。
「はあ……いい……」
「これはどう……」
なんて声で。
!?
何か気まずい会話!? と思った。
誰だろう?
カップルだったらどうしよう! と耳を澄ませる。
イチャついていたら教室へ入れないぞ!
しばらく耳を澄ませて聞いてみると……
『男女』の声の正体がわかった。
キョウとサキの声だ!
あの二人ならまさか『恋人同士』ではないだろう……と思ったものの。
キョウが何故かサキとよく一緒にいることを思い出す。
まさか……キョウ、あおいのことが好きと言いつつサキと……?
サキもあおいのことが好きそうなのにキョウと……?
もしかしてあおいが好きな者同士、共感し合っている内にいつの間にか……?
あり得る!
と思って、会話に耳を澄ませた。
別に何てこと無い会話なら、教室に入れば良いと思ったのだ。
もしラブラブ会話だったら……ちょっとどこかで時間を潰して、時間を置いてまた来ようと思った……。
しかし。
聞こえてきたのは思わぬ会話だった。
「これはどう……?」
「はあ……スゴイ……」
「ね?」
「イイ……」
「田中さんこれも好きでしょ?」
「うん、好き……」
「ほら、こことか……」
「あ、大きくしないで!」
「じゃあ、やめる?」
「……して」
「ほら、ズームすると……」
「……」
「「……ふぅ……」」
「……でも。ほんと、鈴木くん……やらしいんだから。
ズームして見ているんでしょ、いつも」
「いや、でも。
田中さんもそうでしょ?」
「……。
でも。
本当、可愛いよね」
「うん。
可愛い。『みどり』ちゃん……」
『みどり』
と言うワードを聞いて。思考が止まって。
しかし身体だけ動いて。
おれは、ガラリと扉を開けた。
向かいあってイスに座っているキョウとサキがビックリ顔でこちらを見て来る。
どうやら二人は教室の窓際のキョウの席に集まって話をしていたようだ。
キョウは自分の席に、サキはおれの席に座っている。
キョウは机の中央辺りに、スマホを持った手を置いていた。
会話の内容からも推測できるように2人はスマホを見ていたのだ。
おれはビックリ眼でおれを見続ける二人に、
「あ。
スマホ。
机の中に忘れて……」
と慌てて言って、二人に――自分の席へ――近付いた。
サキが立ち上がる。
「ごめん。
ココ、加藤くんの席だよね」
「いや。いいんだけど……」
と言ってから自分の席へ行き、机の中にちゃんとあったスマホを取ると。
後ろの席のキョウと、キョウの近くに立っているサキを振り返り、
「さっき。
二人が話しているの、少し聞こえちゃったんだけど。
『みどり』ちゃんって……言ってた?」
と、内心の動揺を隠しつつ聞いた。
「あはは……」
とサキが愛想笑いした。
おれにスルーして欲しくて、そんな『ごまかし笑い』をしたことはわかったけど、おれは続けて聞いた。
「みどりちゃんって…あおいのこと、だよね?」
「うん……まあ」
とサキは苦笑いを返してくる。
サキはこの会話を望んでいないと、先ほどからわかっているのだが、やはりおれは続けた。
「みどりちゃん、可愛い。って聞こえてきたけど……」
「うん……」
2人は明らかに困っている。
2人とも、困った顔に口元だけ笑顔を仕方なく浮かべている。
いつもの自分なら空気を読んで引き下がるのに。
できない。
あおいのことだから?
何も聞かずにはいられないと思った。
わからないままだと、ずっとモヤモヤして引きずるだろうとわかっているから。
おれは空気を読まずに、突っ込んで聞いた。
キョウの方を見て、
「スマホ見ながら、話していたよな?
もしかしてキョウ、また『みどり』姿のあおいとデートして。
そのときの写真を田中さんに見せてた……とか?」
一応、軽い調子になるよう気を付けて聞いたつもりだが。
おれのあおいへの気持ちを知るキョウには、軽くない質問だとわかっただろう。
「いや。
そんなんじゃないよ。
僕、あおいちゃんとデートなんかしたことないよ。
前のだってデートじゃなかったし」
とキョウは困った顔で、しかし答えてくれた。
答えてくれたのに、
「じゃあ2人で何見て話して……」
おれはさらに続けてしまう。
ホント嫌な奴だ。
でも、2人が話していたことを知りたい、と思ってしまう。
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