あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第二部

46話 尊敬

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 キョウは自分とは性格タイプが大分違うと思っている。
 あっけらかんとしていて、細かいことにクヨクヨ悩まなさそう。
 おれとは逆のタイプだと感じる。
 だからこそ聞きにくいことも聞けそうな気がして。

 聞いてしまった。

「キョウはそう言うの、悩んだことないの?」

「ん?」

「同性を好きになること」

 普段なら絶対にしないデリケートな質問だ。
 でもキョウなら深く取らずアッサリと答えてくれそうな気がして、聞いてしまった。
 
 しかし。
 予想に反して、キョウは困った顔をした。

 慌てて、

「ごめん」

 と謝る。

「変なこと聞いて」

 やはり聞いちゃダメな質問だった。
 少なくともまだ『友達の友達』くらいの関係のときに話すような内容ではなかった。
 ホントどうかしている。
 普段なら絶対しないのに。
 あんまりあおいのことで悩みすぎて、『他』がおろそかになっているのかもしれない。

「いや。
別に良いんだけど」

 とキョウは困り顔しつつ、

「う~ん。
答えるの難しいね」

 と苦笑い後、

「りんはあるの?」

 と首をかしげた。

 ああ、そうだよな。
 こんな質問したら自分に返ってくるに決まっている。
 そんなことも考えていられなかったのか、と自嘲気味に思いながら、

「いや」

 と曖昧に笑って、ごまかしてしまった。

「そもそもおれは男を好きになったことないから。
悩んだことない」

「そう」

「でもキョウは……悩んだかな、って」

「う~ん」

 とキョウはうなった。
 そしておれをチラリと見ると、

「いや。 
実を言うと――正直に言うと――。
悩んだことない」

「えっ」

 とおれが驚くと。
 キョウは相変わらずの眉を八の字にした困った笑顔。

「りんの質問は。
『僕が男を好きになることについて悩んだことあるか』でしょ?
――『ない』」

「そうなんだ……」

 と軽めに反応したが。
 
 心の中では、

 えっ。そうなの!? 

 と驚いていた。

 そう言うものなのか!?

 性的マイノリティーは自身の性的指向について必ず悩むべきだと言うつもりはないが。
 それでも一度は必ず悩むものだと思っていた……。否応なしに。
 そう考えること自体が偏見なのかもしれない、と反省してしまう。

 ちょっと黙り込んでしまった後、キョウのおれを見る視線に気付いた。
 また自分の世界に入り込んでしまった、と反省しつつキョウと向き直ると、

「ごめんね」 
  
 とキョウは何故か謝った。
 何で謝るんだろう?
 イヤな質問したのはこちらなのに。
 おれの望むような答えを用意できなくて申し訳ない、と言うことかな。
 キョウって見た目は軽いけど、結構人に気を使うんだ。
 良い子なんだなと思った。

「おれこそごめん。
変なこと聞いて」 
  
 と頭を下げると、

「いや。全然」

 とキョウはやはり困った笑顔をしながら言った。


※※※

 授業中、キョウとの先ほどのやり取りを思い出していた。 

 キョウはあおいが初恋の人で今でも好き――恋愛感情で。
 『応援してくれる?』
 と言っていたし。
 恋愛感情で好きなんだ。

 そして。
『男を好きになることについて悩んだこと』が『ない』。

 全く嘘偽りを感じないキョウの言葉。
 それを聞いたとき。
 キョウってすごいんだな、とおれは思った。

 正直目からウロコだった。
 同性を好きになったら絶対悩むと、そう言うものだと思っていたから。
 現に今のおれは……。

 でも。
 キョウは全く悩んでいないとキッパリ言っていた。
 それって自分をしっかり持っていると言うことじゃないか?
 確立しているんだ。
 だから悩まない。
 おれとは大違いだ……。
 
 あおいとキョウがくっついたらきっと嫉妬する。
 『あおいはおれのことが好きだったのに』
 と自分のことを棚に上げてモヤモヤする。
 そう思っていたけど。
 あおいはキョウとの方が幸せになれる、と思った。 
 キョウの方が真っ直ぐにあおいを愛せるに違いない。
 悩んでばかりのおれよりも。
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