あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第二部

45話 りんとキョウ

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「授業が始まる前に席移動してね」

 とサキが教室中の皆に聞こえるよう大声で言った。
 皆、黒板に貼ってある座席表を見て自分の引いたクジと同じ番号の席を確認すると、机を移動し始めた。

 今までの席は窓際のいちばん後ろでとても居心地が良かったのに、と思いつつ。

 座席表を確認すると、今回も窓際の席だとわかった――後ろの方ではなく、真ん中ではあったものの。
 ラッキーと思いながら机を移動し、イスに座るとぼんやり窓の外を眺めていたが。

 トントン、と肩を叩かれ、振り返ると、

「席前後だね~。
よろしく~。りん」

 とキョウが言った。

 ドキドキしながら、「よろしく」と返しつつ。
『あおい=みどり』を知る者2人と朝から話して気まずい、と思ってしまった。

 あおいは2人におれが『あおい=みどり』だと気付いたことを話したのだろうか?
 たぶん話してあるのだろう。
 だからこそサキは先ほど思わせぶりなことを言ったのだ。

 おれへの励ましであると同時に、

――『人にはそれぞれ立場とか事情があるよね』――

 あおいのことを思っての発言でもあったのだろう。

 サキのほうがずっとあおいのことを考えている。
 嫉妬と、劣等感を感じた。

「1限目。
英語か。
予習してきた?」

「うん」

「窓際から先生当てていくと思う?」

 ……なんて、取って付けたような話をキョウとしつつ。

 キョウは内心どう思っているんだろう? とドキドキする。
 おれのこと。
 きっと嫌いだろうな。
 あおいを困らせる存在だと思っているだろう。

 おれの方は?
 キョウのことをどう思っているんだろう?
 嫉妬、は感じている、けど。

 キョウとあおい。
 キョウはあおいの男の娘バージョン『みどり』とデートしていた。

 キョウはあおいが男の娘の格好をすると知っていて。
 『みどり』をあおいとは別人だと主張することを手伝った。
 2人は秘密を共有していると言うことだ。

 女子にキョウとあおい――『みどり』バージョン――が映っていたと言うテレビ画面を撮った写真を見せて貰ったが。
 すごく楽しそうだった。
 テレビを見た大抵の人たち――リアルで2人を知らない人たち――は、2人を微笑ましいごく普通の高校生カップルだと思っただろう……。

 でも。
 昨日の段階では『あおいはおれが好き』だったのだから。
 あおいとキョウはまだ何の関係でも無い、はず。

 嬉しい、と思ってしまった。
 同時に、これからはもうわからないんだ、と思った。

 キョウとあおいが付き合うこともあるのかもしれない。

『あおいはおれに恋をしていた』

 どんどん過去形になっていくのだから。


※※※

 キョウの話を聞きつつ。
 どこか黄昏れてしまったのか。
 キョウが首をかしげて、こちらを見ていることに気付いた。

「あ。ごめん。
ボーッとしちゃって」

 と言うと、キョウはニコッとしてから、

「あおいちゃんと仲直りした?」

 と言うので。
 おれはギクリとしてしまう。

 きっとおれが元気がないように見えて。
 それを『あおいとのケンカによるもの』とキョウは思ったのだろう。
 でも、キョウはどこまで知っているのだろう?
 昨日のあおいとおれに起きたこと。

 サキもケンカしたことは知っていた。
 あおいは2人にどこまで話したのだろう?

 おれが黙りこくってしまうと、

「何でケンカをしたこと知ってるんだ? と思ってる?」

 とキョウは可笑しそうに言う。
 その後、説明してくれた。

「昨日、りん、あおいちゃんとケンカした後、あおいちゃんのこと置いて先行っちゃったでしょ?
そのあと田中さんと僕が偶然通りかかったんだよ。
田中さんと駅近くのファミレスで話そうと思って一緒に歩いていたんだけどね。
あおいちゃんを見かけて、
『あおいちゃんも誘おうか』
と声をかけたら、あおいちゃん何か落ち込んでて。
それで何があったか話を聞いた」

 サキとキョウ。
 どう言う関係? と言うのも気になったが。

 おれはまず自分への質問に答えた。

「あおいとは仲直りしたよ」

「そっか」

 と言ったあと、キョウは首をかしげる。

「でも。やっぱり。
何か元気ないねぇ」

「ん……。まあ」

「何かあった?」

「別に……」

 と答えた後周りを確認したが、おれとキョウの話を聞いている者はいなさそうだとわかると。
 それでも小さな声で、

「キョウさ」

「ん?」

「キョウはあおいのこと……好きか?」

 目を丸くするキョウを見て、ハッとした。
 そんなこと聞くなんてどうかしている。
 キョウとはそんなこと聞く距離感じゃないし。
 唐突過ぎた。

 焦っていると。

「好きだよ」

 とキョウは甘ったるく微笑みながら言った。
 次目を丸くするのはおれの番だった。

「でも初恋は実らないと言うよね?
どう思う、りん……」

 とキョウはニヤニヤ続ける。
 冗談か本気かよくわからなくなってきた。
 キョウにはそう言うところがある。
 
「それは……人による、と思う」

「りん。
僕のこと応援してくれる?」

 とキョウはニコッとした。

 おれは一旦視線を下に落としてから、キョウを見、

「あおいの気持ちもあるから」

 とだけ言った。

「それはそうだけど」

 とキョウはニコニコ、

「でも。
例えばさ、あおいちゃんと僕が二人きりになる機会を作ってくれるとか。
そう言う応援ありでしょ?」

 言葉が見つからないでいると、

「それとも。
応援したくない?」

「そんなことない」

 とは言ったけど。

 したくない。と心の中ではハッキリと答えていた。
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