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第一部
39話 思わず手が出た
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「りん……」
と私が言葉を失った様子のりんに声をかけると、りんはハッと私を見る。
緊張した面持ち。
そんなりんの顔を見て、嘘は吐けないと思った。
「りんの言うとおりだよ」
と私は言った。
「『みどり』はおれだ」
と言ってしまった後りんの顔が見られなくて、私は地面に視線を落とした。
次に私が言うべきことはなんだろうか?
謝らなくちゃいけない。
『みどり』なんて架空の存在をでっち上げ皆を騙したんだから。
と考えていると。
私の肩に何かが触れる感触がした。
顔を上げるとりんの手が私の肩を抱いていた。
「ごめん、あおい」
と言うとりんは私の背に腕を回し私を抱き締めた。
「無理矢理言わせちゃってごめん……」
りんはしばらく私をぎゅっと抱いた。
その後私をその腕から解放し、向き直ると、
「ごめん、あおい。
おれ、嫌な奴だよな」
「えっ……」
「おれたちの方が付き合い長いのに何でおれたちに隠し事するんだよ、みたいなこと言ったけど。
ほんとのところ嫉妬していただけなんだろうな、おれ」
と言うと少し微笑んだ。
「あおいとだんだん仲良くなる田中さんとキョウに嫉妬していたんだ。
2人はもうおれたち以上にあおいと仲良いんじゃないか? って」
嫉妬と言う言葉にドキドキする。
ちょっと前にも同じようなこと言われたけど。
あのときよりも心に来るものがあった。
あのときより真剣な調子だからだろうか?
彼の胸に抱かれた後だからだろうか?
「ほんとごめん、あおい」
と改まった調子で言った後りんは駅の方へ向かって歩き始めた。
少し振り返ると、
「おれたち、あおいのタイミングを待つから。
って今言っても全然説得力無いけど。
あおいのタイミングで話してくれればいい」
と笑顔で言うりん。
彼は視線を前に戻し再び歩き始めて……。
どうしてそんなことをしたんだろう? と後で何度も繰り返すことも知らずに。
そのときの私は前を行くりんの手を咄嗟に握った。
するとりんは身体をビクリと揺すり、振り返るとビックリ顔で私を見て来た。
深い意味はなかった……と自分では思う。
ただこう言いたかっただけ。
『サキやキョウにりんが嫉妬する必要なんて全くない』
そう言うことをより明確に――言葉以上に確実に――伝えたくて、その手を握った。
嫉妬は苦しいと言うこと、私もよく知っているから。
りんがもし私のことで嫉妬しているなら
『そんなことしなくていい』
と確かに伝えたかった……。
言葉以上のものを接触から伝えたかった……
……だけだと思う。
けど、どうだろう?
りんの手は私の手よりずっと大きくて、握った瞬間にそこから身体に何か暖かい幸せなものが流れていった。
「りん……」
私はきっと、ぎこちない曖昧な笑みを浮かべながら、次に言う言葉を脳で予行練習していた――『嫉妬なんて全然しなくていいんだよ』
でもその言葉を言う前に。
手が引っ張られる感覚がした。
私の手の中から、りんの手が逃げていった。
鈍感な私でも『拒否られた』ことがハッキリわかり。
サァーッと血液が引いていくのを感じながら呆然とりんを見ると、りんは何とも言えない複雑な表情で私を見下ろしていた。
「なんだよ、あおい……。
急に手を握るなんて」
そんなりんの言葉を私はぼんやりとした意識の中で聞いた。
「あおい、最近変だよ……」
と言うとりんは私から顔を背け、歩き出し。
そのまま振り返らずに私を置いていってしまった。
立ち尽くしたまま。
りんの背中を見送りながら私はぼんやり思い出していた。
そう言えばりんは私を抱き締めたりはしてきたけど。
手を繫いできたことはなかった。
きっと男子同士は腕を組んだり抱き締めあったりはするけど、手を繫いだりはしないんだ。
少なくともりんはしなかった。
私はまた『実は女』ゆえに男子の慣習から離れたことをやってしまい、りんに嫌われてしまった。
いや。
そうじゃない。
違う。
りんは『男子同士の機微にうといあおいに怒った』んじゃない。
りんはきっと。
私の気持ちに気付いたんだ。
私がりんを恋愛対象として好きだと言う気持ちに。
そして……。
『無理』だと思った。
だからあんな冷たく私の手を振りほどいて行ってしまったんだ。
と私が言葉を失った様子のりんに声をかけると、りんはハッと私を見る。
緊張した面持ち。
そんなりんの顔を見て、嘘は吐けないと思った。
「りんの言うとおりだよ」
と私は言った。
「『みどり』はおれだ」
と言ってしまった後りんの顔が見られなくて、私は地面に視線を落とした。
次に私が言うべきことはなんだろうか?
謝らなくちゃいけない。
『みどり』なんて架空の存在をでっち上げ皆を騙したんだから。
と考えていると。
私の肩に何かが触れる感触がした。
顔を上げるとりんの手が私の肩を抱いていた。
「ごめん、あおい」
と言うとりんは私の背に腕を回し私を抱き締めた。
「無理矢理言わせちゃってごめん……」
りんはしばらく私をぎゅっと抱いた。
その後私をその腕から解放し、向き直ると、
「ごめん、あおい。
おれ、嫌な奴だよな」
「えっ……」
「おれたちの方が付き合い長いのに何でおれたちに隠し事するんだよ、みたいなこと言ったけど。
ほんとのところ嫉妬していただけなんだろうな、おれ」
と言うと少し微笑んだ。
「あおいとだんだん仲良くなる田中さんとキョウに嫉妬していたんだ。
2人はもうおれたち以上にあおいと仲良いんじゃないか? って」
嫉妬と言う言葉にドキドキする。
ちょっと前にも同じようなこと言われたけど。
あのときよりも心に来るものがあった。
あのときより真剣な調子だからだろうか?
彼の胸に抱かれた後だからだろうか?
「ほんとごめん、あおい」
と改まった調子で言った後りんは駅の方へ向かって歩き始めた。
少し振り返ると、
「おれたち、あおいのタイミングを待つから。
って今言っても全然説得力無いけど。
あおいのタイミングで話してくれればいい」
と笑顔で言うりん。
彼は視線を前に戻し再び歩き始めて……。
どうしてそんなことをしたんだろう? と後で何度も繰り返すことも知らずに。
そのときの私は前を行くりんの手を咄嗟に握った。
するとりんは身体をビクリと揺すり、振り返るとビックリ顔で私を見て来た。
深い意味はなかった……と自分では思う。
ただこう言いたかっただけ。
『サキやキョウにりんが嫉妬する必要なんて全くない』
そう言うことをより明確に――言葉以上に確実に――伝えたくて、その手を握った。
嫉妬は苦しいと言うこと、私もよく知っているから。
りんがもし私のことで嫉妬しているなら
『そんなことしなくていい』
と確かに伝えたかった……。
言葉以上のものを接触から伝えたかった……
……だけだと思う。
けど、どうだろう?
りんの手は私の手よりずっと大きくて、握った瞬間にそこから身体に何か暖かい幸せなものが流れていった。
「りん……」
私はきっと、ぎこちない曖昧な笑みを浮かべながら、次に言う言葉を脳で予行練習していた――『嫉妬なんて全然しなくていいんだよ』
でもその言葉を言う前に。
手が引っ張られる感覚がした。
私の手の中から、りんの手が逃げていった。
鈍感な私でも『拒否られた』ことがハッキリわかり。
サァーッと血液が引いていくのを感じながら呆然とりんを見ると、りんは何とも言えない複雑な表情で私を見下ろしていた。
「なんだよ、あおい……。
急に手を握るなんて」
そんなりんの言葉を私はぼんやりとした意識の中で聞いた。
「あおい、最近変だよ……」
と言うとりんは私から顔を背け、歩き出し。
そのまま振り返らずに私を置いていってしまった。
立ち尽くしたまま。
りんの背中を見送りながら私はぼんやり思い出していた。
そう言えばりんは私を抱き締めたりはしてきたけど。
手を繫いできたことはなかった。
きっと男子同士は腕を組んだり抱き締めあったりはするけど、手を繫いだりはしないんだ。
少なくともりんはしなかった。
私はまた『実は女』ゆえに男子の慣習から離れたことをやってしまい、りんに嫌われてしまった。
いや。
そうじゃない。
違う。
りんは『男子同士の機微にうといあおいに怒った』んじゃない。
りんはきっと。
私の気持ちに気付いたんだ。
私がりんを恋愛対象として好きだと言う気持ちに。
そして……。
『無理』だと思った。
だからあんな冷たく私の手を振りほどいて行ってしまったんだ。
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