あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第一部

38話 エスパーりん

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 授業が終わると、りんと私は帰路に着いた。

 キョウは一緒じゃない。
 キョウが転校してきたのは先週の火曜で今は翌週の月曜だから、転校初日から一週間ほど経つわけだが。
 彼とは一緒に帰ったり帰らなかったり、まちまちだ。
 都合が合わないと言うか、キョウはあまり規則的な行動をとらないのだ。
 その場その場で適当な相手と一緒に帰っている印象……。
 サキと一緒に帰っているところを見たこともある。
 仲良いの?
  
 どうやら今日もキョウはサキと一緒に帰るようで、2人が一緒に歩いて行く方から、『トレード』とか言う言葉が漏れ聞こえてきた。

「僕には田中さんにはない『入手ルート』があるんだ」

 とキョウは『ぐぬぬ』顔のサキに得意げに話していた。
 一体何の話をしているのだろう? 

 と言うわけで。
 りんと私は2人で駅までの道を歩き始めた。
 色んな話をする。
 授業の話。
 テレビの話。
 漫画の話。
 ゲームの話。

 楽しく話していても、一瞬沈黙が降りるときがある。
 そんなとき。
 私が他の話題を探しているとき。
 りんがふと言った。

「なあ、あおい……」

「ん?」

 と私は上機嫌でりんを見上げたが。
 りんは真っ直ぐ正面を見たまま、

「みどりちゃんって。
あおいだよな?」

 とだけ言った。
 
「……」

 私は唐突なりんの言葉の意味がわからず、一瞬思考をストップさせた後。 
 理解した途端サァーッと血液が引いていくのを感じた。

「えっ……」

 と変な笑いを口元に浮かべながら、私がつぶやくと。
 りんは私をチラリと見、私が動揺しているのを見ると目を見開き、身体を強ばらせた。

 どうやら私の動揺を感じ取り、りん自身も『もらい動揺』(?)した様子。
 ほんと良い子……。
 って、そんなこと思っている場合じゃない!

「えっと……」

 と私が言うと、

「いや……」

 とりんも言う。
 二人とも口ごもる。
 
 しばらく沈黙が続いた後、

「別に……。
責めてるわけじゃない……」

 とりんは小さく言った。

「えっと……」

 と私が言葉を探しているうちに、りんは続きを言う。

「女子は『クラスメートに隠すことない』って言ったけど。
それは、良いと思う。
隠したいと思うの、理解できるよ」

 とここで言葉を切ってから、りんは私をジッと見つめる。

「でもさ?
おれたちには――ケイとハヤトとおれには――隠すことないんじゃないか?」

 私はりんの真っ直ぐな視線を見つめ返した。
 りんの真面目さが伝わってきて、

『やっぱり良い子。
やっぱり好きだ』

 とか。
 そんなことを考えている場合じゃないのに考えてしまった。
 一種の現実逃避だったのだろうか?

「おれたち、受け入れるのに。
あおいが『男の』でも、キョウと付き合っていても全然今まで通り接するのに」

 どうやらりんは

『「みどり」はあおいの女装』

 と思っているようだ。

 キョウと付き合っていると思われていることは一先ずは置いておいて。

 私が女だと言うことはりんにバレてない様子。
 じゃあ……

「写真は……」

 と私はつぶやいてしまった。
 きっと空気が読めない発言だったのだろう。
 りんは顔をしかめた。

「あの『胸の谷間』の写真?
あんなので騙されたりなんかしないよ」

 とりんは怒ったように言った。
 いや。りん以外はあの写真で納得してくれたと思うのだが……。

「あんなの合成写真だろ?
田中さんがあおいのために、慌ててあおいの写真に胸の谷間を作ったんだろ?」

 とりんはどこかぷりぷりしながら言う。
 
「大体あれ不自然な写真だったし。
華奢なタイプであれだけの巨乳と言うのは、フィクションでしかあり得ないよ」

 そうでもないけどね……。

 探偵りんの推理は続く。

「『みどり』って名前もね?
その場でキョウが慌てて考えた感じ。
あおい、初対面で名前を聞いたとき、
『「みどり」と書いて「あおい」と読むんだ』
と教えてくれたよな?
それ、あおいが自己紹介するときの昔からの常套句パターンなんだろ?
キョウもあおいの自己紹介のことを覚えていて、咄嗟に
『あおいちゃんじゃなくて、「みどり」ちゃん』
とあおいの『姉』の名前を思いついたんじゃないか?」

 合ってないけど、微妙に合っている。怖い。
 でもりんが初めて会ったときに私と交わした会話を覚えていることは嬉しかった……こんなときなのに。

「それに。あおいの弟は『タケル』くんって名前だろ?
あおいの親が子どもに『色の名前』を付けているのなら、タケルくんだって色の名前じゃなきゃおかしい」

 それはちょっと厳しい根拠だが。
 結論は合っているのだ――『あおいに、みどりと言う「姉」はいない』

 推理披露を終えたりんは淡々とした口調に戻すと、

「あおいを『みどり』と言うキョウはもちろん。
合成写真を作ってあおいをかばう田中さんも。
あおいが『男の』ってことを知っているんだよな?
2人とも最近あおいと仲良くなったり、久々に再会したり。
そんな感じなのに。
おれたちは知り合って――友達になって――半年も経つのに……」

 その後の言葉をじっと待ったが、紡ぎ出されることはなかった。

 私はりんを見上げたが、りんは唇をかみしめて全然違う方向を見ていた。
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