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第一部
33話 未来
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「あ。もう昼休み終わるね」
サキはスマホを見ながら言う、
「ちょっとトイレ行きたいし、先行くね」
「うん」
サキが軽い足取りで階段を降りていくのを、キョウと私は並んで見送っていた。
サキの姿が視界から消えると、キョウは私を見てニヤリとしながら言う、
「ねえ、あおいちゃん。
もしかして田中さんがフラれたのって、あおいちゃん?」
どっきーん。
「えっ」
と私はぎこちない笑みを返した、
「どうしてそう思うの?」
「だって、田中さん、あおいちゃんとそんなに仲良くないって言うわりに、あおいちゃんが女の子ってこと知っているでしょ?
もしかしてあおいちゃん、田中さんに告られて、断るときに女だってこと言ったのかなあって」
あ っ て や が る
もうホント男子ってヤダ……。
私は悩んだが、結局うなづいた(キョウなら誰か他の人に言うこともないだろうし……)、
「うん、実はそうなの……」
「そっかあ……」
キョウはニヤニヤした、
「あおいちゃんにフラれたくせに、『みどり』ちゃんに萌えるって。
田中さんっておもしろいねぇ」
サキが聞いたら怒るぞ。
(キョウくんも人のこと言えなくない?)
「……」
サキに告白されたときのことを思い出し、私はキョウの横顔を盗み見る。
心を決めて、口を開く、
「あのさあ、キョウくん……」
「ん?」
「サキの言うとおりなの」
キョウは首をかしげて私を見る。
「サキの言うとおり、私はりんが好きなんだ」
キョウは目を丸くした後、ふっと笑った、
「さっき、聞いたよ?」
「いや、私は言ってないでしょ……。
サキが言っただけで」
「そうだったかな?」
キョウはニヤリとする、
「で。
あおいちゃんは自分の口から改めて言って、僕に引導を渡そうと思ったんだ?」
「いや。
そんなつもりじゃ……。
ただ、私はりんに片思いしているってこと、言っといた方がいいかなあって……」
「うん、わかった」
とキョウはアッサリと言った。
私は少しホッとするような、恥ずかしいような気持ちでキョウを見た。
キョウは先ほどは私のことを好きと言っていたけれど、そんなに真剣に言っていたわけではないのかもしれない……。
なのに私は真剣に受け止めてしまったのかな?
キョウが階段を降り始めたので、私も後に付いていこうとする……
「ねえ、あおいちゃん」
とキョウが不意に振り返って私を見た、
「あおいちゃんがりんのこと好きなのはわかったけど。
僕、引導を渡されたとは思っていないからね」
「えっ……」
「と言うか、今の時点では、りんより僕の方が望みあるんじゃないかなあって思っているくらい」
私は目をぱちぱちしばたかせた。
ちょっと言っている意味がよくわからない……。
「あの、キョウくん……」
「ん?」
「言っていることが変だよ」
キョウは首をかしげつつ、私をジッと見る。
「だって……」
私は少し自嘲気味に微笑んだ、
「りんは私のこと好きじゃないし。
私の100パーセント片思いなんだからね。
『りんより望みある』って言うキョウくんの言い方だと、何かりんが私のこと好きみたいな言い方に聞こえるけど、そんなこと全然ないからね」
「まあ、僕としてはそうあってほしいけどね」
とキョウは微笑んだ、
「りんがあおいちゃんのこと男子だと思って意識していないうちに、リードしておかないと」
私はキョウを見つめた。
多分困った顔をしていたと思う、
「キョウくん。
りんは、私のこと女子だと一生知ることはないよ」
「どうして?」
とキョウは不思議そうにする。
「だってイヤでしょ?」
と私は仕方なく愛想笑いしながら言った、
「高校生のとき、男友達だと思って一緒に過ごしてきたヤツが、普通に『男性が好きな女』で男装して身の回りにいた、とか。
気持ち悪いでしょ?
思い出が汚れるでしょ」
何だか暗い気持ちになってきた……。
キョウは目を丸くして私を見ていたが、
「あおいちゃんは大袈裟だなあ」
と笑った、
「そんな、思い出が汚れるとか、ないと思うけどなあ。
ま、日頃の行いにもよるだろうけどね。
あおいちゃんが毎日りん達にセクハラしているんなら、そりゃ汚れるだろうけど……」
いや、いちおうセクハラはしていない(と、思う)。
むしろされる方と言うか……。
しかし役得状況が多々あるから、無実とは言えないと思う……。
「あおいちゃん、あんまり気にしちゃ駄目だよ」
と言うキョウの笑顔に、私も少し微笑み返した、
「ありがとう、キョウくん」
「でも僕としちゃ、あおいちゃんがそうやって気にしておいてくれた方がいいんだけどね」
「えっ?」
「あおいちゃんがりんに女子だと打ち明けることがなくて。
りんがあおいちゃんを男子だと思い込んでいる限り、りんは僕のライバルになり得ないだろうからね」
私はキョウの言葉を聞いて、普段自分の中で繰り返し考えていることを口に出した、
「キョウくん、りんはね、サキみたいな女の子が好きなんだよ。
正統派美少女みたいな子。
だからりんは私が女子だと知ったとしても、私のことを好きにはならないよ」
キョウは可笑しそうに私を見て言う、
「意外とネガティブなんだね、あおいちゃん。
わからないよ、未来のことなんて。
人の好みなんて」
その後ジト目になり、
「と言うか、そうじゃなきゃ、僕だって全く望みないってことじゃない?
あおいちゃんは僕のこと全然タイプじゃないでしょ?
てことは、あおいちゃんは僕のことを一生好きにならないって、もう決まっているのかな?」
「いや……」
そもそもキョウくんのことタイプじゃないというわけじゃないんだよね……。
転校初日、まだ『キョウくん』とは気付かなかったとき、キョウくんにもトキめいていたし……。
今でも可愛い系男子だなあってちょっとトキめいてはいるよ。
「ね?」
「うん……」
私はとりあえずうなづいた。
ちょっとニュアンスが違うところもあったけど、どう言えばよいかわからなかった。
「あ、急がないと。
授業始まるね」
と言うとキョウは先を走って行った。
私も後に続く。
キョウの後ろ姿を見ながら、思う。
先のことはわからない、か……。
サキもそんなこと言っていたなあ……。
と思い出す。
りんが私のことを好きになる未来なんてあり得るのだろうか?
いくら未来はわからないと言っても、そんな未来が来るとはどうしても思えなかった……。
サキはスマホを見ながら言う、
「ちょっとトイレ行きたいし、先行くね」
「うん」
サキが軽い足取りで階段を降りていくのを、キョウと私は並んで見送っていた。
サキの姿が視界から消えると、キョウは私を見てニヤリとしながら言う、
「ねえ、あおいちゃん。
もしかして田中さんがフラれたのって、あおいちゃん?」
どっきーん。
「えっ」
と私はぎこちない笑みを返した、
「どうしてそう思うの?」
「だって、田中さん、あおいちゃんとそんなに仲良くないって言うわりに、あおいちゃんが女の子ってこと知っているでしょ?
もしかしてあおいちゃん、田中さんに告られて、断るときに女だってこと言ったのかなあって」
あ っ て や が る
もうホント男子ってヤダ……。
私は悩んだが、結局うなづいた(キョウなら誰か他の人に言うこともないだろうし……)、
「うん、実はそうなの……」
「そっかあ……」
キョウはニヤニヤした、
「あおいちゃんにフラれたくせに、『みどり』ちゃんに萌えるって。
田中さんっておもしろいねぇ」
サキが聞いたら怒るぞ。
(キョウくんも人のこと言えなくない?)
「……」
サキに告白されたときのことを思い出し、私はキョウの横顔を盗み見る。
心を決めて、口を開く、
「あのさあ、キョウくん……」
「ん?」
「サキの言うとおりなの」
キョウは首をかしげて私を見る。
「サキの言うとおり、私はりんが好きなんだ」
キョウは目を丸くした後、ふっと笑った、
「さっき、聞いたよ?」
「いや、私は言ってないでしょ……。
サキが言っただけで」
「そうだったかな?」
キョウはニヤリとする、
「で。
あおいちゃんは自分の口から改めて言って、僕に引導を渡そうと思ったんだ?」
「いや。
そんなつもりじゃ……。
ただ、私はりんに片思いしているってこと、言っといた方がいいかなあって……」
「うん、わかった」
とキョウはアッサリと言った。
私は少しホッとするような、恥ずかしいような気持ちでキョウを見た。
キョウは先ほどは私のことを好きと言っていたけれど、そんなに真剣に言っていたわけではないのかもしれない……。
なのに私は真剣に受け止めてしまったのかな?
キョウが階段を降り始めたので、私も後に付いていこうとする……
「ねえ、あおいちゃん」
とキョウが不意に振り返って私を見た、
「あおいちゃんがりんのこと好きなのはわかったけど。
僕、引導を渡されたとは思っていないからね」
「えっ……」
「と言うか、今の時点では、りんより僕の方が望みあるんじゃないかなあって思っているくらい」
私は目をぱちぱちしばたかせた。
ちょっと言っている意味がよくわからない……。
「あの、キョウくん……」
「ん?」
「言っていることが変だよ」
キョウは首をかしげつつ、私をジッと見る。
「だって……」
私は少し自嘲気味に微笑んだ、
「りんは私のこと好きじゃないし。
私の100パーセント片思いなんだからね。
『りんより望みある』って言うキョウくんの言い方だと、何かりんが私のこと好きみたいな言い方に聞こえるけど、そんなこと全然ないからね」
「まあ、僕としてはそうあってほしいけどね」
とキョウは微笑んだ、
「りんがあおいちゃんのこと男子だと思って意識していないうちに、リードしておかないと」
私はキョウを見つめた。
多分困った顔をしていたと思う、
「キョウくん。
りんは、私のこと女子だと一生知ることはないよ」
「どうして?」
とキョウは不思議そうにする。
「だってイヤでしょ?」
と私は仕方なく愛想笑いしながら言った、
「高校生のとき、男友達だと思って一緒に過ごしてきたヤツが、普通に『男性が好きな女』で男装して身の回りにいた、とか。
気持ち悪いでしょ?
思い出が汚れるでしょ」
何だか暗い気持ちになってきた……。
キョウは目を丸くして私を見ていたが、
「あおいちゃんは大袈裟だなあ」
と笑った、
「そんな、思い出が汚れるとか、ないと思うけどなあ。
ま、日頃の行いにもよるだろうけどね。
あおいちゃんが毎日りん達にセクハラしているんなら、そりゃ汚れるだろうけど……」
いや、いちおうセクハラはしていない(と、思う)。
むしろされる方と言うか……。
しかし役得状況が多々あるから、無実とは言えないと思う……。
「あおいちゃん、あんまり気にしちゃ駄目だよ」
と言うキョウの笑顔に、私も少し微笑み返した、
「ありがとう、キョウくん」
「でも僕としちゃ、あおいちゃんがそうやって気にしておいてくれた方がいいんだけどね」
「えっ?」
「あおいちゃんがりんに女子だと打ち明けることがなくて。
りんがあおいちゃんを男子だと思い込んでいる限り、りんは僕のライバルになり得ないだろうからね」
私はキョウの言葉を聞いて、普段自分の中で繰り返し考えていることを口に出した、
「キョウくん、りんはね、サキみたいな女の子が好きなんだよ。
正統派美少女みたいな子。
だからりんは私が女子だと知ったとしても、私のことを好きにはならないよ」
キョウは可笑しそうに私を見て言う、
「意外とネガティブなんだね、あおいちゃん。
わからないよ、未来のことなんて。
人の好みなんて」
その後ジト目になり、
「と言うか、そうじゃなきゃ、僕だって全く望みないってことじゃない?
あおいちゃんは僕のこと全然タイプじゃないでしょ?
てことは、あおいちゃんは僕のことを一生好きにならないって、もう決まっているのかな?」
「いや……」
そもそもキョウくんのことタイプじゃないというわけじゃないんだよね……。
転校初日、まだ『キョウくん』とは気付かなかったとき、キョウくんにもトキめいていたし……。
今でも可愛い系男子だなあってちょっとトキめいてはいるよ。
「ね?」
「うん……」
私はとりあえずうなづいた。
ちょっとニュアンスが違うところもあったけど、どう言えばよいかわからなかった。
「あ、急がないと。
授業始まるね」
と言うとキョウは先を走って行った。
私も後に続く。
キョウの後ろ姿を見ながら、思う。
先のことはわからない、か……。
サキもそんなこと言っていたなあ……。
と思い出す。
りんが私のことを好きになる未来なんてあり得るのだろうか?
いくら未来はわからないと言っても、そんな未来が来るとはどうしても思えなかった……。
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