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第三部
74話 駅
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駅に着くと切符を買った。
あおいが隣で「入場券を買おうかなー」と独り言にしては大きな声で言っている。
どうやら『お見送り』をしようと思っている……のか?
その後チラッとおれを見てきた。
何かおれに意見を求めている様子。
キュンとしてしまった。
ほんと……『可愛い』。
不思議だな、と思う。
あおいのことを『男子』と思っていたときは本当に『男子』だったのに。
『女子』とわかったら、『何で今まで「男子」だと思っていたんだろう?』と思う。
何て言うか……女子っぽいことをするじゃないか。
今の『チラッ』も何か女子っぽい。
『りん、「入場券買ってよ、あおい。電車が来るギリギリまで一緒にいたいから(はーと)」って言ってくれないかなあ』
みたいな思惑がダダ漏れの態度でおれを見るんだから!
そのダダ漏れ感、女子っぽい……。
いや、男子でも『わざと』そう言う思わせぶりな態度をしたりもするが……。
いや、もしかしてあおいも『わざと』!?
おれは電光掲示板をチラリと見て、
「すぐ電車来るし。
あおい、入場券買うことないよ」
と言った。
あおいは肩を落とした。
わかりやすい落ち込み方するよな。ほんと何か……女子っぽい……。可愛い……。
『わざと』でも可愛い。いや、わざとなら可愛くないか?
いや、ついさっき。
『あおい=女』と知り。
ついさっきまで、
『あおいが女だとおれにナイショだったのは仕方ないけど。
でもやっぱりまだモヤモヤする』
『「男友達」を失って、寂しい』
と思っていたのに。
何故、今では
『あおいは女の子。
女の子って可愛いなあ……』
ともう思っているのか。
いや、違う。
あおいはもとから『可愛かった』のだ……。
今まではその『可愛さ』を『あおい独自のもの』と思っていたのが。
『あおい=女』と知った今、
『女の子特有の可愛さ』なのかもしれないと思い始めた。
いや、わからない。
女子のことを皆――全員――あおいみたいに『可愛い』と感じるわけでもないし――『怖い』と感じる女子もいる――。
だからやっぱり『あおいが可愛い』のだ!
……と言う結論を出したところで、あおいがジッとこちらを見ているのに気付く。
どうしよう、ヘンな顔をしていなかっただろうか……?
とドキドキしながら
「じゃあ。また明日……」
と言った後『これだけでは冷たいだろうか?』と付け足す。
「送ってくれてありがとう」
あおいは口の端を上げてみせると、まわりをキョロキョロ見て――誰も自分たちに注目していないと確認したのだろうか――。
繫いだ手を――おれの手を――口元まで持ってきて……。
キスをした。
手の甲にキス。
「……」
何 故 そ ん な こ と を し た
と思った。
パニック状態になった。
何故そんな『女騎士が王子様にするようなキス』をした。
と思ったけど、あおいの照れた顔を見て、わかった。
わかったぞ!
顔にキスをしようと思ったけど、おれとあおいとじゃ身長が違うからだ!
だからあおいの身長じゃなかなかおれの頬にもおでこにも……唇にも届かないから、手にキスをすることにした。
……としても。
いや……何コレ。
だって、ケンカしたばかりなのに……。
別れ際に『キス』をしようとしたわけ?
さっきも普通に腕を組もうとしていたし。
女子ってバカなの?
でも……。
トキめいてしまった。
手の甲にキスされたことにも。
あおいの照れたような顔にも。
※※※
結局その日はそのまま別れたが。
もう少しで
『入場券で構内に入って。
ベンチに座って電車が来るギリギリまで、ちょっとでも話をしようか?
何ならおれ、もう一本後の電車に乗っても良いし』
と言うところだった。
イスに座ったならあおいもキスがしやすいだろう……と言う思惑がそこにはちょっとあって……。
そして、そんな自分も……
バカなんだろうなと思った……。
『女子ってバカなの?』
と言える人間じゃない。
それに、普通に『女と男の感覚』になっていないか?
もっとあおいとしばらくは距離を取るべきところなのに、普通にそうなっていないか?
おれってヘンなんじゃないか?
正しくない反応をしていないか?
正しくないのは正しくないのかもしれない。
あおいのやっていること――皆を騙している男装――は絶対正しくはないから。
あおいだけを責めるべき状況じゃないのは確かだけど。
でも今のおれのこの『反応』……も、おかしいのかもしれないけど。
きっと、おかしくない、とも思った。
『一時的』なものではない、と。
将来『何故、そんなに易々と許した? バカなのか、おれ?』と後悔するようなものでもないと。
それはきっとあおいとの『これまで』があったからではないだろうか?
今まで一緒に過ごした半年ちょっとの時間で、あおいは『悪い奴』ではないと自信を持って言えるのだ。
だから今日のカミングアウトも許すことができた。
きっと一生後悔することはないと思った。
これからどんなことがあっても。
『実は女』だから好きになったのだろうか?
『あおい』だから好きになったのだろうか?
『心は女の子』だと思ったから好きになったんだろうか?
まだ良くわからないし、これからもわからないかもしれないけど。
『あおいが好き』。
それで良いと思った。
あおいが隣で「入場券を買おうかなー」と独り言にしては大きな声で言っている。
どうやら『お見送り』をしようと思っている……のか?
その後チラッとおれを見てきた。
何かおれに意見を求めている様子。
キュンとしてしまった。
ほんと……『可愛い』。
不思議だな、と思う。
あおいのことを『男子』と思っていたときは本当に『男子』だったのに。
『女子』とわかったら、『何で今まで「男子」だと思っていたんだろう?』と思う。
何て言うか……女子っぽいことをするじゃないか。
今の『チラッ』も何か女子っぽい。
『りん、「入場券買ってよ、あおい。電車が来るギリギリまで一緒にいたいから(はーと)」って言ってくれないかなあ』
みたいな思惑がダダ漏れの態度でおれを見るんだから!
そのダダ漏れ感、女子っぽい……。
いや、男子でも『わざと』そう言う思わせぶりな態度をしたりもするが……。
いや、もしかしてあおいも『わざと』!?
おれは電光掲示板をチラリと見て、
「すぐ電車来るし。
あおい、入場券買うことないよ」
と言った。
あおいは肩を落とした。
わかりやすい落ち込み方するよな。ほんと何か……女子っぽい……。可愛い……。
『わざと』でも可愛い。いや、わざとなら可愛くないか?
いや、ついさっき。
『あおい=女』と知り。
ついさっきまで、
『あおいが女だとおれにナイショだったのは仕方ないけど。
でもやっぱりまだモヤモヤする』
『「男友達」を失って、寂しい』
と思っていたのに。
何故、今では
『あおいは女の子。
女の子って可愛いなあ……』
ともう思っているのか。
いや、違う。
あおいはもとから『可愛かった』のだ……。
今まではその『可愛さ』を『あおい独自のもの』と思っていたのが。
『あおい=女』と知った今、
『女の子特有の可愛さ』なのかもしれないと思い始めた。
いや、わからない。
女子のことを皆――全員――あおいみたいに『可愛い』と感じるわけでもないし――『怖い』と感じる女子もいる――。
だからやっぱり『あおいが可愛い』のだ!
……と言う結論を出したところで、あおいがジッとこちらを見ているのに気付く。
どうしよう、ヘンな顔をしていなかっただろうか……?
とドキドキしながら
「じゃあ。また明日……」
と言った後『これだけでは冷たいだろうか?』と付け足す。
「送ってくれてありがとう」
あおいは口の端を上げてみせると、まわりをキョロキョロ見て――誰も自分たちに注目していないと確認したのだろうか――。
繫いだ手を――おれの手を――口元まで持ってきて……。
キスをした。
手の甲にキス。
「……」
何 故 そ ん な こ と を し た
と思った。
パニック状態になった。
何故そんな『女騎士が王子様にするようなキス』をした。
と思ったけど、あおいの照れた顔を見て、わかった。
わかったぞ!
顔にキスをしようと思ったけど、おれとあおいとじゃ身長が違うからだ!
だからあおいの身長じゃなかなかおれの頬にもおでこにも……唇にも届かないから、手にキスをすることにした。
……としても。
いや……何コレ。
だって、ケンカしたばかりなのに……。
別れ際に『キス』をしようとしたわけ?
さっきも普通に腕を組もうとしていたし。
女子ってバカなの?
でも……。
トキめいてしまった。
手の甲にキスされたことにも。
あおいの照れたような顔にも。
※※※
結局その日はそのまま別れたが。
もう少しで
『入場券で構内に入って。
ベンチに座って電車が来るギリギリまで、ちょっとでも話をしようか?
何ならおれ、もう一本後の電車に乗っても良いし』
と言うところだった。
イスに座ったならあおいもキスがしやすいだろう……と言う思惑がそこにはちょっとあって……。
そして、そんな自分も……
バカなんだろうなと思った……。
『女子ってバカなの?』
と言える人間じゃない。
それに、普通に『女と男の感覚』になっていないか?
もっとあおいとしばらくは距離を取るべきところなのに、普通にそうなっていないか?
おれってヘンなんじゃないか?
正しくない反応をしていないか?
正しくないのは正しくないのかもしれない。
あおいのやっていること――皆を騙している男装――は絶対正しくはないから。
あおいだけを責めるべき状況じゃないのは確かだけど。
でも今のおれのこの『反応』……も、おかしいのかもしれないけど。
きっと、おかしくない、とも思った。
『一時的』なものではない、と。
将来『何故、そんなに易々と許した? バカなのか、おれ?』と後悔するようなものでもないと。
それはきっとあおいとの『これまで』があったからではないだろうか?
今まで一緒に過ごした半年ちょっとの時間で、あおいは『悪い奴』ではないと自信を持って言えるのだ。
だから今日のカミングアウトも許すことができた。
きっと一生後悔することはないと思った。
これからどんなことがあっても。
『実は女』だから好きになったのだろうか?
『あおい』だから好きになったのだろうか?
『心は女の子』だと思ったから好きになったんだろうか?
まだ良くわからないし、これからもわからないかもしれないけど。
『あおいが好き』。
それで良いと思った。
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