あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第一部

40話 呑気な声

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 遠ざかっていくりんの後ろ姿を見送りつつ、ぼんやり立ち尽くしていると。

 後ろから声が聞こえてきた。

「私、TSもの(※性転換ものの創作物)はちょっとね……。
やっぱり心が大事だと思う。
心も女じゃないとね。
だからTSはそんなに好きじゃないの」

「でも田中さん、女ら〇ま好きなんでしょ?」

「ら〇まはね……ビジュアルが可愛すぎるからね」
 
 そんな話し声が聞こえて来て、声に聞き覚えがありギクリとする。

 こんなときなのに、

『何の話してるんだよ!』

 と脳内で軽く突っ込んでから、2人に自分の存在がバレないよう早足で歩き始めたが……。

 タッタッタと走ってくる足音がした。
 イヤな予感が……。

 足音は早足で歩く私にすぐ追いつき、

「あ。やっぱり!
あおいちゃ~ん!」

 とキョウが笑顔で私の顔を覗き込んできた。
 が、私と目があった途端、キョウはピタリと固まり真剣な表情になる。
 
「ねぇ、あおいくん、今から鈴木くんと私、駅近くのファミレスで……」

 と少し遅れて駆けつけたサキもキョウの後ろから私を覗きこんだ。

「……話をしようと思っているんだけど、一緒にどうかな……」

 と言いたいことを全部言った後、

「どうかしたの?
あおいくん」

 と心配そうに言った。
 私は仕方なく愛想笑いを浮かべ、

「いや……別に……」

「泣いていたの?」

 とサキ。
 こいつストレートだな。

「アレ見て田中さん」

 とキョウが人差し指で道の先に指しつつ、

「あの後ろ姿」

「あっ。
加藤くん!」

 とサキがキョウの指先を目で追いつつ言う。

「もしかしてあおいくん。
またあのゲスパーに何か言われたの?」

「ゲスパーりんに?」

 とキョウ。

「そうなんでしょ?
あおいくんが泣いているのは、きっとゲスパー加藤がまたゲスパーか何かしたせいでしょ?」

 りん……変なあだ名で呼ばれてる……。

「許せないゲスパーりん。
よくもみどりちゃんを泣かせたな……!」

「みどりちゃんを傷つけるゲスパー加藤は駆逐すべき敵よ!」

 そこは『あおい』にしてほしい、とちょっと思ってしまったが、そんな場合ではない。

「いや、りんは悪くないの」

 と私は慌てて2人に言った。

「私が突然りんの手を握ったから、りんは驚いちゃって……」

 と私が正直に自分の過ちを告白すると、

「それは良くない」

 とサキが即答した。

「突然男子の手を握るなんて良くないよ」
 
 突然、その頃普通に男子だと思っていたあおいにキス(真似)しようとしたサキがそれ言うか!?

 と思ったものの。

 でも反論はできない。
 そのとおり。

「うん……。
今は本当に反省している」

 と私は俯いた。

「えー。りん、それで怒って先に行っちゃったの?
僕なら全然オッケーなのに」

 とキョウが目を丸くした。
 サキがキョウにジト目を向ける。

「鈴木くんはあおいくんが女の子だって知ってるし、あおいくんのことが好きだからじゃないの。
加藤くんとは立場が全然違う」

「そうだけど」

「じゃあ。
突然加藤くんが鈴木くんの手を握ってきたらどう思う?」

「それは……ビビるね」

「でしょ?」

「でもそれは、僕がりんとまだそこまで仲良くないからだし」

「じゃあ。
仲良かったら手を握られてもオッケーなの?」

「……。
いや。やっぱり手を握られるのはちょっとね」

「ほらね?」

「小学生くらいまでならあったけど……最近はないな」

「ね?」

 2人の会話を聞きつつ、打ちひしがれながらも。

 何でだろう?

 すごく深刻な状況なのに、何だかコメディ調になってるような。
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