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第一部
29話 りんの嫉妬
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翌朝。
りんと私は並んで学校への道を歩いていた。
りんは私の歩調に慣れたのか、私に合わせ私のぴったり隣を歩いてくれる。
私の方も少しは急いでいるが、それでもりんには気を使わせているだろう。
私は少し申し訳なく思いながらも、今朝はちょっとだけ誇らしげだった――何故なら、今朝は私、電車で眠らなかったのだ!
だから少しはりんの役に立ったはず。
電車内でりんと話をする姿を見せることができ、
『こっちは二人だぞ! 変なことするなよ』
と痴漢予備軍の変なオバサンにアピールできたはずだ。
そんなことを考えながら歩いていると、
「昨日どうだった?」
とりんは何だか含みのある笑みを浮かべながら聞いてきた。
「昨日……?」
「キョウと一緒にあおいんち帰っただろ?」
とりんは目をジトーッとさせて言う、
「楽しかったか?」
「うん。まあ」
と返事をしながら首をかしげる。
何だか思わせぶりなりんの態度。不思議だった。
りんは『ふーん』と言う風に唇をとがらせてから言った、
「でも、おれもまだ、あおいんち行ったことないのに。
キョウは転入その日に行っちゃうんだもんなー」
とりんは横目でチラリと私を見る、
「ちょっと嫉妬しちゃったな」
と言うりんの言葉を聞き、私は胸のあたりに『じ~ん』とした感覚が広がるのを感じた。
『嫉妬』
りんがキョウに嫉妬!?
私のことで……?
「えへへ……」
とニヤけると、りんは少し私から体を離した、
「何だよ、あおい……。
何突然……」
「いや……」
『りんが嫉妬してくれて嬉しい』
これって、口に出して言ってもいいのかな?
いや、やめとこう。変な誤解を招くかも(誤解じゃないけど)。
「キョウくんとタケル、結構気が合うみたいでさ?」
と私はごまかすように言った、
「二人とも、何だろ……。
ちょっとタイプが似ているんだろうな?
冷静キャラ? と言うのかな……」
と私が二人を思い浮かべながら言うと、りんは首をかしげた、
「キョウって冷静キャラかなあ?」
それを聞いて私も少し考えた。実はよくわからない。結構適当なことを言った。
「でもさ、あおいって不思議だな」
と言うりんを、私は首をかしげて見た、
「ん?」
「いや、キョウもだけどさ……。
どちらも不思議」
「何で?」
「だってキョウ、あおいのこと『初恋の人』って言っていたじゃん」
とりんは困ったように眉を八の字にしながら言った、
「あおい、気にならないわけ?」
「う……ん……」
確かに、キョウは私を『初恋の人』と言っていた。
小学生時代のこととして、あまり気にせず流していたが……(ちょっと嬉しかったけどね)。
「でも、小学生の頃のことだし」
と私は思ったことをそのまま言った、
「小学生の頃って、世間が狭いだろ?
だから身近なやつを――おれを――好きになったのかなあ、って」
りんは少し考え込んでから言った、
「それでも……。
昔のことでも、男に好きだったと言われたら、ちょっと気まずくなると思うけどな、普通……」
『同性に好きだと言われたら気まずいだろう』と、りんは言っているのだろう。
でも私にとってキョウは同性じゃないからね……そんなに気まずくもないんだ……。
でもそんなことりんは知らないし、言えない。
「でも、ほんと昔のことだし。
キョウくん、今はサキみたいなのが好きだと言っていたし」
「あおい、それ、そのまま信じちゃうのか?」
とりんは私を眉をひそめて見た、
「キョウがあおいに迷惑かけないために嘘を吐いたとか、全然想像しないのか?
あおいがはやし立てられてイヤな思いをしたと思って、キョウは『今は女の子が好き』アピールしたとか、あるかもしれないだろ?
全く考えないのか?」
「……」
私は言葉に詰まってしまった。
りんは、私の戸惑った顔を見て、少しだけ表情を緩めた、
「まあ。おれは……」
りんは私に思わせぶりに微笑んだ、
「あおいに、どんな恋人ができても受け入れるよ」
「えっ……」
「田中(サキ)さんでも。
……キョウでも」
私はりんを軽くにらんだ、
「どっちもない!」
「ふーん」
りんは目を細めて私を見た、
「でも、昨日思ったんだよ。
昨日、
『あおい、タケルくんと電話しているときの言葉遣い、可愛い』
っておれら言っただろ?」
「うん」
「ほんとはさ、その前から思っていた」
「えっ?」
「あおい、タケルくんだけじゃなくて。
キョウへの言葉遣いも、何だか可愛かった」
私は絶句してりんを見つめた。
りんはさらりと続ける、
「あおい、キョウに対して可愛かった。
態度も、言葉遣いも。
いつもより――おれたちと接するときより」
男ってほんと、怖い!
と私は思った。
確かに私はキョウの前では明らかな男言葉を避けていた――『一人称「おれ」を使わない』とか、意識的に気を付けていた。
それに、私のことを女だと知っているキョウに対してはやはり女として接してしまっていると思う。演技しきれないと言うか。
でも、それに気付かれるとは思っていなかった。
『あおいは男』と言う思い込みがあるのだから、私が多少女らしくなっていても、変に思われることはないと思っていた。
しかし。
りんは何かを感じ取ってしまっていたのだ。
『男のカン』で……。
「りん……」
と私は必死に考えた言い訳をした、
「きっと、おれ、キョウの前では小学生時代のテンションに戻ってしまうんだろうな。
ちょっと子どもの頃の自分に戻っちゃうと言うか……」
「ふーん」
とりんは相変わらずの思わせぶりな笑みを続けている、
「何にせよ、あおい、可愛かったよ、昨日は」
りんはニヤリと微笑みを深くする、
「何だか妬いちゃったよ。
あおいにとって、キョウは特別な存在なんだなあって」
ほんと男子って、小悪魔で、怖い。
りんと私は並んで学校への道を歩いていた。
りんは私の歩調に慣れたのか、私に合わせ私のぴったり隣を歩いてくれる。
私の方も少しは急いでいるが、それでもりんには気を使わせているだろう。
私は少し申し訳なく思いながらも、今朝はちょっとだけ誇らしげだった――何故なら、今朝は私、電車で眠らなかったのだ!
だから少しはりんの役に立ったはず。
電車内でりんと話をする姿を見せることができ、
『こっちは二人だぞ! 変なことするなよ』
と痴漢予備軍の変なオバサンにアピールできたはずだ。
そんなことを考えながら歩いていると、
「昨日どうだった?」
とりんは何だか含みのある笑みを浮かべながら聞いてきた。
「昨日……?」
「キョウと一緒にあおいんち帰っただろ?」
とりんは目をジトーッとさせて言う、
「楽しかったか?」
「うん。まあ」
と返事をしながら首をかしげる。
何だか思わせぶりなりんの態度。不思議だった。
りんは『ふーん』と言う風に唇をとがらせてから言った、
「でも、おれもまだ、あおいんち行ったことないのに。
キョウは転入その日に行っちゃうんだもんなー」
とりんは横目でチラリと私を見る、
「ちょっと嫉妬しちゃったな」
と言うりんの言葉を聞き、私は胸のあたりに『じ~ん』とした感覚が広がるのを感じた。
『嫉妬』
りんがキョウに嫉妬!?
私のことで……?
「えへへ……」
とニヤけると、りんは少し私から体を離した、
「何だよ、あおい……。
何突然……」
「いや……」
『りんが嫉妬してくれて嬉しい』
これって、口に出して言ってもいいのかな?
いや、やめとこう。変な誤解を招くかも(誤解じゃないけど)。
「キョウくんとタケル、結構気が合うみたいでさ?」
と私はごまかすように言った、
「二人とも、何だろ……。
ちょっとタイプが似ているんだろうな?
冷静キャラ? と言うのかな……」
と私が二人を思い浮かべながら言うと、りんは首をかしげた、
「キョウって冷静キャラかなあ?」
それを聞いて私も少し考えた。実はよくわからない。結構適当なことを言った。
「でもさ、あおいって不思議だな」
と言うりんを、私は首をかしげて見た、
「ん?」
「いや、キョウもだけどさ……。
どちらも不思議」
「何で?」
「だってキョウ、あおいのこと『初恋の人』って言っていたじゃん」
とりんは困ったように眉を八の字にしながら言った、
「あおい、気にならないわけ?」
「う……ん……」
確かに、キョウは私を『初恋の人』と言っていた。
小学生時代のこととして、あまり気にせず流していたが……(ちょっと嬉しかったけどね)。
「でも、小学生の頃のことだし」
と私は思ったことをそのまま言った、
「小学生の頃って、世間が狭いだろ?
だから身近なやつを――おれを――好きになったのかなあ、って」
りんは少し考え込んでから言った、
「それでも……。
昔のことでも、男に好きだったと言われたら、ちょっと気まずくなると思うけどな、普通……」
『同性に好きだと言われたら気まずいだろう』と、りんは言っているのだろう。
でも私にとってキョウは同性じゃないからね……そんなに気まずくもないんだ……。
でもそんなことりんは知らないし、言えない。
「でも、ほんと昔のことだし。
キョウくん、今はサキみたいなのが好きだと言っていたし」
「あおい、それ、そのまま信じちゃうのか?」
とりんは私を眉をひそめて見た、
「キョウがあおいに迷惑かけないために嘘を吐いたとか、全然想像しないのか?
あおいがはやし立てられてイヤな思いをしたと思って、キョウは『今は女の子が好き』アピールしたとか、あるかもしれないだろ?
全く考えないのか?」
「……」
私は言葉に詰まってしまった。
りんは、私の戸惑った顔を見て、少しだけ表情を緩めた、
「まあ。おれは……」
りんは私に思わせぶりに微笑んだ、
「あおいに、どんな恋人ができても受け入れるよ」
「えっ……」
「田中(サキ)さんでも。
……キョウでも」
私はりんを軽くにらんだ、
「どっちもない!」
「ふーん」
りんは目を細めて私を見た、
「でも、昨日思ったんだよ。
昨日、
『あおい、タケルくんと電話しているときの言葉遣い、可愛い』
っておれら言っただろ?」
「うん」
「ほんとはさ、その前から思っていた」
「えっ?」
「あおい、タケルくんだけじゃなくて。
キョウへの言葉遣いも、何だか可愛かった」
私は絶句してりんを見つめた。
りんはさらりと続ける、
「あおい、キョウに対して可愛かった。
態度も、言葉遣いも。
いつもより――おれたちと接するときより」
男ってほんと、怖い!
と私は思った。
確かに私はキョウの前では明らかな男言葉を避けていた――『一人称「おれ」を使わない』とか、意識的に気を付けていた。
それに、私のことを女だと知っているキョウに対してはやはり女として接してしまっていると思う。演技しきれないと言うか。
でも、それに気付かれるとは思っていなかった。
『あおいは男』と言う思い込みがあるのだから、私が多少女らしくなっていても、変に思われることはないと思っていた。
しかし。
りんは何かを感じ取ってしまっていたのだ。
『男のカン』で……。
「りん……」
と私は必死に考えた言い訳をした、
「きっと、おれ、キョウの前では小学生時代のテンションに戻ってしまうんだろうな。
ちょっと子どもの頃の自分に戻っちゃうと言うか……」
「ふーん」
とりんは相変わらずの思わせぶりな笑みを続けている、
「何にせよ、あおい、可愛かったよ、昨日は」
りんはニヤリと微笑みを深くする、
「何だか妬いちゃったよ。
あおいにとって、キョウは特別な存在なんだなあって」
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