あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第一部

26話 三人の帰り道

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 だんだんと放課後の教室は人が少なくなっていった。
 私はりんのところへ行った、

「もう帰る?」

 帰りも一緒に帰ることにしたのだ。
 電車内でいつ変なオバサンがりんに近づくかわからないし。
 まだ帰りの電車では会ったことがないと言うものの心配だし。
 一緒に帰る口実にもなるし……(こっちがメイン? 最低だ私って……)

「あ。うん。その前にトイレ寄ってもイイか?」

「うん」

 私たちは教室を出た。
 私は教室を出る前に、キョウに軽く手を上げて『バイバイ』した。
 キョウもニコニコ手を振ってくれた。
 あんまり堂々とニコニコ手を振られたら、またボーイズラブだとまわりに思われそうだけど……。
 キョウならのらりくらりとかわすか。
 先ほどの皆とのやりとりを思い返すとキョウのことはさほど心配しなくてよさそうだ。私よりずっとしっかりしている(私の方が色々と心配)。
 少しホッとする。

 私がトイレの前で預かったりんのカバンを持ちながらりんを待っていると、キョウがブラブラ歩いてきた。

「あ。あおいちゃん」

 とキョウは私に気付くと寄ってきて不満をこぼした、

「ホントはさあ。
あおいちゃん、一緒に帰ろうって誘ってくれないかなあって思っていたんだけど」

 と言うとにっこりした、

「誘ってくれなかったから、僕から誘うね。
ひとり?
一緒に帰らない?」

 私はまわりを伺い、小さな声で言った、

「キョウくん。
私たちあまり人前ではしゃべらないようにした方がイイと思うけどな……」

「別に普通に話していても変じゃないでしょ。
幼なじみなんだしさ」

 とキョウは私の立っている横に並んだ、

「逆にあんまり避け合う方が疑われるよ」

 私はちょっと考えてから、頷いた――確かにキョウの言うとおりなのかもしれない。
 『意識しすぎであやしい』みたいに思われるかも?
 
「一人じゃないの。
りんと一緒に帰るんだ。
キョウくんも一緒に帰る?
駅の方だけど」

「僕んちは駅の手前だから。
途中まで一緒に帰ってイイ?」

 私は頷いた。
 りんも了承するだろう。

 りんを待っている間。
 私は先ほどのことを聞こうと、隣に立つキョウに笑顔で話しかけた、

「さっきの女子への返し、すごかったねえ。
ちゃんとボーイズラブの誤解解いちゃって。
サキと打ち合わせでもしていたの?」

「いや、アドリブだよ」

 とキョウは何でもないように言った、

「名前と顔が一致している女の子が田中(サキ)さんだけだったからね。
田中さんの名前を出させてもらった。
田中さんの返答も普通にそのとき思ったことをそのまま言っただけでしょ。
『僕がうざい』みたいなこと言っていたよね?」

 と言ったあとキョウは私を横目で見ながらニヤリとした、

「あおいちゃん。
本気にしてないよね?」

「何?」

「僕、田中さんみたいなクール系の美人、ほんとはタイプじゃないんだ」

「ほんと~?
私のまわりの男の子は皆サキが好きだよ。
『高嶺の花』とか言いながら、彼氏ができそうに見えると落ち込むんだ」

 と私が笑いながら言うと

「そっか」

 とキョウも微笑んだ、

「でも僕は違う。
僕のタイプは……」

「あおい、お待たせ」

 とりんが手をハンカチでふきながらやってきた。
 キョウを見て、いぶかしげに少し眉をひそめる。
 私はりんにキョウを手の平で示しながら言った、

「キョウくんとさっき会って。
途中まで一緒に帰りたいって言うんだけど。
いい?」

「いいかな?」

 とキョウはニコッとりんを見た。
 りんも遠慮がちな微笑みを返す(人見知り)、

「もちろん。
……鈴木くん」

「キョウでいいよ。
えっと……」

「「りん」」

 とりんと私は声をそろえた。

「加藤りん」

 とりんは改めて言った。

「りん。
可愛い名前だね?」

 とキョウは語尾にハートマークを付けているように甘ったるく言った。


※※※

 私たちは、右側から私、りん、キョウと言う並びで歩いていた。

 夕日に照らされて、道路には私たち三人の影が映っていた。
 りんの影が1番長く、その次に長いのが男子の平均身長より少し低いキョウの影。
 1番小さい影が私だ。
 
 私が影をぼんやり見ていたことに気付いたのか、それとも全く関係ないのか、キョウがふと言った、

「りんって身長いくつ?」

「175行かないくらいかな?」

 とりんは淡々とした口調で答えた。

「へえ~。
ちょうどいいくらいだよね」

 とキョウは感心するようなおだてるような口調で言った、

「僕ももうちょっと伸びる予定だったんだけどね」

 とキョウは自分の頭頂部より5センチほど高い位置に自分の手の平をかざす、

「これくらいは欲しかったな」

「う、うん。
そっか……」

 とりんは戸惑ったような返事を返す。

 りんの考えていること、私わかるよ!
 『あおい(160センチ)の前で身長の話をするのはどうかと』と思ってハラハラしているんでしょ!

 私はホントは女子だし特に身長の話なんとも思わないけど……。

 私は自分のためと言うより気まずそうなりんのために話題を変えた、

「キョウくん、今度うちに遊びに来てよ」

「えっ。あおいちゃんち?」

 とキョウはりんの体越しに驚いた顔を突き出す。
 りんは何故かギョッとした顔で私を見た。

「え~?
どうして?」

 とキョウはニコニコした顔を向け、りんはキョウと私の間で、もじもじと居心地が悪そうに体を後ろに引いた。
 
 私の発言、何か誤解されている?
 私は慌てて『キョウに家に来て欲しい理由』を言った、

「タケルも、キョウくんに会いたいだろうから。
キョウくん、タケルのこと覚えてるよね?」

「あっ。タケルくん?」

 とキョウは一瞬目を丸くし、笑顔になった、

「わ~。
懐かしいなあ……。
元気?」

「元気だよ」

「タケルくんって?」

 と聞いてきたのはりんだった。

「あ。弟」

 と私は自分を指差した。

 どうもキョウの前ではできるだけ『おれ』を使いたくないので、一人称を何とか削ろうとしてしまう。
 自分指差しで一人称を削る。テクニックだ(ほとんど役に立たない)。

「タケルくんってどんな子?
あおいに似てる?」

 とりんは興味深げに聞いてくる。
 何にせよ、りんに興味を持たれるのは少し嬉しい。

「ん~」

 私はスマホを取り出しタケルの写真を探した。
 私たちは姉弟で写真を撮り合ったりはあまりないけど、何とか写真を一枚見つけた。
 りんに見せる。

「似てるねー」

 とりんは目を細めた。
 よくわからないが他人から見ると私たち姉弟は似ているらしい。

 キョウもスマホの画面をのぞき込んできた、

「タケルくん、大きくなったね。
そりゃそうか。
最後に会ったのはもう5年以上前だもんね。
僕はタケルくんのこと覚えているけど、タケルくんはあまり覚えていないんじゃない?
まだ小さかったし」

「(自分を指差しながら)小6のとき転校したから、タケルはその頃小学二年生か。
今、中一だからね」

「小学二年生って記憶あるかな?」

「あるよ~それは……。自分だってあるでしょ?
それにタケル、キョウくんの名前、たまに出すし」

「えっ。ほんと~?
何か嬉しいなあ……」

 キョウはもう一度スマホ画面に映るタケルの顔を見返す、

「ほんと大人っぽくなったよね。
年重ねたんだから当たり前だけど」

「もうタケルに背、追い抜かれちゃったよ」

 と私は自分を指差しつつ笑って言ってから、『は! また身長の話に自分から戻ってしまった!』と思った。

 キョウは身長の話は流してくれた、

「いつ家行ってもイイ?」

「いつでもいいよー。
あ、でもタケルがいないと意味ないから、タケルの都合はあるけど」

「今からは?」 

 とキョウはさらりと言った。
 私はキョウの行動力にビックリしたが、『まあ、いいか……』と思った。
 スマホで時間を確認すると、午後5時少し前。
 タケルも家に帰っていても良い時間だ。

「でもキョウくん、転入初日で疲れてないの?」

 と聞いたが、キョウは首を振った、

「特に疲れてない」

「じゃあ……」

 と私はタケルに電話した。

『……何だよ、お姉ちゃん……』

 と機嫌の悪いタケルの声がスマホから聞こえてくる。
 音、漏れてないよね? と私は少しりんから離れた。『お姉ちゃん』と呼ばれているのがバレるとマズイ。

「タケル、家にいるの?」

『そうだけど?』

「これからどっか出かけるとかないよね?」

『ないけど。
何で?』

「今からちょっと……用があるんだ」

『何?』

「う~ん……」

 私はキョウをチラリと見た。

「キョウくんって、覚えてるよね?」

 と私は少し早口で言った、

「今日、キョウくんと偶然会って。
それでタケルも会いたいかなあと思って……今から」

 よくよく考えてみると。
 タケル、キョウを覚えてはいるだろうけど、再会を喜ぶくらい覚えているかなあ……、と少し心配してしまった。
 いや、二人――タケルと私――でキョウくんとの昔話とかした後なら懐かしくなって会いたくなる、とかはあると思うけど、いざ下準備なしに突然会うとなると戸惑ったりしないだろうか?
 先ほどはキョウへのリップサービスもあって『さぞタケルはキョウに会いたがっている』風に言ってしまったけど。
 よく考えてみたら、私よりキョウとの関係は薄いのだ。私ほど感動はないのかもしれない――キョウと再会しても。
 『タケルもキョウに会いたいだろう』なんて軽く言わなければ良かったかな、と思ってしまったが……。

 しかし心配ご無用だった。

『えっ?
キョウくん!?
えっ? あのキョウくん?』

 とタケルは声だけでも喜んでいるとわかる反応をした、

『ほんと?
今から来るの?
お菓子とか用意して待ってるわ~』

 そう言うとタケルは電話を勝手に切った。
 私はそっとため息を吐いた。

「タケル、家にいるって」
 
 と私がキョウとりんに顔を向けると、キョウはニコニコ、りんがニヤニヤしている。
 『?』と首をかしげると、りんは言った、

「今、キョウとも話していたんだけど。
あおい、弟と話すとき何か可愛い」

「えっ」

「何か……優しい、って言うか。
言葉遣いが」

「『お姉ちゃん』って感じ」

 とキョウがニコニコ言った。こいつ……。
 りんがキョウに同意した、

「そうそう。
『兄貴』と言うより『お姉ちゃん』だよなあ。
おれの兄ちゃん、おれに対してそんなに優しい口調で話してくれないし」

「あおいちゃんは良い『お姉ちゃん』だよ」

 とりんに乗るふりをしつつ、私をからかうキョウ。
 キョウくんも小悪魔だな、と私は思った。たいていの男子って小悪魔なんだ……。
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