あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第一部

24話 サキの助け船

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 私は、笑顔ながらも不思議そうな顔をしているキョウとしばらく向き合っていた。
 向き合っていたというか、身動きが取れなかったと言うか……。

 そのとき、

「あっ。そー言えば」

 と言う棒読みの声が聞こえてきた。
 声のした方を見ると、サキがぎこちない笑みを浮かべながら、キョウに話しかけていた、

「鈴木(キョウ)くん、先生が鈴木くんのこと呼んでいたよー。
職員室行こー。
場所まだあやふやでしょー。
私が一緒に行ってあげるー」
 
 明らかに不自然な棒読みだったが、優等生のサキだからだろう。
 誰も疑問を持たなかったようだ。

「行っておいでー、鈴木くん」

「また、後で色々聞かせてね」
 
 と女子に見送られつつ、キョウはサキの後に付いていった。
 サキはキョウを連れてく最中、一瞬だけ私と目を合わせた。
 後で合流してこい、と目配せしたのだろう。

 しかし、サキとキョウが教室を出て行った後、私は女子に囲まれてしまった。

「ねえ、鈴木くんって昔からああなの?」

「ああ?」

 と聞き返す私はきっと引きつった笑みを浮かべていただろう。

「昔からボーイズラブなの?」

「いや、それ聞くまでもないでしょー。
本人が『佐藤くんが初恋の人』って言ってんだから」

「お、おれ、ちょっとトイレ行ってくる」
 
 と私は抜け出した。
 不自然だっただろうが、居たたまれなくて逃げたようにしか見えないだろう。
 今からキョウに話――根回し?――をしに行くようには見えなかっただろう。

 教室から出るとサキが廊下の先の方からこちらにやって来るのが見えた。
 私がサキの姿を見ながら小走りになると、サキも私に気付いたようだ。立ち止まって私が来るのを待っている。

 私がサキのすぐ近くまで行くと、サキは再び歩き始めた。
 私が駆け足で距離をつめ隣に並ぶとサキは言った、

「鈴木くん、この先の階段の踊り場にいるよ。
あそこならあまり使われていない階段だし、秘密の会話しても大丈夫でしょ。
一応見張っているけどさあ」

「ありがとう、サキ」

 私が階段を登っていくと、踊り場にいたキョウが私の足音に気付き顔を上げた。
 不安そうな顔が、私を認めるとパッと明るくなる、

「あおいちゃん、ホントに来たー。
良かったー。
ビックリしたよ、さっきの子、職員室に連れて行くとか言いながらこんな寂しいところに連れて来るんだから。
『あおいちゃんももうすぐ来る』って言っていたけどさ。
何かされるかと思ったよ。怖い先輩とか呼ばれてカツアゲとか?」

「聞こえてますけど?」

 とサキの冷たい声が階段の下から聞こえた、

「わりと響くみたい。
もっと小さい声で話して」

 キョウは肩をすくめて、小さい声で言った、

「あの子美人だけど、性格きつそうだね」

 私はキョウに苦笑いを返し、サキにも聞こえるよう声を落とさず言った、

「サキは良い子だし、カツアゲなんてしないよ」

 それから声を落として言った、

「まあキョウくんは転入初日だからサキのこと知らないし、しかたないねぇ。
サキは美人だからか、見た目クールに見えるしね……」

 どちらに対しても気を使うのだ。


※※※

 私はキョウと改めた調子で向かい合った。
 私はもしかすると怖い顔をしていたのかもしれない――真面目な顔をしていたつもりだったけど。
 キョウは私を不思議そうな顔で見ていたが、だんだん困った顔になっていった、

「あおいちゃん、あの……」

 とキョウは何か言いかけたが。
 私は皆まで聞かずに、キョウの足下に崩れ落ち、頭を下げた。
 土下座ってしたことないから、わからないけど、これであってる?

「キョウくん、ごめん!」

「えっ!?」

 キョウもしゃがんで私に目線を合わせてきた、

「どう言うこと!?
いや。
今、僕の方が謝ろうとしたんだけど。
いきなり初恋の話とかして……皆にはやし立てられちゃって……
イヤな思いさせちゃっただろ?
だからあおいちゃん怒っているのかなあ、って思ったんだけど……」

 いや。
 今から私の言うことを聞くと、キョウの発言によってこれから困ったことになるのはキョウ自身だと知るはず。
 キョウは『男子高校生と皆に認識されているあおいが初恋の人』と言ってしまったことで、クラスの皆に『ボーイズラブ』、『ゲイ』と誤解されてしまったのだから。

「キョウくん!
ホントごめん。
ホントごめんだけど……。
あのね、キョウくんはね、ゲイだって皆に思われているの!」

 キョウは狐につままれたような顔をした、

「ん? ん?
え? 何?」

「あおいくん……。
意味不明なこと言い出したと思われているよー」

 とサキの声が階段の下から聞こえた、

「あと声が大きい」

「あの。えーと。
キョウくん。
私ね、今、男なの」

 と私は自分を指差しながら言った。
 キョウは頭の上に『?』マークをたくさん並べているような顔をした、

「えっ?
ん~?」

 キョウは目を丸くしながら私を見、ピタッと視線を私の胸あたりにそそぎつつ固まった、

「そう言えば、あおいちゃん男子の制服着ているよね。
罰ゲームか何かかなあとか思っていたんだけど……えっ?」

 キョウは落ち着かない様子で体を動かした、

「あおいちゃん、男だったの……?」

「いや……」

「僕、先生にクラスメートを覚えやすいよう名簿をもらったんだけど。
それにあおいちゃんの名前を見つけて、女子の中に、あおいちゃんの面影のある子はいないか探したんだよ。
でもなかなか見つからなくて……それでクラスの子に『佐藤あおいちゃんってどの子?』と聞いて。
そしたら『佐藤くんはあの子だよ』とか言われて。
この学校の子って、女の子にも『くん付け』するんだなあとか思ったんだけど。
ん?」

 キョウは私を見て難しい顔をしながら首をかしげ再び言った、

「あおいちゃん、男の子だったの……?」

「いや……」

 キョウは先ほどとは反対方向にまた首をかしげる、

「えっ?
でも……女の子だったよねぇ、昔は……」

 顎に手を持っていき『!?』と言う顔をする、

「それとも昔から男の子だったの!?
でも僕の記憶では女の子なんだけど……普通に……。
うん?
水着とか見た気もするけど……」

「早く説明してあげなよ」

 とサキの冷めた声が下から聞こえた。

 私はキョウに『これまでのいきさつ』を長々と語った。


※※※

 話し終わったあと、私は改めて

「ほんとごめん!」

 と謝った。

 キョウは「いいよ」と首を振ったあと、困ったような笑顔になった、

「そんなことあるんだね~。
学校側も共犯かあ……」

「うん……」

「僕、ボーイズラブ発言しちゃったのかあ……」

 とキョウはつぶやいた。

「そうなの。
ごめんね。
どうしよう?」

「まあ、別にいいよ」

 とキョウはアッサリ言った、

「あと1年とちょっとで卒業だし。
彼女とか作れると思ってないしね。
受験もあるし。
別にボーイズラブに思われても支障ないと思う」

「ほんと大丈夫?」

「大丈夫よ」

 と答えたのはキョウじゃなかった。
 声のした方を見ると、サキが階段を上ってくるところだった。
 『何故サキが答えるのか』と言う視線を送ると、サキは肩をすくめて『大丈夫な理由』を言った、

「女子は『レズはともかくゲイは問題無し。むしろ好き』みたいな子多いし。
偏見あんまりないんじゃない?
イヤな思いすることないと思うけどな。
男子は知らないけど」

「う~ん……。
でもね。
偏見もあるかもだけど。
事実とは違うことを――異性愛者なのに同性愛者と――認識されちゃうのも問題かもね?」

「それ、女なのに男のフリしているあおいちゃんが言う?」

 とキョウがおかしそうに言った。
 いや全くその通り……。

「なるほどね。
じゃあさ、鈴木くん、私と付き合う?」

 とサキがこともなげな様子で唐突に言った。

「「えっ」」

 とキョウと私は声をそろえた。

「もちろん『フリ』だよ」

 とサキは両手の平を私たちに向けながら言った、

「私と。
つまり女子と付き合えば――付き合うフリだけど――鈴木くんもうボーイズラブには見えないでしょ?
少なくとも『バイ』に見えるよ。
鈴木くんのもともとの性的指向に近づくでしょ」

「いや。そこまでしなくてもいいよ」

 とキョウも両手の平をサキに向けた、

「そんなの気まずいし」

「気まずいくらい、しかたないでしょ」

「君、ちょっと怖そうだし」

「……」

 サキはキョウを黙ってにらむ。
 キョウはそんなサキを見ても、

「ほら、やっぱり怖い」

 とめげずに言った。

「それにさあ、そんなことしても、結局同じだろ?
皆に事実じゃないことを認識されるって言う点では……。
実際は付き合ってないのに、付き合ってるフリとか」

 とキョウが言うと、サキは口をとがらせてから「確かにね」とつぶやいた後、続けた、

「でも、できるだけ自分が居心地の良い環境にするのが一番いいんじゃない?
他人なんて他人のことそんなに気にしちゃいないんだから。結局のところ。
まず自分第一に考えて、その結果多少嘘吐くことになってもしかたないと思う」

「じゃあボーイズラブと思われる方でいいや。
君と付き合うフリするより」

 とキョウがアッサリ言うと、サキは再びキョウをにらんだ。
 キョウはサキの非難がましい視線を受け、言い訳をする、

「あ、いや。
別に君と一緒にいるのがイヤだと言ってるわけじゃないよ?」

「そう言ってるも同然でしょ!
こっちだってホントはイヤなんだから……。
ただあおいくんに余計な罪悪感とか持って欲しくなくて提案したんだから」

「あおいちゃんと仲良いんだね?」

「そんなに仲良くないよ!」(えっ?)

「じゃあどうして?」

「別に関係ないでしょ!」

 二人の会話を聞きながら。
 意外とこの二人、気が合いそうだな。
 そんな場合じゃないのに私はそんなことを思ってしまった。
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