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第一部
22話 転入生
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学校に着き、教室までの廊下を歩いていると、
「あおいくん、加藤くん、おはよー」
と言う声が追いかけてきた。
振り返るとサキがいた。
「おはよう、サキ」
と私は、できるだけ不自然にならないよう気を付けて、笑顔を返した。
サキを見ると、サキも何だか頑張って笑顔を作っている感があった。
それでもお互い笑顔だ。よかった、とちょっとだけ思う。
「おはよう、田中さん」
と言うりんの声にも、どぎまぎした調子が含まれているのを感じた。
りんの場合は憧れの美少女に対しての緊張感からだろう。一時は『悪いオンナ』扱いのサキだったが誤解が解けて、再び『憧れの美少女』に戻ったのだ。
誤解を解かずそのままにしておけばよかった、と一瞬思ってしまった。ごめん(りんにもサキにも)。
「今日転入生が来るんだよー」
とサキがハキハキした調子で言った、
「珍しいよね?」
「そうなんだ」
「ちょっと変な時期だね」
「そうだよね。2年の秋。
あと1年とちょっとで高校卒業なのに。
一人暮らしをしてもいいんじゃないかなって思うよね。
あおいくん以上に」
サキには私が何故男装するようになったかのいきさつを話してある。
サキは私が一人暮らしを嫌がったために男装高校生になったことを知っているのだ。
「あおい以上に?」
とりんが首をかしげると、サキはどこか得意げに言った、
「あおいくん、一人暮らしがイヤで転入する方を選んだって言っていたよね?」
「うん、そうなんだよ。
りんには話してなかった?」
「あおいが転入生ってのは知っているけど、転入の理由までは聞いてなかったなー」
りんは笑った、
「聞いちゃいけない事情があるのかもと思って、聞かなかったのかな。
でも一人暮らしがイヤとか言う理由だったのか。
あおいらしー」
『聞いちゃ行けない事情があるのかもと思って、聞かなかった』。
何を勝手に察したんだよ、りん!
「聞いちゃいけない事情か……確かにあるっちゃあるねぇ」
とサキは私にだけ聞こえるような小さい声で言うと、ニヤリとした。
こいつ楽しんでやがる?
私がにらむと、サキは素知らぬ顔でりんに視線を移して、言った、
「転入生、男子だよ。
私もう会ったけど、ちょっと可愛い子だったよ。
あおいくんと同じ可愛い系男子、って感じね」
サキは私を横目で見て、ニヤリとした、
「まあ、私のタイプじゃないけどね……」
「田中さん、どんな子がタイプなの?」
とりんがさりげない調子で聞いた。
さりげない調子、と言うか、さりげない調子を装った感じ、と言うか。
ちょっと勇気を出した感ありありの緊張した声だった。
『憧れの美少女』へ頑張って質問したのだ……。
「可愛い子がタイプだよ」
とサキはニッコリした。
りんのハートにヒビが入る音が聞こえた気がした。
りんの容姿は可愛いと言うより明らかにカッコイイからね。
タカから『サキは可愛い系男子が好き』と言う情報は聞いていたものの、本人から直接聞くとやはりショックなのだろう。
「でも転入生は可愛い系男子だけど、田中さんのタイプではないと……」
「可愛いにも色々あるからね」
とサキはウンウンうなづいた。
りんは困ったような曖昧な笑顔を浮かべている。
私がサキを見るとサキは目を細めて意味ありげに私を見た。
りん、サキは『可愛い男子』ではなく『可愛い女子』が好きなんだよ……。
とも言えずに私は黙々と歩いた。
※※※
「転入生だ。
仲良くな」
と先生が連れてきたのは、サキが言うように可愛い男子だった。
私(160センチ)より身長はやはり高いが、男子の平均身長よりは何センチか下。
可愛い顔にニコニコした愛嬌のある笑顔を浮かべている。
これは女子にモテそう。私も少しトキめいた。
「鈴木キョウです。
よろしくおねがいします」
鈴木キョウくん……。
半年前の私と同じ転入生。
優しくしてあげようと思った。
りんが私にしてくれたように、お弁当のときひとりぼっちだったら声をかけてあげよう!
しかし『転入生ブースト』が起きたようで全くその心配はいらなかった。
お弁当の時間。
キョウは数人の男子と楽しそうにお弁当を食べていた。
お弁当を食べ終わった女子も何人か、立ちながら話に参加している。
輪の中で楽しそうにしているキョウを見て、私はこっそり口をとがらせた。
私だって転入生ブーストが使えたらああだったんだ!(嫉妬?)
「女子って、ああ言う子が好きなのなー」
とりんがボソッとつぶやいた。
りんを見ると、お弁当を食べながらキョウの方を沈んだ顔で見ている。
りん、落ち込んでいる!?
サキの『可愛い子がタイプ』発言のせい?(美人は罪作り)
「そんなことないと思うよー。
女子にも色々いるからね!」
と私はりんを励ましたくて言った。
「あおいに女子の気持ちがわかるのか?」
とケイがニヤニヤした。
「あおいよりおれのほうがまだわかると思うよ」
とハヤトがニヤリと自分を指差した。
「何でだよ?」
「おれ、姉ちゃんがいるからな」
と得意そうに言うハヤト。
何だ、その理由。
姉ちゃんがいたからって女心は男にはわからないでしょ!
私と言う姉がいるタケルが女心をわかっているとは思えないもの。
「可愛い男子かあ。はあ」
とりんは相変わらずの様子だ。
「かっこいい男子もモテるだろー?」
と私はりんを元気づけようとしたが、
「はあ。いいよなあ、モテる男は……」
とりんはさらにため息をついた。
そう言えばりんは自分のことをカッコイイとは思っていないんだった。
じゃあどう慰めればいいんだろう?
「何だよりん。
急に彼女が欲しくなったのか?」
とケイがニヤニヤしている。
りんは口をとがらせた、
「だってさ、そのうちあおいにも彼女できそうだし」
「「「えっ」」」
とケイとハヤトと私は同時に言った。
「えぇっ」
と私は再びりんに向けて言った。
りんは頬を膨らてから、ジトーとした目を私に向けて言う、
「あおいと田中さん、今朝話したとき、二人で意味ありげな視線を交わしたりしてただろ?
田中さん、あおいにだけ聞こえるような声であおいに話しかけたりしていたし。
おれ居心地悪かったし。
あおい、なんだかんだ言って結局田中さんと付き合うんだろ?
おれ、今から覚悟しとくわ。ショック受けないように」
そう言えば男子ってものすごく勘が良いんだった!
少しの仕草で何かを感じ取ってしまうのだ。
私は少し困りながらも、りんに、
「いや、ないって……」
とだけ言って、ぎこちなかっただろうが微笑んだ。
「えー。マジかよ……。
てか何だ。何か急展開?」
とケイが目を丸くしている。
私は『ない』と言っているのに、りんの方を信じているようだ。日頃の行いのせい?
ちなみにケイとハヤトにも、サキの『悪いウワサ』の誤解はもう解いてはある。昨日のうちに連絡したのだ。学校で人がいるところでなかなかできる話題じゃないし……。
「あおいの青春だもの……」
とハヤトは暗い顔で言った。
明らかに『憧れの美少女』に恋人ができるかもしれないとショックを受けている。
ケイがハヤトの肩をポンと叩いた、
「いや、ハヤト。りん。
逆に考えるんだ!
あおいはおれたちの『希望の星』だと!」
あおいみたいな地味男子に、あんな美少女の恋人ができるなんて!
じゃあおれたちだって!
とか思っているのかケイのヤロー……。
「あおいくん、加藤くん、おはよー」
と言う声が追いかけてきた。
振り返るとサキがいた。
「おはよう、サキ」
と私は、できるだけ不自然にならないよう気を付けて、笑顔を返した。
サキを見ると、サキも何だか頑張って笑顔を作っている感があった。
それでもお互い笑顔だ。よかった、とちょっとだけ思う。
「おはよう、田中さん」
と言うりんの声にも、どぎまぎした調子が含まれているのを感じた。
りんの場合は憧れの美少女に対しての緊張感からだろう。一時は『悪いオンナ』扱いのサキだったが誤解が解けて、再び『憧れの美少女』に戻ったのだ。
誤解を解かずそのままにしておけばよかった、と一瞬思ってしまった。ごめん(りんにもサキにも)。
「今日転入生が来るんだよー」
とサキがハキハキした調子で言った、
「珍しいよね?」
「そうなんだ」
「ちょっと変な時期だね」
「そうだよね。2年の秋。
あと1年とちょっとで高校卒業なのに。
一人暮らしをしてもいいんじゃないかなって思うよね。
あおいくん以上に」
サキには私が何故男装するようになったかのいきさつを話してある。
サキは私が一人暮らしを嫌がったために男装高校生になったことを知っているのだ。
「あおい以上に?」
とりんが首をかしげると、サキはどこか得意げに言った、
「あおいくん、一人暮らしがイヤで転入する方を選んだって言っていたよね?」
「うん、そうなんだよ。
りんには話してなかった?」
「あおいが転入生ってのは知っているけど、転入の理由までは聞いてなかったなー」
りんは笑った、
「聞いちゃいけない事情があるのかもと思って、聞かなかったのかな。
でも一人暮らしがイヤとか言う理由だったのか。
あおいらしー」
『聞いちゃ行けない事情があるのかもと思って、聞かなかった』。
何を勝手に察したんだよ、りん!
「聞いちゃいけない事情か……確かにあるっちゃあるねぇ」
とサキは私にだけ聞こえるような小さい声で言うと、ニヤリとした。
こいつ楽しんでやがる?
私がにらむと、サキは素知らぬ顔でりんに視線を移して、言った、
「転入生、男子だよ。
私もう会ったけど、ちょっと可愛い子だったよ。
あおいくんと同じ可愛い系男子、って感じね」
サキは私を横目で見て、ニヤリとした、
「まあ、私のタイプじゃないけどね……」
「田中さん、どんな子がタイプなの?」
とりんがさりげない調子で聞いた。
さりげない調子、と言うか、さりげない調子を装った感じ、と言うか。
ちょっと勇気を出した感ありありの緊張した声だった。
『憧れの美少女』へ頑張って質問したのだ……。
「可愛い子がタイプだよ」
とサキはニッコリした。
りんのハートにヒビが入る音が聞こえた気がした。
りんの容姿は可愛いと言うより明らかにカッコイイからね。
タカから『サキは可愛い系男子が好き』と言う情報は聞いていたものの、本人から直接聞くとやはりショックなのだろう。
「でも転入生は可愛い系男子だけど、田中さんのタイプではないと……」
「可愛いにも色々あるからね」
とサキはウンウンうなづいた。
りんは困ったような曖昧な笑顔を浮かべている。
私がサキを見るとサキは目を細めて意味ありげに私を見た。
りん、サキは『可愛い男子』ではなく『可愛い女子』が好きなんだよ……。
とも言えずに私は黙々と歩いた。
※※※
「転入生だ。
仲良くな」
と先生が連れてきたのは、サキが言うように可愛い男子だった。
私(160センチ)より身長はやはり高いが、男子の平均身長よりは何センチか下。
可愛い顔にニコニコした愛嬌のある笑顔を浮かべている。
これは女子にモテそう。私も少しトキめいた。
「鈴木キョウです。
よろしくおねがいします」
鈴木キョウくん……。
半年前の私と同じ転入生。
優しくしてあげようと思った。
りんが私にしてくれたように、お弁当のときひとりぼっちだったら声をかけてあげよう!
しかし『転入生ブースト』が起きたようで全くその心配はいらなかった。
お弁当の時間。
キョウは数人の男子と楽しそうにお弁当を食べていた。
お弁当を食べ終わった女子も何人か、立ちながら話に参加している。
輪の中で楽しそうにしているキョウを見て、私はこっそり口をとがらせた。
私だって転入生ブーストが使えたらああだったんだ!(嫉妬?)
「女子って、ああ言う子が好きなのなー」
とりんがボソッとつぶやいた。
りんを見ると、お弁当を食べながらキョウの方を沈んだ顔で見ている。
りん、落ち込んでいる!?
サキの『可愛い子がタイプ』発言のせい?(美人は罪作り)
「そんなことないと思うよー。
女子にも色々いるからね!」
と私はりんを励ましたくて言った。
「あおいに女子の気持ちがわかるのか?」
とケイがニヤニヤした。
「あおいよりおれのほうがまだわかると思うよ」
とハヤトがニヤリと自分を指差した。
「何でだよ?」
「おれ、姉ちゃんがいるからな」
と得意そうに言うハヤト。
何だ、その理由。
姉ちゃんがいたからって女心は男にはわからないでしょ!
私と言う姉がいるタケルが女心をわかっているとは思えないもの。
「可愛い男子かあ。はあ」
とりんは相変わらずの様子だ。
「かっこいい男子もモテるだろー?」
と私はりんを元気づけようとしたが、
「はあ。いいよなあ、モテる男は……」
とりんはさらにため息をついた。
そう言えばりんは自分のことをカッコイイとは思っていないんだった。
じゃあどう慰めればいいんだろう?
「何だよりん。
急に彼女が欲しくなったのか?」
とケイがニヤニヤしている。
りんは口をとがらせた、
「だってさ、そのうちあおいにも彼女できそうだし」
「「「えっ」」」
とケイとハヤトと私は同時に言った。
「えぇっ」
と私は再びりんに向けて言った。
りんは頬を膨らてから、ジトーとした目を私に向けて言う、
「あおいと田中さん、今朝話したとき、二人で意味ありげな視線を交わしたりしてただろ?
田中さん、あおいにだけ聞こえるような声であおいに話しかけたりしていたし。
おれ居心地悪かったし。
あおい、なんだかんだ言って結局田中さんと付き合うんだろ?
おれ、今から覚悟しとくわ。ショック受けないように」
そう言えば男子ってものすごく勘が良いんだった!
少しの仕草で何かを感じ取ってしまうのだ。
私は少し困りながらも、りんに、
「いや、ないって……」
とだけ言って、ぎこちなかっただろうが微笑んだ。
「えー。マジかよ……。
てか何だ。何か急展開?」
とケイが目を丸くしている。
私は『ない』と言っているのに、りんの方を信じているようだ。日頃の行いのせい?
ちなみにケイとハヤトにも、サキの『悪いウワサ』の誤解はもう解いてはある。昨日のうちに連絡したのだ。学校で人がいるところでなかなかできる話題じゃないし……。
「あおいの青春だもの……」
とハヤトは暗い顔で言った。
明らかに『憧れの美少女』に恋人ができるかもしれないとショックを受けている。
ケイがハヤトの肩をポンと叩いた、
「いや、ハヤト。りん。
逆に考えるんだ!
あおいはおれたちの『希望の星』だと!」
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