あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第一部

21話 りんと学校へ

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 転入当時を思い出しながら歩いているうちに駅に着いた。
 私の方がりんより学校から遠いところに住んでいるので、りんより電車に乗る時間が早い。
 りんとは2両目に乗ると言う約束をしているので、私は2両目のドアが開く部分に並び乗り込んだ。

 人が少ないのでまだ座れる。
 りんが乗ってきたら、代わってあげるんだ……とか思いながら私は一列シートの真ん中あたりに座った。

 ……。

 ガクッと首が下に落ちる感覚で、ハッ! と目が覚めた。
 
 いつの間にか眠っていた。
 私は顔を上げると、まわりをキョロキョロ見渡した。
 ここはどこ……? と確認するために。
 まだりん乗って来ていないよね? と目の前を見ると。

「り、りん……!」

 目の前にりんが立っていた。
 りんは私の声に気がつくと、微笑んだ、

「おはよ、あおい」

「起こしてくれたら良いのに……」

 りんは肩をすくめると、笑った、

「だって寝顔、可愛かったし……」

「嘘だー」

 と私は苦笑いすると、腰を浮かせた、

「変わろうか?
座る?」

「いや、いいよ」

「いや、いいよ」

「いや、いいよ。
もうすぐ着くし」

「えっ」

 と私が声を上げてすぐ、

「終点~。
〇〇駅です……」

 と言う車掌さんのアナウンスが聞こえてきた。

 私はどれだけ寝ていたのか……。
 せっかくりんと同じ電車に乗ったのに、情けない。 

 りんと私は電車を降り、学校への道を歩き始めた。

「りん、大丈夫だった?
変なオバサンいなかった?」

 と私は心配になって尋ねた。
 私、何の役にも立っていないからね。
 『友達も一緒にいるぞ、変なことするなよ、こちらは二人だ』みたいな抑止力にすらなっていない。
 私はほとんど寝ていたので、りんと私は知り合いには見えなかっただろう。
 
「大丈夫。今日はいなかったよ」

「明日は起こせよ」

「わかった」

 とりんは微笑んだ。
 信用できない……。りんは良い子だから、『気持ちよさそうに寝ていたから』とか言ってなんだかんだ起こさなさそうだ。

「絶対だぞ」

 と私は念を押した。

「わかったってば」

 私はまだ信用していなかったが、あまりしつこく言うのもなんなので、ここで引き下がった。

 たとえりんが私を起こさなくても良い。
 はじめから寝なければ良いだけじゃないか!
 あまり自信ないけど……。


※※※

 りんは私より長身で足が長いので、どうしても私より歩くのが早い。
 私は私の少し前を歩くりんのお尻をチラッと見て、後ろめたくなり目をそらした。

 痴漢ってお尻を触るんだよね、たぶん……。
 と、そんなことをふと考えた。
 それとも胸を触るのかな?
 
 それとも……。

 いや、何でもない何でもない……。

 私は次に自分が痴漢に遭うことを考えてみた。

 私も見た目は男なので、痴漢に遭う可能性があると思ったのだ。
 
 痴漢のオバサンに胸を触られるとしよう。
 うん……『ざまあ』だね。
 だってオバサンは、男のかっこいいペッタンコ胸と思って私の胸を触ってくるんでしょう?
 それ女の潰した胸ですからー! 残念! 

 胸についてのシミュレーション終わり。

 次は尻だ。
 尻も、男の尻と思って触ってきたら女の尻なんだよね。
 やはり『ざまあ』だ。

 次は……。『前』。

 男の『前』と思って触ったら、『ナイ!?』ってなってビックリするだろうな、痴漢のオバサン……。

 私はニヤリとしたが、その後よくよく考えてみた……


☆☆☆
 
 痴漢のオバサン、私の『前』を触る

 ↓

 オバサン、私が『ナイ』ことに気付く

 ↓

 つまり私が女だと気付く

 ↓
 
 オバサン(こいつ、男装してる!?)

 ↓

 オバサン(変態だー!)

 ↓

 オバサン「次の駅で降りて」

 私「……はい……」

 ↓

 次の駅で降りた。

 オバサン「友達は知っているの? あんたの男装趣味?」

 私「いいえ……」

 オバサン「10万円」

 私「えっ」

 オバサン「口止め料10万円」

 私「……」

 オバサン「SNSで拡散しちゃおっかなー」

 私「わ、わかりました……」

 ↓

 痴漢オバサンにお金を払う

 オバサン「来月も頼むわね」

 私「えっ」

 ~完~


☆☆☆

 私は絶対に痴漢に遭ってはいけない、と強く思った。
 いや、遭わないでいたいと思ったからと言って、遭わないでいられるものじゃないだろうが……。

 痴漢の心配がある男性は大変だ……。
 いや女性も時には痴漢されることもあるだろうが……。痴男ちなんとかに。


※※※

 変な妄想をしていたせいで歩みが遅くなっていたのか、いつの間にかりんと少し離れてしまった。
 りんは私が遅れていることに気付くと、立ち止まって待っていてくれた。
 私は駆け足でりんに追いつく。

 りんは今度は先ほどより意識的に遅い歩調にしてくれたようだ。
 何だか一緒に学校へ行くことで役に立つどころか迷惑しかかけていないような……。

 ふたりで並んで歩いていると唐突に

「何か、おれらって、二人きりになること、あんまないよなー意外と」

 とりんが微笑みながら言った。

「そ、そうだね!」

 学校ではケイとハヤトが一緒にいるし。
 同じ駅を使い同じ方向に帰るわけだが、今まで行きの電車も違ったし、帰りもあまり一緒には帰らない(乗る電車が違うこともあり)。

 ケイとハヤトは――いやその他の人も(サキも)――りんと私はすごく仲が良いと思っているかもしれないが、二人きりになる機会はそんなにないのだ、実は(がっかり)。

 りんはクリッとした好奇心に満ちた目を私に向けた、

「おれ、あおいに聞きたいことがあったんだよね」

「何?」

「昨日聞けなかったからさ」

「ん?」

「あおい、田中さんと付き合わないの?」

 田中サキ。
 昨日私が告白された女の子。もちろんりんにはサキに告白されたことは言っていないが。
 サキのことを考えるとやはり胸が痛む。
 私にもう少しできることがあったのではないか、と思ってしまう。初めから一人暮らしを選ぶとか。
 でもそうしていたらりんには出会えなかったわけだが。

 いや、大丈夫だ。サキみたいな綺麗でしっかりした子に対して私が余計な心配をする方が、失礼に当たるのではないか? とも思う。
 いやわからない。どうなんだろう?
 
「あおい?」

 黙ってしまった私の顔を、りんが不安げにのぞき込む、

「もしかしてイヤなこと聞いた?」

「いや。
そんなことないよ」

 と私は、ぎこちなかっただろうが、笑みを返した。

「あおい、昨日、田中さんと仲良く話していたし。
田中さんの『悪いウワサ』は誤解と知ったし。
じゃあ付き合えば良いじゃん、って思ったんだよね」

 とりんは淡い微笑みを浮かべて言った。
 私は首を振った、

「サキは別におれのこと好きじゃないよ。
その……異性としては」

 『サキは異性としてはあおいを好きじゃない』
 私、叙述トリック使っている!?

「そうかなあ?
絶対あおいのこと好きだと思うけどね……」

「それにおれも、サキのこと好きじゃないから。
その……恋愛対象としては。
前にも言ったと思うけど」

「ふうん……」

 とりんは不思議そうに私を見た、

「あんな綺麗な子が恋愛対象じゃないなんて信じられないな。
おれなら、脈ありと思ったら自分からでもいっちゃうね」

 と言ってから、りんは自嘲気味に笑った、

「ま。そんなこと言いつつ、いかなさそうだけどな、おれ。
そんな勇気ないし」

 私は曖昧に笑い返したが、内心はショックを受けていた。
 りんも、やっぱりああ言う美人の女の子が好きなのか。そりゃそうか。りんだって普通の男の子なのだから。

「じゃあ、あおいはどんな女子が好きなの?」

「えっ」

「それとも男子が好きなのかな?」

 とりんは悪戯っぽい微笑みを浮かべた。
 優しいけどときどき小悪魔のようになるんだ、男子って……。

 私はりんを冗談めかしてにらむしかなかった。

「じゃあさ、男子とか女子とか抜きにして。
どんな子がタイプなの?」

 とりんは変な前置きをした質問を改めてした。
 私はこの質問に答えるのは気が進まなかった――『男子とか女子とか抜きにして』と言う断りを入れた質問に答えるなんて、男子が好きだと認めているようだ(そうだけど)。
 しかし、りんの悪戯っぽいような優しいような眼差しに見つめられると、答えるしかなかった、

「それは……普通に。
優しくて……穏やかで……」

 『りんのような子』とつい思い浮かべてしまって、言葉が詰まってしまった。

「あおいとおれ。
どっちが先に恋人できるかな?」

 とりんは少し首をかしげて微笑んだ、

「やっぱあおいかなあ?」

「いや、りんだろ!」

 絶対りんだわ……。
 さわやか男子と地味男子(実際は女子)。
 火を見るより明らか、と言うやつだ!

「えー。
あおいみたいな、華奢な可愛い系男子って今、モテるんだぜ?」

「いや。モテない」

 と私は断言した。

 りんは『う~ん』と渋い顔をした。
 『何であおいはおれの言うことを信じてくれないのか』と言う顔をしている。
 何故信じないか。そりゃ、現実を知っているからだよ!(涙)

「でもあおいってさ、華奢だけど案外胸板は厚いよな」

 とりんは私の胸を突然ペタペタ触ってきた。
 出た! 男子の唐突話題変えアンド行動。

 特殊な機能のあるタンクトップで潰した女の胸を、りんに触られているわけだが。
 ば、バレないよね!?
 このタンクトップ優秀だし!

「いきなり胸、触るなよ!」

 と私は一応言った。あまり過敏な調子にならない様、気を付けて。

「いいだろー。
男同士なんだから」

 とりんはまだ触ってくる。お腹まで。

「お腹は厚くない……」

 とか言っている。
 おかげさまで(胸を潰す優秀なタンクトップさまのおかげで)、お腹には何――タオルなど――も入れずとも、胸とお腹のサイズ差がごまかせているのだ。

「あおい、この胸、筋肉?」

「いや、うん。
そうかな……」

 と言うしかなかった。
 『潰した脂肪』とも言えず。

「胸の筋肉ってどうやって鍛えるわけ?
おれも知りたいなー」

 今度ググっておく。
 今は「今度教える」とだけ言っておいた。

 それにしても、男装するようになって知ったけど、男同士って胸の触り合いホントにするのね。
 ハアハア(?)(見る分には)。
 
 もちろん私はりんの胸を触ったりしないよ!? 少なくとも自分からは!

 そんな風にして朝からイチャイチャ(?)しながら私達は学校へ向かったのだった。
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