20 / 74
第一部
20話 加藤りんと佐藤あおい
しおりを挟む
私はりんとの待ち合わせの時間に十分な余裕があることをスマホでときどき確認しつつ、駅に向かっていた。
昔――と言っても今は10月だから半年前か――のことを思い出しながら。
※※※
私の転入初日は高校二年生前期の一日目だった。
クラス替えと同じタイミングなので、『転入生挨拶』みたいなイベントはなくホッとした。
その反面、私は少し友達作りに不利だった。『転入生ブースト』(?)が起こらないのだから。
それに他の子たちには『一年生の頃からの知り合い』がいるだろう。
だから新しく友達を作らなくとも既に友達がクラスにいる可能性がある。
しかし転入生の私には誰一人知り合いがいないのだ。
その上……。
私は女だ。
しかし見た目は男。
つまり『男の友達』を作らなければならないだろう。
男友達なんて、小学生以来いたことないんだけど……。
転入一日目の午前中は始業式などでアッサリと過ぎていった。
前いた高校では始業式後クラスに戻ったときに自己紹介などをした覚えがあるが、それもなかった。
2年生でそれぞれ知り合いも既にいるからだろうか?
私は知り合いが一人もできないまま、お弁当の時間を迎えてしまった。
お弁当……。
女子はわりと一人で自分の机で食べる子もいるんだけど、男子は皆友達と一緒に食べるんだよね、と私は教室をキョロキョロ見渡した。
私は本当は女子だから別に一人でお弁当を食べてもいいと思っているんだけど、見た目は男子だから周りから変な子と思われるだろうか?
でも誰に話しかければ良いんだろう?
私、男子で仲良い子とか小学生のとき以来いないし、男子のことが全然わからない。
弟がいても、同学年の男子のことはよくわからない。
男子って色々ルールみたいなのがあるイメージ。複雑で女子には難しかったりする。
適当に声かけて良いのだろうか?
嫌がられないかなあ。
お弁当箱を机に置いたまま、挙動不審に思われないだろう範囲内で皆の様子を盗み見た。
どのグループに『お弁当、一緒に食べてもいい?』って言えば良いんだろう?
いや、もう一人で食べてしまおうか?
1日目だけだ。そのうち誰かと仲が良くなることもあるだろう。そうしたら、一緒のグループに入れてもらえばいいのだ。
と言うわけでお弁当の包みをほどこうと、リボンになった部分に手をかけていると……。
トントン。
肩を叩かれた。
叩かれた方に顔を向けると、
「一緒にお弁当食べない?」
と、どこか遠慮がちな微笑みを浮かべる男の子が目に入った。
それがりんだった。
※※※
今思い出してもニヤけてしまう。
ほんと、りんはさわやかだった……まさに思い描く理想の男子って感じ。
少女漫画の中の男子。
一目惚れ、と言うと語弊があると私は思っている。
でも『第一印象惚れ』かな。
容姿だけを好きになったわけじゃない。
容姿 + 容姿を鼻にかけない優しそうなおっとりしたような感じ。
そう言うところに惹かれたのだ。
もしりんの容姿でイヤな性格だったら、別に好きにはならなかったと思う。
私がテレながらお弁当を食べるために机をくっつけると、ハヤトとケイがお弁当を持ってやってきた。
「一緒に食べようぜ、りん」
とハヤトがりんに言った。
後で聞いた話だがハヤトとりんは一年の時からの知り合いだったそうだ。
確かにりんとハヤトは少しおっとりしているところが似ているから、友達同士になりやすそうなタイプに見える。
「こいつケイ」
とハヤトがりんと私にケイを親指で示しながら紹介した、
「よろしくー」
ケイはちょっとしっかり者そうで、りんとハヤトとは系統(?)が違うように見えた。
しかしハヤトと仲良く話していた。どうやら気が合うらしい。
「おれ、このクラス、ホント知らない奴ばっかであせった」
とケイが言うので、ハヤトとケイはこの日の午前中のうちに仲が良くなったらしいことがわかった。
あせったとか言うわりに普通に友達作れているじゃないか、コミュ力あるよなこのヤローと思ったものだ。
「佐藤くんって一年の時何組だったの?」
「あ。ボク、転入生なんだ」
と私は答えた。
この頃はまだ一人称があやふやだった。
『おれ』か『ボク』かどちらがいいか迷っていた。
結局ケイ、ハヤト、りんの様子を見て『おれ』に決定したが……。
「そうなんだ!
転入生か。
知り合いいないおれよりハードル高いな?」
とケイは笑った、
「実は2年とか3年とかのクラス替えの方が、友達作りのハードル高かったりするよな。
もうある程度友達関係できていたりするし……」
「佐藤……何君? 名前?」
とハヤトが親しげに聞いてきた。
「あおい」
と私も親しげに見えるよう笑顔を返しながら答えた。
男子と話すのは少し緊張していたが。
「あおい。
可愛い名前だなあ」
とハヤトが笑った、
「女子の名前でもいけるよな」
私はあせりながら言った、
「そ、そうかなあ?
でも性別不詳系の名前って、結構あるよね!?」
「りんもそうだよなあ」
とハヤトはりんをニヤニヤと見た。
「ん。まあねー。
昔からよく言われたよ、
『えっ。「りん」って言うから女の子だと思った』って。
漢字で書くと『車輪』の『輪』だから、わりと男っぽいんだけど……」
「佐藤くんのあおいってどんな漢字?」
「みどり……って書くんだけど」
私はスマホで『碧』と打ち込んだ。
「『碧』か。
可愛ー!」
「いいね!」
その後ケイは『慶』、ハヤトは『颯人』など名前のことで一通り盛り上がった。
その後私達はお互い名前――ファーストネーム――で呼び合うようになったのだ。
それぞれの第一印象は……
《りん》
さわやか男子。
イケメンなのにそれを鼻にかけない。
おっとりしている。穏やか。
《ケイ》
しっかり者。
面倒見が良さそう。
お兄ちゃんタイプ。
《ハヤト》
おっとりしている。穏やか。りんよりも輪をかけて。
弟タイプ。
この第一印象は未だに覆っていない。
私は意外と人を見る目があるのかもしれない。
昔――と言っても今は10月だから半年前か――のことを思い出しながら。
※※※
私の転入初日は高校二年生前期の一日目だった。
クラス替えと同じタイミングなので、『転入生挨拶』みたいなイベントはなくホッとした。
その反面、私は少し友達作りに不利だった。『転入生ブースト』(?)が起こらないのだから。
それに他の子たちには『一年生の頃からの知り合い』がいるだろう。
だから新しく友達を作らなくとも既に友達がクラスにいる可能性がある。
しかし転入生の私には誰一人知り合いがいないのだ。
その上……。
私は女だ。
しかし見た目は男。
つまり『男の友達』を作らなければならないだろう。
男友達なんて、小学生以来いたことないんだけど……。
転入一日目の午前中は始業式などでアッサリと過ぎていった。
前いた高校では始業式後クラスに戻ったときに自己紹介などをした覚えがあるが、それもなかった。
2年生でそれぞれ知り合いも既にいるからだろうか?
私は知り合いが一人もできないまま、お弁当の時間を迎えてしまった。
お弁当……。
女子はわりと一人で自分の机で食べる子もいるんだけど、男子は皆友達と一緒に食べるんだよね、と私は教室をキョロキョロ見渡した。
私は本当は女子だから別に一人でお弁当を食べてもいいと思っているんだけど、見た目は男子だから周りから変な子と思われるだろうか?
でも誰に話しかければ良いんだろう?
私、男子で仲良い子とか小学生のとき以来いないし、男子のことが全然わからない。
弟がいても、同学年の男子のことはよくわからない。
男子って色々ルールみたいなのがあるイメージ。複雑で女子には難しかったりする。
適当に声かけて良いのだろうか?
嫌がられないかなあ。
お弁当箱を机に置いたまま、挙動不審に思われないだろう範囲内で皆の様子を盗み見た。
どのグループに『お弁当、一緒に食べてもいい?』って言えば良いんだろう?
いや、もう一人で食べてしまおうか?
1日目だけだ。そのうち誰かと仲が良くなることもあるだろう。そうしたら、一緒のグループに入れてもらえばいいのだ。
と言うわけでお弁当の包みをほどこうと、リボンになった部分に手をかけていると……。
トントン。
肩を叩かれた。
叩かれた方に顔を向けると、
「一緒にお弁当食べない?」
と、どこか遠慮がちな微笑みを浮かべる男の子が目に入った。
それがりんだった。
※※※
今思い出してもニヤけてしまう。
ほんと、りんはさわやかだった……まさに思い描く理想の男子って感じ。
少女漫画の中の男子。
一目惚れ、と言うと語弊があると私は思っている。
でも『第一印象惚れ』かな。
容姿だけを好きになったわけじゃない。
容姿 + 容姿を鼻にかけない優しそうなおっとりしたような感じ。
そう言うところに惹かれたのだ。
もしりんの容姿でイヤな性格だったら、別に好きにはならなかったと思う。
私がテレながらお弁当を食べるために机をくっつけると、ハヤトとケイがお弁当を持ってやってきた。
「一緒に食べようぜ、りん」
とハヤトがりんに言った。
後で聞いた話だがハヤトとりんは一年の時からの知り合いだったそうだ。
確かにりんとハヤトは少しおっとりしているところが似ているから、友達同士になりやすそうなタイプに見える。
「こいつケイ」
とハヤトがりんと私にケイを親指で示しながら紹介した、
「よろしくー」
ケイはちょっとしっかり者そうで、りんとハヤトとは系統(?)が違うように見えた。
しかしハヤトと仲良く話していた。どうやら気が合うらしい。
「おれ、このクラス、ホント知らない奴ばっかであせった」
とケイが言うので、ハヤトとケイはこの日の午前中のうちに仲が良くなったらしいことがわかった。
あせったとか言うわりに普通に友達作れているじゃないか、コミュ力あるよなこのヤローと思ったものだ。
「佐藤くんって一年の時何組だったの?」
「あ。ボク、転入生なんだ」
と私は答えた。
この頃はまだ一人称があやふやだった。
『おれ』か『ボク』かどちらがいいか迷っていた。
結局ケイ、ハヤト、りんの様子を見て『おれ』に決定したが……。
「そうなんだ!
転入生か。
知り合いいないおれよりハードル高いな?」
とケイは笑った、
「実は2年とか3年とかのクラス替えの方が、友達作りのハードル高かったりするよな。
もうある程度友達関係できていたりするし……」
「佐藤……何君? 名前?」
とハヤトが親しげに聞いてきた。
「あおい」
と私も親しげに見えるよう笑顔を返しながら答えた。
男子と話すのは少し緊張していたが。
「あおい。
可愛い名前だなあ」
とハヤトが笑った、
「女子の名前でもいけるよな」
私はあせりながら言った、
「そ、そうかなあ?
でも性別不詳系の名前って、結構あるよね!?」
「りんもそうだよなあ」
とハヤトはりんをニヤニヤと見た。
「ん。まあねー。
昔からよく言われたよ、
『えっ。「りん」って言うから女の子だと思った』って。
漢字で書くと『車輪』の『輪』だから、わりと男っぽいんだけど……」
「佐藤くんのあおいってどんな漢字?」
「みどり……って書くんだけど」
私はスマホで『碧』と打ち込んだ。
「『碧』か。
可愛ー!」
「いいね!」
その後ケイは『慶』、ハヤトは『颯人』など名前のことで一通り盛り上がった。
その後私達はお互い名前――ファーストネーム――で呼び合うようになったのだ。
それぞれの第一印象は……
《りん》
さわやか男子。
イケメンなのにそれを鼻にかけない。
おっとりしている。穏やか。
《ケイ》
しっかり者。
面倒見が良さそう。
お兄ちゃんタイプ。
《ハヤト》
おっとりしている。穏やか。りんよりも輪をかけて。
弟タイプ。
この第一印象は未だに覆っていない。
私は意外と人を見る目があるのかもしれない。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。

男女比1対99の世界で引き篭もります!
夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公!
前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!!
偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたので、欲望に身を任せてみることにした
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。彼女を女として見た時、俺は欲望を抑えることなんかできなかった。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる