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第一部
17話 サキと歩く
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私とサキは駅までの道を歩いていた。
サキに『駅まで送ってく』と言われたとき、私は当然断った。
私は女子だし、特に夜道(と言ってもまだ7時だし)が怖いわけでもないし、サキの家から私が乗る電車の最寄り駅までの道もさほど複雑ではなさそうだった。
しかし『道に迷うといけないし、お父さんの手前もあるし、送っていく』と言われて、今、二人で並んで歩いている。
沈黙が続く。
話さなければならないことがたくさんあるはずなのに、何も言えない。
そんな状態でしばらく歩いた後、私は勇気を出してサキに話しかけた、
「あのさ、ごめんね」
「ん?」
とサキが首をかしげた。
「あの……その。
送ってもらって」
いや、そんなことじゃないでしょ!
今はもっと他に謝るべきことあるでしょ!
と我ながら思う。
サキは笑顔で首を振った、
「ううん、私もちょっと駅近くに寄りたい店あるし。
全然~」
そんなサキの笑顔を見て、私は不思議に思う。
何でだろう?
サキは思っていた以上に……色々と『あっさり』と言うか。
本当はもっと。もっと……。
もっと責められると思ったんだ。
私は何も文句を言ってこないサキを思うと、逆に胸がチクリと痛むのを感じた、
「あの、サキ。ごめんね?」
「ん~?
今度は何?」
「男だとだましていて……」
サキは唇を『む~』と怒っているように唇をとがらせ、その後『冗談だよ』と言う風にニコッと微笑んだ、
「いいよ。
おかげで、吹っ切れたし」
私が首をかしげると、サキはニヤリとした、
「私って、女しか好きにならないんだ~って、吹っ切れたし!」
えぇ!?
そんな、私のせいで、そんなこと吹っ切ったの!?
そんなのもったいない。
サキはこんなに美人で、男にモテモテなのに。
私はつい考え無しに言ってしまった、
「まだ、わからないんじゃないかな~。
これからのことは……。
これから先、男を好きになることもあるんじゃないかな……」
サキはおかしそうに私を見た、
「あおいくん、自分は言ったじゃない、『私は女だからサキのことはこれからも無理』って。
あおいくん、私のこと『これから』好きになる可能性があるって自分に言える?
言えないよね。
それと同じように、私もきっと男の子のことを好きになることはないんだよ。
そう言うものなんだよ」
「ごめん……。無神経なこと言って」
私は肩を落として小さくなる。
「いや。
別にいいよ~」
サキは明るく笑い、私はその笑顔でますます罪悪感を深くしていった。
「でもね、どっちがスゴいんだと思う?」
とサキが目をぱちくりしながら聞いた。
「ん?」
「男装していたあおいくんを男の子と勘違いしたまま好きになったけど結局女だったと言う、私の同性愛者としての能力がすごいのか。
それとも男装しつつも同性愛者に女だと本能で感じさせることができたあおいくんの女っぷりがすごいのか」
サキは私の胸のあたりに視線を向けた、
「あおいくんがすごいのかなあ?
女性ホルモン多そうだもんね~。
男装していても隠しきれない女の魅力を醸し出しているんじゃないの?」
「いや。ないな~」
と私は苦笑いした、
「もしそうなら、男子にモテてもいいんじゃない?
全くモテないし。
私、全く男子にしか見えないでしょ?
全然女らしくないよ」
サキは笑顔で私の自虐を流した(優しいスルースキル)。
駅まで来ると、サキは私と向かい合った。
真剣な顔をする、
「私、あおいくんのこと誰にも言わないよ」
私も真面目な顔で答えた、
「ありがとう……。
でも……どうして?」
サキは首をかしげる。
「どうして黙っていてくれるの?
酷いことしたのに……」
サキは私をジッと見た後、優しそうに微笑みながら言った、
「だって……教えてくれたじゃない」
「えっ」
「女だってこと、教えてくれたよね。
隠していた方が楽だったのに――安全だったのに。
私のために、教えてくれたんでしょ?
私があおいくんを諦められないと言ったから。
私が気持ちを切り替えられるために、自分の秘密を言ってくれたんでしょ?」
サキは困り顔をしながら、笑顔だった、
「そんなの、私、責められないよ。
私のこと考えて教えてくれたのに、責めることなんてできない」
私はウルッとしてしまった、
「ごめんね、サキ。
ほんとに……」
「やめてよ~。
男子、泣かせているみたいじゃない!」
とサキは私の涙目を見て笑った。
でもそう言う彼女も不自然にまばたきが多かった。
サキもきっと泣きそうなのだ。
サキは笑顔をしばらく向けてくれた後、くるりと背を向けて、
「バイバイ」
と手を振った。
「ありがとう、サキ」
と私が言うと、サキはちょっと振り返り、
「男子にはバレんなよ」
と笑った、
「男子にバレるのと、女子にバレるのとでは全然違うだろうから。
男子にバレたら、変態として大炎上だと思うよ」
……。
ハッキリ言ってくれるなあ。
「わかった!」
と私が手を振りつつ返事をすると、サキは笑顔で親指を立てて答え早足で去って行った。
私は彼女の後ろ姿をずっと見ていた。
後ろ姿だけを見ても、スラリとしていて髪が綺麗で、魅力的な女の子に見えた。
そんな子が私を好きになってくれて、今日失恋したなんて……。
とても現実のこととは思えない。
でも現実なんだ――そう思わなければサキに失礼だ。
きっと今日は、私の人生の忘れられない日の1つになるだろう。
サキにとってもそう。
それも一つの絆なのかもしれない――私とサキの。
私はそう思いながら、見えなくなるまでサキの背中を追っていた。
サキに『駅まで送ってく』と言われたとき、私は当然断った。
私は女子だし、特に夜道(と言ってもまだ7時だし)が怖いわけでもないし、サキの家から私が乗る電車の最寄り駅までの道もさほど複雑ではなさそうだった。
しかし『道に迷うといけないし、お父さんの手前もあるし、送っていく』と言われて、今、二人で並んで歩いている。
沈黙が続く。
話さなければならないことがたくさんあるはずなのに、何も言えない。
そんな状態でしばらく歩いた後、私は勇気を出してサキに話しかけた、
「あのさ、ごめんね」
「ん?」
とサキが首をかしげた。
「あの……その。
送ってもらって」
いや、そんなことじゃないでしょ!
今はもっと他に謝るべきことあるでしょ!
と我ながら思う。
サキは笑顔で首を振った、
「ううん、私もちょっと駅近くに寄りたい店あるし。
全然~」
そんなサキの笑顔を見て、私は不思議に思う。
何でだろう?
サキは思っていた以上に……色々と『あっさり』と言うか。
本当はもっと。もっと……。
もっと責められると思ったんだ。
私は何も文句を言ってこないサキを思うと、逆に胸がチクリと痛むのを感じた、
「あの、サキ。ごめんね?」
「ん~?
今度は何?」
「男だとだましていて……」
サキは唇を『む~』と怒っているように唇をとがらせ、その後『冗談だよ』と言う風にニコッと微笑んだ、
「いいよ。
おかげで、吹っ切れたし」
私が首をかしげると、サキはニヤリとした、
「私って、女しか好きにならないんだ~って、吹っ切れたし!」
えぇ!?
そんな、私のせいで、そんなこと吹っ切ったの!?
そんなのもったいない。
サキはこんなに美人で、男にモテモテなのに。
私はつい考え無しに言ってしまった、
「まだ、わからないんじゃないかな~。
これからのことは……。
これから先、男を好きになることもあるんじゃないかな……」
サキはおかしそうに私を見た、
「あおいくん、自分は言ったじゃない、『私は女だからサキのことはこれからも無理』って。
あおいくん、私のこと『これから』好きになる可能性があるって自分に言える?
言えないよね。
それと同じように、私もきっと男の子のことを好きになることはないんだよ。
そう言うものなんだよ」
「ごめん……。無神経なこと言って」
私は肩を落として小さくなる。
「いや。
別にいいよ~」
サキは明るく笑い、私はその笑顔でますます罪悪感を深くしていった。
「でもね、どっちがスゴいんだと思う?」
とサキが目をぱちくりしながら聞いた。
「ん?」
「男装していたあおいくんを男の子と勘違いしたまま好きになったけど結局女だったと言う、私の同性愛者としての能力がすごいのか。
それとも男装しつつも同性愛者に女だと本能で感じさせることができたあおいくんの女っぷりがすごいのか」
サキは私の胸のあたりに視線を向けた、
「あおいくんがすごいのかなあ?
女性ホルモン多そうだもんね~。
男装していても隠しきれない女の魅力を醸し出しているんじゃないの?」
「いや。ないな~」
と私は苦笑いした、
「もしそうなら、男子にモテてもいいんじゃない?
全くモテないし。
私、全く男子にしか見えないでしょ?
全然女らしくないよ」
サキは笑顔で私の自虐を流した(優しいスルースキル)。
駅まで来ると、サキは私と向かい合った。
真剣な顔をする、
「私、あおいくんのこと誰にも言わないよ」
私も真面目な顔で答えた、
「ありがとう……。
でも……どうして?」
サキは首をかしげる。
「どうして黙っていてくれるの?
酷いことしたのに……」
サキは私をジッと見た後、優しそうに微笑みながら言った、
「だって……教えてくれたじゃない」
「えっ」
「女だってこと、教えてくれたよね。
隠していた方が楽だったのに――安全だったのに。
私のために、教えてくれたんでしょ?
私があおいくんを諦められないと言ったから。
私が気持ちを切り替えられるために、自分の秘密を言ってくれたんでしょ?」
サキは困り顔をしながら、笑顔だった、
「そんなの、私、責められないよ。
私のこと考えて教えてくれたのに、責めることなんてできない」
私はウルッとしてしまった、
「ごめんね、サキ。
ほんとに……」
「やめてよ~。
男子、泣かせているみたいじゃない!」
とサキは私の涙目を見て笑った。
でもそう言う彼女も不自然にまばたきが多かった。
サキもきっと泣きそうなのだ。
サキは笑顔をしばらく向けてくれた後、くるりと背を向けて、
「バイバイ」
と手を振った。
「ありがとう、サキ」
と私が言うと、サキはちょっと振り返り、
「男子にはバレんなよ」
と笑った、
「男子にバレるのと、女子にバレるのとでは全然違うだろうから。
男子にバレたら、変態として大炎上だと思うよ」
……。
ハッキリ言ってくれるなあ。
「わかった!」
と私が手を振りつつ返事をすると、サキは笑顔で親指を立てて答え早足で去って行った。
私は彼女の後ろ姿をずっと見ていた。
後ろ姿だけを見ても、スラリとしていて髪が綺麗で、魅力的な女の子に見えた。
そんな子が私を好きになってくれて、今日失恋したなんて……。
とても現実のこととは思えない。
でも現実なんだ――そう思わなければサキに失礼だ。
きっと今日は、私の人生の忘れられない日の1つになるだろう。
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