あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

文字の大きさ
上 下
23 / 74
第一部

23話 あおいとキョウ

しおりを挟む
「佐藤く~ん!」

 と言う声が聞こえて、私は声のした方を向いた。
 声は『転入生ブースト』により小さな人だかりができているキョウの席から聞こえて来た。
 女子が『おいでおいで』と手で合図している。
 私は『?』と頭にはてなマークを浮かべながら立ち上がった。
 キョウの席へ向かう。
 後ろを振り返ると、何故かケイ、ハヤト、りんも付いてきていた。
 三人ともどうやら転入生に興味があるらしい。

「鈴木くん、この子が佐藤くんだよ。
佐藤あおいくん」

 キョウは最初ほぼ無表情で私を眺めていたが、途中からパッと顔が明るくなった。

「あおいちゃん!」

 とキョウは叫ぶように言うと立ち上がって、私の前に来た、

「あおいちゃん、僕のこと覚えている?」

「ん?」

 と私はキョウの可愛い顔をドキドキしつつ見ながら、首をかしげた、

「いや、初対面……」

「違うよー」

 とキョウは口をとがらせた、

「僕だよ、『鈴木キョウ』。
小学生の頃よく一緒に遊んだだろう?」

 鈴木キョウ……。
 キョウ……。
 キョウ?

「キョウくん!?」

 と私は叫んだ、

「キョウくんなの!?」

「そう」

 とキョウは嬉しそうに笑った。

「メガネは? 
メガネかけていたよね!?」

「コンタクトにした」

「いや。そっかー。
わからなかったなあ……。
そっかー。
懐かしいね~。キョウくん……」

 そこでキョウはニコニコしていた顔を曇らせた、

「でもショックだなあ、あおいちゃん。
僕の名前覚えていなかったの?」

「えっ」

「僕は先生にこのクラスの名簿をもらったんだけど――早くクラスメートの名前を覚えられるように。
名簿に、あおいちゃんの名前を見つけたとき――『佐藤あおい 』と言う名前を見たとき――、すぐ『これはあの、あおいちゃんかもしれない!?』と思ったのにさ。
あおいちゃんは僕の名前聞いても何も思わなかったの?」

「いやぁ。だって……。
ほら。
小学生の頃って名前で呼び合っていたでしょ?
だから名字とか曖昧になっちゃっていてさぁ……。
『キョウ』もわりとある名前だし……。
ごめんね」

 私は口に手を当てて眉をひそめた、

「それにさあ、まさか? と言うか。
思わないよね、普通……。
まさか、小学生時代の友達と再会するなんて……。
全然ここ地元じゃないのに」

「うん、まあ、そうだね?
僕の方は『佐藤あおい』ってあまりない名前だから、すぐあおいちゃんのこと連想しちゃったけど。
言われてみればそっか」

 と考え込むような顔で言った後、キョウはニコニコ顔に戻して言った、
(私は『佐藤碧ってよくある名前だと思うけどな……』と思いつつキョウを見ていた)

「でも、ほんと、転入先であおいちゃんに会えるなんて思ってなかったなあ。
嬉しいよ」

 『私も嬉しい』……と笑顔で返そうとして、私はハッとした。
 『私』って言う一人称を言っちゃいけないんだった。

 ……。

 !?

 いや、そんな場合じゃないんじゃない!?
 『私』を使っちゃいけないとか一人称を気にしている場合じゃない。
 こ、これはマズイ状況だ!(今頃!)

 小学生の頃の幼なじみ、鈴木キョウ。
 『小学生』――私が普通に少女時代を過ごした頃。
 つまりキョウにとっては私は女の子なのだ、普通に。
 男子高校生の格好をしていることを訝しげに思っているかもしれないが。

 あせった私は助けを求めるように教室を見渡した。
 皆、ニコニコしたり目をキラキラさせたり興味ありげな様子で私とキョウの動向を見守っていた。
 『感動の幼なじみとの再会』に立ち会っていると思っているのだ――小学生時代の友達との久々の再会。 
 面白いリアリティーショーを見ていると思っている。
 
 ほんとは皆が思っている以上のオモシロイ展開なのだけどね……。

 『小学生時代の女友達と高校で偶然再会したけど、その女友達が男子高校生になっていた件』

 な〇う小説でありそう!?

 一人だけ、目を見開きハラハラした表情を浮かべている者がいた。
 サキだった。
 サキは私より先にこの危機的状況に気付いていたのかもしれない。
 私、呑気にキョウとの再会を喜んでいたし。

 私はニコニコ顔のキョウを再び見つめた。
 今更『人違いじゃないか?』と言い出せるわけもない。
 最悪の状況になる前に、キョウを連れ出して事情を話さなければならない。

「キョウくん、あのね……」

「あおいちゃん、あまり変わってないね」

 いや、変わっているでしょ!?
 男になっているでしょ!?

「えー?
そうかなあ?」

 と私はしかたなく答えた。

「相変わらず可愛いね」
 
 こんな状況でも『可愛い』と言われると心のどこかで喜んでしまう私……。
 しかもキョウは私が女だと知っているのだから『女の子として可愛い』と言ってくれているのだ。
 りんたちも『可愛い』と言ってくれるが、それは『男子として可愛い』と言う意味なので、女子として可愛いと言われるなんて久しぶり……。

 しかし、今は男子高校生なのだから『可愛い』と言われても喜ぶところじゃない。
 私は少しきつめな調子で言った、

「可愛い……って、嘘でしょ?」

 キョウは不思議そうな顔をした、

「嘘じゃないよ、可愛いよ」

 どうしよう。
 話が転換しないぞ!

「えー。いや。嘘だよ」

 私は下手くそだ――上手く話題を変えられない。
 キョウは真面目な顔をした、

「ホントだよ。
可愛いよ」

 クラスの皆がだんだん『何かおかしいぞ……?』と言う風に私達を見ている感じが伝わってきた。
 空気が張り詰めてきている。

「えーっと、キョウくん。
普通に考えて。
可愛くないよね?」

 まだ話を変えられない私……。
 キョウは力強く言った、

「可愛いよ、あおいちゃんは。
自信を持って」

「自信……」
 
 ありがとうキョウくん。
 でも、

『可愛いから自信を持って』

 それ、男子に言うセリフじゃないよね。

「鈴木くん。
あおい推しだねえ」

 とケイが私の後ろで明るく言った。
 私はケイを振り返って見た。

 コミュ力高しケイさま、どうか話題を変えてくれ、と拝みたい気分。
 
 キョウもケイに視線を移すとニッコリした、

「うん。推しって言うか。
実は僕の初恋の人なんだよ、あおいちゃんは……」

 ケイの笑顔がピシッと凍り付いたのを私は間近で見ていた。

 あ、あわわ……。

 教室がシンと静まり返った。

 しばらく静まり返った後、ヒューと口笛が聞こえてきた。

「いい! いいよ!」

 と女子の一人が言った。

「キマシタワー」 

 と他の女子が言った。

「リアル薔薇展開……」

 とまた別の女子が言った。
 語尾にハートマークが付いているような言い方だった――『薔薇展開♡』

 キョウは『薔薇展開』と言う言葉がよくわからないのだろう、『?』と言う表情を作った。

(※薔薇展開……百合展開の逆。BL展開)

 しかし、自分の発言で教室が盛り上がっているのはわかったようで、『えへへ』と照れ笑いした、

「いや。
僕があおいちゃんを好きだったのは、昔の話なんだけどね……。
初恋は実らないってやつで、気持ちを伝えられないまま、あおいちゃんは転校していっちゃったから」

 キョウは私を見つめ、ニコッと笑った、

「でも、あおいちゃん?
今でも可愛いな、と思ったのはホントだよ?」
 
 私はどう答えればわからず、口をパクパクとだけさせた。
 混乱している私の耳に女子の会話が聞こえてきた。

「どっちが受け? なんだろう?」

「身長的に佐藤くんの方なんじゃない?」

「そう言うのって身長で決まるの?」

「チビ攻めもいいんじゃない?」

 チビ攻めとは……(私、女子的には平均身長より少し高いよ!)。

 全然集中できない。
 どうしたらいいの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

男女比1対99の世界で引き篭もります!

夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公! 前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!! 偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたので、欲望に身を任せてみることにした

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。彼女を女として見た時、俺は欲望を抑えることなんかできなかった。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...