あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第一部

11話 サキの悪いウワサ

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 職員室までサキと一緒に本を届けた後、サキは先生と話があるようだったので、私は一人教室へ戻った。
 教室の扉を開けると、自然とりんの席へと視線が向かってしまう。
 私の視線に気付いたのかりんもこちらを向いた。
 りんが少し気まずそうに目を細めたので、私もつい目をそらしてしまった。
 ああ、やってしまった……ついりんの方を見てしまった……と思いながら自分の席に座ると、

「あおい~!」

 と呼ぶ声がした。
 振り返ると、『いつものメンバー』の一人ケイが、私に向かって手招きしていた。

 何だろう?
 でもとりあえずりんの側へ行ける!

 ケイありがとう……。
 持つべきものは友達……。

 私は教室の端にあるりんの席のすぐ隣にある、窓際の縁に座るケイに向かって歩いて行った。

「何?」

 さりげない様子で聞くと、ケイが『もっと近くに来い』と人差し指を動かす。

「何だよ?」

 あまり男子と寄りすぎるのはね……淑女として! と思いつつ、ケイに顔を寄せる。
 するとりんとハヤトも顔を寄せてきた。
 4人で狭い空間で顔を寄せ合った状態。
 なんだこれ。

「さっき、あおい、タナカさんにまた何か絡まれていただろ?」

「まあ、うん」

 なんだ、わざわざ顔を突き合わせてまた『美少女サキと二人きりになれるなんて、うらやましい』と言う話なの? と思っていると

「あおい、気を付けろよ~」

「……はあ?」

 私は首をかしげるしかなかった。
 男子って何でこう話が唐突なの? 
 意味分かんない。

「何でだよ?
と言うか何を……」

「あおいさあ。
マジで田中さんにホレられているかもよ、って話」

 とハヤトが大真面目に言うので、私は

「えっ」

 と言ってから

「いや、それはないだろ~」

 と苦笑いした。

「何でだよ?
おれ前からあおいに言ってただろ?
田中さんはあおいに気があるんじゃないかって」

 とりんがふて腐れたような顔を私に向ける。
 そんな顔もカッコイイ!
 ……いや、そんなこと言っている場合ではなく……

「だってよく考えて見ろよ?
あんな美人が、何でこんな地味なおれに……」

 と私はヘラヘラ言った。

 と言いながら私自身も『サキは私のこと好きなのかな?』と思うこともあるけど。
 しかしそう軽くは思うことがあっても、『絶対にそうだ』とも『もしかしてあり得るかも』とも、ほんとのところ思えないのだ。
 現実に起こり得るとは思えなかった。
 私が『実は女』で、サキも女。
 女同士だから『サキが私を好き』と言う現実があり得るとは、どうもリアルに想像できないのだと思う。
 
「いや、あおい可愛いし」

 とりんが言うのに、手をヒラヒラ横に振りながら答えた、

「いやいや。
たとえおれがホントに『可愛い』としても。
女子って言うのは、可愛い男なんか好きじゃないんだよ~。
カッコイイ男が好きなんだよ」

 そう。
 りんみたいなカッコイイ男子が……。

「ゆえに男を選び放題の美少女サキが、おれを好きと言うことはあり得ない。
証明終わり!
決まった! でしょ!」

 と私はポーズを取った。
 3人は笑っていない。元ネタ知らないか……と思っていると、

「いや。
『可愛い男』が好きな女子もいるって」

 とハヤトが慰めるように言った。
 いや、慰めるように言ってる時点でお察しじゃないの!

「田中さんとかな」
 
 とりんは言うと、ちらりとケイを見た。
 ケイはりんに頷くと真剣な顔で私を見た、

「おれの中学からの友達の『タカ』っての、あおいも知っているだろ?」

「うん」

 タカは別のクラスだが、ケイに教科書を借りに来たり『今日部活ないし、一緒に帰らねー?』と言いに来たりで、たまに顔を合わせる。
 私とは『友達』とまではいかないけど、普通に『知り合い』だ。

「タカがさ、さっき教科書を借りに来たんだけど」

「結構忘れ物するよな~」

 ケイは私を無視したつもりではないだろうが、本題を続けた、

「そのとき、タカが田中さんと一緒に仲良く歩くあおいを見たって」

 『仲良く』って。
 普通に歩いていただけだけど。

 しかしわざわざ反論するのもなんなので、相槌を打った。

「で、タカが『タナカさんには気を付けろよ~』ってあおいに言っとけって言ってた」

 なんで!?

 男子!
 過程を飛ばし過ぎでしょ!

「なんで?」

 と私はケイにたずねた、

「サキと仲良く歩いていただけで……。
そりゃ仲良くも歩くだろ?
クラスメートなんだから」

「いや。
実はまだ詳しくは聞いてないんだけど。
『田中さんはあおいみたいな可愛い系男子と以前付き合っていた』ってタカ、言ってたよ」

 とケイはことさら声を落として言った、

「で、その子に対して、ヒドイことをしたとか。
そう言うウワサがあるらしい」
 
 私はサキの顔を思い出した。
 まじめな優等生美少女の顔しか思い出せない。

 ヒドイこと?
 どんなことだろう?
 何にしても全然想像できなかった。
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