あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第一部

9話 『美ニル』について

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 私は、りんの部屋で、少年漫画『美少女ニルヴァーナ』を熱心に読んでいた。

 えー!?
 歩、和香に男だってバレたじゃん!
 これからどうなるの?

 ……と思いながら、ドキドキしていると。
 ポン! と肩をたたかれ、私はビクッとした。
 振り向くと、りんがいた。

「あ、悪い。驚かせた?」

「いや。別に……」
 
「飲みもの持ってきた。
お茶だけど」

 りんが私にお茶がなみなみ注がれたコップを渡してくれた。
 
 私は読んでいた『美少女ニルヴァーナ』をとりあえず机の上に置いて、コップを受け取った。

 りんは机に置かれた本に視線を走らせて、ニヤリとした、

「それ、おもしろいよな」

「うん。
ドラマ見たから、内容ほぼ知っているだろうな? と思ったけど。
違うところもあって。
すげーおもしろい」

「ドラマ見てたんだ、あおい。
和香役の子、すごい可愛かったよなあ」

「おれは歩役のアイドルがよかった……。
サワヤカ美少年でさあ」

 と私が笑いながら言うと、りんは一瞬目を丸くした。
 まずい! 素のコメントをしてしまった! と後悔したけど後の祭り。

 りんはニヤリとした、

「ケイやハヤトはおれのことBLって言うけどさあ。
実はあおいの方がBLだよな」 

 私は慌てて言った、

「はあ? ち、違うよ!
普通だろ!
男でも男アイドルに憧れるだろ! 普通」 

「まあね~」

 りんはニヤニヤしている。
 こいつ。隙あらば、からかってくる。

 私が頬を熱くしてりんをにらんでいると、りんはケロリと話題を変えてきた、

「それ、どこまで読んだ?」

 私も話題が変わることは大賛成なので、答えた、

「和香に歩が男だってバレるところまで」
 
「いちばん萌えるところじゃん」

 とりん。

「だよな!」

 私は腕を交差しながら胸を隠す仕草をしながら言った、

「歩が胸を隠すところとか、すごい萌える!」

 そう言ってからりんを見ると、りんは固まっていた。
 まずい! また素のコメントをしてしまったか? と後悔したけど後の祭り。

 りんは今度は苦笑いをした、

「おれは、そこじゃなくて。
和香が歩のこと、女だと思いつつも以前から好きだった。
……みたいなところが萌えるんだけどなー」

 そ、そうかー!
 そこか!
 そこが男子の萌えポイントなのか!

 私は、

「あ、当然、それも萌えるよな~」

 とヘラヘラ笑いながら言った。
 しかし、どう見ても今更感があった……。
 
 りんはジッと私を見てきた。
 何よ、その目は……と私がビビっていると、

「ま。いつでもカミングアウトしてくれていいんだぜ?」

 とりんは真剣な顔をしながら、私の肩をたたいた。

 カミングアウト……!?
 えっ……『私、実は女なの』ってカミングアウトしろって!?
 もしかしてりん、気付いてしまったの……私が女だと言うこと……。

「おれら全然偏見とかないし」

 りん……。

「あおいって可愛いし。
そっちでもわかるって言うか」

 ……。
 
 ん? 
 『そっち』って代名詞、何?

「そうか。あおい、ほんとにBLなのか」

 とりんは腕組みをした。

 な ん で だ よ 

「ちょっと待てよ。
飛躍しすぎだろ!  
はあ? なんでBL?
美少年アイドルが好きだから?
男が胸を隠す仕草に萌えたら、即BLなのか?
男だって、男が胸を隠す仕草に萌えるだろ! 普通」

「いや。普通萌えないよ」

 りんはドン引きしながらキッパリ言った。

 そうなのか……。
 おちおち少年漫画の話もできやしない、と私は思った。  


※※※
 
「『美ニル(『美少女ニルヴァーナ』の略称)』はさ、いわゆる『逆ハーレム』ものだよな」

 とりんが言った。

(※この世界では、ハーレムが1女多男の恋愛関係のこと。逆ハーレムが1男多女の恋愛関係のことである)

「ま、そうだよな」

 と私は腕組みをした。
 『美ニル』おもしろいけど、逆ハーレムだから男の登場人物が少ないのよね……そこは不満。

「りんはさあ、『実は男』とか言う話ってどう思う?」

「いいよな!」

 とりんは親指を立てた、

「ドキドキする!
こう言うのっていずれバレるだろ?
バレるところを想像してドキドキするんだよな~」

「もし本当にいたらどうする?」

「ん?
ああ……ほんとに『実は男』なのに女子として生活している、みたいなの?」

 りんは再び親指を立てた、

「いいね!」

 こいつ。
 すごく軽く答えるじゃないの。
 真剣に考えてない。

 でも仕方ないか……本当にいるわけない、って思うもんね、普通。

 と私の小さな不満がりんに伝わったのか、りんは真面目な顔をした。
 りんは口を開く、

「あおいなら、似合うだろうな」

「えっ?」

「女子高生の制服を着ても」

「は、はあ~? なんでおれが……」

「着たいなら着れば良いんだよ。
今、そう言う子、多いらしいぜ?」

「そう言う子?」

「男なのに女の格好をする子。あるいは逆」

 『男の』、『女の息子』のことね!

 ……。
 私はりんの真面目くさった顔をのぞき見た。
 りんってば真剣だ……。
 真剣に『あおいなら女子高生の制服が似合う』、『今、そう言う子、多い』って言うなんて。
 ……。
 また私、りんに勘違いされてない!?
 まあ実際、私『男の』になりたいわけではないにしても、『女の息子』ではあるのか……(混乱してきた)。

「いやいや。
なんでおれが女の制服を着なきゃいけないんだよ~。
漫画の話だろ?」

 りんは真面目な顔で頷いた。
 その目は語っていた――『おれら偏見ないし、いつカミングアウトしてもOKだぜ』と。

 わたしはゲンナリしながら思った……
 りん、すごく良い子だけど……実は思い込みが激しかったのね! 
 まあ、あながち間違っていないけど……。


〈りんの現在の思い込み〉
(前提……私=あおいは男だと思っている)
・あおいはBL(男が好き)
・あおいは『男の』になりたいかもしれない(女の格好がしたいかもしれない)

〈実際の私=あおい〉
(前提……あおいは『実は女』)
・あおいは(『実は女』だから)男が好き
・あおいは(『実は女』だから)本当は女の格好がしたい


 ……。

 実際、まとめてみると、りん……
 前提しか間違っていないじゃないか!

 男のカン、怖い……!
 と私は震えた。


※※※

「『実は男』って漫画で結構見るけどさー。
逆はあんまりないよな?
『実は女』ってやつ?」

 とりんは話題を変えてくれたので、私もノッた、

「たまには見るけどな?
なんかさ、『実は女』だとギャグになったりするよな~。
『えー! あなた女だったのぉ~ガッカリだわ……男だと思っていたのにぃ』って感じ。
なんか、『実は女』の女キャラってみんな同性愛者レズビアンのイメージ。
で、主人公の女に好意を持っていたりするんだよなー。
結構一途にさ」

 改めて考えると、『実は女』キャラは不憫な存在だ……。
 がんばれ! 見かけたら今度から応援しよう。

「ま、それが多いかもだけど、たまにはあるよ?
やむを得ない事情で、普通の女の子が男の格好をしているやつも」

「そ、そう言うの、どう思う?
やむを得ない事情で、ごく普通の女子が男として生活しているやつ!」
 
 私は聞いてみた。

 りんは腕組みをしながら言った、

「う~ん。『実は女』かぁ。
あまり好きじゃないなあ」

 !?

 私はものすごく打ちのめされた。
 だって私自身のことだもの――『実は女』って。

「そう……。
な、なんで……?」

「だってさー。
本当は女の子なのに男子として普通に通用するって……。
それって『普通に男に見える、カッコイイ女子』ってことだろ?
もしかして男よりカッコイイんじゃね?
『男よりカッコイイ女子』……なんか嫉妬してしまわねー?」

 とりんは熱弁した。

 りん……。
 私はホッコリした。

 そんな、りん……嫉妬なんてしなくて大丈夫なのに……

「りんよりカッコイイ女子なんて、この世にいないよ」

 と私は正直な気持ちを言った。
 言ってから。

 まずい! またまた素のコメントをしてしまった! と後悔したけど後の祭り。

 りんをそっと見ると、りんは何とも言えない顔をしていた。
 『何も言えねー』そんな顔。

 どうしよう、と焦っていると。

「サンキュー」

 とりんは言った、

「そんなこと言ってくれるの、あおいだけだよ」

 と言ってから、

「男にしか言われないってのも寂しいけど。
嬉しいよ」

 と笑った。
 ちょっと複雑そうな笑顔だった。

 りんは優しい。
 そして私は失言マシーン……。
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