あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

文字の大きさ
上 下
3 / 74
第一部

3話 GLは男の夢

しおりを挟む
「BLで思い出したけどさあ」
 とケイがニンマリしながら言う。
「この間おれ、女同士が手繋いで歩いているところ見たよ!」

「えっ。こんな田舎で?」
 ハヤトとりんが驚く。
 私も驚くが、ハヤトとりんみたいな好意的な驚きではない。 

 フーン……

 という感じだ。

 確かに少しは驚くが正直どうでもいい。
 無関心。

「えー。おれも見たかったなあ」
「どんな? 実際どんな?」

 りんとハヤトはケイの話に食いついている。 
 私とは違い、興味津々のようだ。

「イイね!」
 とケイがムフフと言う表情で、親指を立てた。

「うわっ」 
「まじか」

 りんとハヤトも目を丸くして驚いた後、ムフフと言う顔をする。

 そんな三人に私はそっと眉をひそめつつ考える……。

『女同士で手をつないで歩いていた』だけで『イイね!』って。
 何故そうなるの?
 そんなの、ただのレズビアンカップルじゃない?
 ただ女同士のカップルってだけで『イイね!』って。
 手をつないだ女男カップルを見るたびに心の『イイね!』ボタンを押してんのか、ケイのヤロー。
 レズカップルも女男カップルも同じように扱う――それが本当のNO差別なんじゃないの?
 余計な夢を見てもレズビアンのハードルを上げているだけだと思う。

 それにしても。
 男はホント、レズが好きだよね! 何故か。
『レズを嫌いな男子なんていません』って言うし……。

 GL本とか本屋さんにも、いっぱいあるし。
 でも実際のレズには腐男子って嫌われているって言うよね。
 GLと違い実際のレズって男が思うほど綺麗なものじゃないし。
 私は女だからわかるけど。
 男にはわからないか……。

(※この世界の腐男子とはGL好きの男性のことである)

 そう言うようなことを女が言うと男は、

「いや、わかってるけど。
GLは空想だってわかっているけど。
物語の中でくらい、夢を見てもいいだろ?」

 って反論するけど。
 
 そう言う割に女が同じように『さわやか男子』を夢見ていると、

「女子って夢見過ぎ。
そんな男子いねー」

 って言うよね?
 
 男がGLの夢を見るなら、女だって理想の男の夢を見ても良いじゃないの。

(※「さわやか男子」……「清楚系女子」の男子バージョン。身持ちの堅い男性)

 ……と私が脳内で文句を言っている間に、りん、ケイ、ハヤトは話を展開していったようだ。

「おれ、この間初めてGL本買ったよ」

 とハヤトが満面の笑みを浮かべつつ衝撃のカミングアウト? をした。

「うわあ、それ、手ぇ出したか!」

 ケイがドン引きのジェスチャーをした。

「どうだった?」

 とりんの方は興味津々のようだ。
 おれ、わくわくすっぞ??
 
 ハヤトは先程のケイの真似をしたのか親指を立てた。

「案外。イイね!
おれも最初ダチから借りたときは引くわぁ……って思ったけど。
ハマる!」

「マジか」

「今度貸して」
 とケイも言った。

 こいつ。
 さっきの『ドン引き』はどこへ行ったのか。
 
「明日持ってくるか!
4冊持ってくるから一緒に読もうか」

「いや教室に持ってくるのはまずいだろ~」

「没収とかされたら、もう学校来れねーよ」

「だな。
……じゃ、どうする」

「そうだ。
今度おれんち来ねー?」
 とりんが言った。

 ……。

 それまで死んだ目をして話半分で聞き流していた私は、その言葉で脳が頭の中でピクッとはねるのを感じた(嘘)。

 り、りんの家!?

 私も行く~!(ヨダレ)

「えっ? 何だよ、いきなり」

「実はおれんちにGL本あってさ」

「りん……」

「そんな趣味あったのか」

「いや、おれじゃないし」
 りんは少し不満げに、
「おれの兄貴が集めてたんだよ」

「りんの兄貴……」

「どんなの?」

「それがさあ、二次創作なんだよ」

「まじか」

「二次創作はなあ……」

「おれも二次創作は、ちょっと、な……」

 ケイとハヤトが引いている。
 そうだそうだ!
 思い切り引けば良いところだ、ここは!

「で。何の二次創作?」
 ケイとハヤトは、りんに詰め寄った。

 何だ、結局興味津々か。

「『名探偵お嬢さま』」

 とりんが言うとケイとハヤトは驚いた顔をした。
 いや、私も驚いた。
 『名探偵お嬢さま』のどこにGL要素があったのだろう? と漫画を思い浮かべてみる。
 いや、全然。
 ごく普通の少女漫画だ。
 かっこいい男子ヒーローがたくさん出てくる少女漫画だ。

「ちょっと想像できないな、それ」

「そんな要素、全然ないだろ?」
 と私も会話に加わった。

「誰と誰がカップルになるわけ?」

 とハヤトが聞くと、りんはニヤニヤと、

「メイド×お嬢さま」

「うわ……実際、全然からみないのに?」

「そうなんだよ~。無理矢理過ぎんよな?」 

「二人とも普通に彼氏いるのにそりゃないな」

「でも案外萌えたりして。
どんな内容なわけ」
 
「ほら、メイドには執事の彼氏がいるだろ?
でもメイドは実は執事のこととか全然好きじゃなくて。
本当はお嬢さまが好きなんだよ。
で、お嬢さまんちにコネを作るためにその家の執事を口説いて、そいつの彼女になって屋敷に入り込んで……」

 と言うりんの説明に私は耳をふさぎたくなった。

 や、やめてー!
 それ絶対、原作レ〇プしている二次創作でしょ!
(メイド、ストーカーになってるし!)
 私、『名探偵お嬢さま』好きなのに!
 お嬢さま可愛くて好きなのに!
 あんな可愛いお嬢さまが男々おおしくなってメイドに押し倒されちゃったりするの!?
 ムリムリ……!
 聞きたくない!
 
 男々おおしい令嬢なんか見たくないし、想像もしたくない!
 想像させないで!

「あおい、どうかした?
なんか、すごい眉間にしわ寄ってる」
 とケイがからかうように自分の眉間を叩きながら言った。
 
 私は少し焦ってから、あきらめて正直に言った。
「いやっ別に。
ただその、おれ苦手なんだよね、GL……」
 
 空気読めてないかもしれないけど。
 今後のことも考えると、早く言っておいた方がいいのかもしれない。

「ま、苦手なやつは苦手かもな」

 とハヤトが笑った。
 りんも訳知り顔でうなづいている。

 皆優しい感じだけど、ちょっと白けてしまった。
 このシラケを解消しようと私は明るい調子で、

「おれ、BLなら好きだよ」

 その発言の結果、場が一瞬で凍り付いた。
 白けた空気を何とかしようと思って言った発言で、さらに白けてしまった。
 鈍感な私にも瞬時に察せられるほどに。ものすごく。

 リアル『ドン引き』の空気がこの場を支配している。
『ドン引き』のジェスチャーすらしてくれない。
 3人ともただ固まっている。

 私はオロオロしてしまった。

 でも……。
 さっきまでGLの話を嬉々としてしていた奴らが、BLの話題が出てきただけでこんなに引く?
 何故なの?
 GLと同じく『同性愛』なのに?
 
『BL』……とても良いものじゃないか!  
 と言うか女のほとんどがBL好きだと思う。
 だって男同士イチャイチャしているのかっこいいし。
 平和でいいよね。癒やされる。

「BLの何がいいんだよー。男同士がベタベタしてるだけだろ?」

 とりんが引きつった顔ながら笑いつつ言った。
 場を和ませようと努力しているような感じだった。ごめん。

 でも。
『男同士がベタベタしてるだけだろ?』って。
 いつもベタベタしてくる、りんが言うのか、それ。
 まさに『お前が言うな』だ。

「えー? 
BLはプラトニックなのが多くて読んでて癒やされると言うか。
平和なんだよな。
GLってよく知らないけど展開早いイメージある。
BLはイチャイチャに始まりイチャイチャに終わるんだよ。
ただキャラがイチャイチャしているだけで。
優しい世界って感じがして……ほんと、イイね!」

 と私が親指を立て『イイね!』をすると、シラァ……とした顔で3人が私を見ていた。

 回復不可能なくらいスベりましたね、わかります。
 何でさっきドン引きされたのわかっていたのに、さらにこんなことを言ってしまったのか。

 と言うかそもそも教室でなんて話しているのだろう、私たち!

 まあ教室の端のりんの席に集まって話をしているので周りに人もあまりいない。
 誰も聞いてはいないと思うけど……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

男女比1対99の世界で引き篭もります!

夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公! 前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!! 偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたので、欲望に身を任せてみることにした

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。彼女を女として見た時、俺は欲望を抑えることなんかできなかった。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...