上 下
19 / 35
第二章 王国編

第十八話 久々のシャバの空気

しおりを挟む


 見事七階を突破した俺たちは六階へと上り、脱出を目指す。

「マナ君、さっきのはどうやったんだい?」

 「私も私も知りたい。」

 「ベルも!」

 ジャックを筆頭としみんながキラキラした目で俺を見つめる。

 はあ…バトルジャンキーの相手はキツイなあ…。

 アルゴーを見習ってくれ。
 二児の父、きっと俺の気持ちを考えて静かにしてくれているのだろうなあ…。流石だ。

 「うーむ…。しばらく考えていたがもしかするとそれがホシの言っていた例の''混合魔術''というヤツなのか?」

 「混合魔術…!確か魔術同士を組み合わせるっていう…!」

 「それ、超高等テクだよ。出来ないヤツ数えた方が早い。私も出来ないしね。どうやってやってるの?」

 さっきの言葉、全部ウソです。
 彼も立派は一員でした。

 アルゴーのおかげせいで会話がヒートアップしてきたのでそろそろ説明をしなければならない頃合いだろう。

 「みなさんの言う通り僕は混合魔術が使えます。さっきの糸は土+火+水を混ぜたもの。最後に使った魔法は火+雷を混ぜて放った技です。」

 四人が、特にジャックとカーフェは目を見開いて輝く目で見てきた。

 カーフェは見た目に反して子供っぽいのかな?
 純粋にすごい、どうやってやるの?ってのが伝わってくる。

 けどジャックはなあ…。
 獲物を見るような目してるもんなあ…。

 「マナ君…。キミは今まで出会ってきた中でどんな魔術師よりも偉大ですごい子だ…!ああ…一度手合わせしたい…今からでも…!!」

 ハアハアするなよ''狂人リッパー''め。

 「ジャックに同感だよ。君のような魔術師が無名な方がおかしい。私も多分千年近く生きてるけどできないね。でもたまあにそのような事をやってる連中を見かけたらから謎が解けた。」

 ダウナーな彼女も珍しく褒めてくれてる。
 千年の中でもたまあにって…やっぱ混合魔術ってすごいんだ…。鼻が高い。

 でも千歳か…すごいな。

 しかし日本人謙遜する人々。
 ジャパンを舐めちゃいけない。

 「いえいえ、みなさんのがお強いですよ。僕は初めて村出たガキですし。…それに。」

 話しながら走ってたら六階層の看守室に着いたようだ。

 「さあてじゃあ次は誰が行く?誰もいないならボクが行くけど?」

 「いや、私が行くよ。めんどくさいから早めに終わらせたいってのと、マナのを見てやる気湧いたから。」

 そう言ってカーフェはスッと前に出る。
 純白の髪に真っ白なドレス。
 エルフなだけあって耳は長く、美しい。
 おまけにスラっとしていたとてもスタイルも良い。

 まるで少しやる気のないエ○リアのようである。

 「オーケー。それじゃ''死神タナトス''カーフェくん。よろしく頼むよ。」

 それにしても''死神タナトス''か…。
 すごい優しくて穏やかそうな人なのにどうしてそんな二つ名なんだろう。
 一体どんな戦い方なんだ…?

 俺たちが外でガサガサ話しているのに気づき看守たちが姿を現した。

 「な…!?キサマらは…!!''狂人《リッパー》''に''野獣ビースト''…!それに''死神タナトス''まで…!!報告にないぞ…!?」

 「おいおい、俺もいるんだがな。」

 「き、キサマは''巨人ゴーレム''!?」

 さっきまでの看守たちと違い、コイツは中々優秀そうだ。
 相手の情報を知るのは大切。
 下にいた愚か者どもはそれすらわからず突っ込んできて死んだ。

 「弱い者いじめは好きじゃないんだけどなあ…。」

 カーフェはため息をつき一言呟く。

 すると彼女から黒色に染まった魔力が溢れ出す。

 あれは…闇系魔術か…?

 湧き上がる魔力は集まっていき、次第に形を作っていく。

 なんと集まった魔力は漆黒の大鎌となりカーフェの手に収まった。

 その鎌は…見ただけで分かる。ヤバい。
 まるでカ○トの能力のような根源的恐怖…。

 兵士たちが怯え始めるのを気にもせずカーフェは鎌を一振りする。

 刹那、兵士たちの首が宙に舞い上がった。
 切り口からは血すら流れていない。

 これが''死神タナトス''と呼ばれる理由か…なるほど…。

 この人、ダークエルフじゃん…。

 「おしまい。さ、行こう。」

 何事もなかったかのようにさらりと言ってる、この人。
 リアルサイコパスだ…。

 「素晴らしい技だね。''死神タナトス''。」

 「どうも。でもその名前で呼ばれるのは嫌いかな。」

 ''死神タナトス''と呼ばれるのは嫌いなんだ。覚えておこう。

 さっきの鎌…。
 闇魔術を極めたからこそ成せる神技と言って良い。
 その技量はとても尊敬できる。

 俺が彼女と戦っても混合魔術を使えばまあまあかもしれないがまず勝ち目はないだろうな。

 「マナ!早く来るにゃ!」

 ヤベ、考えてたら置いてかれそうになってた。
 ベルに手を引かれて追いつく。

 「遅いぞ。考え事か?」

 アルゴーが聞く。

 「カーフェさんがすごいなと思ってました。」

 「嬉しいけど君のがすごいでしょ。」

 「そんな事ありませんよ。」

 この人たちとも結構仲良くなれた気がするな。
 参考にする事も多いし嬉しい。

 さあ上へ行くぞ!

————

 残りの五、四、三、二、一階層は割愛しよう。
 なぜならアルゴー、ジャック、ベルは脳筋だからだ。

 基本、兵士たちをボッコボコにするので見る光景は全く同じ。
 俺とカーフェは見学させてもらった。

 後半、それはそれはベルが楽しそうに暴れていた。
 敵ながら若干同情すら覚えるぐらいにはな。

 結局力が一番スマートで手っ取り早いのかもしれない。
 俺もこれから鍛えることにしよう。

—————

 「うおっ…まぶし…。」

 ついに、ついに俺たちは外に出た。
 ずっと地下にいたのでお日様の光がとても眩しい。
 しかししばらく触れてなかった温かさと眩しさがとても心地良い。

 「久々のシャバの空気だ…。うめえ…!」

 「しゃば?」

 ベルがなにそれって顔で首を傾げている。

 「牢獄の外の空気ってコトですよ。」

 「ふーーんおもしろいね!」

 俺たちは隠し通路から脱出し、そこで王子と落ち合う事になっている。

 抜けた先はどこかの部屋になっており、どうやら王宮のどこか一室のようだ。

 広い部屋で大きなガラスの窓から燦々と日が差している。
 赤と金のタペストリー…ってあれ?
 なんか見覚えがあるようなないような…。

 「王子いないねー。」

 ベルが周りをキョロキョロしながら言った。

 「アルゴー、どうしますか?」

 「うーむ…。待つしかないだろうなあ。」

 まあゆっくり待つか。
 走りっぱなしで疲れたしな…。

 「マナ君、この間にキミの事教えてくれよ。どうやって混合魔術を使っているんだい?」

 「それ、私も気になる。教えて。」

 隙あらば質問してくる戦闘狂め…。

 「え、えっとそれは…。」

 ギイイイ…。

 対応に困ってたら扉が大きな音を立てて開いた。

 王子か!?だとしたら救世主だ。

 「王子さ………。」

 「キサマら…!!」

 入ってきたのは王子違い。

 イタイタス第一王子だった。
 

 

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

処理中です...