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第二章 王国編

第十四話 投獄

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 「おい、さっさとコイツの首を刎ねろ!」

 暴君イタイタスが俺を指差して大声を上げた。
 なんだよこの王子…。
 だがこの状況、どうする事も出来ない。
 終わったな…。

 「兄上、彼に罪は本当に罪はあるのですか!?」

 コイツを''兄''と呼ぶ男。
 さっきからずっと隣にいた青年が問い返す。

 「ふん。ベラ、第二王子の分際ででしゃばるなよ。コイツは大罪人アルゴーのガキを庇った上に俺様の兵士を傷つけたのだ!万死に値するだろう!?」

 「だが兄上!!アルゴーは罪など犯していないの言ったではないか!!」

 「だまれ!!!」

 イタイタスの一喝で場が静まりかえる。

 二人の会話を聞いて分かったが…。
 俺を庇ってくれているっぽいこの人は多分第二王子のベラクレス・ロゴス御方であった。

 兄のいかにもな悪人顔とは正反対で、聡明で整っている顔、綺麗な金髪をサラサラとなびかせ人の良さそうな雰囲気を纏っている。
 全体から溢れ出すこの清潔感。
 
 よっぽどこっちの方が王の器じゃないか…。

 「チッ。まあ良い。おい!そいつを地下牢獄にぶち込んどけ!!しばらくしたら殺してやる!!」

 するとベラクレスが俺の方へと近づいてきた。

 「私が行きましょう。」

 名乗りを上げる。
 
 「ふん。何かしようとしても無駄だぞ。」

 「分かっています。」

 イタイタスの投げかけた言葉をさらっと受け流し、玉座の間を後にした。

——————

 「兄がすまなかったね…。こんな事で済む話ではないがせめて謝罪させてくれ。何も出来なくて申し訳ないよ。」

 イタイタスのいる玉座を出て、長い廊下を歩いている時、ベラクレスが話しかけて黒いきた。

 猿轡と腕を縛っていたロープをとってくれた。
 
 「い、いえ…。助けてくれてありがとうござます。」

 「無罪の人間、それも子供にこんなことをする方がおかしいんだよ。それにまだ助けられた訳じゃない。僕たちは王家の人間として恥ずべきだろうさ…。」

 立ち止まり頭を下げて謝罪してくるベラクレス。
 廊下の窓からさす光が彼の誠実そうな顔を照らしていた。
 
 好青年、それに責任についても分かっている男。
 このわずかな時間だったが、俺はこの人を信用することにする。
 てか、それしか道がないのだ。

 「アルゴーの子供を守ってくれたようだね。ありがとう。心から感謝するよ。」

 「それじゃ、アルゴーさんは無実なのですか?」

 「無論、彼は無罪さ。」

 良かった…。
 一つ心配事が減った。

 村長の友人が犯罪者なんて考えられなかったがやはりハッキリと無実だと言ってもらえれば安心するな…。

 だが…そうすると疑問が生じる。

 じゃあなんでアルゴーは捕まってたんだ?

 「ならなぜアルゴーさんは?」

 ベラクレスは苦い顔をした後、口を開く。

 「…君も見ただろう。僕の兄を。あの者は、傲慢の塊。暴君だ。兄が王になればこのロゴスは終わってしまう。だからこそ僕は兄に立ち向かうべく密かに軍を結成し動いていた。そこで拠点や兵器開発を一任していたのが彼、アルゴーなんだよ。」

 「なるほど…。」

 長い廊下が終わり、目の前に見えたのは薄暗い階段。
 今までの煌びやかな王宮のイメージとは違い、ここは松明が一本かけられチラチラと照らしていた。

 俺たちは階段を降りていく。

 「ある時、アルゴーに虚偽の罪がかけられ、彼は瞬く間に兄の兵たちに包囲され捕えられてしまった。しかも彼のみならず二人の子供、オシリスとアルルにまで殺せと命令が下ったのだ…。僕は彼らを巻き込んでしまった事を本当に後悔していた…。だから君がオシリスとアルルを奴の手から救ってくれたと聞いた時、とても安心したんだ。君は大恩人だよ。」

 話をまとめるとロゴスはベラクレスとイタイタスの二つに分かれていて、裏で内乱が起ころうとしている。
 イタイタスに対抗するため軍を結成したが、先手を打たれアルゴーを失ったということだ。

 しかしこれは非常にマズイ状況だ…。

 なぜならベラクレスが押されていると言う事はロゴスは今、イタイタスの手中にあると言っても良い。

 「ベラクレス様…。僕は何をしたら良いですか?」

 一言言うとベラクレスは俺を驚いたような目で見てきた。

 「…君は本当に強い子だね。僕なんかよりもずっと…。確かに君たちがやってきたのはイレギュラーだがこれはチャンスと捉えた方が良いね。少々辛くなるが大丈夫かい?」

 「僕は村長様よりアルゴーさんを連れてこいと言われております。そして聖女様も助けねばなりません。そのためには…命すら惜しくありません。」

 「すごい子だ…。では君の覚悟に僕も応えられるように頑張らねばな。」

 ヤバい。
 言いすぎたかもしれない。
 確かに命すら投げ出す覚悟はあるけど、いざ言ってみるとなんか怖くなってきた。
 
 今まで何度も死ぬかもしれない場面に遭遇してきた。
 逆に言えば俺は上手くやれていなければもう死んでると言う事。
 
 上手くやれるのか…?俺…。

 「…命は言いすぎたかもしれません…。やっぱり怖いです。」

 ベラクレスがその言葉を聞くと思わず吹き出していた。

 何笑ってやがる…。

 「ぶっ…ははは…!だよな。僕も死ぬのは怖いよ。正直君が命も惜しくないと言った時は子供かどうか疑うぐらいにはね。でも恐怖することは大切だよ。まずは生き残る事が一番さ。十分君の覚悟は伝わった。ありがとうマナくん?で良いんだっけ?」

 「…はい。あと頭撫でないでくださいよ。」

 さっきから頭をわしわしと撫でてくる。
 なんか…一気に子供扱いされてる気がするんだけど…。

 「いやあなんだか急に君が子供に見えてね。あ、いや子供か。今までが大人すぎたんでギャップがね。ついつい。」

 実際、俺の中身は二十代後半の男。
 だが、素で言った事が子供扱いされてるとなんな俺の尊厳が損なわれる感じがする…。

 「そもそも今はどこに向かっているのですか?地下に向かってる感じがするのですが、まさかさっき言ってた地下牢獄…?」

 「そうだよ。でも兄の近くにいるよりはよっぽど安全だから安心して。君はとりあえず怪我を治して休んだ方が良い。」

 お、おい。
 結局牢獄の中には入れられるのかよ…。

 「で、ですが僕は動けますよ…!」

 「大丈夫。君が休んでる間、僕も出来る事をする。怪我が治ったら君にも動いてもらうことになるよ。」

 ベラクレスが微笑む。
 
 そしてどうやら俺たちは目的地に到着したらしい。

 重たく、冷たい鉄の扉を開けた先に広がっていたのはまさに地下の牢獄。
 鉄格子が立ち並び、中には囚人が収監されている。

 「さあ、ここが君の房だ。何か報告などがあれば伝わるようにする。場所が場所だからゆっくりは出来ないと思うけど少しでも体を休めるんだよ。これから先、戦いが待ってるからね。」

 彼の目は遠くを見据えていた。
 きっと見ていたのはイタイタスとの決戦の時だろう。

 「…わかりました。」

 「それでは僕は行くよ。まずは横になって疲れを癒すと良い。」

 少し微笑むとベラクレスは俺が入った牢屋の鍵を閉め、元来た階段を上がり行ってしまった。

 牢の中を見渡してみる。

 水道、トイレ、二段のベッドがあるだけでそれ以外はゴツゴツとした苔むした石壁、冷たい床のみだ。

 しかし最低限生活の保障がされているのを見て少し安心した。

 これでトイレとかもなく、本当にただ空間があるだけとかだったら俺は発狂して気が狂ってただろうな…。

 暗いし、汚いけどなんとか生きてけそうだ。

 とりあえずベッドで横になろうと思い、近づいてみると下の段には誰か人が寝ていたので上にすることにした。
 
 体がゴツかった。
 なんか暴れん坊のヤバい奴じゃなきゃ良いけど…。
 それに牢屋内で下っ端囚人をこき使うような奴でも無ければ良いがな…。

 はあ…。
 これからどうすれば良いんだろうな。

 こんがらがった頭、ビリビリと痛みを感じる体…。

 目を瞑ってみたが、眠る事はできなかった。

 
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