【R18】残念美女と野獣の×××

優奎 日伽 (うけい にちか)

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3. 野獣、企む

野獣、企む ⑧

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 力とのファーストコンタクトから数度の接触を経て、完全に彼は京平に気を許したようだ。自分の家族の事や仕事の事を、何の疑いもなく京平に話して聞かせた。瀬里の話になると自分でも引くくらいの食付きを見せてしまっても、力はさして気にした様子もなく、『うちの妹怖い』とか言いながら『でも可愛い。でもやっぱ怖い』と妙な葛藤を見せていた。が、結局の所“可愛い妹”で帰結する。

 お前の妹だったらたかが知れてるな、と態と煽るような言葉を吐けば、力はスマホの写真データを片っ端から京平に見せつけ、この時はこうだった、あの時はああだったと細かな説明付きで妹の可愛さを説き、その尋常ではない妹愛に京平の顔から表情が完全に抜け落ちた。

 瀬里専用のフォルダとか、その中の夥しい妹の画像とか、絶対に異常だろう。こんな危ない奴を籠絡して瀬里に近付くことが出来るのだろうか、と考える一方で、もしかしたらこれが普通だったりするのだろうかと、家族の繋がりが希薄な自分には理解出来ないだけかも知れないと、頭の中がぐるんぐるんした。

 しかし話を聞けば、殆どの人が京平と似たような態度になると聞いて安心した。
 力曰く、瀬里専用フォルダは高本家の全員がシェアしているものであり、それが彼らの常識なのだそうだ。
 何でも高本の家では、男系の一族であるが為に、希少な女性を大事にする風習が根強く残っていると力は言う。故に女性たちはカーストの上位に君臨しているそうだ。当然、兄弟全員が物心が付く前からそうなるべく刷り込みされている訳で、高本家では唯一の娘、瀬里大好き人間で構成されている。

 そんな話を聞きながら、女性であるあの継母を女神のように敬うなんて自分には死んだって無理だと、京平の口元に歪な笑みが浮かんだ。
 京平にとっての女性というものは、ただひたすら嫌悪の対象か性欲の捌け口のどちらかでしかなかった―――瀬里に出会うまで。
 もしかしたら瀬里に対しても、ちょっと今まで周りにいなかったタイプだから興味が湧き、抱いたらそれもなくなるのかも知れないと、思わなくもない。
 そう思うのに、彼女のあの鮮烈な眼差しを思い起こせば、これまでの人生で感じたことのない高揚感と独占欲に支配されるのだ。



 今日も今日とて、焼き肉を餌に力を呼び出すと、妹愛にあふれる彼は京平がせっつくまでもなく、瀬里フォルダの中の膨大なファイルの一つを開いた。これを家族全員がシェアしていると言うのだから、どれだけ瀬里が好きな家族なんだろうと、少々引き気味の笑みを浮かべる―――が、後に京平もその一人となるなんて、この時の彼は微塵も想像していなかったのだが。

 箸を持ったまま画像データをスワイプする力の手首を咄嗟に掴んでいた。驚いた顔で京平を見返す力の顔にチラリと目を遣り、すぐにスマホを力から取り上げると画面を逆行していき、指がピタリと止まった。
 年の頃は小学四、五年生くらいだろうか。瀬里を中心に、淳弥ともう一人が仲良く手を繋いで笑っている。幼い頃から男を目の敵にしていると聞いた後で、違和感満載な写真だった。

 唯一の弟である淳弥は瀬里にとって特別、と聞いている。それには少々……いや。大分腹立たしいものがあるが、淳弥の小学校入学直前まで、彼を妹だと疑ってなかった瀬里にしてみれば、今更な感じなのかも知れない。だから、仲の良い姉弟の思い出写真だと納得もしよう。
 しかし、と写真を凝視する。
 えらく綺麗な顔立ちをした黒髪の少年に目が釘付けになった。

「コイツ誰?」
「え? ……ああ、従弟。淳弥と同じ年で、この従弟も淳弥と同じ理由で瀬里の特別かな。瀬里が小学校に入るまでいつも一緒にいたし」

 京平が黒髪の少年を指さすと、力はやや身を乗り出すように画面を覗き込み、京平の微かに滲ませた苛立ちに気付く事もなくそう言った。

 淳弥と同じ理由、と言われてしげしげと顔を見れば、男の子の格好をしているのを目にしても、女の子と断言されたら納得してしまいそうだ。それくらい綺麗な顔立ちをしていた。

「瀬里が淳弥を妹だと信じていた原因は、この従弟の母親である叔母のせいなんだよね」
「どういう事だ?」
「ほら。うちって男ばっかの家系じゃん。女の子を望む声も結構あってさ、満を持して臨んでみれば、生まれたのはやっぱり男で、産み分け方を実行するほど女の子を欲しがっていた叔母の思考が、ちょっとヤバい方向に行きそうだってんで、十玖とおく…あ、従弟ね。その十玖を守るために、女の子の格好をさせてたってワケ。で、俺ら下三人は、忙しい両親に代わってその叔母に面倒を見て貰っていた、と」

 欲しくて欲しくて仕方のなかった女の子の世話ができるとなり、叔母のテンションはダダ上がり。

「で、十玖だけじゃなく淳弥まで女の子の格好をさせて、なんちゃって三人娘に囲まれた叔母は、おむつ交換さえチンコさえ見なければ最高に幸せな数年だったと、事ある毎に言っている」
「そ、そうか。それは、なんだ……うん」

 なんともコメントに困る。
 京平が写真に目を落としているうちに、力がせっせと肉を鉄板に落としていく。トングで肉を広げている力は何とも嬉しそうである。

「おい。まだ生焼けだろ」
「え、ダメ?」
「腹壊して仕事にならなくなったら、拙いんじゃないのか? ほら。野菜も食え。焦げる」
「うううっ。早く焼けろぉお。火ぃ強くしても?」
「既にマックスだ」

 力の取り皿に少々焦げた野菜をポンポン放り込み、空いたスペースにカルビを流し落とす。京平はふと、疑問を口にした。

「力は女装させられなかったのか?」
「あるよ。一回だけ。でもその後、叔母さんに謝られた」
「……ああ」
「ああって。でもって、なんか地味に傷付く眼差し、止めて貰えます?」

 如何に可愛い洋服を着せられたところで、凛々しい目鼻立ちの力はひっくり返っても女の子には見えなかった事だろう。その時の叔母の心情を思うと、つい憐れみの情が面に出てしまったようだ。

 口を尖らせた力が、ドサクサに鉄板の肉をごそっと攫い、タレの入った小鉢に投入するとさっと絡めて一気に口の中に突っ込んだ。
 ハフハフしながら至福の表情を惜しげもなく披露する力を見ていると、根こそぎ力が奪われる気がする。

 そして今日も思う。本当に瀬里と力は血の繋がった兄妹なのだろうかと。

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