【R18】残念美女と野獣の×××

優奎 日伽 (うけい にちか)

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3. 野獣、企む

野獣、企む ③

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本日二話目の投稿です!

た、偶にはね (;一_一)

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 ***


 微熱はあるものの、『そもそも平熱が高いんだ』と圧を掛けつつ健を押し切ってしまえば、これ以上何を言っても京平が引かないことは解ったようだ。

(医者の住処に行くんだから、これ程安心な場所もあるまい)

 少しでも体調を崩したら強制送還は間違いないだろうが。勿論、意地でもそんな事にはさせない。

(そんなヤワじゃねえのよ俺は)

 瀬里が帰ってくるまでの間、この機に乗じて如何に彼女のプライベートを独占するか、そんな事ばかり思案していた。

 父 勝明は著しく生活能力に欠けている癖に家政婦を家に入れたがらず、どうしても帰らなければと情に訴えた。
 まあ当然のように満場一致で却下され―――瀬里だったら或いは、とつい漏らしてしまった独り言のように装ってみると、想像以上にあっさりと了承された。善良な人たちの罪悪感に付け込んで、少しばかり良心の呵責を伴う。

 しかし。正攻法で瀬里を落とそうとしても、歯牙にも掛けられないだろう事はこれまでの経験則でも明らかだ。
 彼女にとって自分はいつもイレギュラーな存在でなければならない。追い込んで追い込んで、自ら堕ちて来るように仕向ける。その為ならどんな卑怯な手でも厭わない心算だ。

(瀬里にとっちゃ、あの日俺と出会ったのが運の尽き。俺には運命的な出会いだったがな)

 決して運命論者ではないけれど、出会い方が違っていたらここまで瀬里に執着しなかったと思う。精々、“友人の妹” 程度の認識だったろう。

(ま、俺の気を惹いた瀬里が悪いってことで)

 そうして―――高本家のリビングで待つこと十分。漸くお待ち兼ねの瀬里が帰宅した。



 リビングに入って来るなり瀬里は脱力したように肩から鞄をずり落とし、次には信じられないものを見たとばかりに目を剝いた。瀬里は口をパッカリ開けたまま京平を凝視していた。顔がついついニヤケてしまう。

「瀬里ちゃん。突っ立ってないで早くお座りなさいな」

 癒やされる声色と聖母のような微笑みで、彼女の母 利加香が瀬里を京平の隣りに促す。
 扉の前で利加香と瀬里が目で会話するのを悠然と眺めていると、瀬里が忌々し気な目を京平に向ける。両手を広げて「カモ~ン」と言ってみたが、まるで野良猫のように威嚇してきて、それがまた京平のツボに嵌ったなどと、彼女はこれっぽっちも思っていないだろう。

 瀬里は何だかんだとしばらくゴネていたが、力を京平側に押し退けてスペースを確保しようとしたのだろう。しかし、まんまと力に裏をかかれてバランスを崩したところでやっと捕獲した。

(でかした力よ。偶には気が利くんだな)

 演劇のことに関して以外はポンコツな友人を胸の内で褒めた。貶しながらこれでも一応褒めている。が、京平に褒められ馴れていない力は、口に出したら非常に鬱陶しくなるので、決して言わない。

 それにしても、と傍らの瀬里を横目に見た。 
 京平としては膝上希望だったのだが、激しく抵抗されて仕方なく隣に座らせた。ただし腰をホールドすることは断固として譲らなかったが、非常に残念だ。
 瀬里の向こう隣りに座った力から呆れたような溜息が聞こえたので、取り敢えず一蹴りしておいた。

 そうしてやっと本題に移っていく。
 怪我の状態は、瀬里が想像していたよりも酷いものだったのだろう。全治三ヶ月と聞いて、彼女はしばらく言葉を失っていた。

(無理もない。俺でさえやっちまった感が半端なかったからな)

 利き手ではないものの、やはり手の怪我は日常生活にも支障が出る。

(まあ今回はそこに付け込んだわけだけど)

 チラリと目を向ければ、瀬里の父 晃が娘に苦渋の決断を口にした。
 ところが瀬里は、直ぐに理解できなかった……もとい。したくなかった様だ。
 はい。わかりました、と瀬里が素直に従うとは微塵も思っていない。そんな瀬里は瀬里ではないとすら思っている。

 案の定、瀬里の往生際は非常に悪かった。
 あーでもないこーでもないと屁理屈を捏ねながら、何とかして回避しようと必死だ。しかし事態は京平の望む方へと向かっている。
 ニヤニヤが止まらない―――と、強い視線を感じて目を向ける。

 次兄の基樹と三兄の泰成が、向かいのソファの上を互い違いにびろーんと躰を伸ばして占拠し、その端っこに浅く腰掛けている瀬里唯一の弟、淳弥がじとっと京平を睨め付けていた。

(やっぱ家族の総意とはいかなかったか。……それともニヤけてたのがマズかったか?)

 表情筋が緩みまくってる自覚はある。
 淳弥の不信感を煽ったかも知れないと考える傍らで、常日頃の形振り構わない行動も拍車を掛けているんだろうなと思う。
 だが思うだけで反省はしない。
 そこで態度を改めたら、ここぞとばかりに瀬里が手をすり抜けていく。

 不満の表情を隠しもしない淳弥に苦笑が浮かんだ。
 恩人である京平に物申したくても、家長の決定に逆らえない。かと言ってこのままでは瀬里が主張するように、彼女の貞操の危機なわけで。
 淳弥のジレンマが目に見えるようだ。

(姉を心配する淳弥には悪いが、まず間違いなく、ここに瀬里が帰って来る時には “女” になっているだろうからな。てか、寧ろそのまま帰さない方向でいいんじゃないか? どうせ嫁に貰うつもりだし、行ったり来たり手間掛けることもないよな)

 いいこと思いついたとばかりにうんうん頷いていると、何かを察したように瀬里が睨み上げてきた。そんな仕草も可愛いくて、ちょっかいを掛けたくなるのは仕方ない。うずうずする指先で腰骨のラインをなぞると、小さな悲鳴を漏らした瀬里に太腿を抓られた。

 そんな二人の様子を窺っていた利加香が、微笑ましげにこちらを見ている。京平もニコリと笑い返した。
 高本家の絶対者―――利加香を味方に付けている。

 瀬里にしたら不幸な事実かも知れないが、あの日、彼女が京平の興味を誘わなかったら、きっと今彼がここに居る事はなかっただろう。
 瀬里に出会うまで、荒んで爛れた生活を送る息子が頭痛の種だった京平の父 勝明と、黙っていれば凛と美しい最愛の娘の男嫌いのせいで、夢に見た娘の花嫁姿が風前の灯火となった瀬里の母 利加香の利害は一致した。この縁を逃したら後がないとばかりに、二人は我が子たちを結婚させる気満々であり、京平も願ったりの状況である。否を唱えるはずもない。

 お膳立てされている関係、とは言っても、これには瀬里と相愛であることが条件になっている。瀬里に気持ちがないのに、無理矢理結婚させる心算は二人にないと言うことだ。
 ただし、過程に制限や規制はない。
 利加香曰く、『温いことしてたら瀬里ちゃんは絶対に堕ちないわよ』と、聖母の微笑みで荒療治OKのお墨付きを寄越したくらいだ。どう瀬里を陥落しようと関知しない。『なんなら既成事実でも』と本音をポロリ、まったく以て心強い限りである。晃はその時、強張った顔を白くさせて無言だったが。
 そうは思っていても、ぐいぐい押し進めて瀬里を翻弄する京平とて、彼女の愛が欲しいのだ。

 彼女の唯一になれたら、どれほど幸せだろうか。

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