【R18】残念美女と野獣の×××

優奎 日伽 (うけい にちか)

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2. 残念美女、野獣に転がされる

残念美女、野獣に転がされる ⑩

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 ***

  
 漸く辺りが白み始め、小鳥のさえずりが聞こえてきた頃―――

 背中が温かい、と瀬里は微睡みの中でぼんやり考えていた。
 このまままた眠りに引き込まれそうになりながら、背中の温もりの理由を探していると、何やら背後でもぞもぞと動き、内心で首を傾げた彼女の意識が俄に浮上を始めた。
 まだぼんやりする頭を起動することに些か苦心しながら、神経を澄ましていく―――と、自分を取り巻く温もりは背中だけではなかったらしい。下にしている首の右側面と、腹に巻き付くように左の腰上、両足の動きを封じ込めるずっしりした重みももれなく付いてくる。

 雁字搦めと言って憚らないこんな状態で、よく悪夢を見なかったもんだと、眉間に深い皺を寄せつつ、果たしてこの拘束具の正体を確認してやろうと、瀬里は瞼をこじ開ける。
 一番最初に目に飛び込んできたのは力なく開かれた大きな手で、それと認識するや起き抜けの全身から音を立てて血が下がっていった。
 後ろを確認したくないと怯えつつ、そろそろと肩越しに後方を振り返って、瀬里は息を詰めた。
 瀬里の人生最大最悪の天敵が、無防備な顔を晒して寝ている。

(どーして……?)

 なぜ天敵に抱き抱えられるようにして、のほほんと眠っていられたのか。
 瀬里は自分の図太さに眩暈を覚えつつ、昨夜の出来事を順を追って思い返えし、猫科の動物を思い起こさせる凛然とした美貌に苦々しいものを浮かべた。

 今なら寝首をかけるかも知れない、そんな考えがチラリと脳裡を掠める。が、それを行動に移そうとか考える前に、畳み掛けるように再生される昨夜の忌々しい記憶の数々に、容易く隅に追いやられていった。
 あるところまで記憶を辿っていくと、途中からあやふやになっていることに気が付く。

 見る間に不快の中に不安を綯い交ぜにした面持ちに変わった。瀬里は微かに震える眉宇を顰めながら、意識を凝らして続きを促してみる。
 飛び飛びの映像から些細なことも逃すまいと、同じところを何度も繰り返して記憶を辿った。
 幾度も途切れる記憶の中に、心配そうな面持ちで瀬里を窺う京平の姿。
 何かを言っているようだが、何を言っているのか解らない。ただ、非常に居たたまれないことは確かだ。

(……よし。逃げよう)

 瀬里は首を元に戻し、腰に回った腕に手を掛けた。
 高々腕一本なのに、脱力していると何故こうも重いのか。
 同時進行で、自分の脚に絡まった京平の脚からの離脱も図る。少しずつ体勢を変え、じわりじわり動かしてみるけれど、これが腕とは比べものにならないくらい重い。
 起きないでよと心中で祈り、瀬里は寝た子を起こさないように慎重に、ゆっくりと躰を移動させていく。

 あと少しで片足が抜ける、と緊張の中に微かな安堵を滲ませた時。
 瀬里の指先に掴んだ手首からの筋緊張が伝わるや、間髪入れずに腹部への圧を感じた。瀬里の喉から吐息のような悲鳴が漏れる。
 どうこうする余地もなく、解け掛けていた京平の腕と脚が先刻よりも強く絡み付いて彼女を引き寄せた。

「どこ、行くんだよ」

 背後から掠れた声に耳殻を擽られ、咄嗟に首を竦めた瀬里の後頭部に感じた生温かい熱が、京平が顔を埋めいているからと気付くまでコンマ数秒。反射的に身を硬くした。

「お、起きるのよ」
「体調は? 具合悪くないか?」
「具合…………はっきり言って、最悪ね」
「だったら時間までもう少し横になっておけよ」
「……え?」

 京平が言う “具合” とか、何のことだか訝しく思いながらも、朝っぱらから不快指数MAXのこの状況。色々な意味で具合が悪いという解釈は強ち間違ってはいないはず、と大きく頷いた瀬里は、さり気なく京平の腕から抜け出そうとして、あっさり引き戻されていた。
 京平の大きな手が目の前を横切り、思わず首を竦める。次には何かがペリペリと額から剥がされて、それを目で追った。
 ブルーのジェル材がカピカピになった冷却シートが、京平の指に抓まれて情けなく揺れているのを、はて? と内心首を傾げながら眺める。

(熱出した覚えないんだけど?)

 そこで不意に甦る朧げな記憶。
 心配そうに顔を覗き込んでいた京平の姿を思い出し、困惑やら焦りやら、何かいろいろと言葉に出来ない感情が湧き上がって来て、ぶわっと顔が熱くなった。
 甚だ不本意ではあるが、看病されたらしい……事は理解した。

(……でも何で?)

 体調は悪くなかった筈だ。

(…………や。ちょっと、胃がシクシクしてたか。でも、そんなんじゃ冷却シート関係ないし……ん?)

 何やら腹の辺りがさわさわする。
 しかも何やら温かい、と言うかちょっと熱いくらいだ。それが腹を撫で、腰を撫で、這いあがってくる。その感触が直接的で、瀬里の顔から表情がこそげ落ちた。
 なけなしの乳房が鷲掴まれ、瞬間にのっぴきならない事態を悟る。
 なだらかな丘陵の尖端を挟まれて、躰が勝手にピクリと反応する。それが心底居た堪れない。

「ちょっとぉ――――っ!?」

 叫びながら勢いに任せて起き上がり―――かけて元の位置に戻された。

「んー?」

 素っ惚けた声が耳の傍で聞こえたかと思えば、首下を通る手に頭を抑え込まれて耳殻がやんわりと挟まれる。生温いものがチロリと耳の縁を撫でて、そこで初めて耳を食まれていることに気付いた。尖らせた舌先の舐る音が、耳の奥でゴソゴソと大きな音を立てている。それが耐えられなくて、逃れようと首を振りたいのに動けない。
 ならばせめてと、胸をやわやわと揉む京平の手を掴むが、Tシャツに阻まれていた事に気付いて裾から手を突っ込み、彼の手を掴み直したけれど、力の差は歴然だった。
 ノーブラであるにも拘わらず、Tシャツを着ていたことで少しホッとし、そこ安心するとこじゃない、と慌てて自分を叱咤する。

「……やっ。耳、うるさい」
「んんー。要開発だなぁ」

 しみじみと言って耳朶を甘噛みすると、京平の唇が首筋へと流れて行く。
 吐息が肌を擽り、太く節張った指が乳房の尖端を抓み、弾かれて小さな声が漏れる。咄嗟に両手で口を押えると、京平の喜悦の篭った笑い声が項を撫でた。

「感じた?」
「ち、違うしっ。ちょっと、痛かっただけだしっ」
「ふ~ん?」

 わざわざ京平を振り向き見なくても、声の調子から言ってニヤニヤ笑っているは間違いない。瀬里はムッと口角を下げた。
 そんな遣り取りの間にも、京平の手が遠慮なく肌を這い回る。

「……ひぃっ!?」

 細い腰回りを撫でる京平の手の感触が生々しくて、瀬里は咄嗟に自分の下肢に手を伸ばした。そして知りたくなかった事実。

(の……ノーパン、だよ)

 穿いた記憶もないし……と言うか昨夜の記憶そのものがあやふやで、不覚にも京平に任せてしまった時点で、当然の結果と言えば当然かも知れない。

(けど、そこは根性を見せて欲しかったよ自分)

 とは言え、京平の隣でグースカ寝ていて無事だった事は奇跡だろう。たとえそれが京平の気紛れだったとしても、意識がないうちに頂かれなかった事は僥倖だ。彼もそこまで鬼畜ではなかったのかも知れない。普段の行いから鑑みれば、俄には信じ難いが。
 だがしかし。起きていれば何をされても良いって訳ではない。
 素肌の上を這い回る京平の手を両手でしっかり掴んだ。手首を握って引き離そうとするが頑として動かず、二本の指先が淫猥に蠢く。 

「……なんで、Tシャツ一枚?」

 自分の素肌と京平の手の間に右手を差し込み、不届きな指を掴んだ。包帯のザラリとした感触が瀬里の指を掠めた。
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