【R18】残念美女と野獣の×××

優奎 日伽 (うけい にちか)

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2. 残念美女、野獣に転がされる

残念美女、野獣に転がされる ⑨

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毎度毎度、お待たせして申し訳ございません (´;ω;`)

***************************************

 

「……無理。無理だからぁ……お願いだからっ」

 京平に泣き言なんて言いたくない。
 でも、背に腹は代えられない。
 瀬里がどんなに必死に抗った所で、力では敵わないって嫌と言うほど解っている。
 それでも躰は無意識に抵抗しているのだけど。

 京平は彼女の手からボディタオルを奪い、潤んだ瞳で彼を見つめてイヤイヤする瀬里にうっそりと微笑んだ。
 ぶるりと瀬里の躰が震える。今にも泣き出しそうな双眸に力を込めて京平を見た。

「無理強いなんて最低よ」
「多少無理なくらい攻めないと、瀬里は堕ちてこないだろ?」
「多少!? これのどこが!?」

 これ以上この男の好いようにされてたまるか、と憤懣を腹の中でぐるぐる渦巻かせて声を荒げる。けれど京平は薄く笑って僅かに肩を竦めただけで、何一つ堪えた様子もない。
 そりゃそうか、と頭の隅で考え直す。これで堪えるような良心を持っていたら、瀬里は今こんな風に追い詰められていない。

「……なんで、あたしなのよ」

 これまで何度も考え、でも、訊いたらお仕舞いのような恐怖を感じて、ずっと躊躇っていた言葉が独り言ちるように漏れ出た。
 瀬里から徹底的に嫌われ、素気なくされても一向に諦めない京平の執着が、瀬里には異常にしか感じられない。
 誰かを恋い慕う感情を持ったことがないから、京平の行動がどうしたって理解できないし、しようとも思わなかった。ぶっちゃけ必要ないとさえ思っていた。けれど、そんな瀬里でも、世の中には狂気じみた愛故に、凶行に及ぶ出来事が有ることは知っている。まあそれを愛と言っていいものだか、瀬里は常々疑問に思っているのだけど。

 ……とは言え。
 こうも実害が出て来たら、暢気なことも言っていられない。そんなものを押し付けられても、いい迷惑なだけだ。
 瀬里はふと、考えた。
 京平が執着する何かを解消するべきでは? と。
 これと言って具体的な案はないが。
 窮地を前にして、瀬里の思考が目まぐるしく稼働する。

(もしかして、京平の手に堕ちたら、あたしに興味を無くすのかしら?)

 何となく思いついた有り得ない考え。途端に瀬里の顔から血の気が失せていく。
 怪我を負わせてからのたった数日の過度な接触で、変容を見せた己の思考に愕然とした。

(な……なに毒されてるのよ。どう考えたって無理でしょ。……もし。もしもよ? 仮に演技したとして、速攻でバレる自信有るし。そもそも、不確かな事に我が身を賭けるなんて、無謀すぎてあたしにはハードルが高すぎるわ)

 スキルもない癖に靡いた振りを見せた瞬間、色々と大事な物を失くしそうだ。後悔する未来しか見えない。

(うん。たとえ世を儚んでいたとしても、この選択肢だけは、ない)

 ならどうするか、と目まぐるしく移り変わる思考。
 これと言った妙案が浮かんでこないまま、敵前でブツブツ呟きながら考えに耽っていると、突然躰が引き寄せられた。何事かと頭が理解する前に、ちょっと不貞腐れた声が頭上から降ってくる。

「俺の前で考えに没頭するとか、余裕だな」
「ふ…ふぁ!?」
「まあそれも、少しは警戒心が弛んだと思えば、喜ばしい事だけど」
「ちがっ……やだ。放して」

 抱きしめられている現状を把握してすぐ、瀬里は躰の間に腕を捩込んだ。が、二人の距離はなかなか開かない。

「あ~あ。すっかり躰が冷えちまったな」

 そう言った京平の大きな手が、無造作に背中を撫で下ろす。じんわりとした熱が肌を流れて行き、瀬里は初めて躰が冷えていたことに気が付いた。
 自覚したら急に寒くなって、小さく躰を震わせる。先刻までは汗が浮かぶ程だったのに。
 瀬里を抱きしめたまま、京平が前傾した。耳を打つ水音でお湯が出されたことに気付く。パシャパシャと弾かれた飛沫が足を跳ね返り、間もなくして心地よい熱に包まれた。
 ほっと吐息を漏らし……うっとりしかけて急に我に返る。

(和んでる場合じゃなかった)

 怖ず怖ずと京平を見上げる。瀬里を見下ろしてニヤニヤしている京平を見た刹那、迂闊な自分をひたすら後悔した。

「反抗的な瀬里も可愛いが、俺に身を預けてくる瀬里もまた可愛い」

 熱を孕んだ目を細めて言った京平の足が、瀬里を一段と引き寄せた。押し付けられた腰の近さにギョッとする。脚に感じる異物の脈動を感じて、瀬里の顔が面白いくらいに引き攣り、それを見て取った京平は楽しそうに口角を上げると「瀬里のせいだからな」と責任転嫁してくる。

 京平は自分の躰の泡をさっと洗い流し、湯を出したままシャワーヘッドをフックに戻すと瀬里の髪の中に指を差し込んだ。

「……っ!?」

 大きな手が瀬里の後頭部を容易く鷲掴む。仰向かされて彼女の顔が歪んだ。息遣いを感じるほど近くに京平の顔がある。顔を逸らしたくても動けない。
 来るっ! と咄嗟に感じ取って瀬里が唇を巻き込むと、京平は一瞬呆気に取られた表情を見せてから笑いを噛み殺した。小刻みに震えている肩がムカつく。
 が、それで終わろう筈もなく。

 額に京平の唇が触れた。
 すぐに離れていき、様子を探るような双眸が彼女の目を覗き込む。
 男の瞳の奥に欲が揺らめくのを見つけながら瀬里は為す術もなく、ただ困惑する目だけが京平を追って動く。彼は意に介した風でもなく、鼻先に、頬にと口づけを落とし、やがて唇は喉元から鎖骨へと流れる。舌先がチロリと擽った後、京平は彼女の肩に額を預けた。

「は~ぁ。やりてぇ」
「★※△$✕~~~ッ!!」

 京平のくぐもった呟きに、瀬里の言葉にならない声が上がる。
 焦る瀬里をチラリと窺い、京平は湯を弾きながら宥めるようにペチペチと背中を軽く叩いた。

「そうは言っても、警戒して明日から手伝って貰えなくなるのは困る。涙を呑んで諦めるから、取り敢えず全部脱がしてもいいか?」
「だっ、ダメに決まってるでしょ! なんで “諦める” 流れから “脱がす” 方向になるかなっ」
「服着たままで湯船に入る心算か?」
「入らないしっ。もお出るしっ」
「それじゃ俺が寂しいだろぉ」
「知るか!」

 とか言い合っているうちに、京平の鮮やかな手捌きによって瀬里の濡れた着衣は見る間に剥かれ、抱き込まれた腕の中でくるんと向きを変えられる。気が付けばいつの間にやら程よい加減の湯にとっぷりと浸かっていた。

(…………なぜ? どーしてこーなった?)

 揺れる水面を茫然と眺め下ろす。
 視線をゆっくり浴槽の外に移し、先刻まで着ていた物を目に映した。団子状になった服に、知らず溜息が漏れた。一気に身包み剥がされた敗因は、ホックのないナイトブラと思われる。

 頭から被ると丸まって苦戦するから、瀬里はいつも足から脱ぎ着する。その手を知ってか知らずか、京平にまんまと喰らわされた。

(ここに居る間は、普通のブラに変えよう)

 それすらも力尽くで下ろしそうな気もするが、ナイトブラよりは抵抗力が有るかも知れない。時間稼ぎくらいにはなるだろう、とコクコク頷く。

 京平が相手だと、まったく上手く事が運ばない。いつの間にか京平の強引なペースに巻き込まれ、気が付けば丸め込まれて二進も三進も行かなくなっている。何とも歯痒いことだが。

 背後から寛いだ長息が声と共に聞こえて来て、瀬里は考えに耽っていた意識を戻した。
 腹に回された右手が何やら不穏な動きを見せる。それを見下ろして、ぶわっと顔に血が上った。

(は……裸だよあたし。無防備にも程がある)

 服を脱がされた事実を理解しながらも、真っ裸になっている事実がすこーんと抜けていたのは余りに間抜けであった。

 さわさわと蠢く京平の手に爪を立てて引き剥がし、脚を抱き込んだ。泣きたくもないのに涙が浮かんでくる。

「なんだよ。撫でるくらいさせてよ」
「ば、馬鹿じゃない!?」
「馬鹿でいいよ。だからさぁ。瀬里の中に突っ込みたいの我慢してるんだから、それくらい許して欲しいな」
「許す筈ないでしょ」
「朝はグズグズに濡らして、気持ち良かったろ?」
「やっ……知らない」
「なあ、せ~りぃ」
「先刻、諦めるって……やだ。やめて」

 肩越しに京平を振り返った瀬里の顎を捉え、彼は「瀬里、好きだよ」と囁きながら頬に、耳朶に唇を這わす。京平の甘く潤んだ声が鼓膜を擽る度に、腰に言いようのない感覚が蠢く。

 こんなのは間違いだ、そう思うのに強く拒絶が出来ないでいる。
 ポロッ……と暖かなものが滑り落ちた。
 京平がハッとしたように離れると、それを合図にボロボロと涙が溢れて落ちて行く。

「ぅ…くっ……きょへ、嘘つきぃ」
「……悪かったって」
「もお、て、手伝わない、からぁ」
「それは困る」
「もぉやっ。触んないで」
「ごめんって」

 必死に宥めようとする京平の手を叩き払い、びいびい泣く瀬里が静かになったのは、それから十分後。すっかり逆上せてくらくらしてからの事だった。

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