【R18】残念美女と野獣の×××

優奎 日伽 (うけい にちか)

文字の大きさ
上 下
13 / 31
2. 残念美女、野獣に転がされる

残念美女、野獣に転がされる ③

しおりを挟む
 
 ***


 チャイムを鳴らした主は瀬里のマネージャー、本郷ディアナ華子だった。
 玄関先で華子と京平が何やら話しているのが聞こえてきて、ザーッと血の気が引いたのを感じたけれど、同時にボヤボヤしていられないとも思う。

(……よし。立てる)

 先刻は逃げようとしても脚に力が入らなかったのに。
 京平の好いように弄ばれた感が無性に腹立たしく、それ以上に抵抗できなかった自分に怒り心頭だ。が、それよりも今はと、瀬里は急いで身支度を整えて玄関に向かった。

 同居のことは家族以外に知られたくなくて、華子に話していなかった。にも拘わらず、当然のように迎えに来た華子に、瀬里は言葉もないまま気落ちした様子で近付いて行く。そんな彼女に京平が勝ち誇った笑みを口元に浮かべた。

 京平の態度にムッと口角を下げて彼を睨んだけれど、数分前までこの男に翻弄されていた事実が、瀬里のそれ以上の反発を抑止した。非常に悔しくて不愉快な思いを腹に悶々と抱えたまま。
 瀬里に気が付いて手を挙げた華子に、どこか躊躇うように手を振り替えした。

 当初の予定では、適当な理由を付けて京平から一刻も早く離れ、華子には暫く用事があるからと送迎の断りを入れておいたりと、小賢しい策を弄していたのだが、わざわざ狭間家に迎えに来るとは、行動を見越されて先手を打たれていたようだ。それが実家からなのか京平からなのか疑問は残るが、どちらにしてもガックリだ。

 結局、瀬里は洗い物を残したまま、京平から逃げるようにして彼女と狭間家を後にした。
 当然こんなコンディションではいい仕事が出来ようはずもなく、押し捲った挙句、翌日に繰り越される事となった。

 モデルになってから嘗てないほどの不調に、身も心もすっかり疲弊していた。
 明日は折角のオフなのに、と考えてから、何かあったような気がして首を傾げる。
 何か重要な事だった気もするが、思い出せないくらいだから大した事がないだろうと、早々に考えるのを諦め、いつものように華子の運転するセダンに乗り込むや、瀬里はうとうとし、直ぐに深い眠り落ちて行った。



「……り……きて…………せりぃ…」

 遠くの方から呼ぶ声が聞こえてきて、意識が浮上してくる。
 薄っすらと目を開けた視界に、ルームライトの光と見慣れた妖艶美女の顔が映り込む。瀬里は目元を擦って小さく欠伸を漏らした。

「目が覚めた? 着いたわよ」
「……ぅーん。眠い」

 運転席で身を捩り、後ろを振り返っている絶世の美女が微苦笑を浮かべる。
 華子さんならまだまだ現役でモデルが出来そうだよな、と取り留めもなく考えて、もう一度欠伸を漏らす。
 物心つく前からの付き合いである本郷ディアナ華子と言う女性は、老化とは無縁の存在らしい。
 誰だかが美魔女を通り越して、妖怪と言っていたような。

(……誰だっけ?)

 ぼうっとした頭で華子をマジマジと見て、ゆっくり瞬く。
 豊かに波打つ栗色の髪を耳に掛ける指先に一瞬目を取られ、そのまま流れるように華子の顔に目を移す。透き通るような白い肌に柳眉を描き、榛の瞳が僅かに細められる。バーガンディの唇が少し歪んだかと思ったら、アルトの不機嫌な声が瀬里の鼓膜を震わせた。

「SERI。何か失礼なこと考えてない?」
「……まさかぁ」
「ふ~ん?」

 真意を確かめるようにジロジロと見られて、瀬里は思わず息を呑んだ。お陰で目はすっかり覚めたけれど。

「まあいいわ。それで、明日の予定だけど」
「あ、はい」
「八時に迎えに来るから、準備しておいてね?」
「八時ですね。分かりました」

 そう言って鞄を膝の上に抱え、ドアに手を伸ばしたところで瀬里の動きが静止した。
 数秒の間を空け、瀬里はドアロックを施錠し、窓から視線を外すと蒼白な顔色で華子を振り返る。

「ドアの向こうにゴリラを発見。速やかな移動を求む」
「ゴリラ?」

 華子は首を傾げながら窓の外に視線を移し「ああ。京平くん?」と納得したように頷いた。

「所属モデルの危機ですよ!? 暢気に手を振らないで下さいっ! 早くっ。早く家に帰りましょ!」
「家に帰って来たじゃない」
「ここじゃなくて、高本の家!」

 ゆっくりこちらに歩いて来る京平に、華子が手を振るのを邪魔しながら悲鳴じみた声を上げる。
 今朝の一連がまざまざと脳裡に甦って来た。
 何の対抗策もないまま初日からアレでは、明日の朝まで無事でいられる気がしない。
 しかし華子は一向に車を発進させないし、京平はもうすぐそこに居る。

「瀬里。お帰り」
「ひぃぃぃぃぃ」

 窓ガラスに顔を寄せてニタリと笑った京平を見て、瀬里は生存本能が突き動かすまま反対のドアまで後退った。
 見計らったかのような開錠音。
 反射的に瀬里の手が伸びた。
 後部座席のドアが間髪入れずに開かれ、大きな手がぬぅっと伸びて来る。瀬里が伸ばした手を掴んで引き寄せる力にこれと言って抗うことも出来ず、一気に車外へ引っ張り出された。
 ぽすんと広い胸板に顔が埋まり、腰に腕が絡みつく。

「やっと帰って来たな。華子さん、お世話になりました」
「どう致しまして。あの、京平くん。明日なんだけど、仕事が入っちゃったの。ごめんなさいね」
「仕事、ですか?」
「そうなの。でも支障がないようにスケジュール組んだから。九時には送り届けて、終わったらその足で向かうことになると思うの」

 華子のその言葉で得心したのか、京平が鷹揚に頷く。

(……迎えは八時だよね? ん?) 

 何だか通じ合っているような二人に瀬里は眉を顰めた。
 やはり何かを忘れている気がする、そう思いつつも瀬里は口を挟まず仕舞いで、走り去る華子の車を見送った。

   
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

処理中です...