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16. 集まれば、古今東西…。

集まれば、古今東西…。⑨

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 案の定、肩を寄せ合って課題のプリントをやっていた。
 女子にテーブルを占拠され、畳の上に寝そべってプリントをこなす男子。英国数の三教科、やってるプリントはそれぞれだ。

「遅かったな」

 足をパタパタさせながら、顔を上げた太一が言った。

「常磐と話してた。あとこっち来るって」
「そうなんだ?」

 十玖は太一の脇にしゃがんで「苑子の機嫌は?」とこっそり訊ねた。太一はチラリと苑子を見て「まあ、あの通り」と苦笑する。
 苑子に目を走らせ、仏頂面を見て十玖はため息をつく。

「何かあった?」
「ちょっとね。太一も驚くかも」

 濡れたタオルを干し、ペンケースとプリント、下敷きにする教科書を持って太一の隣に寝そべった。

「ちわっ」

 太一に常磐の事を話そうとした矢先に、その彼がやって来た。部屋に入ってくるなり、感嘆の声を上げる。

「さすがA組だわ。みんな真面目だねえ」

 常磐をチラ見し、黙々とプリントを片付けている様子に、D組の常磐は目を白黒させ、十玖の向かいに寝そべる。

「さすが学年トップのクラスだわ。Dなんか喋ってる方が多いかんな」

 言いながらも数Ⅱのプリントを広げ、シャープペンを取り出した。カチカチと芯を出し、すぐに唸り声をあげる。

「全然わからん。三嶋、見せてよ」
「答えを教えるために呼んだんじゃないよ。教えるから自分で解いて。早くプリント終えないと食いッぱぐれるよ」

 走り回り暴れまくって、食事抜きは堪える。常磐はシャープペンの頭に噛り付いた。今なら消しゴムでも食べられそうだ。

「もおやってるね」

 慌てて美空が駆け込んで来た。

「美空ちゃん遅いよ」

 苑子が手招きして、美空の為にテーブルを空ける。美空は頷いて、通り過ぎ様に十玖にチョコを手渡した。それを開封し、太一と常磐にも分ける。

「優しい彼女だねえ。差し入れてくれるなんて」
「僕の事より、早く終わらせないと。ここに来た意味なくなるけど?」
「何。なんかあんの?」

 十玖が太一に耳打ちすると、「マジッ!?」と頓狂な声を上げ、常磐に賞賛の眼差しを向けた。

「健闘を祈る」

 太一が差し出した手を常磐が握り返す。苑子が胡乱な眼差しを向けている事など気にも留めていない。

「じゃあ早く片付けよう」
「おうっ」

 十玖と太一に教わりながらプリント三枚を終えると、「こんなに気合入れて勉強したの、受験以来かも」と疲れ果てたように常磐が突っ伏した。
 お陰で夕飯には間に合ったが。

「D組大将と仲良くなったの?」

 十玖と太一のプリントを回収する苑子が、常磐を見て言った。

「少し前まで因縁の敵同士だったのに」
「こいつら風呂で意気投合して、ずっとこの調子なんだよ。格闘馬鹿らしいと言うか」

 風呂での出来事を太一が話し出すと、苑子はペロリと常磐のTシャツを捲り、背中の痣を見て冷ややかに笑う。常磐は突然の事に硬直して苑子を眺めていた。

「苑子、これで普通だから」

 同じようにTシャツを捲られた十玖が、苦笑しながら言った。

「そうなんだ…?」
「女子らしい羞恥心はないと思った方がいい。男子の会話に平気で介入してくるから」

 太一がそう言うと、苑子がふんと鼻であしらう。
 昨日の太一と苑子の会話を聞いていた面子が大きく頷いたのを見て、常磐は呆然と苑子を見た。

「小さい頃から周囲の女子密度低かったんだから、仕様がないでしょ」
「確かに」

 十玖、太一とつるんでばかりいたら、自ずとそうなった。またその方が気楽だったのだけれど。

「三嶋と江東の周りって、イケメン揃いだもんね」

 太田が一人一人を思い出しながら、そうとは知らず常磐にプレッシャーを掛けている。そこに照井が追従した。

「三嶋兄弟でしょ、高本兄弟でしょ、A・Dとedgeだもんね。逆ハーレムなんて羨ましい」
「取り分け一番は天駆兄ちゃんよ」

 馬鹿の一つ覚えのように目を輝かせて苑子が言った。常磐が十玖を見、

「さっきも言ってたけど、天駆兄ちゃんて?」
「僕の兄。うちの六期前の生徒会長で、養護の鈴田先生の婚約者」

 だから安心していいよ、と耳打ちする。
 常磐は片眉を上げ、一時学校を賑わした話題を思い出した。

「苑子ひとりっこだからブラコンなんだよ。俺ら三人の面倒を見てくれてた人だし」
「ただの刷り込みだと思っていいよ」

 そこに全く恋愛感情は介入しない。

「そうなんだ?」

 苑子の顔を見て呟いた。彼女は眉を寄せ、常磐から幼馴染み二人に目をくれた。じっと見入ってくる苑子。

「二人とも何かあたしに隠してる? さっきから何アピール?」

 ぐいっと二人の胸倉を掴む。

「俺が、橘と付き合いたいって言ったからだよ」

 思いもかけない言葉に苑子の手から力が抜け、にわかに周囲がやかましくなった。

「はあ!?」

 素っ頓狂な声を上げ、探る様に常磐を見る。彼は真剣な面持ちで苑子を見返した。

「俺と付き合って下さい」
「はあ!?」
「俺と、付き合って下さいッ!」
「……なんで?」

 返す言葉はそれか!? と突っ込みたくなるのを全員が堪えてるとは微塵も思ってない苑子が、やれやれとばかりに首を振った。

「接点ないよね?」
「まあ、そうだね。今までは」
「何であたしかねえ?」
「橘といたら何かやらかしてくれそうで面白いから…?」
「その疑問符は何?」
「橘はさっきから疑問符だらけだけど」
「揚げ足取るな」
「取り合えず、お試しで付き合ってみない?」

 にっこり笑う常磐に絶句した。彼にこれ以上何も言うなとばかりに苑子は手を挙げ、回収したプリントを持って立ち上がり、フラフラと部屋を出て行く。

「苑子平気かな?」
「俺、振られた?」

 十玖と常磐同時に訊かれ、太一は交互に見た。

「どっちも平気でしょ。ただパニくってるだけじゃない?」

 苑子が誰かと付き合うために、幼馴染みたちがその誰かに協力したことはこれまでなかった。それ以前に苑子が嫌悪を示すから、協力も何も必要なかったし、苑子の意に染まぬことをする気は毛頭ない。その二人が遠回しに常磐を近付けて来たから、パニックになっているのだろう――――とは太一の見解だ。

 間もなくすると、プリントを提出してきた苑子が戻って来た。苑子は困惑した顔で三人を見、美空たちの元に行ってしまう。

 夕飯の時間のアナウンスが流れ、どの部屋からも移動する生徒たちの声がした。
 十玖たちも部屋を出る。苑子は美空を引っ張って先に行ってしまい、彼女を奪われた十玖が不満げな顔をすると、常磐が「何か申し訳ない」と小さく頭を下げた。

「四六時中ベタべタしてるんだから、十玖の事は気にしなくていいよ」

 太一の助言に不服そうな十玖が、常磐を見て肩を竦めた。

「僕たちが出来る事はここまでだから。後は常磐次第だよ」
「おう。頑張ってみるわ」

 食堂に着くと常磐は自分のクラスに戻って行き、十玖と太一は、美空と苑子の姿を見付けてそちらに向かった。

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