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9. Love Holic 【R18】

Love Holic ③【微妙にR18】

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 腕の中の美空を愛しく抱きしめ、額にキスをする。ふふっと笑う彼女の目を覗き込んだ。
 十玖の輪郭を指でなぞり、顎から喉仏を辿ってく。少し変形している左の鎖骨の上で指を止めると、十玖が「骨折の痕」と笑う。よく見れば、あちこちに傷跡が見られた。
 付き合って一年近くになるけど、隠し事をしない十玖の事でさえ、意外に知らないことが多いものだと気付いた。

「目、真っ赤だね」
「うーん…ちょっと腫れぼったい」
「冷やす?」

 そう言う美空の目もかなり腫れぼったい。

「んー。いいや。離れたくない」

 二人はくすくす笑い、こつんと額を合わせた。

「美空。ごめんね。それから、ありがとう」

 力尽くで奪った十玖を、美空は許してくれた。

「体…ツラくない?」
「うん。平気」

 美空の前髪を掻き上げ、愛しい人を眺める。額にキスし、瞼に、鼻先に、頬に、唇にキスの雨を降らせる。首筋から背中、弓なりに反った腰となぞり、ぐっと引き寄せて硬く滾たぎるモノを押し付けた。

「ごめん美空。も一回してい?」
「えっ!?」
「サカってごめん。今度は優しくするから」
「……」

 泣きそうな上目遣いで見返してくる美空の頭を抱きかかえ、「いい?」と囁く。ここで彼女に拒否されても引く気がない癖に、「いい?」と甘えた眼差しで見つめる十玖は確信犯だった。小さく唸って躊躇って見せても、実は美空が甘える十玖に弱い事を知っている。

「もっと幸せ感じさせて?」

 彼女の前髪を掻き上げ、額にキスを落とすと目を覗き込んだ。

「体が辛いなら、涙を呑んで我慢するけど…」
「……」
「我慢するのはもお慣れたから……美空の事好き過ぎて、すっごくツライけど」
「そーゆー言い方ズルい」

 うるっと涙を浮かべた美空にキスをし、口元を綻ばせて眺め下す。今度は深く吐息を混じり合わせ、互いの溶け合った唾液を飲みこんで上下した喉に唇を這わせ、彼女の滑らかな肌の上を滑る様に花を散らした。
 火照った体にさらに熱を加える愛撫の一つ一つに敏感に反応し、途切れ途切れの息を漏らす唇を塞いで、ゆっくりゆっくり彼女を侵食した。

 跳ねて、苦しそうな息遣い。
 彼女の膣内なかに精を注ぎ込み、柳眉を寄せた十玖の頬に触れて微笑む。

「す…き。とお…く」

 頬に触れた美空の掌に口づけて、薄く開かれた唇に優しいキスをした。



 ふっと目を覚ましたら、十七時を回っていた。

「十玖! ねえ起きて! 五時回ってる!」

 揺さぶられて目を覚ました十玖は、ハッとして時計を確認し、飛び起きて服を探す。慌てて服を着た二人は、互いの顔を見て絶句した。
 顔がパンパンに腫れていた。

 マズイ。非常にマズイ。美空の父親になんて説明するべきか。ただでさえ信用を裏切って後ろ暗いのに、こんな顔を見せたら何を突っ込まれるか。

 そろりそろりと下に降り、リビングを覗く。まだ帰っていないことを確認して、十玖が煮詰まったコーヒーを片付けて新しく淹れ直し、美空が二人分の氷嚢を作り始めた。

 顔を合わせづらいから帰りたかったのだが、そうなると逃げ場のない美空一人が的になってしまう。いかにも泣きましたと語る顔では、放って帰る訳にもいかず、泣ける映画鑑賞三昧と言うことにして、帰って来るギリギリまで冷やすことにした。

 二人でソファーの背凭れに頭を預け、何の映画を観たのか話し合い、アリバイ工作に余念がない。
 間もなく美空の父が帰って来た。
 雁首を揃えて氷嚢を乗せている姿に、呆けた顔で近付いて来る。

「どうしたんだい二人とも」

 上から覗き込む父に、二人は氷嚢を取って顔を晒した。

「お邪魔してます」

 のろのろと身を起こし、ぺこりと頭を下げる。
 父に答えたのは美空だ。

「映画観て、二人とも泣き過ぎた」
「すごい顔だな。二人とも。何観たらそんなに泣けるかね」
「シンドラーのリスト、グリーンマイル、きみに読む物語、戦場のピアニスト」
「また凄いラインナップだね。今日は泣き目的だったのかい?」

 話を振られて、十玖ははにかみながら美空をチラリと見た。

「その予定ではなかったんですけど、まんまと術中にハマって泣かされました」
「あ~っ! あたしのせい!?」
「嘘言ってないし」

 映画ではなかったけど。

「やりかえしたくせに」

 もちろん映画の話じゃない。

「何かよく分からないけど、仲が良くて何よりだ。うん」

 冷やしておきなさいと、二人の肩を叩いて、ボディーバッグをソファーに放り投げた。

「トークン。夕飯食べて帰るだろ?」
「あ、いえ。今日はそろそろ帰ります」

 後ろめたくて居心地が悪い。
 美空は十玖の袖を掴み、縋るように見つめて首を振る。居心地が悪いのは美空もだ。唇が「共犯でしょ」と言っている。

「十玖。食べて行くよね!?」
「え…っと」
「食べて行くよねっ!! 十玖手伝ってくれるでしょ!?」

 十玖の胸倉を捕まえ、もはやお伺いやお願いではなく命令だった。美空はキッと睨んで「痛いんだからフォローしてよ」小声で言ってきた。良心に訴えられては、十玖は観念せざる得ない。原因は外でもない自分だ。
 気持ち良すぎて止まらなかった。
 辛くなった美空が泣き出して、ようやく落ち着きを取り戻した十玖は「絶倫男に殺される~っ」としばらく号泣され、宥めるのに苦労した。

「……頂いて帰ります」
「はい決まり。じゃ手伝って」
「いいのかい? 用事あるんじゃ?」
「急ぎではないので」

 そう言うしかあるまい。どうしたってこの彼女には勝てないのだから。
 先に惚れた方が負けとよく聞くが、本当にそうだ。
 満面の笑顔を見せる美空。こっそりため息をついて、カウンターキッチンにくっ付いて行った。



 美空は晴日の部屋のドアをノックし、返事を待たずに開けた。
 湯上りで頬が上気している美空が、パジャマ姿で覗き込む。

「お兄ちゃん。お風呂空いたよ」
「おうっ」

 ベッドに寄りかかって本を読んでいた晴日が、それを閉じながらしげしげと美空を見た。

「なあ美空」
「なあに?」
「十玖とやったか?」

 握った指の間から親指を覗かせて、ぐっと前に突き出してニヤリと笑う。瞬間で真っ赤になった美空。

「お兄ちゃん!! 下世話っ!! その手やめて」
「別にからかってねえよ。二人ともやっと乗り越えられたんだな」

 嬉しそうに笑ってくれる兄に、素直に頷く。
 晴日は本当に二人の事を心配し、美空の心と十玖の心を支えてくれていた人だ。

「良かったじゃん」
「……うん」

 美空は晴日の隣に座り、膝を抱える。

「十玖の事、好きになって良かった。ちょっと…や。だいぶ荒療治だったけど」
「はははっ」
「何かね、一定のラインを越えたら、意外に平気になったから不思議よね」
「それだけ大事にされてきたからだろ。責任取って結婚とか言い出しそうだよなアイツ」
「ははっ」

 当たらずとも遠からず。尤もだいぶ前に言われてる話だが。
 美空は下から兄の顔を覗き込む。

「お兄ちゃんは? 今日のデート楽しかった?」
「まあな。でも、尽くづく思ったのは、早く免許取らないとマズイなあって事だな」
「だろうね」

 デートには変装が不可欠で、公共の交通機関の利用は、なかなかに疲れる。
 初めてのデートの時、しみじみと思ったものだ。

 ゴールデンウィーク中に十八の誕生日を迎えた晴日は、その一月前から時間のある時に教習所に通い始めていた。ところが晴日の都合と教習所の予約状況の折り合いが中々着かず、遅々として進まないらしい。
 晴日は他のメンバーよりも目立つから、焦る気持ちも解る。
 金髪碧眼は、とかく日本人の目を引きやすい。

「先祖返りはこーゆー時、大変よね」

 子供の頃は、この兄の色合いが大好きで憧れだったが、今は少し可哀想に思えた。

「まあこればっかは、しょうがないっしょ。グレートグランパそっくりな自分嫌いじゃねえし」

 ひよこ色の毛先を抓んで二ヒヒと笑う。

「うん。あたしもお兄ちゃんの髪と目の色好き」
「だろ? 十玖妬くだろな」
「ふふ。たまにイラっとするとは言ってる」
「ざまみろ」

 十玖を思い出してささやかな勝利に笑む。
 上機嫌になった晴日は「風呂入って来るかあ」と立ち上がったので、美空も一緒に部屋を出た。

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