54 / 167
9. Love Holic 【R18】
Love Holic ③【微妙にR18】
しおりを挟む腕の中の美空を愛しく抱きしめ、額にキスをする。ふふっと笑う彼女の目を覗き込んだ。
十玖の輪郭を指でなぞり、顎から喉仏を辿ってく。少し変形している左の鎖骨の上で指を止めると、十玖が「骨折の痕」と笑う。よく見れば、あちこちに傷跡が見られた。
付き合って一年近くになるけど、隠し事をしない十玖の事でさえ、意外に知らないことが多いものだと気付いた。
「目、真っ赤だね」
「うーん…ちょっと腫れぼったい」
「冷やす?」
そう言う美空の目もかなり腫れぼったい。
「んー。いいや。離れたくない」
二人はくすくす笑い、こつんと額を合わせた。
「美空。ごめんね。それから、ありがとう」
力尽くで奪った十玖を、美空は許してくれた。
「体…ツラくない?」
「うん。平気」
美空の前髪を掻き上げ、愛しい人を眺める。額にキスし、瞼に、鼻先に、頬に、唇にキスの雨を降らせる。首筋から背中、弓なりに反った腰となぞり、ぐっと引き寄せて硬く滾たぎるモノを押し付けた。
「ごめん美空。も一回してい?」
「えっ!?」
「サカってごめん。今度は優しくするから」
「……」
泣きそうな上目遣いで見返してくる美空の頭を抱きかかえ、「いい?」と囁く。ここで彼女に拒否されても引く気がない癖に、「いい?」と甘えた眼差しで見つめる十玖は確信犯だった。小さく唸って躊躇って見せても、実は美空が甘える十玖に弱い事を知っている。
「もっと幸せ感じさせて?」
彼女の前髪を掻き上げ、額にキスを落とすと目を覗き込んだ。
「体が辛いなら、涙を呑んで我慢するけど…」
「……」
「我慢するのはもお慣れたから……美空の事好き過ぎて、すっごくツライけど」
「そーゆー言い方ズルい」
うるっと涙を浮かべた美空にキスをし、口元を綻ばせて眺め下す。今度は深く吐息を混じり合わせ、互いの溶け合った唾液を飲みこんで上下した喉に唇を這わせ、彼女の滑らかな肌の上を滑る様に花を散らした。
火照った体にさらに熱を加える愛撫の一つ一つに敏感に反応し、途切れ途切れの息を漏らす唇を塞いで、ゆっくりゆっくり彼女を侵食した。
跳ねて、苦しそうな息遣い。
彼女の膣内に精を注ぎ込み、柳眉を寄せた十玖の頬に触れて微笑む。
「す…き。とお…く」
頬に触れた美空の掌に口づけて、薄く開かれた唇に優しいキスをした。
ふっと目を覚ましたら、十七時を回っていた。
「十玖! ねえ起きて! 五時回ってる!」
揺さぶられて目を覚ました十玖は、ハッとして時計を確認し、飛び起きて服を探す。慌てて服を着た二人は、互いの顔を見て絶句した。
顔がパンパンに腫れていた。
マズイ。非常にマズイ。美空の父親になんて説明するべきか。ただでさえ信用を裏切って後ろ暗いのに、こんな顔を見せたら何を突っ込まれるか。
そろりそろりと下に降り、リビングを覗く。まだ帰っていないことを確認して、十玖が煮詰まったコーヒーを片付けて新しく淹れ直し、美空が二人分の氷嚢を作り始めた。
顔を合わせづらいから帰りたかったのだが、そうなると逃げ場のない美空一人が的になってしまう。いかにも泣きましたと語る顔では、放って帰る訳にもいかず、泣ける映画鑑賞三昧と言うことにして、帰って来るギリギリまで冷やすことにした。
二人でソファーの背凭れに頭を預け、何の映画を観たのか話し合い、アリバイ工作に余念がない。
間もなく美空の父が帰って来た。
雁首を揃えて氷嚢を乗せている姿に、呆けた顔で近付いて来る。
「どうしたんだい二人とも」
上から覗き込む父に、二人は氷嚢を取って顔を晒した。
「お邪魔してます」
のろのろと身を起こし、ぺこりと頭を下げる。
父に答えたのは美空だ。
「映画観て、二人とも泣き過ぎた」
「すごい顔だな。二人とも。何観たらそんなに泣けるかね」
「シンドラーのリスト、グリーンマイル、きみに読む物語、戦場のピアニスト」
「また凄いラインナップだね。今日は泣き目的だったのかい?」
話を振られて、十玖ははにかみながら美空をチラリと見た。
「その予定ではなかったんですけど、まんまと術中にハマって泣かされました」
「あ~っ! あたしのせい!?」
「嘘言ってないし」
映画ではなかったけど。
「やりかえしたくせに」
もちろん映画の話じゃない。
「何かよく分からないけど、仲が良くて何よりだ。うん」
冷やしておきなさいと、二人の肩を叩いて、ボディーバッグをソファーに放り投げた。
「トークン。夕飯食べて帰るだろ?」
「あ、いえ。今日はそろそろ帰ります」
後ろめたくて居心地が悪い。
美空は十玖の袖を掴み、縋るように見つめて首を振る。居心地が悪いのは美空もだ。唇が「共犯でしょ」と言っている。
「十玖。食べて行くよね!?」
「え…っと」
「食べて行くよねっ!! 十玖手伝ってくれるでしょ!?」
十玖の胸倉を捕まえ、もはやお伺いやお願いではなく命令だった。美空はキッと睨んで「痛いんだからフォローしてよ」小声で言ってきた。良心に訴えられては、十玖は観念せざる得ない。原因は外でもない自分だ。
気持ち良すぎて止まらなかった。
辛くなった美空が泣き出して、ようやく落ち着きを取り戻した十玖は「絶倫男に殺される~っ」としばらく号泣され、宥めるのに苦労した。
「……頂いて帰ります」
「はい決まり。じゃ手伝って」
「いいのかい? 用事あるんじゃ?」
「急ぎではないので」
そう言うしかあるまい。どうしたってこの彼女には勝てないのだから。
先に惚れた方が負けとよく聞くが、本当にそうだ。
満面の笑顔を見せる美空。こっそりため息をついて、カウンターキッチンにくっ付いて行った。
美空は晴日の部屋のドアをノックし、返事を待たずに開けた。
湯上りで頬が上気している美空が、パジャマ姿で覗き込む。
「お兄ちゃん。お風呂空いたよ」
「おうっ」
ベッドに寄りかかって本を読んでいた晴日が、それを閉じながらしげしげと美空を見た。
「なあ美空」
「なあに?」
「十玖とやったか?」
握った指の間から親指を覗かせて、ぐっと前に突き出してニヤリと笑う。瞬間で真っ赤になった美空。
「お兄ちゃん!! 下世話っ!! その手やめて」
「別にからかってねえよ。二人ともやっと乗り越えられたんだな」
嬉しそうに笑ってくれる兄に、素直に頷く。
晴日は本当に二人の事を心配し、美空の心と十玖の心を支えてくれていた人だ。
「良かったじゃん」
「……うん」
美空は晴日の隣に座り、膝を抱える。
「十玖の事、好きになって良かった。ちょっと…や。だいぶ荒療治だったけど」
「はははっ」
「何かね、一定のラインを越えたら、意外に平気になったから不思議よね」
「それだけ大事にされてきたからだろ。責任取って結婚とか言い出しそうだよなアイツ」
「ははっ」
当たらずとも遠からず。尤もだいぶ前に言われてる話だが。
美空は下から兄の顔を覗き込む。
「お兄ちゃんは? 今日のデート楽しかった?」
「まあな。でも、尽くづく思ったのは、早く免許取らないとマズイなあって事だな」
「だろうね」
デートには変装が不可欠で、公共の交通機関の利用は、なかなかに疲れる。
初めてのデートの時、しみじみと思ったものだ。
ゴールデンウィーク中に十八の誕生日を迎えた晴日は、その一月前から時間のある時に教習所に通い始めていた。ところが晴日の都合と教習所の予約状況の折り合いが中々着かず、遅々として進まないらしい。
晴日は他のメンバーよりも目立つから、焦る気持ちも解る。
金髪碧眼は、とかく日本人の目を引きやすい。
「先祖返りはこーゆー時、大変よね」
子供の頃は、この兄の色合いが大好きで憧れだったが、今は少し可哀想に思えた。
「まあこればっかは、しょうがないっしょ。グレートグランパそっくりな自分嫌いじゃねえし」
ひよこ色の毛先を抓んで二ヒヒと笑う。
「うん。あたしもお兄ちゃんの髪と目の色好き」
「だろ? 十玖妬くだろな」
「ふふ。たまにイラっとするとは言ってる」
「ざまみろ」
十玖を思い出してささやかな勝利に笑む。
上機嫌になった晴日は「風呂入って来るかあ」と立ち上がったので、美空も一緒に部屋を出た。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。
風
恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。
飼主さんが大好きです。
グロ表現、
性的表現もあります。
行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。
基本的に苦痛系のみですが
飼主さんとペットの関係は甘々です。
マゾ目線Only。
フィクションです。
※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる