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4. ポルターガイストって普通の事でしたっけ?
ポルターガイストって普通の事でしたっけ? ⑥
しおりを挟む幽さんはそれはもう涙ぐましいと感じるくらい、奈々美と搗ち合わないように、気配を感じると雲隠れする。とはいっても半径五十メートル以内に居るのは分かっているので、沙和も心配することはなかったが、そんな彼に申し訳なさが募っていく。
それでもやっぱりポルターガイストは困る。
そんな生活が数日も続くと、幽さんがどこで何をしているのか、沙和は物凄く気になって来て彼に尋ねてみた。
すると、
『屋根の上で日向ぼっことか、隣近所の庭先で飼い犬や猫と遊んだり? アイツらは俺の存在に気付いてくれるからね』
楽しそうに言われれば、沙和の唇にも笑みが浮かぶ。
幽霊に日向ぼっこは必要か? と思わなくもないけど、動物と戯れる幽さんを脳裡に思い描くのは難しい事じゃない。
そんなに気に病む必要もなかったのだろうかと、勘違いしそうになる沙和は自分を窘める。
幽さんの楽しそうな心理状態が沙和の中に流れ込んできて、姿が見えなくてもほっこりした。
それと同様に、時々微かではあるけど、寂しそうな気配が心を掠めるのに気付いてしまったら、目を瞑ってしまうほど薄情にもなれない。
幽さんを締め出しておいて、こんなこと言える立場ではないだろうけど、だからこそどうにかしたいと思う。
訊いたところで何も出来ないかも知れないし、ただの自己満足かも知れない。
なのに。
幽さんほど巧みに感情を読み取ることは出来ないし、沙和が真剣に訊いても彼は笑って誤魔化して、幼子をあやすように頭を撫でて来る。答えてはくれないから、幽さんの心が置き去りになったまま、ずっと平行線だ。
沙和がもどかしく思っている事だって、幽さんには届いている筈なのに。
草木も眠る丑三つ時、沙和は喉の渇きに目が覚めた。
むくりと躰を起こした沙和に、眉を寄せた幽さんが声をかけてくる。
最初は “眠り姫” とお姫様扱いしていた幽さんだったが、今では揶揄いも含んで “寝太郎” と呼ぶくらい、一度寝たら朝まで起きない筈の彼女が起きれば、何事かと思うのは仕方ない。
『どうした?』
「喉乾いた」
寝ぼけ眼で面倒くさそうに沙和が言う。すると幽さんは呆れた声を発した。
『漬物を一皿も食べるからだろ』
「だって、柚子が利いてて美味しかったんだもん」
『だからって食べ過ぎだ。隼人が呆れて報告してきたぞ?』
身近な裏切り者に沙和がムッとする。
隼人はすっかり幽さんに取り込まれ、下の階には行かない幽さんの密偵と化していた。ちょっと前までは何かと沙和に甘えて来る弟だったのに、横取りされた感が否めない。幽さんが強制しているわけではなく、隼人の自発行動だと分かっているのに悔しい。
(最近よく男同士でなんかコソコソして笑ってるしさ)
沙和が踏み込めない境界線みたいなものを感じる。
同性だから言い辛いことも言えるのかも知れないけど、仲間外れにされているようで、要は寂しいのだ。
だからつい、我儘が口を突いて出た。
「幽さん。お水飲みたい。持って来てよ」
『……はいはい』
仕方ないと表情に浮かべて苦笑した幽さんが、床に沈んで消えて行くのを見送って、時間が時間だから大丈夫だよねと、うっかり口にしたことを後悔した。
流石にもう寝静まっている。
幽さんが奈々美に遭遇する確率は低いだろうと思うのに、焦燥感が込み上げてくる。
そんな時、階下から女性の悲鳴が聞こえ、沙和は咄嗟に部屋から飛び出していた。
部屋から出るなと言うくせに、水を持ってこいと、ちょっと不機嫌そうに言った沙和に、幽さんが堪らず笑いを漏らしながらグラスに水を注ぐ。
絶対に怒られるから口にしないが、実は沙和がやきもちを妬いているのは知っていた。尤も、隼人になのか幽さんになのか、はたまたどちらにもなのか、ひた隠しにする沙和の行動が可愛いよねと、隼人との会話はもっぱら彼女の話をしているとは思っていないだろう。
知らぬは沙和ばかり、とクスクス笑っていて、だから気付くのに遅れた。
グラスを持ってふらふらキッチンから出てくると不意に照明が点き、油断をしきっていた幽さんが固まった目の前で、目を瞠って一点を凝視したまま動かない中年女性。
ヤバいと思った瞬間、幽さんは無意識のまま上に向かった。手に持ったグラスは当然通り抜けることが出来ず、天井にぶつかって床に落下したガラスが砕ける。そして女性の悲鳴が響き渡った。
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