上 下
37 / 41
第4章 改革と祭り

第3話

しおりを挟む
♢♦︎♢

 都市入祭、開催前日前夜。
 場所はギルドを中心とした冒険者エリアとは正反対、職業組合エリアのある屋敷。

 活気賑わいを見せる冒険者エリアは、中央エリアの隣にある好立地エリアのおかげであり、それとは正反対に位置するこのエリアは少なからず賑わいとは程遠かった。
 美しいシャンデリアに絵画等、如何にもな位の高い屋敷の一室にて何名かの男女が席につく。

 上座には当たり前とばかりに座り込み、整った髭を撫でながら黒髪の40満たない男が値踏みするように周りを眺める。
 その男の名は、組合連合会のトップに位置するアラハッド・リクームだった。

「領主様はいつになったら、我々組合員達を優遇してくれるのだ!」

 その男の左に位置する小太りのドワーフが机を乱暴に叩きつけ、声を突然荒げた。
 無理もない……アラハッドはため息混じりにその男の言葉を聞く。

 組合連合会は冒険者ギルドと折り合いが悪い、下々の者達はそんな事もないのだが、過去の歴史として30年の出来事を知っている組合連合会の幹部達はギルドを激しく嫌っている。
 我々とは違い、国からも領主からも頼られるギルドとは違い、組合連合会は細々とそれぞれの組合長の匙加減で仕事を得られている状況だ。

 先の吠えた男、ソード系統の組合長サザンドラは机を叩きつける度に肥えた腹や顎の肉が揺れる。
 ほんの少しばかり前に、かつて名を馳せた部下を失くしたとの事で戦力の痛手となっているようだ。
 だが、それとは別に有能な若者が僅か50も満たないレベルで固有スキルを習得したと嬉しそうに自慢していたな、とアラハッドは思いながら目を細めながら目の前に注げられる酒を手に取る。

「もう我慢の限界だ……」

 誰が口にしたのか、その言葉にピクリと反応するが、それよりも早く静かな口調で妖艶な声色で割って入る者がいた。

「ならば……戦いで示すべきではありんすか?」

 豊満な谷間を見せ付けるように、花魁の様な姿をした赤髪の女がキセルを片手に囁く様に呟いた。
 シーフ系統の組合長シュナ……。

「シュナ・ハーデヒト……」

 なにを言う?そう聞くよりも早く、アラハッドの言葉を遮りながら続ける。

「あら、アラハッド卿。そない怯えなはんな、ただわてはギルドを失墜させればよろしいではありんすか?と尋ねとるんです」

 女狐め……アラハッドは彼女に怯えるのではなく、警戒しての表情で見つめる。

「長年面白い事を模索してたんやけど、1つ見っけたんよ。それをわてらに任せてくれたら、ギルドと組合連合会の立場を逆転出来ると思おとるんですよ…ほんま」

「ほ、ほほう! 是非聞かせてくれシュナ姫!」

 サザンドラが食いつきながら、いや視線はその豊満な胸元を眺めながら身を乗り出した。
 そこから核心の策を告げる事無く、シュナは計画の大部分を話し、その作戦は決定された。
 アラハッドはそれをただ黙って聞き入れ、一言も発する事無く閉幕となった。

「……久しいな、お前か」

「元気そうでなりよりな声だ。なにやら、めんどくさそうな会話をしていたね」

 アラハッドの背後でカーテンか揺れ動き、姿は見えない中アラハッドは心当たりある様で気軽に声をかける。
 そのものは気ままな口調で、影から話す。

「お前に1つ頼みがある」

「内容によるし、こっちは中立だよ。加担しない、裏切らないがモットーだけど?」

「ふっ、知っているさ。だから頼むんだ・・・・

 アラハッドは微笑しながら、影のものに話しかけた。
 そのお願いの内容を、返事もなく気配が消えるまでアラハッドは話し続けるのだった。

♢♦︎♢

 信じられない!と行ったばかりに、白銀の髪色をした少女イリスがプンスカと祭りを歩いていた。
 それに同調する様にアスティアも不機嫌そうに、だが両手にはわたあめとりんご飴を持ちながら愚痴っている。

 ほんの少し前に、待ち合い場所でヴァイスを待っていた3人はティファが現れ、依頼内容を伏せられながらここには来れないと告げられた。

 なんでも気分が向かないからとか言って、偶然出会ったティファにメッセンジャーとして頼まれたとティファの口から言われた。
 イリスとアスティアは憤慨し、ティファを残して部屋に迎えに行ったのだが、部屋はもぬけの殻となっていたのだ。
 広場に戻ればティファも消え、深い事情も聞けずじまいにより、今こうして不機嫌な表情で祭りを楽しんでいる。

 そう、口や表情は怒っても身体はとてつもやくエンジョイしているのだ。
 ローウェルもその間なにも言わずに、いつの間にか消えていた。

「二人共勝手なんだよ!まったく!」

「ほんとよね。帰ってきたらとっちめてやる!」

 イリスの言葉に同意して、アスティアが拳を唸らせる。
 そんなお怒りの中も、イリスはたこ焼きをアスティアは焼きそばを頬張っていた。

「あ、それ一口ちょーだい!」

「いいわよ。私にもそれ1つ良い?」

「もっちろん!」

 側から見て怒りの表情を見せながらも、祭りを大いに楽しんである二人に屋台の人々はほっこりとしながら見られているのも梅雨知らず、二人は次々と屋台を回っていった。
 その裏では屋台の人達から裏で、鴨がネギ背負って鍋まで被って現れたなどと、彼女らを見つけては売り込んで行ったのだった。

♢♦︎♢

 ー地下道。

 密かに息を殺しながら、目の前の出来事に驚愕する。
 脳内マッピングにて、あの拓けたドームからいくつか進んだ後に、およその見立てではクロムの街の下にいてもおかしくない位置にして、3つ目のドームには幾多の人種と、数多の檻と木箱が用意されていた。

 その中にはティファさんからの報告にもあった呻き声も、木箱や檻の中の正体が発声していた。

 ー“冗談だろ?”、これがこの光景を見て内心叫んだ言葉だった。
 一体全体、なにが始まろうとしているのか、それは不明のままであるが、これを見て思うに嫌な事しか考えられないのであった。

 ……早く戻ってギルドに報告しなくれば、そう思いながら背中を向けようとしたが数人がこちらに近付く気配を察知し、物陰に隠れることにする。

「ーーーーーで、ーーー備、」

 遠方により、徐々に会話が聞こえてくる。

「ーこれによりいつでも始められると思います」

 一人の男を中心に取り巻きの獣人族が告げる。
 先頭の男も同じく獣人族であり、虎模様の耳に尻尾を生やし、歌舞伎の様な派手な着物を着飾った格好で歩く。
 特徴的なのが、背中に背負う太刀と言うべきか、持ち手の柄ですら1メートル程の長さに刀身の長さはそれよりも長く2メートルは無いくらいの刀。
 そして腰には小太刀を帯刀し、金髪に黒のメッシュを入れた美青年が退屈そうに話を聞く。

「なら、すぐに始めろ。てめぇらがモタモタしてっから、こんな夜になっちまったんだ」

 そんな顔立ちとは裏腹に、大雑把な粗暴の悪い口調で報告した獣人族を蹴り上げる。

「次」

「あ、は、はい。運び入れたモンスターは12体、それも全てランクB以上、Aランクモンスターは3体程になります」

「俺は最低5体は用意しろって言ったよな?」

 怯える小人族に、ギロリと睨み付けると、怯えた小人族は更に小さくなる様に背中を丸めながらしどろもどろに説明する。

「な、なに分人員が足りず…Aランク3体捕まえた時点でかなりの甚大な被害に……」

「どうでもいい、てめぇらの所はザコばっかりだな」

 またもや蹴り上げて、次の報告を聞きながら、潜む俺から離れて行く。

 ーモンスターって、あの遠目の檻や木箱の中身は全部モンスターって言ったのか?
 Aランク3体……非常にマズイ。

 踵を返し、来た道を戻ろうとその場を背中向けた刹那ーーーー。

「オイオイ、ちっせぇ気配を感じて見りゃあ……侵入者がいるじゃねえか」

 ーゾクッ。

 ヴァイスは背筋が凍る思いで振り向く。

 ー先程の虎の獣人族が背後に回り込み、小太刀に手を回しー今にも斬りかかる勢いで接近されていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
ファンタジー
 いつだってボクはボクが嫌いだった。  弱虫で、意気地なしで、誰かの顔色ばかりうかがって、愛想笑いするしかなかったボクが。  もうモブとして生きるのはやめる。  そう決めた時、ボクはなりたい自分を探す旅に出ることにした。  昔、異世界人によって動画配信が持ち込まれた。  その日からこの国の人々は、どうにかしてあんな動画を共有することが出来ないかと躍起になった。  そして魔法のネットワークを使って、通信網が世界中に広がる。  とはいっても、まだまだその技術は未熟であり、受信機械となるオーブは王族や貴族たちなど金持ちしか持つことは難しかった。  配信を行える者も、一部の金持ちやスポンサーを得た冒険者たちだけ。  中でもストーリー性がある冒険ものが特に人気番組になっていた。  転生者であるボクもコレに参加させられている一人だ。  昭和の時代劇のようなその配信は、一番強いリーダが核となり悪(魔物)を討伐していくというもの。  リーダー、サブリーダーにお色気担当、そしてボクはただうっかりするだけの役立たず役。  本当に、どこかで見たことあるようなパーティーだった。  ストーリー性があるというのは、つまりは台本があるということ。  彼らの命令に従い、うっかりミスを起こし、彼らがボクを颯爽と助ける。  ボクが獣人であり人間よりも身分が低いから、どんなに嫌な台本でも従うしかなかった。  そんな中、事故が起きる。  想定よりもかなり強いモンスターが現れ、焦るパーティー。  圧倒的な敵の前に、パーティーはどうすることも出来ないまま壊滅させられ――

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

異世界ハーレム漫遊記

けんもも
ファンタジー
ある日、突然異世界に紛れ込んだ主人公。 異世界の知識が何もないまま、最初に出会った、兎族の美少女と旅をし、成長しながら、異世界転移物のお約束、主人公のチート能力によって、これまたお約束の、ハーレム状態になりながら、転生した異世界の謎を解明していきます。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...